シリコンバレーに拠点を置き、最先端テクノロジーに投資するGeodesic Capitalは日本ととても関わりが深いVCだ。設立者であるAshvin Bachireddy氏は子どもの頃から日本製品などを通して日本文化・テクノロジーに親しんできた。また共同設立者であるJohn Roos氏も元駐日米国大使を務めるなど、二人は親日家として知られる。彼らが運営する「Geodesic Capital Fund I」はグロースステージの投資に焦点を当て、三菱商事のほか、三井住友銀行、三菱重工業、三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、損害保険ジャパン日本興亜、ニコン、日本政策投資銀行、東邦銀行などが投資家として参画する。シリコンバレーと日本の架け橋となって、日米企業をつなぎたいと願うAshvin Bachireddy氏に、テクノロジーの未来像と日本参入への意欲について話を聞いた。

日本のテクノロジーに魅了され、VCを志す

―日本に対して特別な思いがあると聞きました。日本との関わりはいつ頃からですか?

 私の両親は、電気工学を学ぶために渡米したインド系移民です。私はシリコンバレーで生まれ育ち、人生の大半をテクノロジーに囲まれて過ごしてきました。私が日本好きになったのは、父からの影響が大きいです。仕事でシリコンバレーと日本を行き来していた父は、出張から帰ってくるたびに何かしら玩具やガジェットを買ってきてくれました。父が持ち帰ったものは、米国で手に入るどんなものよりもずっと優れていたことを昨日のことのように覚えています。私がテクノロジーを好きになったのは、日本のおかげです。

 また一方で、私は金融や投資にも興味を持っていました。試験勉強をしていたある日、休憩しようと手に取った雑誌に、当時最高のベンチャーキャピタリストの一人が紹介されていました。私は彼のライフストーリーを読んで、その素晴らしいキャリアにすっかり魅了されました。ベンチャーキャピタルこそ、趣味である投資とテクノロジーを組み合わせることができる職業だと気づいたからです。「これこそ私がやりたい仕事だ」と確信しました。

Ashvin Bachireddy
Geodesic Capital
Co-Founding Partner
Geodesic Capitalの共同創業者。ベンチャーキャピタルとテクノロジーの分野で15年以上の経験を持つ。Geodesic Capital創業前は、Andreessen Horowitzでグロースステージ投資の責任者を務め、Facebook、Twitter、Box、Airbnb、Zulily、Githubへの投資に積極的に関わった。Andreessen Horowitz入社前は、Lightspeed Venture Partners、3i Group、およびJMI Equityのベンチャーキャピタル投資家として、あらゆる段階のテクノロジー投資に関与。それ以前は、Montgomery & Co. およびSalomon Smith Barneyの投資銀行部門に勤務。カリフォルニア大学サンディエゴ校で経営学士号を取得。

 そこで私は、大学を卒業してすぐに投資銀行家として働き始め、その後、米国の著名なベンチャーキャピタルであるAndreessen HorowitzにてFacebook、Twitter、Box、Airbnb、Githubへの投資にも関わりました。

 Andreessen Horowitzでレイトステージの投資を担当していた頃、米国で成功した企業が順調に欧州進出を果たしても、アジア、特に日本への進出にする場合に、多くの企業が苦労していることを知りました。日本のお客さまは言葉の違いや、文化の違いだけでなく、世界のどの地域よりもはるかに高いレベルのサービスと、完璧なクオリティを求めます。そこで私は、シリコンバレーに拠点を置く優れたレイトステージの企業を対象に、日本進出を支援する会社を設立することにしたのです。

10年先、20年先を見据えたポテンシャルの高いテクノロジーに投資

―Geodesic Capitalはどのような企業への投資を目的としていますか?

 2015年にスタートした私たちGeodesic Capitalは、約5億ドルのファンド運用資産の大半を日本の企業、金融機関から得ています。投資の大きな目的は、コンピュータサイエンスとイノベーションの分野で活躍する米国企業が、日本を皮切りにアジア市場へ進出するお手伝いをすることです。日本には人材の発掘から、顧客やパートナーの探索、ユーザーの開拓など、あらゆる面で企業をサポートするたくさんのスタッフが働いています。

―投資先の企業はどのように探索していますか?

 私たちのアプローチは2つの方法があります。1つ目は、ソフトウェアやデータを駆使したアプローチ方法です。社内の膨大なデータベースを使って、何千、何万社という企業を数百種類もの異なる指標で分析しています。2つ目は、シリコンバレーにある当社のネットワークと知名度を活用して、経営者を紹介してもらう方法です。

 投資基準としては、通常、4つの観点から評価を行っています。1つ目は、優れた創業者かどうかという観点です。テクノロジーの歴史を振り返ってみると、FacebookやGoogle、Oracle、Salesforceなど、創業者が長期にわたって経営する企業ほど、世界的な巨大テクノロジー企業に成長しています。私たちは、このような長期的なビジネスを構築したいと考える起業家や、チームを求めています。

 2つ目はその企業が狙うマーケットの成長性です。単純に今現在のマーケットを見て判断するのではなく、将来的にマーケットがどのような姿に成長しうるか、あるいは大きな別のチャンスが開く可能性があるかどうかに注目しています。

 3つ目の重要なポイントは、既存市場を大きく変革する可能性があるプロダクトかどうかです。今、隆盛を極めている製品が3~5年後も同じように強いとは限りません。むしろ無意味なものになっている可能性もあります。ですから、5年後、10年後という長いスパンにわたって既存市場の効率や、機能を大きく向上させる可能性のある製品に投資したいと思っています。

 最後の4つ目は、財務上の勢いです。製品を使用している顧客やユーザーがいて、その製品が機能し、確かに市場が存在することを検証します。

 つまり、創業者が経営していて、長期的なビジネスモデルを志向するチームを有望視しています。10年、20年先の市場動向を見極めながら、既存事業を大きく飛躍させる可能性のあるテクノロジーやプロダクトに投資しています。

―注力している投資カテゴリーはどんな分野ですか?

 現在はAIの発展が目覚ましいので、ますます導入が進んで、さまざまな産業に影響を与えると予測しています。近い将来、既存の大企業はAIを原動力とする企業に破壊されるか、AIの採用を迫られることになるかもしれません。これからの競争社会で打ち勝つために、AIの導入は必須です。ですから、AIというカテゴリーは私たちが非常に期待を寄せている分野です。

―その中でも、特に有望視している企業はどんなところですか?

 私たちがファンドを立ち上げた当初、2017年に投資したDatabricksというAIプラットフォームを提供する企業があります。AIのためのプラットフォームを構築するという彼らのビジョンに興味を持ったため投資しました。すでに世界中に顧客がいて、日本でもさまざまな企業が同社のAIプラットフォームを導入しています。

Photo: rafapress / Shutterstock

 2020年のパンデミック後、世界はデジタル活用へシフトしており、今後、このような動きはさらに加速していくでしょう。5年先、10年先になるだろうと予測していたテクノロジーの事業化スピードが早まったことによって、AIへの期待値も非常に高まっています。今後、こうした分野の成長を非常に楽しみにしています。

―では、これまでのベンチャーキャピタリストとしての活動で、後悔した経験はありますか?

 よくあるパターンは、評価が高すぎるという理由で投資を見送るケースです。見送った企業が、後に信じられないほど面白いビジネスを展開し、驚くほどの成功を収めることがあります。評価の時点で企業の素晴らしさに気がつかなかったことに、悔しい想いをすることはあります。

 ですが、長くこの仕事をしていると、投資しておけばよかったと思う企業が必ず出てきますから、例を挙げれば切りがありません。

―優れたVCの条件とは何でしょうか?

 テクノロジー業界は、進化のスピードが速く、いくら学んでも終わりということがありません。私がこの業界に入った16年前に学び、研究し、専門家になった一連の技術は、今ではすっかり変わってしまいました。ですから、つねに切磋琢磨して、学び続けることが必要です。自分よりもずっと詳しい人はたくさんいますから、謙虚な気持ちでビジネスに取り組む姿勢が重要です。

AI、テクノロジーによる変革はまだ序章。ここから本当の未来がはじまる

―VCは常に遠い将来ビジョンを見据えて投資しています。今後、10年、20年の間に世界はどう変わると思いますか?

 スタートアップ企業の中から、既存産業を大きく覆すような企業が生まれてくると思います。その先頭となる企業はソフトウェアとテクノロジーを第一に考える企業でしょう。デジタルファーストの思想が、金融サービス、ヘルスケア、教育、建設など、これまで変化が乏しかった業界の非効率を改善し、サービスの価格を下げ、社会の質を高めてくれることを期待しています。今後、テクノロジーがこうした大きな産業の根底を揺さぶり、再構築する姿をますます目の当たりにする機会が増えるでしょう。

Photo: metamorworks / Shutterstock

 実際、先に挙げたDatabricksを導入する建設会社やヘルスケア企業で、デジタル技術による変革は表れています。DatabricksのAIプラットフォームは、2020年のパンデミックの際、医療機関の効果的な対応を支援するために重要な役割を果たしました。また、建設会社と提携して、世界中のインフラプロジェクトに多くの効率性をもたらしています。今後もさらに多くの産業に影響を与えることでしょう。  私たちの使命は、この先10~20年の間に実現するであろう、本物の改革者を見つけることです。いまのテクノロジーが世界に与えている変革は、まだほんの序章に過ぎないのですから。

―シリコンバレーに拠点を置き、テクノロジーの趨勢を肌で感じて来られたことと思います。現在の米国におけるエコシステムについて、どのように見ていますか?また、どのように変化していくと思いますか?

 いま私たちは、米国エコシステムの黄金時代にいると思っています。デジタル技術に関しては、70年代のインテル・マイクロプロセッサーに始まり、2020年にかけて驚くべきイノベーションが続いてきました。この爆発的なイノベーションは今後も続き、テクノロジーのエコシステムを根本的に変えていくと予想しています。

 もう一つ、最近、シリコンバレーで起きた大きな変化として、スタートアップエコシステムに入ってくる人材の質があります。シリコンバレーの企業にとって優秀な人材の確保は、事業の成否を分けるほど重要なものです。2020年のパンデミックによって、多くの人がリモートワークにシフトしたため、優秀な人材をスピーディに獲得できるかどうかがスタートアップの間の最大の懸念でした。

Photo: Rido / Shutterstock

 しかし、逆にオンラインワークが増えたことによって、シリコンバレーだけでなく世界中から才能を引き寄せることが可能となったのです。技術者だけでなく、世界中の起業家や投資家もアクセスしやすくなっています。これは、シリコンバレーにとって大きなチャンスであり、イノベーションをパワーアップさせる原動力です。私たちは、米国のエコシステムの未来にとても明るい期待を寄せています。

シリコンバレー発VCが日米テクノロジーの架け橋となる日

―最近の日本企業やエコシステムをどのように見ていますか?

 私たちがこのファームを立ち上げた過去5、6年前に比べて、日本のスタートアップコミュニティと大企業のイノベーションは急激に拡大しました。日本のエコシステムは信じられないほどの速さで成長しています。とくにクラウド技術や機械学習、自動化、サイバーセキュリティなどの分野で最新ツールの導入が、これまでに見たことがない速さで進んでいます。はじめは大手銀行による採用が中心でしたが、最近は小売業界でも採用されるなど、新技術の採用がありとあらゆる業種に広がりを見せています。

 世界に誇る日本企業のシニアリーダーたちも、企業の近代化と将来の発展に向けてデジタルトランスフォーメーションの重要性を認識しています。私たちGeodesic Capitalと投資先が、彼らに果たせる役割を話し合うチャンスもいただいています。

最後に、日本の読者へメッセージをお願いします。

 日本は世界で最も革新的な国の一つです。私がテクノロジーを好きになったのはこの国のおかげです。だからこそ、日本と密接に連携したGeodesic Capitalを立ち上げることができました。アメリカと日本のパートナーシップには、まだまだ大きなチャンスが残されていると感じています。この5、6年の間にも急速なペースで進みましたが、今後、もっとさらに力強く、前進していくと確信しています。日本の皆さんと一緒に良い方法を見つけて、エキサイティングな仕事ができるよう願っています。



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