業務効率性が低い、ライフサイエンス業界
「私たちが
Benchlingを立ち上げたのは、学術界や産業界で最先端の研究をしている科学者向けのすぐれたツールを開発するためです」。
マサチューセッツ工科大学電気工学科の学士を持っているSajith Wickramasekara氏は、ライフサイエンス研究とソフトウェア開発の間にある大きなギャップを埋めるためにBenchlingを設立した。ソフトウェアの世界には、共同で効率的にコードを書くためのツールが存在する。ソフトウェアエンジニアたちはチームメンバーとコードを共有する方法を洗練させ続け、効率性とアウトプットを高めている。
それに比べ、ライフサイエンスの業界ではどうだろうか。いまだに紙、エクセルやEメールを用いて連携をしている。これまでライフサイエンス研究はデータモデリングの観点ではそれほど複雑ではなかったため、従来の連携方法でも大きな問題にはならなかった。
しかし現在は違う。Wickramasekara氏によると「研究されている分子は人間が理解できないほどに複雑化している」という。またそこでWickramasekara氏は「この複雑化によりデータの構造化が初めて必要になった」と気づいたという。
データの構造化の必要性を説明するために、少し想像してみてほしい。もしあなたが科学者だとするならば、聞くべき質問がたくさんある。すでにこの実験は以前に行われたことがあるのか、すでにこの分子は作られているのか、同じようなテーマが研究されていないかなどだ。(これらの質問は些細なものに見えるかもしれないが、グローバル研究機関においては、その重要性は無視できないものだ。グローバル研究機関においては、断片的な研究開発知識を生み出しているものの、それらを統合するデータプールが欠如しているからだ。)
プロジェクトマネージャーの視点で考えてみてほしい。ワークフローの中でどこがボトルネックになっているのか、あるいはチームに何が起きているのか、他のチームの仕事を抱えているのかを知りたいだろう。もしあなたがエグゼクティブならば、自分たちのリソースがどの異なるプログラムに割り当てられているのか知りたいだろう。
会社のすべてのデータを構造化された場所に整理することで、Benchlingは個々人が直接データを参照できるようにした。そして重要な質問を効率的に解決できるようにしたのだった。
Image: Benchling
Benchlingは主要な3つのパートで構成されている。1つ目はアプリケーションレイヤー。科学者が実験を管理したり、在庫状況の確認をしたり、ワークフローをマネジメントできるツールだ。これらの科学者の生産性をあげるツールは学術機関に対して無料で提供されている。
2つ目はアプリケーションから取得した情報を統合し、標準化する統一データレイヤーだ。このレイヤーにより、Benchlingは可能な限りデータ取集を自動化することを目指している。「科学者が重要でない煩雑な業務に追われないよう、できるだけ作業の自動化を進めたい。科学者は実験のデザインや結果の解釈、戦略の変更などのクリティカル・シンキングに集中できるようにしたい」とWickramasekara氏は語る。
3つ目は企業が既存のシステムにBenchlingを統合できるプラットフォームだ。これは見過ごされがちだが、非常に重要な点だ。企業にはヒエラルキーがあり、誰がどのデータにアクセスできるか管理しているからだ。
単なるソフトウェアではない
「すべての顧客が同じ課題を抱えています」。
Benchlingはただソフトウェアを提供しているわけではなく、データへのアプローチを改善したい企業との長期的なパートナーシップを構築している。
Benchlingの顧客の70%は紙の資料、Eメール、エクセルの世界からやってくる。構造化されていないデータシステムから、データドリブンで、高度化されたテクノロジーの組織になるためには必然的に困難が伴う。Wickramasekara氏は「私たちはこれらの企業にとって働き方を変革するパートナーとなります。私たちは彼らとともに変革していくのです。なぜなら私たちは何度も同じ変革をしてきたことがあるからです」と言う。
Wickramasekara氏によると、この変革に顧客を導くという専門性はBenchlingが提供できる大きな価値の一つだという。Benchlingのクライアントはライフサイエンス内のさまざまな分野にまたがっているが、Benchlingは広く適用できるベストプラクティスへの洞察を深めてきた。Wickramasekara氏は言う。「ライフサイエンスとソフトウェアの交差点という特定領域において、私たちは多くの専門的ノウハウ、知識を持っています」
国際戦略
「我々は海外展開をとても楽しみにしています」。
これまでBenchlingはアメリカ国内での販売にフォーカスしてきた。しかし、彼らは海外のビジネス機会についても十分に理解している。特に興味があるのは日本、世界第2位の医薬品市場だ。
日本展開について質問した際、Wickramasekara氏は国際戦略についてこう語った。
「私たちは日本展開に向けて焦点を合わせたいと考えています。今年私たちはプロダクトを国際化しようとしています。日本展開に向けて、プロダクトの日本語化といったローカライズをしたいと考えています」。
具体的な内容は明かせないが、彼らはすでに日本企業との取引も始めているという。