image: Macrovector / Shutterstock
動物の細胞を培養することで作られる「培養肉」が、研究室から食卓へと着実に近づいている。シンガポールと米国に続き、イスラエルでも今年に入って培養ビーフの販売が当局から認められた。味の面でも本物にかなり“肉薄”する仕上がりのようだ。ただ、欧州に目を向けると、イタリアは培養肉を禁止する法案を可決しており、対応は真逆。スタートアップを中心に培養肉の開発競争が加速しているが、世界的に見ると諸手を挙げて賛成という状況ではないようだ。

※TECHBLITZでは、培養肉関連の国内外のスタートアップを独自に調査。記事後半では、中でも注目の5社を紹介します。

培養肉とは:
動物の細胞を体外で組織培養することで作られる代替肉。サステナブルな食料供給や環境保全、動物福祉への課題対処といった観点で期待が高まる一方、割高なコストや食の安全性の評価などが課題として挙げられる。日本でもスタートアップが培養フォアグラなどの開発を進めているほか、日清食品グループと東京大学による共同研究などが行われている。

<目次>
イスラエル、新たに培養牛肉の販売承認
イタリアは禁止、EUはまだ明確な姿勢示さす
TECHBLITZが選ぶ、培養肉関連スタートアップ5選
 1. Meatable(オランダ)
 2. Uncommon(英国)
 3. TissenBioFarm(大韓民国)
 4. Wildtype(米国)
 5. BlueNalu(米国)

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イスラエル、新たに培養牛肉の販売承認

 培養肉を巡る新たな動きとして、イスラエル保健省が2024年1月、世界で初めて培養牛肉の製造・販売を承認した。承認を受けたのは、イスラエルの培養肉スタートアップ、Aleph Farms。背景には国を挙げた規制面での後押しがある。

 イスラエルは食糧安全保障などの観点から、代替タンパク質に関する施策を推進する省庁横断チームを3年前に結成。今回の培養牛肉に先立ち、2023年には精密発酵技術を用いて牛を必要とせずに「本物の」乳タンパク質を製造する代替乳製品スタートアップのRemilkが販売承認を得ている。

 ネタニヤフ首相は培養牛肉の承認について、「代替タンパク質領域における国際的なブレークスルーであり、食糧安全保障、環境保護、動物愛護の観点から重要なニュースだ」とコメントしている。なお、Aleph Farmsは2021年1月、日本市場での培養肉の展開について三菱商事と覚書を交わしている。

 培養肉に関しては、2020年に世界で初めてシンガポールが培養鶏肉の販売を承認し、米国でも2023年にGOOD MeatUPSIDE Foodsが製造する培養肉に対して承認が下りている。オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関も培養ウズラ肉の評価を開始している。

image: Aleph Farms

イタリアは禁止、EUはまだ明確な姿勢示さす

 一方、イタリアは2023年11月、培養肉を全面的に禁止する法案を議会が可決した。培養肉の販売や輸入を禁止する内容で、違反した業者は最大6万ユーロの罰金が課せられる。農家の抵抗が強く、法案成立を推進したロロブリジーダ農相は「イタリア人の健康と雇用、食文化、伝統を守るものだ」とコメントしている。

 欧州連合(EU)はまだ明確な方針を打ち出していないが、イタリアとフランス、オーストリアは先月、培養肉に反対する内容の意見書を欧州理事会に連名で提出。「培養肉は、EU加盟国、欧州委員会、利害関係者、一般市民の間で議論されるべき多くの課題を抱えている」と釘を刺している。

 この意見書はチェコ、キプロス、ギリシャ、ハンガリー、ルクセンブルク、リトアニア、マルタ、ルーマニア、スロバキアの9カ国も支持している。

 なお、日本では厚生労働省の専門部会などが培養肉の安全性などについて情報収集や研究を進めている状況だ。

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TECHBLITZが選ぶ、培養肉関連スタートアップ5選

 2013年に世界で初めて培養肉ハンバーガーを開発したオランダのMosa Meatや、シンガポールで世界初の培養鶏肉の販売承認を得たEat Just(GOOD Meatの親会社)のように、一定の知名度を得ているスタートアップも出てきているが、それ以外にも培養豚肉や培養魚肉を手掛けるユニークなスタートアップが数多く存在する。TECHBLITZ編集部が選ぶ、培養肉関連のスタートアップ5社はこちら。

1. Meatable

Meatable
iPS細胞を活用して培養肉を大量生産する技術
設立年 2018年
所在地 オランダ デルフト
 Meatableは、iPS細胞を使い、動物を傷つけずに培養肉を生産する技術。同技術で作る培養豚肉のソーセージと餃子を、2024年からシンガポールのレストランや小売店で展開する予定。米国での販売の準備も進めている。
image: Meatable

2. Uncommon

Uncommon
iPS細胞技術を活用して作る培養豚肉
設立年 2017年
所在地 英国 ケンブリッジ
 Uncommonは、遺伝子操作を行わずに生産できる培養豚肉。遺伝子工学を使わないため、遺伝子組み換え食品の規制が厳しい国でも展開できることが期待される。2023年6月にOpenAIのSam Altmanが参加する約$30Mの資金調達を実施。欧州やシンガポールでの展開を進める意向。
image: Uncommon

3. TissenBioFarm

TissenBioFarm
培養肉の塊を3Dプリントで生産
設立年 2021年
所在地 大韓民国 (韓国) ポハン
 TissenBioFarmは、培養肉の大量生産を可能とするバイオ3Dプリンティング技術。同培養肉の生産には、同研究室で進められている、移植用の人工臓器の開発技術を応用。韓国のK-Startup Grand Prizeの産業大賞や、Global Innovator Festaの大邱広域市長賞などを受賞。
image: TissenBioFarm

4. Wildtype

Wildtype
培養魚肉で地球にやさしいサーモン代替品
設立年 2016年
所在地 米国 カリフォルニア州 サンフランシスコ
 Wildtypeは、米国内でエビの次に消費量が多いと言われる魚介類であるサーモンの細胞培養に成功。これまでにSK HoldingsやTemasek Holdingsなどから出資を受けている。同社の技術はサーモンに限らず、あらゆる魚や肉の培養製造に応用可能。
image: Wildtype

5. BlueNalu

BlueNalu
マグロなどの持続可能な培養魚肉
設立年 2017年
所在地 米国 カリフォルニア州 サンディエゴ
 BlueNaluは、マグロなど持続可能な養殖が困難な種類の魚の代替品となる培養魚肉を開発。三菱商事や住友商事と協力関係にあるほか、培養トロを共同開発するために「スシロー」や「京樽」を展開するFOOD & LIFE COMPANIESとも提携。
image: BlueNalu

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