Aspire(本社:シンガポール)は中小企業の「お金の管理」をオールインワンで解決することを目指すスタートアップだ。銀行口座やクレジットカード、請求書の発行、経費管理を一体化した財務管理プラットフォームを提供。顧客は資金管理を合理化し、スマートな意思決定を行うことが可能になる。共同創業者でCEOのAndrea Baronchelli氏に、ビジネスの特徴や成長戦略について話を聞いた。

目次
中小企業にスポットライトを当てた金融サービス
アジアで1万5000社の中小企業が導入
日本市場参入は魅力的な選択肢

中小企業にスポットライトを当てた金融サービス

―これまでの経歴と、Aspire創業までのストーリーをお聞かせください。

 キャリア初期は欧州、特にロンドンで金融関連の仕事に携わっていました。そして、2012年にキャリアを変え、テクノロジー分野に移行しました。アジアに移り住み、Lazadaという会社を立ち上げました。これは、シンガポール、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンなど、東南アジアのeコマースプラットフォームを提供する企業です。

 Lazadaを成長させ、2016年にはAlibabaグループに売却しました。Lazadaでは数多くのeコマース事業者と取引をしていて、そうした事業者が金融サービスに抱く課題を知っていました。そこで、それらの課題を解消するプラットフォームを提供しようと思い、2018年にシンガポールでAspireを創業しました。当初は、在庫購入や販売管理のための金融ツールを提供しました。

 対象となるのはSMBと呼ばれる領域の中小企業です。eコマース事業者からはじまり、プロフェッショナルサービスの分野で活動するマーケティング企業や法律事務所、コンサルティング会社、IT企業、ソフトウェア会社などに広げています。事業を展開するエリアは、シンガポールだけでなく、東南アジア地域の近隣諸国へと広げています。インドネシアは私たちの最大の市場の一つですで、フィリピン、ベトナム、マレーシア、タイ、香港などにも顧客がいます。

Andrea Baronchelli
Co-Founder & CEO
Università Bocconiでファイナンスの修士号を取得。また、National University of SingaporeでMBAを取得している。ヨーロッパで金融関連事業に携わったのち、2012年にeコマースプラットフォームLazadaの設立に関わり、CEOやCMOを歴任。LazadaをAlibabaグループに売却したのち2018年にAspireを共同創業し、CEOに就任。

―プロダクトの特徴を教えてください。

 私たちは「オールインワン・ファイナンス」と呼ばれるプラットフォームを提供しています。これは主に3つの用途に使われます。1つは財務管理で、資金の受け取り、送金、支払い口座の管理などが含まれます。請求書の発行や収益の受け取り、複数通貨での支払いなどがこれに該当します。2つ目は支出管理とクレジットカードで、バーチャルカード、従業員の予算・経費管理が含まれます。そして3つ目は、支払いリンクを通じて顧客からの支払いを受け取る機能です。これはウェブサイトのチェックアウト時や、支払いリンクを介して行われます。

 これまでは、これら3つの機能を統合したツールはほとんどありませんでした。個々の機能を持つツールをそれぞれ契約し、組み合わせて使用するケースが多かったのですが、その場合、ツール間の連携のためにはスプレッドシートや紙の書類でデータを管理しなければなりません。経営者は多忙なのに、煩雑な作業を強いられてしまうのです。

 そこで私たちは、1つのアカウントに各種機能を統合したサービスを提供することにしました。それによって、支払いと請求書を自動的に照合し、スプレッドシートシートや紙の書類を使わずに次月の予算を立てることができるようになるのです。現在、私たちのような統合サービスを提供する競合他社は存在しないのではないでしょうか。なお、収益モデルは、月額料金制と、取引に応じた課金制です。

 特に中小企業に焦点を当てている理由は、このセグメントが従来の金融システムによるサービスを十分に享受できていないからです。中小企業は規模が小さく、個人と大企業の中間に位置しており、しばしばサービスの対象外のような扱いとなっているからです。

image: Aspire HP

アジアで1万5,000社の中小企業が導入

―プラットフォームはどのように使われていますか。顧客の成功事例を教えてください。

 私たちは現在、1万5,000社近くの企業にサービスを提供しており、多くの成功事例があります。その中の1つとして、あるスタートアップの事例を紹介しましょう。この顧客は、企業が異なる国で従業員を雇用する際の給与計算や従業員の管理を支援しています。このような企業では、多くの異なる国で取引をするため、国別の銀行口座を持って管理をしていました。

 Aspireを利用することで、これらの口座を一元化し、全ての口座を1つの管理画面で管理できるようになりました。当社の顧客企業は、支払い可能口座と受け取り可能口座を管理し、従業員が使う経費には、予算制御機能が組み込まれたバーチャルカードを使用して予算設定を行えます。私たちのシステムでは、異なる通貨や全ての請求書、支払い可能・受け取り可能口座を1つのビューで集約し、同じシステムにアップロードすることができます。これにより、支払うべき請求書や受け取るべき支払いを一覧表示し、自動的に照合を行うことができます。顧客企業は会計や財務管理処理の時間とコストを節約できるのです。

―各国の商習慣や法令にも対応されているのですか。

 私たちは、事業を展開する国・地域の市場にビジネスチームを配置しており、顧客の要求に応じてローカライゼーションに努めています。各国で異なる会計ソフトウェアに対応したり、言語の適応や税制の違いにも対応したりする必要があります。ただし、プラットフォームの基本的な構造はどの地域でも似ています。全ての中小企業はその顧客からの支払いを受け取り、サプライヤーへの支払いを行う必要がありますが、この流れはどこでも同じです。

日本市場参入は魅力的な選択肢

―会社としての成長や、今後の事業展開をお聞かせください。

 繰り返しになりますが、私たちは現在、アジアで1万5,000社の顧客にサービスを提供しており、売上も順調に伸びています。2023年には黒字化も達成しました。このように成長している背景には、中小企業に特化したサービスを提供する企業が少ないことと、私たちのプラットフォームが使いやすさや信頼性を追求しているからだと思います。

 今後も引き続きアジア・太平洋地域の他の市場への拡大を計画しており、将来的には日本の市場にも参入したいと考えています。私たちは製品を徐々に洗練させており、複数の店舗、国、通貨を管理するためのより多くの設定を導入しています。これにより、あらゆるケースに対して私たちのツールを使用できるようになっていきます。私たちはアジアにおける中小企業向けの金融サービスのリーディングカンパニーになることを目指しているのです。

 日本企業のパートナーはいませんが、市場調査を始めました。情報収集と計画立案のために小さなチームを現地に配置し、いくつかの企業とコンタクトをとっているところです。日本市場は非常に興味深いです。なぜなら、多くの中小企業が存在する一方で、ツールの革新はそれほど進んでいないからです。そのため、私たちにとっても、日本市場への参入は魅力的な選択肢です。

 私たちは日本市場についてもっと学ぶために、対話を積極的に行っています。特に、中小企業領域に強いBtoB企業とのコミュニケーションに興味があります。日本の中小企業が抱える課題にどう応えていけばいいかを考えたいのです。また、日本からアジア・太平洋地域に拡大をしたい企業に対してもサポートができると考えています。

―長期的なビジョンについて教えてください。未来のパートナーへのメッセージもお願いします。

 私たちのビジョンは、中小企業向けの「オールインワン・ファイナンス・オペレーティング・システム」を構築することです。中小企業向けの最高の財務プラットフォームを構築することを目指しているのです。財務と会計において分散したツールによって疲弊しているSMBを支援し、ビジネスに集中できるようにしたいと考えています。

 未来のパートナーに対して言いたいのは「会話を交わし、議論を進めましょう」ということです。私たちの取り組みに興味がある方、ぜひ話し合いをしましょう。  

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