Ethereumベースのさまざまなプロダクトによってエコシステムをサポート
――これまで歩んでこられたキャリアと、ConsenSysにジョインした経緯をお教えください。
私は1990年代からソフトウェアエンジニアとして、大企業や小さな会社で様々な役割を担ってきました。ソフトウェアのプログラムを書いたり、プロダクトマネージャーの役割に携わったり、技術的なリーダーシップのようなポジションも経験しました。ほかにも、情報セキュリティと暗号化の研究分野で修士号を取得しました。
5年ほど前に、ある人からConsenSysに参加しないかと声をかけられて入社しました。この会社が取り組んでいることや、Ethereum(イーサリアム)を使った技術の可能性にとても興奮し、これまで経験してきたソフトウェア開発や情報セキュリティ・暗号分野の技術をすべて一緒に扱うことができると思ったのです。入社してからは技術的な役割を担ってきました。その後はプロダクトのリードをし、プロダクトと組織の成長に貢献して、2020年からCTOを務めています。
――ConsenSysはいくつかのプロダクトを展開していますね。主要なものを教えてください。
3つのプロダクトについて説明します。1つ目は、ウォレットである「MetaMask」です。EthereumベースのWeb3アプリケーションを扱う人は、皆さんこれを使っていますが、ConsenSysのプロダクトだとは気づいていないかもしれませんね。この点は当社にとって非常に重要なことです。
MetaMaskは非常に成功しています。エンドユーザーと開発者の両方に提供される基盤のウォレットとしての機能性ではある意味、最高のものだと思います。昨年から今年にかけて、非常に大きな成長がありました。2022年の1月には、MetaMaskの月間アクティブユーザー数が3,000万人を超え、4カ月で42%も増えました。
MetaMaskを通じて基礎となる技術を集約しています。MetaMaskのSwapは、暗号通貨トークンを交換する機能です。最良の価格で取引できるエンドユーザーにとって優れたものであり、非常に成功している機能です。現在開発中でまだ完全にリリースはしていませんが、MetaMask Snapsというものがあります。これは、MetaMaskのプラグインや拡張フレームワークのようなもので、開発者がMetaMaskにさまざまなネットワークなどを簡単に追加できるようにする機能です。
2つ目のプロダクトは、Ethereumでスマートコントラクトアプリケーションを構築する人向けの主要なフレームワークである「Truffle」です。非常に重要なソフトウェアで、オープンソースとして提供されおり、多くの開発者がダウンロードして利用できるようになっています。
3つ目がWeb3開発プラットフォームとして、スケーラブルなAPIアクセスを提供するインフラの「Infura」です。43万人以上の開発者が利用しています。
ConsenSysはEthereumを基点として創業しましたが、これらのプロダクトは現在、さまざまなプロトコルやブロックチェーンをサポートしています。収益はMetaMaskにおけるSwapでの取引の手数料が多くを占めます。トランザクションの数または開発者への手数料とAPI呼び出しの数に基づくサブスクリプションモデルの収益もあります。Truffleはオープンソースなので収益を生みませんが、コミュニティやエコシステムの強化に役立っています。
分散化とWeb3の精神に深いコミットメントを持つことが大きな差別化に
――Web3の分野で御社の競合はいるのでしょうか。
私たちの強みは、分散化とWeb3の精神に対する長期的な深いコミットメントです。ConsenSys創業者であるJoseph Lubinは、Ethereumブロックチェーンの創設者の一人です。彼はEthereum、Web3の根底にある理念の成功を見届けたいという強い情熱を持っています。このような技術、文化とエコシステムの本質とが深く一致する点が重要になります。
Web3アプリケーションの構築に携わる人たちは、この分散化によって訪れる未来の世界の構築を望んでいます。このような合意(consensus)が深くあるため、周辺には強い結束力があるのです。
競合のひとつとして考えられるのは、暗号資産取引を提供しているCoinbaseです。Coinbaseのウォレットは分散型に移行しつつあるようですが、本質は中央集権的で、彼らがウォレットにアクセスできる鍵を保持ししています。一方、当社のMetaMaskは鍵の管理はユーザーが行いますので、ConsenSysがユーザーの資産にアクセスすることは不可能です。
開発基盤であるInfuraの競合はAlchemyですが、Infuraには、Ethereumの成功のためにより広範なWeb3・マルチチェーンのコミュニティとの深い連携と統合があります。私たちはこの分野のパイオニアであり、あらゆることにコミットしています。
Image: ConsenSys HP
――2022年2月のシリーズDラウンドでは、4億5,000万ドルを調達しています。調達した資金の使途についてお教えください。今後12カ月で達成したい目標はありますか。
最も重要でエキサイティングなことの一つは、MetaMask Snapsを完全に利用できるようにすることです。2022年後半には、大規模な再設計をしたMetaMaskをリリースする予定です。そこで、さまざまなブロックチェーンプロトコルやアカウントセキュリティ方式との統合を可能にするプラグイン拡張システムの展開をサポートしています。
また、調達資金は、Infuraの開発ツールのグローバルな採用を加速させるとともに、アーティスト、コンテンツクリエイター、ブランド、知的財産所有者、ゲームスタジオ、スポーツリーグへのNFT導入を推進する取り組みにも活用されます。
それから、マーケティング活動にも投資します。私たちがやっていることを広く理解いただくための活動をしていきます。優先順位は、最高の製品を作ることですが、その次にそれを人々に伝えて理解してもらうことが必要です。InfuraはAPIのSaaS製品なので、日本企業への販売モデルには適していると思います。日本企業との密接な関係によって、このプロダクトを成功させることができれば、非常にエキサイティングだと思います。
チームメンバーも増やしていきます。2021年末に550人だった従業員は、日本も含めて世界39カ国に870人以上となっています。年末には1,000人を超えるでしょう。
技術革新とマーケティング活動に注力し、より安全で便利な世界を
――ConsenSysの長期ビジョンを教えてください。
誰もが安全に暗号資産とWeb3を利用できるようにすることです。例えば、私の母や父など、高齢者でも安全に使えるような世界です。人々が革新的でエキサイティングな新しいことにチャレンジできるようにすることでもあります。若い世代がやりたいと思う新しいことすべてを可能にするでしょう。ですから、安全な環境を作るためにもMetaMaskが必要なのです。
もうひとつは、どんな開発者でも、簡単にWeb3を使えるようにすることです。Web上のあらゆるアプリケーションに、Web3を使ってトークンを持ち、ファンとのエンゲージメントを強める取り組みがとても簡単にできるようになるでしょう。コンサートのチケット購入や、アーティストとファンのコミュニケーションにNFTを使うようなシナリオがあるかもしれません。人々の生活やソフトウェア開発にConsenSysのテクノロジーが利用されていくのです。
――今後、非中央集権的な取り組みはどうなっていくと予想していますか。また、Web3のプロジェクトに参加したい人はまず何に取り組めばいいのでしょうか。
どんな場所でも分散化の取り組みが適用されていくでしょう。金融システムの重要な部分は非常に非中央集権的なものになり、DeFi(分散型金融)が広がっていくと思います。組織や人々が協力し合い、資金や企業を分散化された方法でテクノロジーを活用していくような未来です。テクノロジーは、世界の変化をサポートするものであり、世界がどのように機能するかを左右する重要な要素だと思います。
Web3は多くの領域に取り入れられていくと思います。新たなビジネスに統合するというより、世の中に存在している既存のビジネスにどうフィットするかを探るといいと思います。NFTによって自分の事業がどうなるかを考えてみるのが第一歩かもしれません。顧客やパートナー、ファンなどとNFTを通じて関わる法方もあるでしょう。この分野には、現在も、そしてこれからも、たくさんのテクノロジーがあり、面白いことが起きると確信しています。