企業内検索エンジンを開発するGlean(本社:米カリフォルニア州)は、企業のSaaS導入がどんどん増える今の時代にぴったりのプロダクトを展開している。同社のプロダクトは生成AIベースのSaaS型のインサイトエンジンで、「Microsoft 365」「Google Workspace」「Slack」「Salesforce」などを含む、約100のアプリケーションや企業のナレッジソースを横断検索することが可能。これに加えて、ChatGPTを組み合わせたAIアシスタント機能を兼ね備え、「社員一人一人に助手がついたような働き」をするのが特徴だ。かつてGoogleの検索チームに携わったCEOのArvind Jain氏に、プロダクトの強みや今後の展望について聞いた。

目次
仕事中に「情報を探す時間」が多すぎる
Gleanの企業内検索エンジンは何が凄いのか
日本は最初のグローバル市場

仕事中に「情報を探す時間」が多すぎる

―Gleanは社会のどんな課題を解決したいと考えていますか。

 ナレッジワーカー(知識労働者)としての私たちの労働時間における3分の1、1週間のうち1日はただ情報を探すことに費やされているという研究結果もあります。多くの時間が重複した仕事に費やされています。これは、仕事で適切な情報を見つけられないことが、多くの非効率を生み出していることを意味します。私たちのミッションは、従業員の生産性を高めることです。“仕事のためのGoogle検索”を構築することで、従業員に効率のよい仕事の時間を提供したいと考えています。

―起業の経緯を教えて下さい。

 私は、検索エンジニアとして25年以上この業界で経歴を積んでいます。Googleで10年以上、Google検索関連の業務に携わり、検索機能の構築やさまざまなチームを率いました。2014年にはクラウドデータ管理企業のRubrikを共同設立しました。

 Gleanの着想は、Rubrikを構築する際に、従業員から「職場で適切な情報を見つけることができない」という不満が多く出ていたことに端を発します。毎年実施する従業員アンケートや意識調査でも、同様の不満が上位を占めていました。どうすれば従業員が仕事に必要な正しい情報を見つけられるようになるかという問題に興味を持ち始めたことからGleanが誕生しました。

Arvind Jain
Founder & CEO
Indian Institute of Technology, Delhiで学士号、University of Washingtonで博士号(双方ともコンピュータサイエンス)を取得。Google等で特別エンジニアとして10年以上に渡って検索、マップ、YouTubeといった様々なチームを率いた。2014年にクラウドデータ管理企業のRubrikを共同設立した。2019年にGleanを設立しCEOに就任。

Gleanの企業内検索エンジンは何が凄いのか

―Gleanは各企業向けに高度にカスタマイズできるAI検索エンジンですが、Gleanの仕組みを教えて下さい。

 Gleanは企業の従業員の生産性を向上させるためのツールです。Gleanの仕組みは、まず第1に、企業のナレッジ、データ、情報が保存されている全ての社内システムに接続します。また、Gleanは、SharePoint、OneDrive、Slack、Teams、Google Drive、Confluence、Jira、Salesforceなどよく使われている企業向けアプリケーションとの統合機能をあらかじめ構築しています。これにより、Gleanを社内に導入する際、迅速に稼働させることができ、Gleanをさまざまなシステムにまたがる社内のナレッジと連携させることができます。これらのシステムと連携し、社内のデータを1カ所に集めることで、ユーザーである従業員はGleanで社内の情報を検索することができるようになります。

 従業員の検索に対する回答は、SlackやTeamsで交わされた会話の中、あるいはGoogle Driveの中にあるドキュメントの中にあるかもしれません。Gleanはその答えを表示します。これがGleanの機能の仕組みです。

image: Glean HP

―Gleanの特徴を教えて下さい。

 Gleanは、質問者が会社でどのような役割を担っているのかを考慮した上で、最も適切な情報を提供します。例えば、新入社員がGleanで「入社ガイドが欲しい」と検索した場合、Gleanはまず、その人がマーケティングチーム所属なのか、それともエンジニアリングチーム所属なのかを理解します。それに応じて、適切な入社ガイドを提供します。従業員を理解することでより的確に質問に答えることができるのが、Gleanの大きな特徴です。

 また、セキュリティも重要な特徴の1つです。Gleanは「権限」を意識した企業内検索エンジンです。Gleanにアクセスする際には、サインインしてログインする必要があります。Gleanは、既存のシステムそれぞれのセキュリティとガバナンスモデルを理解しているため、検索結果に共有許可されていないような文書が表示されることはありません。

 コンテンツやSlack、Teams、OneDriveについて考えてみると、あるドキュメントにアクセスできるのは社内の数人だけということがよくあります。社内の誰もが利用できる文書もあるかもしれませんが、ほとんどは非公開で、特定の役割を持つ人だけがアクセスできるようになっています。

 AIは企業の生産性や効率性に大きな影響を与えることができる一方、非常に危険なものでもあります。もし、あなたの会社のデータや知識を全てAIに取り込んだとしたら、プライバシーやセキュリティは失われ、許可を得ていないナレッジに誰もがアクセスできるようになります。

 そのため、まず最初にAIソリューションが企業内の権限とガバナンスを理解し、安全で責任あるAI体験を提供すること必要があります。

 例えば、人事部ではない社員が、「〇〇の給料はいくらですか?」と聞いた際、Gleanは、人事チームではない社員が適切でない質問をしたと理解しているため、その結果を示すことはありません。

―プロダクトにおけるAIの活用法を教えて下さい。

 私たちは5年前からコアテクノロジーに大規模言語モデル(LLM)を使用しています。この5年間、LLMを使って優れた検索を構築することに取り組んできました。例えば、Gleanでは正確な単語を入力しなくても、答えを見つけることができます。キーワードベースの検索システムではなく、より高度なセマンティック検索システムになっています。

 質問をすると、上位10位までの結果を表示するだけではありません。私たちのAIエンジンは、実際にそれらの文書を読み、実際に答えを生成し、その答えをあなたと共有することができます。

 また、Glean Chatは「社内のGoogle」のように見えるだけでなく、「社内のChatGPT」のような役割も果たします。実際、対話もできるし、情報を提示するだけではなく、質問にも答えます。

―Glean Chatに関する顧客のフィードバックはどうですか。

 とても良いフィードバックを頂いています。多くの人が「魔法のようだ」と感じてくれているようです。優れた検索とLLMという2つのテクノロジーが、非常にユニークな体験を生み出しているのだと思います。Glean Chatは、幅広い質問に答えてくれます。質問だけではなく、タスクを与えて、コンテンツを生成するよう依頼することもできます。そのため、非常に高い利用率を誇っています。

image: Glean 「Glean Chat」

―主要な顧客層を教えて下さい。

 私たちが仕事を始めた当初は、主にテクノロジー企業と仕事をしていましたが、この製品のニーズはテクノロジー業界に限ったものではないことにすぐ気が付きました。世界中のあらゆる企業が今日抱えている課題は、膨大な量のナレッジと、そのナレッジが定着している非常に多くの技術システムを扱っていることです。そのため、正しい情報を見つけることはあらゆる産業分野に渡って普遍的な問題です。

 この2年間で、私たちはフィンテック、金融、小売り、通信、製造業などテクノロジー以外のあらゆる分野で顧客層が著しく増えました。

 さらに、これらの企業の中で、特にエンジニアやカスタマーサポート、営業担当者がGleanを積極的に活用しています。彼らは、企業内で最大のユーザー集団です。

―Gleanのユースケースについて教えて下さい。

 まず、エンジニアの例を見てみましょう。エンジニアがGleanを使う最も一般的なユースケースの1つは、トラブルシューティングと問題のデバッグです。例えば、エンジニアとして、システムやソフトウェアが正しく動作しないという技術的な問題に遭遇したとしましょう。Gleanにエラーコードやうまく機能していない箇所を入力すると、Gleanが適切な関連情報を表示します。例えば、どのコードがこの問題を引き起こした可能性があるかを教えてくれたり、すでにSlackでこの問題について議論していた過去があれば、関連した会話を表示したりします。トラブルシューティングのスピードを向上させることができるのです。これは非常に大きなユースケースの1つです。

 また、カスタマーサポートでは、顧客の問い合わせをいかに早く解決するかということに活用されています。担当者が、顧客から質問された内容をGleanに入力すると、その質問の答えを示す社内のナレッジが表示されます。その結果を素早く顧客と共有することで、問題を解決します。

日本は最初のグローバル市場

―御社は、2023年5月より日本国内初のパートナーとしてアシスト(本社:東京千代田区)と提携しています。日本市場をどのように見ていますか。

 私たちは米国に拠点を置いていますが、日本市場は私たちにとって最初のグローバル市場で、国際的な観点からみると、最も多くの顧客を抱えている重要な市場です。

 私たちは幸運にも、アシストと一緒に日本でビジネスを立ち上げることができました。アシストは日本の企業が直面している具体的な問題を理解しています。私たちの持つ米国での経験とは少し異なることもあります。そのため、一緒に仕事をすることで、日本の多くの素晴らしい企業にGleanを導入することができました。彼らなしには実現できなかったでしょう。本当に素晴らしいパートナーシップです。

image: アシスト HP

―今後、日本市場で他の日本企業とどのような関係を築きたいとお考えですか?

 私たちはまだ初期段階にいます。すでにさまざまな企業と提携しており、その一環として事業を拡大することを目標としています。また、パートナー企業やアシストと協力するだけでなく、従業員の何人かを日本に駐在させたいと考えています。

―今後12カ月で達成する予定のマイルストーンと、御社の長期的なビジョンについてお聞かせください。

 今後12カ月間、私たちの重要な目標の1つは、速いペースでビジネスを構築し続けることです。そして、今年はビジネスの規模を3倍にしたいと考えています。

 製品の観点からも長期的なビジョンからも、私たちがGleanについて考えているのは、Gleanは将来、働く全ての人が持つことになる基本的なAIアシスタントになるということです。

 私たちは仕事の性質が根本的に変わると信じています。先週どんな仕事をしたかを上司と共有する文化の会社があるとしましょう。将来的には、AI技術により、あなたが行ったことを調べ、あなたに代わって自動的にこの報告書を作成するようになるでしょう。このように、多くの自動化が進んでいくと考えています。

 だから私たちは、Gleanが基本的な役割を果たすことで、従業員一人一人に最高のパーソナルAIアシスタントを提供し、彼らの仕事のレベルアップを支援したいと考えています。これが私たちのビジョンです。

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