Image: Booster Fuels
2015年に設立されたBooster Fuels は、ガソリン移動販売および自動給油サービスを提供するスタートアップ。今回はCo-Founder & CEOのFrank Mycroft氏にインタビューした。

Frank Mycroft
Booster Fuels
Co-Founder & CEO
プリンストン大学卒業後、スタンフォード大学で宇宙航空学および経営科学の修士号を取得。ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、ボーイング社などの企業を経て2015年にBooster Fuelsを共同設立。CEOに就任し、今に至る。

ドライバーをガソリンスタンドでの給油から解放

―まずは御社の事業内容について教えてください。

 当社は、アメリカ国内で即日ガソリン配達サービスを運営しています。ひと言で言えば、移動式のガソリンスタンドですね。オフィスで仕事をしている間に、車のガソリンが満タンになっている、という感じです。ドライバーの方で、「いやあ、ガソリンスタンドに行くのが楽しみで仕方ないんだよね」なんていう人はいませんよね?皆さん、必要に迫られて足を運んでいます。当社のサービスならお客様の貴重な時間を節約できるうえ、良心的な価格設定になっているので、本当に魔法のようだといってもいいですね。

―ホームページをみると、企業や大学などと契約するケースが多いようですね。

 そうですね、当社のシステムを知っていただくには、まず創業にかかわる経緯からお話した方がいいかもしれません。私がこのビジネスを思いついたのは、2014年の中頃です。妻が妊娠中で、私が自分と妻の車にガソリンを入れる担当になりました。しかし、車2台分のガソリンを毎週補給しに行くのは非常に手間がかかり、そのためにガソリン代をかけるのも無駄だと感じるようになったのです。

 私の両親は科学者で節約家でしたから、1円でも余計な費用をかけるのを嫌がりました。私も、なんとかして人々の生活から無駄を省き、ガソリンのための費用を節約することはできないだろうか、と考えました。

 こうして新しいビジネスについて色々考えていくうちに、必要な条件は2つに絞れました。1つは、長時間多数の車が駐車される場所を探すこと、もう一つは具体的な車両を指定して給油依頼を出せるテクノロジーを開発することです。そこで、多くの車が一斉に駐車される場所として、会社や大学、あるいはショッピングモールの駐車場などに注目しました。一カ所で多くの車にサービス提供できれば、移動時間が短縮される分、お客様一人ひとりの費用が軽減されます。実際、今はガソリンスタンドと同水準の価格で販売しています。

カギはロックしたままでOK。給油口を開けてアプリで依頼するだけ

―広い駐車場で、どのようにして給油依頼を出した車を見つけ出すのでしょうか?また、給油してもらうのに車のカギはどのように預かってもらうのでしょう?具体的な利用方法について、詳しく教えてください。

 カギは必要ありませんし、車の位置についてご提示いただく必要もありません。Uberの配車サービスをイメージしていただければわかりやすいと思うのですが、お客様は通常通り駐車場に車を停めてからアプリを開き、「今日給油お願いします」と依頼していただければ大丈夫です。そしてガソリンのランクを指定してから、送信ボタンをクリックすれば依頼は完了です。アプリにはGPS機能がついていますし、サービス登録される際に車種やナンバーはあらかじめ提示していただくので、あえて車の位置を教えていただく必要はありません。

 最後に、給油口を開けておいてもらいます。そこさえ開いていれば、車のロックがかかっていても給油できますから。あとは、いつも通り仕事をこなし、あるいは買い物を楽しんでいる間に、ガソリンが満タンになる仕組みです。給油が終わったら、お客様宛に完了の旨、テキストメッセージで通知します。

 当社はサンフランシスコ地区を中心に展開していますが、社員の福利厚生の一環として契約していただいている企業も多いですね。このあたりのフォーチュン100企業はほとんど網羅しています。ガソリンスタンドは、特に深夜はあまり安全な場所とは言えませんし、とても重宝していただいています。

 

ガソリンスタンドの隠れた「非効率」に着目

―とても便利なサービスだと思いますが、ガソリンスタンドと同程度の価格では儲けが出にくいような気もしますが、どのようにして収益を維持しているのでしょうか。

 そうですね。私も、その点に非常に苦慮しました。ただ、気づいたのですが、ガソリンスタンドというのも、決して効率的な業態ではないということです。

 ガソリンスタンドは朝夕のラッシュ時は混雑していますが、それ以外の時間はそうでもない。特に夜はガラガラで、効率的なサービスとは言えません。また、ガソリンスタンドの施設を維持するのも大変です。ポンプや地下の貯蔵タンクなどを維持していくには、膨大なお金がかかります。地代やインフラ費用もばかになりません。万が一、地下のタンクが破損でもしたら、環境にも大きく影響しますから、メンテナンスもしっかり行わなければならない。

 これらすべてがガソリン代に反映されていることを考慮すると、移動式のガソリン販売で同水準の価格を維持することは、決して難しくないと考えました。そして価格よし、体験よし、さらに安全で環境への配慮もなされるという、素晴らしいサービスが誕生したのです。

―環境への配慮というのは具体的にどういったことでしょう?

 我々は、ガソリンスタンドよりも持続可能なサービスだと自負しています。地下の貯蔵タンクがもたらす問題は数知れず、ガソリン漏れなどが発生した場合、膨大な費用がかかります。

 また、当社では製油所で仕入れたガソリンを直接お客様の車に運びますから、大きなタンクローリーで各スタンドに運搬し、消費者がそこに足を運ぶよりも工程が少ない分、排出ガスの削減にも貢献できます。当社のトラック1台で、1つの駐車場にある数十台もの車に給油するわけですから。

自動運転車の給油もサポート。将来は他のモノも運ぶ

―今後、自動運転車も増えてくるかと思いますが、その点も含め、将来の展望についてお聞かせください。

 自動運転車に関していえば、給油方法が一つの課題になっており、当社のビジネスを有効活用していただけると思います。実際、大手の自動運転車開発会社にサービス提供しています。

 今後、こういった事業への需要はどんどん増えてくるでしょうから、15年ないし20年先という長いスパンで、考えていこうと思っています。当社は本質的に「物を運ぶ」物流事業、と考えているので、今後はガソリンだけでなく電気や他の商品などにも拡大していきたいですね。

―最後に、日本企業との可能性についてお聞きします。今後、日本の会社と提携することは考えられますか?

 もちろんです。高齢化が進む日本では、こういったサービスに興味を示してくれる企業もたくさんあります。特に、郊外の地域で需要があるようで、実際に声をかけてくださる会社もいます。当社としては多くの自動車を所有する企業や自動車会社、あるいはガソリン貯蔵施設のある会社などと提携したいと思っています。

 ただ、まずは発展途上国にも力を入れたいと思っています。急激な発展を遂げる一方で、ガソリンスタンドを維持するインフラ構築は厳しい、という国ならば、我々のような業態を歓迎してくれるでしょう。そういった地域により費用対効果が高く、より近代的なソリューションを提供していきたいと思っています。

エイジングテック特集 目次

#1 超高齢化社会のイノベーション「エイジングテック」

#2 【SOMPO】テクノロジーで高齢化社会の課題解決に挑む

#3 僻地医療からシリコンバレーへ。日本の「本当の問題」を話そう

#4 世界中のイノベーションを持ち寄る、グローバルネットワーク「Aging2.0」

#5 【日本企業】なぜ大企業はエイジングテックに取り組むのか?

#6 スタンフォード教授が語る「睡眠テクノロジーの真実」

#7 法的書類からSNSまで。終活をサポートするCake

#8 自動運転車が食料品を配達してくれるAutoX

#9 ガソリンスタンドが家にやってくるBooster Fuels

#10 【スタートアップマップ】注目のエイジングテック一挙紹介



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