目次
・「企業法務」に特化したリーガルテック企業
・リーガルテック市場を、深く狭く開拓する
・法務担当者が手にする「分析データ」の意味
・「価格」ではなく、「価値」で売る
・日本進出への意欲と将来の展望
「企業法務」に特化したリーガルテック企業
―創業の契機を教えてください。
大学時代に法学を専攻した私は、弁護士資格を取得後、法律事務所や一般企業で企業法務の実務に携わり、大規模な産業取引などに従事していました。その後、ソフトウェアエンジニアに転身し、欧州にある複数のユニコーン企業で約15年間にわたりCTO(最高技術責任者)を務めました。テクノロジーの専門知識と、法律事務所や企業内法務の力学に関する両方の知見を持ち合わせていたため、この2つを融合させる良いタイミングだと考え、2024年1月に当社を設立しました。
―サービスの紹介をお願いします
まず大前提として、私たちは「企業法務」の分野にのみ対象を絞ってサービスを提供しています。法律事務所と企業の両方にサービスを提供するツールとは異なり、私たちは外部の弁護士への支出を減らし、より多く業務を企業内に持ち込むことを積極的に支援しています。
生成AIを活用し、法務業務のオペレーションを合理化・調整することで、反復的で労働集約的な作業の自動化を実現しています。
リーガルテック市場を、深く狭く開拓する
―企業法務の分野にターゲットを絞った理由を教えてください
両方(法律事務所と企業)に優れたサービスを提供することは不可能だと考えているからです。もし法律事務所とそのクライアントの双方から利益を得ようとすれば、ビジネスモデルを成功させるために「より多くの仕事(業務量)」を絶えず生み出さなければなりません。
しかし私たちは、法律事務所から仕事を取り除き、企業が自社の事業運営により多く投資できるようにするというビジネスモデルを選びました。全員に中途半端なサービスを提供するのではなく、「ターゲットを絞った少数の顧客」に対して質の高いサービスを提供したいのです。
設立からまだ2年半ですが、この戦略により事業は急速に成長しています。
従業員数10万人を誇るブリティッシュ・テレコム(BT)や、欧州最大級のネオバンクであるRevolut(レボリュート)など、銀行や重工業、金融サービスを含む世界有数の大企業500社以上にサービスを提供しています。
現在はエンジニア、弁護士、営業職など合わせて約150名の組織体制ですが、今年末までには300〜350名規模への拡大を見込んでいます。
ロンドン、ニューヨーク、エディンバラに加え、まもなくバルセロナ、シンガポールなどへもオフィスを開設し、アジアにも本格的に進出していく予定です。
法務担当者が手にする「分析データ」の意味
―顧客の反応を教えてください
多くの顧客が、外部への業務委託費用を最大30%削減したほか、多くの場合で他部門へのレスポンスタイムを半減させています。
しかし、これ以上に顧客から高い評価を受けているのが、法務部門の責任者が初めて「分析データ」を手にできるようになったという点です。私たちは法務部門に対し、組織のパフォーマンスに関する数値や指標を提供しています。これにより、法務部門は社内の他部門に対して自らの価値を明確に示せるようになりました。
私たちは単にAIを導入することを良しとしているわけではありません。リーダーに指標を提供し、ビジネスの変革を推進することこそが重要であり、AIはそのための強力な手段なのです。
―法務部門ではない他部門の従業員でも使えるとお聞きしました
その通りです。調達、営業、財務など、多くの部門の従業員がリーガルサービスを必要としています。彼らは法務部門に依頼が届く前に、それほど複雑ではない低レイヤーの作業を行うためにワードスミスを利用しています。法務部門は、オンデマンドでセルフサービスの法務作業を提供する「リーガルエージェント(AI)」を設定し、そのやり取りを監視して必要に応じて介入することができます。これはまるで、法務部が「デジタルワーカー」を雇い入れ、数百人の追加従業員を自社のビジネスに配置して、彼らが期待通りに動いているかを監督しているようなものです。
Image : Wordsmith AI あらゆる法務関連の業務を一か所に集約
「価格」ではなく、「価値」で売る
―御社の経営哲学をお聞かせください
「良好な関係は確かな土台の上に築かれる」という理念のもとで事業を推進しています。
アップセルや更新といった成果は、顧客と良好なつながりを築き、真の価値を提供して初めて実現できるものです。だからこそ、私たちのビジネスモデルは「サービスのコスト以上の節約(削減効果)を生み出す」ことに焦点を当てています。
お客様が支払う金額以上の価値を確実にお返しできる場合にのみフォーカスし、常に「得るものよりも多くを与える」ことを重要視しています。
―AIを社会に展開する上でのスタンスを教えてください
AIを、誤ったインセンティブを持つ場所に留めておけば、決して社会全体には普及せず、一部の小さなビジネスに制約されてしまうでしょう。
私たちは、誰もが「アライメント(方向性の合致)のとれたアクセス」を得られるようにシステムを設計すべきだと考えています。私たちの考えるアライメントとは、他の企業の目標のためではなく、「顧客企業自身の目標達成に役立つアクセス」を意味します。私たちは、AIにおけるインセンティブ構造がどのように機能するかを常に慎重に設計しています。
日本進出への意欲と将来の展望
―日本進出についての計画を教えてください
実は以前、私が立ち上げてスカイスキャナーに売却した最初の会社で、Yahoo! Japanとの合弁事業(JV)を行い、東京にオフィスを設立した経験があります。日本市場は非常に特殊であり、現地にいる人々と密接に協力し、適切な関係や人脈を築く必要があることを熟知しています。適切な機会が訪れればすぐにでも日本市場に参入したいと考えており、今後12〜18ヶ月以内には東京にオフィスを開設する予定です。
―5年後、10年後の目標を教えてください
私たちは、世界中のあらゆる企業にとっての主要な「法務の頭脳」になりたいと考えています。AIの進化の次なる段階として、企業内には「収益管理」「労務管理」「法務」など、それぞれに対応する複数のインテリジェンス・エンティティ(intelligence entities)が存在するようになるでしょう。その中で私たちは、事実上のデファクトスタンダードとなる「法務インテリジェンス」になることを目指しています。
当社の事業に関心をお持ちの日本企業の方は、ぜひお気軽にご連絡ください。皆さまにお伝えしたいのは、「プロバイダーとのアライメント(方向性の合致)」について慎重に考えていただきたいということです 。長期的なインセンティブは、長期的な成果をもたらします。皆さまのビジネスの成功に寄与できることを楽しみにしています。