広告分析プラットフォームを提供しているDrawbridge。このプラットフォームを使えば、ユーザーの動向を様々なデバイスをまたいで分析することができる。さらに、収集したユーザーデータを匿名化して共有するライセンスモデルも展開している。同社は2010年に設立され、Sequoia CapitalやKleiner Perkins Caufield Byersといった著名VCから4550万ドルを調達している。今回はCo-founderでCEOのKamakshi Sivaramakrishnan氏に事業内容や今後の展望を聞いた。

Kamakshi Sivaramakrishnan
Drawbridge
CEO
2007年にスタンフォード大学にて統計の分野で博士号を取得。その後、Admob(モバイル広告に特化したマーケティングアナリティクス)にてアナリストとして活躍。2009年に同社がGoogleに買収された後も2010年まで同社在籍。2010年にDrawbridgeを設立し、CEOに就任。

「広告分析プラットフォーム」と「ユーザーデータベースのライセンスモデル」を展開

―まずDrawbridgeの概要について教えてもらえますか。

 まずDrawbridge社のミッションを紹介させてください。ここ米国には、Google、Facebook、Apple、AmazonなどのITジャイアントがいて、膨大なデータをもとにビジネスを展開しています。しかし、当然ながら彼らのデータは他社に共有されることはなく、彼らの事業開発のみに利用されています。彼らのみが膨大なユーザーデータを支配しているわけです。

 このような状態を変えるべく、私たちは、データリソースを誰でも共有することができるオープンなものに変えて、インターネット上のありとあらゆる商品設計や事業開発に活かせるような取り組みを目指しています。

―具体的なビジネスモデルを教えてください。

 私たちの提供するビジネスモデルは二種類です。まず一つ目に、”広告に特化した分析プラットフォーム”を提供しています。ユーザーの間でモバイルデバイスが大量普及している現在、ユーザーの動向は複数の異なるデバイスをまたいで、分析されなくてはなりません。

 このプラットフォームを利用することで、様々なモバイルデバイスからデータを集め、それらのデータをもとにユーザー分析をすることができます。私たちは、このプラットフォームをSaaSモデルで提供しています。

 二つ目は、ライセンスモデルで私たちの持つIDデータを提供しています。顧客が当社とライセンス契約を結ぶと、私たちのユーザーデータベースにアクセスできるようになり、セキュリティ認証、UIやUXの最適化などの、様々な目的に利用することができます。

―競合と比較した際の強みは何でしょうか?

 私たちのサービス利用することで、広告主や代理店は、大手メディア企業がこれまで占有してきたデータよりも解析率の高いユーザーのデータを手に入れることができ、それらのデータをマーケティングや広告へ活かすことができます。さらにデータ量に関していえば、私たちは、大手メディア企業と変わらない規模のデータセットを持っています。

 現在、多くのユーザーは、モバイルデバイス、PCなど、異なるデバイスを、並行して利用しています。つまり、広告やマーケティングは、ユーザーの使用するデバイスに適切に行われなければなりません。多くの場合、広告事業の取引の中で、ユーザーデータのほとんどは大手が占有してしまうため、それらのデータをしっかり回収できている広告代理店や広告企業はとても少ないのです。

 同業他社のプラットフォームとの違いとしては、特定のデバイス・チャンネルに限らず、ユーザーの周りに存在するすべてのデバイス・チャンネルからデータを集め、ユーザーを分析できることです。

特定率97.3%の実績。マシンラーニングを活用して複数のデバイスからユーザーを特定

―様々なデバイスからのデータを分析して、どのようにユーザーを特定しているのですか?

 たしかに私たちは「ユーザーを特定する」ということをしていますが、これはインターネット上で活動しているユーザーを個人的に特定するという意味ではありません。まずはじめに、顧客の広告リクエストが送られたデバイスを分析し、アクセスした位置信号、ユーザーがどのWebサイトやアプリケーション利用しているか、どの種類のデバイスを使用してアクセスしているかなどの、匿名化された情報のみを検出します。そしてマシンラーニングを利用して、それらの情報をもとに共通項のあるユーザーグループを分類しているのです。私たちは、この方法でプライバシー保護されたデータを安全な方法で、ユーザーデータを収集・分析しています。

―どれくらいの精度でユーザーを特定できるのでしょうか。

 私たちのプラットフォームの正確性を測る際に、いくつかのリサーチ企業と協力して、テストを行ったことがあります。その中で米国のマーケティングリサーチ企業のNielsenは、彼らが保有するデータベースを私たちのシステムを使って分析し、ユーザーの特定率を計測したところ、97.3%という特定率を叩き出しました。このテストで、私たちのテクノロジーが「異なるデバイスで行われるアクティビティから、特定のユーザーを見つけ出すことができる」と証明できたのです。このテクノロジーを利用することで、広告に関して、より効果的にターゲットを絞ることができ、効率的に効率を特定のユーザーグループのみに出稿できるため、広告費を格段に削減することができます。

 たとえば、大手の自動車メーカーが私たちのサービスを利用したとしましょう、彼らは、ユーザーが実際に販売店に足を運ぶまでにかかるコストを通常の約1/4に削減できます。なぜなら、すでに自動車を購入するフェーズに入っていると予測が立つユーザーに対してのみ、広告キャンペーンを行うことができるからです。無差別に大量の見込みユーザーに浪費するかもしれない広告費を大幅に削減することができます。

―売上はどのように得ているのでしょうか?

 広告プラットフォームには二つの価格モデルを設定しています。一つ目はフルサービスモデルでDrawbridgeが顧客のキャンペーンを管理し、目標を提供します。価格設定は、インプレッション単価、CPCやCPA、などの広告に関する指標に基づいて広告キャンペーンの価格を計算するという、広告業界でよく見られるモデルを採用しています。

 もう一つモデルはセルフサービスモデルです。このプラットフォームを広告・マーケティング企業などの顧客へセルフサービスとして提供しています。SaaSモデルで、このプラットフォーム内で扱う広告枠にかかるコストの約10%〜15%を支払っていただくことになります。

 データライセンスモデルまたはデータモデルに関しても基本的にはSaaSで提供しています。基本的には固定料金で一定量のデータにアクセスできるモデルと、データ使用量によって価格を決定する可変式のモデルの二つを用意しています。

広告業界にとどまらないデータの提供価値

―御社のサービスを利用している顧客の数を教えてください。

 広告プラットフォームを利用している顧客は200社、データモデルに関しては、50社を超えたところです。購入するまでのパターンも二種類ありまして、私たちと直接契約するパターンとオンライン上の代理店経由で購買されるパターンの二種類です。

 顧客獲得の戦略としては、ブランドやマーケティング担当者に直接営業して私たちのサービスを使ってもらい、価値を感じてもらった後に、それらの顧客から別の見込み顧客を紹介してもらうやり方と、代理店を通じてオンライン上で完結してしまうやり方の二種類を行っています。

―主な顧客は誰になるのでしょうか?

 広告プラットフォームのターゲット顧客は、国際展開しているような大規模なブランド企業がメインとなっています。そのような、ブランド企業のマーケティング・広告戦略は、基本的に複数のデバイスの枠を超えて大規模に展開されていますし、先ほどお話ししたFacebookなどの大手メディアとすでに取引をしています。業種ごとにいうのであれば、リテール、電子商取引、自動車などはいい例だと思いますが、それらの企業はすべて私たちの広告プラットフォームを利用する顧客になりえます。

 データモデルでは、デバイス間でのユーザーのターゲティングするニーズを持つ企業は、全て私たちの顧客となりえます。たとえば、セキュリティ認証、リスクソリューションなどを提供している企業は、ユーザーが複数のデバイスに分かれて存在しているため、デバイス間のユーザーの動向を掴むことでマーケティングを円滑に進めることができるようになります。ターゲットは決して広告業界のみではないのです。

―御社の今後のビジョンをお聞かせください。

 今後、FintechやIoTなど私たちが利用している様々なものが電子化されていくでしょう。その流れの中で、オンライン上のユーザーデータを安全に識別するための方法として、私たちのサービスや技術が、ひとつのスタンダードとなればと考えています。私たちの創ってきたテクノロジーはどんどん進歩していくと思います。そして2、3年以内には、Drawbridgeはユーザーデータ解析の分野において「Disruptive Company (破壊的なイノベーションを起こす会社)」と呼ばれていることでしょう。



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