Sibros(本社:米国カリフォルニア州)は、自動車業界向けのデータ管理プラットフォームを提供するテクノロジー企業だ。同社は、無線通信を経由してデータを送受信するOTA(オーバー・ジ・エア)方式のアップデートや車両データの収集・管理を一元化するソリューションを開発し、コネクテッドカーの進化を後押ししている。OracleやTeslaでの経験を経てSibrosを創業したCEOのHemant Sikaria氏に、車両データの活用がもたらす変革と、次に目指す未来について聞いた。

目次
Teslaでの開発経験を活かして創業
「自動車の未来」に合わせた製品群
2024年は「記録的な年」、約20社の新規取引
日本市場の開拓とグローバルな将来ビジョン

Hemant Sikaria
Co-Founder & CEO
オーストラリア国立大学で情報システムの修士号を取得。Skillshareでシニアソフトエンジニア、CareJournery(2024年にArcadia Solutionsが買収)で主任エンジニアを歴任。Y Combinatorのプログラムに参加後、2018年2月にSibrosを共同創業、CEOに就任。現職。

Teslaでの開発経験を活かして創業

―まずは経歴とSibrosを設立した理由についてお聞かせください。

 私は工学専攻で、カーネギーメロン大学で電気工学とコンピュータサイエンスの学士号と修士号を取得しました。2009年に卒業した後、Oracleでソフトウェア開発者として働き、2011年にはTeslaのファームウェアチームに開発者として加わりました。

 当時のTeslaには約10人ほどのソフトウェアエンジニアしかおらず、比較的初期の段階で入社したことになります。私はOTAシステム、つまり車内の各制御ユニット向けのソフトウェアアップデートシステムの開発に携わりました。現代の自動車には30から150ほどの異なる制御ユニットがあり、それぞれにマイクロコントローラーが搭載され、内部ネットワークで通信しています。これらのコンポーネントの一部はサプライヤーから提供されるもの、一部は社内開発チームによるものです。

 各コンポーネントを更新するには、そのコンポーネントとの通信方法を理解する必要があります。私はバッテリー管理システムからエアバッグシステム、トラクションコントロールシステム、シャーシシステム、ボディコントロールシステムなど、車両内のあらゆるものを更新するシステムの構築を支援しました。車両に関連するソフトウェアを持つすべてのものを対象とした開発を行っていました。

 その後、ボディおよびシャーシの電子機器とソフトウェアのチームリーダーも務めました。これはファルコンウィングドアやドアハンドル、シートコントローラー、窓、ミラー、ライトなど、すべてのソフトウェアと電子機器を担当するチームでした。Teslaには5年間在籍し、「Model S」や「Model X」、そして「Model 3」の開発に携わりました。

 Teslaを退社した後、個人的な冒険をするために時間を取りました。結婚したばかりだったので、妻と世界を旅行するなど、さまざまなことをしました。そして2018年にSibrosを立ち上げました。設立の理由は、家族が愛用していた自動車ブランドがソフトウェアの問題を多く抱えていたからです。ソフトウェアの更新のためにディーラーに何度も足を運ばなければならず、3回目のリコールの際に「これは大変だ」と思いました。「Teslaでは無線通信で行えたのに、なぜこの会社はできないのか?」と疑問に思ったのがきっかけです。

 Sibrosという名前は、共同創業者が私のいとこで同じ姓を持つこと、そして兄も会社の投資家であることから来ています。私たちは全員「Sikaria」という姓を持っており、Sikaria Brothersを短縮してSibrosとしました。

image : Sibros OTA Orchestration Process

「自動車の未来」に合わせた製品群

―御社の製品や技術について教えていただけますか?

 私たちは将来、すべての車両にはより多くの電子機器が搭載され、それらはソフトウェアによって制御され、そのソフトウェアは管理される必要があるという前提でアプローチしています。この未来に合わせて、製品とロードマップを計画しました。

 まず2つの基幹製品を構築しました。1つは車両からデータを収集するもの、もう1つは車両にソフトウェア更新や設定更新を送信するものです。これにより、インターネットと車両間のエンドツーエンドのループが完成します。データを収集できなければ、世界で何が起きているのかわかりません。車両は適切に使用されているか、安全に運転されているか、車両自体は安全か、といった情報が必要です。

 例えば、ある機能がうまく機能していないことが判明した場合、自動車メーカーは車両にソフトウェア更新を送信して問題を修正し、その後データを収集して問題が解決されたことを確認できます。このエンドツーエンドのループは非常に重要です。

 その後、私たちは3つ目の製品として、車両へのリモートコマンドと診断のためのシステムを開発しました。これは重要です。なぜなら、現在ほとんどの診断は、誰かが車両にあるOBD2(自動車の自己診断機能)ポートにハンドヘルドツールをつかって接続することでしか行えないからです。ディーラーに行き、接続する必要があります。私たちの技術なら同じ診断をクラウドから無線で完了させることができます。

 これの利点は、サービスの内容をコントロールできることです。例えば、診断の実行方法に問題がある場合、今日では無数にあるハンドヘルドツールすべてを更新しなければなりません。しかし、クラウドを通じて行えば、クラウド内で更新するだけで、どのサービス技術者も最新の診断仕様を使用できるようになります。

 さらにリモート診断も可能になります。例えば、お客様がサンフランシスコにいて、診断者が東京にいるとします。お客様が「車に問題がある」と言った場合、東京にいながら車両にコマンドを送信して、故障コードや診断コード、その他の情報を取得し、「問題はこれです。このように修正できます。問題を修正するソフトウェア更新を送信します」または「機械部品の交換が必要だと思います。明日の予約をご希望ですか?」と伝えることができます。こうしてお客様はディーラーに行くと部品が準備されており、サービスをより円滑に受けられます。

 私たちの製品は、「Deep Updater」(ソフトウェア更新用)、「Deep Logger」(データ収集用)、「Deep Commander」(リモートコマンド用)と名付けています。これらの名前を考案した理由は、車両には複数の抽象化レベル、複数のネットワークの背後に隠された複数の制御ユニットがあるためです。

 Deep Updaterはインフォテインメントやヘッドユニットだけでなく、車両内のすべてを更新できます。Deep Loggerは、Androidベースのシステムに加え、バッテリーやエンジン、エアバッグからもデータを収集できます。同様に、Deep Commanderは、メインのインフォテインメントシステムだけでなく、車両内の任意のコントローラーでリモートコマンドを実行できます。

image : Sibros Deep Logger

2024年は「記録的な年」、約20社の新規取引

―御社のビジネスの進捗状況はいかがですか?

 私たちのチームはTeslaでエンジニアとしてこのシステムを構築した経験が豊富で、現在はグローバルにかなり大規模に展開しています。当社のサービスは30万台以上の車両に導入されており、これらの車両は米国、ヨーロッパ、インド、タイ、中国に展開しています。原付から自動二輪、商用トラック、スクールバス、乗用車、クレーン、トラクター、建設機械など、多種多様な車両が既に当社のプラットフォーム上で稼働しています。

 また、新しい顧客も多く獲得しています。2024年は当社にとって記録的な年となり、現在30社以上の顧客がいますが、そのうち19社は昨年から取引を開始したものです。ビジネスに大きなトラクションと期待が集まっています。今後3年以内に、既存の顧客だけでも約500万台の車両に搭載されると見込んでいます。

 急成長している理由はいくつかあります。まず、私たちは一般的なシステムインテグレーターやITコンサルタント企業よりも製品構築に注力するアプローチを取っています。通常、コンサルティング会社は顧客にあわせたシステム統合に時間をかけますが、当社は統合にかかる時間を非常に短縮し、すべての顧客に同じ製品を提供しています。

 これは、すべての顧客が検証済みの製品を受け取ることを意味します。他のすべての顧客が同じ製品を使用しているため、誰かがバグを見つけて修正すれば、そのバグはすべての顧客に対して修正されます。同様に、新機能を追加すれば、すべての顧客がその新機能を利用できるようになります。

 このため、ますます多くの企業が「御社の機能セットは非常に包括的で完全だ。動作するかどうか心配する必要はない。他の多くの車、トラック、バイクに展開されているため、動作することの証明がある」と言っています。通信環境としては2G、3G、4G、5G、Wi-Fi上で動作しますし、Android、QNX、AUTOSAR Adaptive、AUTOSAR Classic、FreeRTOSなど、自動車向けに使われる主なオペレーティングシステムで動作することが証明されています。これが、お客様に大きな安心感を与えているのです。

image : Sibros HP

日本市場の開拓とグローバルな将来ビジョン

―すでに日本企業とのパートナーシップを結んでいるようですが、今後はどのようなパートナーシップを求めていますか。

 私たちは日本市場に大きな期待を寄せています。その理由は、日本の文化にあります。日本企業は思慮深く、徹底した検討を重ねた上で意思決定を行います。そうした企業のニーズに応えるため、私たちはサイバーセキュリティ、安全性、コンプライアンスに注力し、必要なすべての機能を備えた高品質な製品を開発してきました。私たちの製品は、UN R155およびR156、SOC 2などに準拠しています。また、Global Brainが当社の投資家の一つであり、住友商事とはSCTM(Sumitomo Corporation and Tech Mahindra)を通じた市場展開のためのパートナーシップを築いています。

 今後、日本での販売やプロジェクト管理のためにチームを構築し、大手OEMやティア1サプライヤーと連携しながら事業を拡大したいと考えています。さらに、TCU(通信ユニット)製造業者を含むテレマティクスパートナーを探しており、日本で運営されるクラウドプロバイダーとも連携を視野に入れています。現在、AWSやGoogleとの協業も進めていますが、新たなアプリケーションパートナーも積極的に求めています。私たちはクラウドにデータを取り込む技術を持っており、そのデータを最大限に活用できるバッテリー分析会社、エンジンチューニング会社、保険会社などとのパートナーシップも視野に入れています。

―長期的なビジョンについてお聞かせください。

 私たちが使用するあらゆる種類のデバイスにはソフトウェアが搭載されると考えています。当社のミッションは、お客様が接続されたデバイスから最大限の価値を得るのを支援することです。これは車だけでなく、自動販売機やバス、トラックなどさまざまなものを意味します。

 私たちはこれらのシステムに接続し、更新し、データを収集し、リモートで改善することができるべきです。それによって、消費者体験の質を向上させ、車両をより安全にしています。当社の目標は、これらの接続されたデバイスから最大限の価値を引き出すためのより多くの製品を継続的に構築することです。

 グローバルで数億台のデバイスに展開されることが私たちのノーススター、つまり長期的な目標であり、ビジョンです。この問題を解決し、私たち全員が他の問題の解決に集中できるようにすることを目指しています。



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