ブロックチェーンの技術を応用し、Web3.0の要素をふんだんに取り入れた「未来のエンターテインメント」を創造するVirtually Human Studio社。オーストラリアに本社を構える同社は、NFT型競馬ゲームの「ZED RUN」の開発企業として有名だ。2019年にローンチされたこのゲームは、2022年7月現在、6万人以上のユーザーがプレイし、毎日約1000~2000レースが開催されるなど人気を博している。同社の共同創業者の1人でクリエイティブ・ディレクターであり、過去には「The Lego Movies」などのアニメーターを担当していた、Chris Ebeling氏に話を聞いた。

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ゲームに投資したお金と時間を「回収」できるZED RUN

――御社は、どんなサービスを展開しているのですか。

 私たちは、ブロックチェーンやVR、AI、NFTといった新技術を取り入れ、Web3.0の「未来のエンターテインメント」を創造するゲーム会社です。

 現在、主流の伝統的なゲーム、つまりWeb2.0の世界の「NBA2K」や「FIFA」という人気タイトルのゲームソフトは、毎年新たなパッケージが販売されます。ですが、ユーザーは毎年それらのゲームを購入し「楽しむ」ことが目的で、もちろん、それは素晴らしいことですが、それ以外の体験を手に入れることはできませんでした。

 言い換えると、何十時間もゲームをプレイしたとしても、それに見合うリターンを得ることは不可能だということです。ですが、当社が開発する「ZED RUN」をはじめとした、ブロックチェーンとトークナイゼーションの技術を応用したWeb3.0のゲームは違います。プロゲーマーでなくても、仮想通貨のWETHを稼ぐことが可能なのです。

Chris Ebeling
Virtually Human Studio
Co-Founder & Creative Director
Design Centre 3D Enmoreを卒業後、PlayWood Games社やUTS Animal Logic Academy社、pic4社などで、10年以上アニメーターとして勤務する。VRを用いた映像技術の専門家で、「The Lego Movies」「The Great Gatsby」「Gods of Egypt」「Happy Feet 2」のアニメーションを担当した。2018年、Virtually Human Studioを共同創業。

 また、ZED RUNは「レーシング・エコシステム」を構築していることから、自分の馬を「保有する」ことができるのも、Web2.0のゲームとの大きな違いです。詳しく説明しましょう。例えば、私の息子は「Fortnite」、つまりWeb2.0のゲームをプレイしていますが、3カ月ごとに新しいアイテムなどを購入しています。ですが、購入したものを他のユーザーに販売することはできません。つまり、ゲーム上でユーザーは、自身が購入したものを「コントロール」することはできないのです。

 ZED RUNは対照的です。ZED RUNでも、馬の装備などゲーム内アイテムを購入できますが、それを市場価値に応じて他のユーザーに販売することも可能なのです。市場価格を決定するのは、現実世界のマイケル・ジョーダンのスニーカーと同じように、人間、つまりZED RUNのユーザー同士です。そのアイテムがレアであり、多くのユーザーから求められていればいるほど、市場価値は高くなります。

 さらに、自分が保有する馬を、価格が高騰する前に他のユーザーに売り、市場の勝者になることもできるのです。Web2.0のゲームの世界でも「グランド・セフト・オート」などのタイトルではユーザーが違法に、自分のアカウントを販売することもできたでしょう。ZED RUNはこれをブロックチェーンという極めて透明性の高い技術を通じて、「合法的に」可能にしているのです。

 ZED RUNは「Play and Earn」、つまり「プレイして、稼ごう」というコピーを旗印に運営しています。「Play to Earn」、「稼ぐために、プレイしよう」ではありません。このことは、とても大切です。なぜなら、ゲームは楽しまなければ意味がないからです。ZED RUNは稼ぐためのツールであってはいけないと考えています。Web3.0上で新しいユーザー体験を保証しながら、Web2.0のゲームと同じように没入感を与えるゲームを開発し、おまけに「稼げる」というコンセプトがVirtually Human Studioの基本姿勢です。

デジタルネイティブ層の支持獲得 盛り上がるユーザ―コミュニティ

――ZED RUNのメインターゲットを教えてください。

 メインの顧客層は、仮想通貨とは何かを理解しているユーザーです。ZED RUNでお金を稼ぐためには、ETH(イーサリアム)を取り扱っている取引所でアカウントを開設し、MetaMask(メタマスク、イーサリアムブロックチェーンに対応した仮想通貨ウォレット)をダウンロードする必要があります。Web3.0の要素を取り入れたゲームは、まだ大衆に受け入れられるほど理解が進んでいませんので、まずはコアなユーザーに楽しんでもらえる仕組みを構築することが大切だと考えています。

 仮想通貨に馴染みのない人に対しても、ZED RUNをプレイしてもらうために、競馬ゲームだけをプレイする機能も搭載しています。Facebookのアカウントを持っている人なら誰でも、プレイできるのです。

 現在、ZED RUNは約6万人のプレイヤーが参加していて、毎日1000から2000レースが開催されています。性別は男性がメインで、約80~90%程度、年齢は18歳から30代の方が多いです。ユーザーコミュニティは、Web2.0のゲームにはない盛り上がりを見せていて、多くの熱心なユーザーに支えられています。これは、ZED RUNで「稼げる」こともさることながら、馬やレースに他のゲームにはない独自性があり、単純にプレイすることが楽しいからでしょう。そうでないと、毎日1000から2000のレースが開催されるはずがありません。

 多くのプレイヤーが北米、特にアメリカに住んでいるので、対応言語は英語のみですが、ゲームの遊び方に関するFAQ(頻繁に尋ねられる質問)は日本語、スペイン語での発表を予定しています。ZED RUNは日本語話者をはじめ、フランス語、スペイン語を母国語とする人たちがプレイしているからです。今後、世界中の人たちにプレイしてほしいですね。

Image:Virtually Human Studio

バドワイザーとパートナーシップ締結 ユーザーとインタラクティブな関係性構築が可能

――御社の収益モデルを教えてください。

 ZED RUNに関しては、ゲームに直接かかわる収益と、ビジネスパートナーシップの両方が存在します。

 ゲームで上げる収益には、有料のレースとトーナメントが開催されると、当社にお金が入る、という仕組みを構築しています。また、手持ちの馬や購入した馬をブリーディング(繁殖)させて、より強い馬をつくる、という機能も搭載しているのですが、そこからも収益を上げています。

 ビジネスパートナーシップについては、大手ビールメーカーのBudweiser(バドワイザー)と強力な関係を結んでいます。また、NASCARやAtariも当社のパートナーです。パートナーシップを結んだ企業は、次のようにZED RUN上でブランドを宣伝することができます。バドワイザーの例をあげると、「バド・パス」と呼ばれる、バドワイザーが開催するトーナメントをゲーム内に用意しています。このトーナメントはとてもクールで、St. Louis Brewery(バドワイザーが所有するセントルイスの醸造所)を模した専用レース場で馬を走らせることができます。レース場のすべてに、バドワイザーの広告を掲載していて、ユーザーは普段とは違う雰囲気のレースを楽しむことができるのです。

Image:Virtually Human Studio

――日本の大企業との協業やパートナーシップ構築の可能性はありますか。

 もちろんです。先のバドワイザーのように、日本のさまざまな業種の大企業とのパートナーシップを構築したいと考えています。ZED RUNのパートナーシップが、Web2.0のゲームのそれと大きく異なるのは、「メタバース・エコシステム」を構築している点です。ユーザーはバドワイザーにまつわる様々なアイテムを装飾することができるなど、Web3.0のゲームならではのユーザーとブランドのインタラクティブな関係性を築けると、自信をもってお伝えできます。パートナー企業のアイテムにプレミアムが付き、ユーザー間で高く取り引きされる可能性もあります。

 また、ZED RUNのメインユーザーが、デジタルネイティブである若い世代だという事実も、ビジネスパートナーにとっては注目に値することではないでしょうか。つまり、パートナーシップを組むブランドにとっては、新たな世代のファンを、ZED RUNを通じて獲得できる可能性があるのです。ZED RUNのユーザ―は、競馬のファンだからプレイする、というよりも、NFTの可能性と(ゲーム内のアイテムを)「所有できる」ゲーム体験の新しさが好きでプレイしているのです。Web2.0のゲームでは到達不可能な体験をZED RUNが提供していることから、彼らの本気度も非常に高いです。Web3.0のゲームとしては、ZED RUNが先駆者であり、業界を引っ張る立場ですので、多くのパートナーを得たいと考えています。

 企業とのパートナーシップ以外にも、日本のゲームインフルエンサーとの関係性も構築したいですね。アメリカでは既に、TwichやYouTube上でゲームを配信しているインフルエンサーが中心となったZED RUNコミュニティができていて、人気です。日本でも同様のコミュニティを形成するために、ゲーム配信を仕事にしているインフルエンサーともつながりたいですね。

目標は「Web3.0のトップゲーム会社」

――御社は、2021年7月にシリーズAラウンドで2000万ドル(約27億円)の資金調達に成功しました。資金の使い道を教えてください。

 ZED RUNの完成度を高めるために、強いチームをつくっていくことです。2019年にローンチしてから、ZED RUNは急速に多くのユーザーを獲得しました。その分、ゲームをスケールアップさせなければなりませんし、そのためにはより多くの人材を確保する必要があります。当社は資金調達によって多くの人材を採用しました。今後も採用を続けていきます。何しろ、ZED RUNはこれまで誰もやったことがない挑戦をしていますので、ブロックチェーンを応用した「未来のエンタメ」をつくりたいという情熱にあふれたチームにしたいですね。

――最後に、長期的な目標を教えてください。

 Web3.0のゲーム、エンターテイメント会社としてトップになることです。ZED RUNはまだアーリーステージですが多くのユーザーに支持されていますし、今後より成長していけるタイトルになると思います。また、当社は新たなゲームである「Human Park」も開発しています。これは、自分好みのアバターを使用するコミュニティの要素が強いゲームであり、ZED RUNとは異なるユーザー体験をお届けします。

 ZED RUNをはじめ、当社のユーザーはデジタルネイティブの若い世代です。彼らが成長し、大人になったころには、ゲームの世界は様変わりしていることでしょう。その時には、ゲーマーは現在主流であるWeb2.0のゲームよりも、Web3.0のゲームの「所有できる、デジタルコミュニティ」というアイデアに慣れ親しみ、それを愛しているのではないでしょうか。

 Virtually Human Studioの挑戦はまだ始まったばかりです。未来に向けた布石も確実に打っていきたいですね。

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