16年奮闘した日本人起業家が見た“深圳のリアル”

16年奮闘した日本人起業家が見た“深圳のリアル”

China / Japanese Corporation / ジェネシスホールディングス
2018-10-25 04:40
ハードウェアスタートアップの拠点として、急速に注目を集める深圳(深セン)。 その深圳のエコシステムで16年活動してきた藤岡淳一氏に、そのエコシステムのリアルな姿、深圳から見た日本企業などについて聞いた。
藤岡淳一
ジェネシスホールディングス
代表取締役社長
千代田工科芸術専門学校音響芸術科卒業。大手電機メーカーへ派遣技術者として就業後、デジタル機器ベンチャー企業の開発製造責任者として、主に台湾・中国に駐在し各種デジタル機器の開発・生産に従事。2007年にエグゼモード株式会社を創業し、代表取締役に就任。2011年に中国でJENESIS 香港・深圳法人を創業、さらに2012年に日本法人である株式会社ジェネシスホールディングスを創業。著書に『「ハードウェアのシリコンバレー深訓」に学ぶ—これからの製造のトレンドとエコシステム』がある。

深圳はゼロをイチにする場所ではない

―最近、日本で深圳が注目を集めています。

 日本のメディアは、中国の成長を見ないふりしてきたでしょう。昔って、中国が崩壊するような話は書けても、中国すごいぞって話は書けなかったようですね。でも、ここ一年くらいでしょうか。シリコンバレー系のテックメディアが深圳のスタートアップをほめ始めたりして、注目度が変わってきていますね。でも私から言わせると、深圳は別に何も変わっていないんですよ。昔からああいうスタートアップのような会社っていっぱいありましたから。

 これは私の考えですが、深圳のスタートアップって実は超ハイテクではないんですよ。中国ってゼロをイチにするところじゃありません。1を10とか100とか1000にする場所です。やっぱり中国はパクリ品、コピー品をつくってきたので、シリコンバレーのようなアーキテクチャとかアルゴリズムとかって苦手なんです。シェアリング自転車だってそうじゃないですか。別に超ハイテクじゃない。いま深圳は中国のシリコンバレーとか言われていますが、ゼロイチならば、やっぱり本物のシリコンバレーにはかないません。

 一方、中国のスタートアップすごいところは、その構想のデカさ。中華思想とでもいうのですかね。テンセントや、アリババもそうですが、目標は世界制覇です。彼らは100年越しの世界的なプラットフォームを目指してやっている。金融、生活から産業まですべて取り込むプラットフォームをつくろうと考えています。日本のスタートアップみたいにチマチマしてない。「これがあったら、ちょっと生活便利になりますよね」とかそういう次元じゃないんです。彼らは中国市場だけじゃなく、世界規模の市場を見ている。スケールが全然違うんですよね。

スタートアップはプロダクトアウトになるな

―日本のハードウェアスタートアップに対してはどう感じていますか。

 スタートアップってまず製品をちゃんと作って、世の中に出して、それをどうスケールさせるかっていうところで、資金調達をしていくわけです。でも、日本のハードウェアスタートアップって一個もできていないくせに、ピッチで最優秀賞取っただけで天狗になってる。そういうやつには「お前、何もしてねえじゃん」と、私はけちょんけちょんに説教するんです。

 あとは、プロダクトアウトすぎるんですよ、マーケットインじゃない。「俺、こういうの企画していて絶対売れると思っているんですよ」と。私からすると、「それをつくったところで誰が喜ぶんだろう」と思ってしまうんですけどね。

 格好つけたいんですかね。もっと泥水を飲むというか、うわべだけじゃなくちゃんと製品を作っていってほしいですね。

―それでも、御社は日本のスタートアップに対して製造支援をしていますよね。

若い人への応援ですね。日本の大手企業が「スタートアップ支援します」とか言っていますけれど、製造支援はほとんどやっていませんよね。だって「1個3000円で1000個、300万なんですけれど、作ってください」って、大手じゃ誰もできませんから。そういうスタートアップの子たちがたらい回しにされて、みんな半ベソかきながら香港エクスプレスで片道1万5000円かけて、ここに相談にくるんですよ。肩を落としてしょんぼりしながら。さすがに「帰れ」とも言えなくて、「しょうがない。工場が空いているときにやってやるよ」みたいな感じで引き受けています。もちろん全然儲かりませんよ。今は本業がそこそこ調子いいのでできることです。

―深圳のスタートアップの方は日本の大手メーカーのことをどう見ているのでしょうか。

 ものすごく評判が悪いですよ。「背広を着たおじさんたちが毎日くるけれど、発注するわけでもない、サンプルを買ってくれるわけでもない、ブログに書いてくれるわけでもない。ただ単にスタンプラリーのように回って行って、何もせずに帰っていく」。要するになんのフィードバックもないんです。

 だから、企業の視察が来るときに、私は言っています。「あなたたちは懐に入れさせてもらって勉強させてもらっている。スタートアップと協業したいと言うのはいいけれど、絶対に上から目線では話さないでほしい。なんで日本のおじさんたちって中国を下に見ているんですか。彼らはよく見ていますよ」と。

 うちにも普段、日本のフリーランスの人とかスタートアップの人たちがやってくるのですが、彼らはお願いモードです。「見学させてほしい」「工場で働かせてほしい」と言ってくるんです。彼らは見学したり体験した後で、ちゃんと写真とって日本帰って宣伝もするし、自分たちが試作を作るときに発注もする。そういうスタンスだと仲良くなり、関係が作られていきますよね。

小さなマンションの一室が始まり

―そもそも、藤岡さんが深圳で起業した経緯を教えてもらえますか。

 私の深圳でのハードウェア製造への関わりが始まったのは2001年。日本の大手企業からNHJという外資系商社へ転職し、中国に渡ったことがきっかけです。その後、上場企業の傘下でデジタル家電ベンチャーを立ち上げて、家電量販店や、ホームセンター向けにプライベート家電を作っていました。そして2011年に独立企業として、深圳のマンションの一室で一人でジェネシスを始めたんです。

 2011年当時は、尖閣問題など悪いこともあったんですが、幸運なことに「地デジ化」の年だったんですよ。私にとってデジタル家電は得意分野。たくさんお仕事をいただき、初年度の売上も約10億円以上をあげることできました。

倒産危機で社内クーデターと事業転換を経験

 その後も会社が伸びて売上が15億円を超えてきたころ、中国の景気が良くなってきました。すると、みんな日本の仕事はやりたがらなくなったんです。なぜなら、まず発注数が少ない。それから要望が細かい、うるさい。態度がえらそう。本当に“最悪4点セット”みたいな感じで、敬遠されていました。

 それならば、私が引き受けようと工場を始めました。商業ビルを借りて、その片隅で小さな生産ラインを始めたんです。日本の消費者向けの製品、たとえば家電量販店やディスカウントストア向けのプライベート製品を作ったりしていました。

 しかし、すべてが順調というわけにはいきませんでした。売上が順調に伸びていた2014年ころ、急激な為替変動が起きたんです。1ドル90円が、急に1ドル110円に20%近く上がってしまった。これが大打撃で、1億円くらい損失を出してしまいました。さらに社内でもクーデターが起きるという混乱の中、ネオスという現在の親会社に支援してもらい、事業を大幅に見直すことにしました。消費者向けのビジネスは売却し、法人向けの製造受託に特化することにしたんです。

 その後、再スタートして、非製造業のお客さん向けに、深圳でデバイスを製造するというモデルで復活しました。お客さんの業種はIT、塾、飲食店、タクシーなどですね。社員は日本に40人程度、深圳に100人程度います。

ハードウェアはもはや主役ではない

―非製造業の企業から、どんな依頼があるのでしょうか。

 最近は決済まわりが多いですね。電子マネーの決済、QRコードの端末などです。あとはドラッグストアやタクシー向けのデジタルサイネージ。塾、学校向けに学習教材用の端末もよく作っていますね。スタートアップだと、VRとかロボットとかBLE(Blue Low Energy)とかビーコン技術関係ですね。年間だいたい40~50製品くらいは受託し、2017年は約40万台を製造しました。

 今はパソコン、スマートフォン、タブレット、カメラ、ドローンってみんな同じような形態をしていますよね。ハードウェアはあまり形を変えようがなくて、差別化はソフトウェアやアプリになっています。つまりハードウェアってメインじゃない、主役じゃないんです。ハードウェアはあくまでも決済をするためのツール、広告を流すためのツールだと。だからこそ、安く早く作る。そういう位置付けですね。

―非製造業の企業はハードウェアの製造について知見が乏しいと思います。「規格・設計もわからないけれど、こういうことがしたい」という場合、どのように進めていくのですか。

 深圳には部品会社や設計会社などが何千社もあり、それらの会社同士が碁盤の目になって、みんなで調整し合っています。私たちの場合、お客さんから依頼を受けたら、まずデザインハウスに相談にいきます。デザインハウスって今はデザインをするのが仕事じゃなくて、量産設計済の基板を売ってくれるんです。基板は1000枚から買うことができ、その基板に合ったケース、タッチパネル、バッテリーなど互換部品が揃っています。一枚の基板に対して100社くらい、その基板に対してあわせこんだものを持っているんです。

 われわれはお客さんの要望に沿って、その中からスペックのあうものを選んで組み合わせるんですね。そうすると基板をゼロから開発しなくていいから開発費がかからない。ケースがあるので、金型費もいらない。すべてのパーツが1ヶ月でそろい、2ヶ月以内に納品できる。お客さんとしては早くできるし、初期コストもかからないし、在庫をもたなくていい。こんないい話はありません。ここが深圳の一番すごいところです。特にわれわれのいる地区は町工場が密集しています。なので、例えば工場で作って「あれ、なんかこのネジ合わないぞ」となると、すぐに買いに行って、30分くらいでネジを買って戻って来れる。そんなエリアはなかなかないと思います。

深圳のいいところも悪いところも全部言う

―不良品や修理対応はどうしているのですか?

 うちは基本的に一年間の修理保証させてもらっています。最初に言っておくんです。「日本の部品だと1年で1〜2%しか壊れないと思うんですけど、うちは中国の部品を使っているので2~3%くらい壊れますよと。なので、すみませんけど、余分に製品を持っておいてもらえますかと。故障したら代わりの製品使ってもらっている間にこちらで修理しますから」と。すると、非製造業の人たちは「全然OKですよ、十分です」と言ってくれる。特にIT業界の人たちは、決裁者がガッと決めて、みんな3ヶ月くらいで一気にやるというスピード感です。

 私はお客さんと仕事をするときに、深圳のいいところも全部言いますが、悪いところも全部言います。やはり私は中国では性悪説で対応しないといけないと思っています。中国企業は夜逃げもするし、不良品もあるし、不良品を指摘したら逆ギレしてお金を返さなかったりします。そういうことが日常的にあるので、素人がやってもうまくいかないんですよね。でもそれを差し引いても、このエコシステムを活用しない手はないと思います。

―日本の大手メーカーも深圳を活用できますか?

 私の場合、大手製造業の企業さんはお仕事の依頼が来ても基本的にお断りしています。今まで何回もトライしたことがあるんですけど、絶対にうまくいかないとわかったんです。例えば、企画部門の人たちから「こういう製品の企画があります。深圳で早く安く作りたい」と依頼されたとします。話が進んでいくと、けっこう試作品を作らされて色んな書類とか出させられて色んな保証とかさせられた挙句、最終的に話がなくなるんです。

 理由は2つです。ひとつは決裁する人が「こんな会社知らない」と言って蹴る。で、どこに発注するかというとHuawei(ファーウェイ)とかなんです。「え、なんでHuaweiがよくて、うちはダメなんですか」って聞くと、「だってHuaweiはソフトバンクから買えますから」と。そういう買い与信がみられるんですよね。もうひとつは、話の途中から、品質管理の人たちが出てきて、「俺たちはそんな話聞いていない」とちゃぶ台をひっくり返すパターンです。こういうことが過去に多くあったので、申し訳ないけど、もう大手メーカーさんの仕事の依頼は受けません。

日本の町工場は深圳の大手に売り込め

―日本の町工場は深圳のエコシステムから何を学べますか。

 よく深圳のエコシステムの中に入り込みたいという人がいるんですが、それは無理だと思います。いきなり深圳で仕事をしても騙されたり、逃げられたりされるだけ。モンスターだらけのジャングルにきて、殺されるだけです。そうじゃなくて、与信のある大手に売り込んだらいい。

 面白いのは、中国って金儲けをするためには意外と情報をオープンにするんです。基板の情報とか、ケースの作り方とかオープンにして、金型を作ってもらったら、その基板も売れるようにする。そういう合理的なところがあるんです。一方、日本の人たちは、技術的な情報は門外不出みたいなところがありますよね。私が町工場の人たちに言っているのは「深圳のDJIなどにどんどん売り込んだらどうですか、いっぱい仕事ありますよ」と。実際DJIのカメラは、ソニーのセンサーを使っているし、それを使いこなすためにソニーから相当ヘッドハントしているんです。

 Huaweiのスマホも日本の部品がかなり入っています。だから村田製作所とか、日本電産とか、大手メーカーの人たちはちゃんと売り込んでいるんですよ。でも町工場の人たちって売り込みをしない。そこにはまだチャンスがあると思いますよ。

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