電話、ビデオ会議、チャット、コンタクトセンターを1つに統合し、AIがすべての会話をリアルタイムに分析・実行する業務基盤を提供するのが、米カリフォルニア州サンラモンを拠点とするDialpad(ダイアルパッド)だ。同社は今、自律型AIエージェントが1次対応を処理し、人間の担当者へその文脈ごと引き継ぐ次世代のコミュニケーション基盤を本格展開している。

創業者のクレイグ・ウォーカー(Craig Walker)氏は、インターネット電話サービスをYahoo!に、その後のVoIPサービスをGoogleに売却(のちのGoogle Voice)した連続起業家だ。2011年のダイアルパッド創業後は一貫して業務会話のクラウド化・AI化に注力してきた。2018年のTalkIQ買収を機にリアルタイムAIをプラットフォームの核に据え、「すべてのビジネスをAI企業に変える」と見据えるウォーカー氏に、AIエージェント時代の技術戦略と日本市場への展望を聞いた。


目次
ネット電話事業をYahoo!とGoogleに売却した実績
企業の「AIエージェント恐怖症」に4つの対策
蓄積したビジネス会話データで競合と差別化
日本で成功すれば、世界で通用する
「営業は1番、サポートは2番…」あの電話体験をなくしたい

ネット電話事業をYahoo!とGoogleに売却した実績

―まず、これまでのキャリアとダイアルパッドを創業した経緯を教えてください。

 1990年代半ばにシリコンバレーで弁護士としてキャリアを始めた後、ベンチャーファンドに移りインターネット技術への投資を担当しました。当時、最も興奮したのが「インターネット経由の通話技術」です。従来の電話回線に比べ、ほぼ無料のコストで世界中どこからでもつながる可能性に強い未来を感じ、投資先企業のCEOに就任して5年間経営を担った後、Yahoo!への売却に導きました。

 2006年にYahoo!を離れて立ち上げたGrandCentral(グランドセントラル)は、1つの番号で任意のデバイスから受電できる次世代VoIPサービスで、これがGoogleに買収されて「Google Voice」となりました。同プロダクトの責任者を務める中で痛感したのが、「コンシューマー向けに比べて、ビジネス向けコミュニケーション環境が極めて脆弱である」という課題です。

 そこでGoogle Voiceで培ったモダンなアーキテクチャをビジネスの世界へ持ち込むべく、2011年にダイアルパッドを創業しました。すべてをクラウド化し、場所を選ばずに働ける生産性の高いプラットフォームを構築することで、シスコ(Cisco)やアバイヤ(Avaya)といった既存の巨大ベンダーに挑戦を挑んだのです。

―クラウド電話から始まり、AIを中核に据えるまでの製品の変遷は?

 創業当時のオフィスは、誰もが自身のポケットに1,000ドルのスマートフォンを入れているのに、デスクの上には別の固定電話が置かれているという、よく考えると非常に非効率な状態でした。「手元のスマートフォンやPC、iPadをそのままビジネスフォンにすれば、デスクに縛られる必要はなくなる」──この思想は、のちのコロナ禍において劇的な生産性向上をもたらす形で証明されました。

 大きな転換点は2018年です。TalkIQというスタートアップが、通話中の会話をリアルタイムで認識・理解するAIのデモを見て衝撃を受け、即座に買収を決めました。このリアルタイムAI技術をプラットフォームの心臓部に組み込んで以来、私たちはすべての会話をインテリジェントにするための開発を続けています。

 現在私たちが最も注力しているのは、単に答えを提示するだけでなく、実際にタスクを実行する「エージェント型AI(Agentic AI)」の実装です。

Craig Walker
Founder & CEO
米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)で社会科学、同大ロースクール卒。弁護士を経てベンチャーキャピタリストに転身後、通信領域の連続起業家としてキャリアを歩む。2001年に初代Dialpadを創業し、Yahoo!に売却、2005年にVoIPサービスを提供するGrand Central Communicationsを共同創業した。2011年に現CTOのBrian Peterson氏らと共に、現在のDialpadを共同創業。2018年にTalkIQを買収したことで会話AI基盤を内製化し、自社LLM(大規模言語モデル)を中核に据えたAIネイティブな業務コミュニケーションプラットフォームを提供している。

企業の「AIエージェント恐怖症」に4つの対策

―自律的にタスクをこなす「デジタルワーカー(AIエージェント)」をビジネスに導入する際、安全性やガードレールはどのように担保するのでしょうか。

 カスタマーサポートや営業、採用、ナレッジワークなどの領域でデジタルワーカーを展開するにあたり、企業が最も恐れるのはAIの誤動作によるビジネスへの致命的なダメージです。そのため、私たちはAIエージェントを安全に制御・運用するための4つのコア技術を確立しました。

  1. Skill Mining(スキル・マイニング)
    過去の実際の顧客対応データを分析し、どの領域であればAIが安全に解決できるかを特定します(例:「過去の通話の50%はAIで解決可能」など)。
  2. Agent Builder(エージェント・ビルダー)
    Skill Miningで特定された、AIの得意なユースケースに特化した専用エージェントを構築します。
  3. Proving Ground(プルービング・グラウンド)
    構築したエージェントに対し、過去の会話データをシミュレーションさせて本番投入前の品質と挙動を厳密に検証します。
  4. Guardian(ガーディアン)
    悪意のある入力や、カスタマーサポートに関係のない無関係な問いかけを検知・遮断し、AIエージェントが暴走しないよう保護します。
 このように「特定・構築・シミュレーション・防御」のプロセスを踏むことで、企業は強固なガードレールに守られた安全なAIを展開できます。

―人間とAIの連携における、システム的な強みはどこにありますか。

 多くのベンダーはAI単体での完全自動化を約束しようとしますが、現段階では人間とAIの密な協調(バック&フォース)が不可欠です。

 例えば、見込み客が営業窓口に電話をかけてきた際、AIが自動でニーズのヒアリングやリード判定、現行システムの情報収集といった「前裁き」を行います。そして、実際の交渉やクロージングを行う人間の営業担当者へ引き渡すのですが、このときAIが収集した文脈やデータがそのままシームレスに引き継がれます。担当者は顧客に最初から質問をやり直す必要がありません。

 音声通話、ビデオ、テキスト、コンタクトセンター、営業支援のすべてを「単一の統合プラットフォーム」として内製しているからこそ、この人間のオペレーターとAIエージェント間のデータの断絶がないシームレスなハンドオフが可能になるのです。

Image : Dialpad

蓄積したビジネス会話データで競合と差別化

―Microsoft Teams、Zoom、Ciscoといった強力な競合に対し、どのような優位性を持っていますか。

 競合他社のアプローチは、ビデオ会議から全方位へ拡張したり(Zoom)、オフィススイートに無料バンドルしたり(Teams)、レガシーなハードウエアにパッチワーク的にクラウドやコンタクトセンターの機能を継ぎ足したもの(Cisco Webex)です。

 対するダイアルパッドは、すべてのコミュニケーションチャネルを最初から1つのモダンなアーキテクチャ上に構築しています。さらに最大の差別化は、過去8年間にわたり「実際のビジネス会話データ」を用いてトレーニングを重ねてきた自社内製のAIエンジンを心臓部に持っている点です。

 他社の汎用AIモデルをアドオンとして継ぎ足したシステムに比べ、私たちのAIはビジネス会話の文脈を正確に捉え、「より賢く、より速く、より安価で、より安全」に動作します。最初からプラットフォームのネイティブ機能として組み込まれているため、煩雑なシステム連携も不要です。

Image : Dialpad

日本で成功すれば、世界で通用する

―日本でのビジネス展開や、NTTグループなどのクラウドPBX事業者・SIerが根強い市場環境をどう捉えていますか。

 私たちはすでに10年にわたり日本市場へ投資を続けており、東京オフィスを率いるカントリーマネージャーを中心に強固な実績を築いてきました。

 何より、日本で最も革新的な企業であるソフトバンクが当社の株主であり、長年の戦略的パートナーであることは強力なアドバンテージです。事実、グローバルで見ても最大規模の案件のいくつかは日本オフィスから生まれています。

 また、今年1月1日には、日本国内のすべてのユーザーに向けて、リアルタイム文字起こしやAI要約、アクションアイテムの自動抽出といった高度な日本語AI機能をローンチしました。最初の4カ月間は無償で提供したのですが、それができたのは他社のLLMやAPIに依存せず、すべてのAIエンジンを自社で開発・運用しているからです。自社インフラだからこそコスト効率をコントロールでき、日本語環境でも極めて高い品質のソリューションを低コストで提供できています。無償提供の期間で積み上げた信頼と実績が、有料化後の品質を支える土台になると考えています。

 日本の顧客は品質とレスポンスに対して世界で最も厳格な要求水準を持っていますが、これは好機です。日本市場で認められた製品は、世界のどこに行っても通用するからです。現在、大手の航空会社や、金融機関、鉄道会社など日本国内の大企業に多数導入されており、これに伴い東京オフィスの移転・拡大と人員の増強を積極的に進めています。

Image : Dialpad

「営業は1番、サポートは2番…」あの電話体験をなくしたい

―現在のダイアルパッドの事業規模と、今後12〜24ヶ月で見据えるマイルストーンを教えてください。

 現在の年間ARRは3億5,000万ドルを超えており、世界11拠点で約1,400人の従業員が稼働しています。成長速度は競合他社の2倍から10倍のペースを維持しています。

 私はプロダクト出身のCEOなので、描くマイルストーンもすべてプロダクト起点です。目指すのは「IVR(自動音声応答システム)の完全な撤廃」です。

 顧客が企業に電話をかけた際、「営業は1番を、サポートは2番を押してください」というガイダンスを聞かされる体験をゼロにしたい。「ダイアルパッドです。どのようなご用件でしょうか?」という自律AIエージェントの問いかけから始まり、どんな要件であっても、AIと人間が連動してその場でシームレスに完結させる。この洗練されたコミュニケーション環境を、あらゆる企業に実装することがこれからの数年のゴールです。

―そのビジョンを達成する上での最大の障壁は何ですか。

 AIエージェントの旅はまだ始まったばかりですが、市場には競合による過大な約束(バズワード)があふれており、初期の粗悪な導入事例が顧客に失望を与えている点です。

 ガートナーのハイプ・サイクルが示すように、過度な期待のピークの後に訪れる「幻滅期(Trough of Disillusionment)」の谷をどう乗り越え、セキュリティや精度への懐疑論をどう払拭するかが課題です。私たちは、実際に機能する安全なAIを顧客に提示し、着実に成功事例を証明していくことで、この幻滅期の谷をフラットに均し、実用的なテクノロジーとしての信頼を築いていきます。

―最後に、日本の将来的なパートナーや顧客へのメッセージをお願いします。

 顧客満足度を高めれば解約は減り、生涯価値(LTV)は向上します。24時間365日、高品質な対応を可能にする優れたコミュニケーション基盤への刷新は、すべての企業にとって不可欠な経営戦略です。そして、市場の競合他社が先に行動を起こす前に、迅速に動かなければ後れを取ることになります。

 私たちはGoogleの日本法人とも深く技術連携しており、米国でのT-Mobileや日本でのソフトバンクのように、当社のリアルタイムAIを自社のソリューションと組み合わせて共同で価値を提供したいと考えるモダンな技術パートナーとの協業を広く求めています。

 ダイアルパッドには、長年日本にコミットしてきた優秀なチームと強力なパートナーが揃っています。皆様のビジネスを次のステージへ引き上げる準備はできています。ぜひ一緒にお話ししましょう。



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