電力をどれだけ使い、風力や太陽光でどれだけ発電できるのか。再生可能エネルギーやEV、データセンターが広がるなか、その見通しは電力の調達や設備運用を左右する判断材料になっている。
米Amperon(アンペロン)が手がけるのは、AIを使った電力需要や再生可能エネルギーの発電量の予測だ。複数のモデルを組み合わせるだけでなく、気象会社ごとに予測をつくり、その結果をさらに統合する。1時間ごとの再学習と、人口密度に応じた気象データの取得も、予測を支える仕組みだ。
共同創業者兼CEOのショーン・ケリー(Sean Kelly)氏は、11年間、電力トレーダーとして発電所の運用や取引に関わってきた。現場の経験から立ち上げた会社は、東京ガスやSamsungグループのCVCからも出資を受ける。[補足1]予測技術の中身と、データセンターの電力利用を支える事業の可能性を聞いた。
目次
・元トレーダーが結びつけたエネルギーの知見と技術人材
・市場全体から個別メーターまで15日先を予測する
・モデルの組み合わせと気象予報の組み合わせを重ねる
・1時間ごとの再学習と現場を知る人材が強み
・寒波の事前警告を調達と需要抑制に生かす
・データセンターの電力使用を見直す年間100時間
・データの提供から判断と結果の検証まで
元トレーダーが結びつけたエネルギーの知見と技術人材
―ご経歴と、アンペロンを創業した理由を教えてください。
私はもともと、アンペロンのようなサービスを使う顧客の側にいました。2005年に大学を卒業し、その2週間後には電力の取引フロアに立っていました。発電所は24時間動くので、朝5時半から夕方5時半、あるいは夕方5時半から翌朝5時半という交代勤務で、発電所の運用に関わっていたのです。
11年間のトレーダー生活では、リーマン・ブラザーズやフランス電力(EDF)で働き、シカゴではドイツの電力大手エーオン(E.ON)の北米取引フロアの立ち上げにも携わりました。その間、36基を超える発電所を運用し、風力発電のスケジュール管理や原子力資産の買収・運用も経験しました。
その後、最初の会社であるブリッジ・パワー(Bridge Power)を創業しました。大口の商業・産業顧客に対し、電力や天然ガスの調達、LED照明、屋上太陽光などの導入を支援する会社です。そこで、電力を使う側の事業も知ることができました。
ニューヨークに移ってから、太陽光やEV、気候変動によって、電力網が難しい課題に直面していると感じるようになりました。私の友人にはエネルギーに詳しい人が大勢いますが、技術の専門家ではありません。一方、ニューヨークには優秀な技術人材がいる。両者を結びつければ、新しいことができると考えたのです。
2017年のニューヨーク・エナジー・ウィークで共同創業者と出会い、2018年1月にAmperonを設立しました。
―そこからどのように起業へと至ったのでしょうか。
最初の会社であるBridge Power Consultingを創業し、大口顧客のエネルギー調達を支援する中で、私は電力網が深刻な危機に瀕していることに気づきました。
太陽光、電気自動車、気候変動といった要因が重なり、グリッドは大きく揺らいでいたのです(当時は新型コロナウイルスの影響までは予期していませんでしたが)。私の友人の多くはエネルギー業界の人間ですが、彼らは技術には明るくありません。
一方でニューヨークには非常に優秀な技術人材がいます。「この2つを結びつければ、何か大きなことができるはずだ」と考え、2017年のニューヨーク・エナジー・ウィークで出会った共同創業者と、2018年1月にアンペロンを立ち上げました。
市場全体から個別メーターまで15日先を予測する
―業界外の読者にもわかるように、サービスを説明していただけますか。
AIを使って電力を予測するサービスです。2018年11月に最初のモデルを提供したときから、AIを活用していました。
出発点は、電力需要、つまり消費量の予測です。ISO(独立系統運用機関)やTSO(送電系統運用者)が扱う市場全体のほか、データセンターなどの個別メーター、住宅や商業施設のメーターを束ねたポートフォリオにも対応します。15日先までの需要を予測し、モデルは1時間ごとに更新します。用途の異なる46日先、5年先までのモデルもあります。
そこから、風力や太陽光の発電量の予測にも広げてきました。市場全体だけでなく、個別の風力発電所や太陽光設備も対象です。米国の一部市場では、電力価格も予測しています。
―日本の設備でも予測できるのでしょうか。
日本の太陽光設備では、すでに実績があります。必要なのは、その設備の過去のデータと緯度・経度です。メガワットという単位は世界共通なので、国が変わってもデータを扱えます。その場所について、現在利用している9社の気象プロバイダーのうちの一つからデータを取得すれば、風力や太陽光設備の5分刻みの予測を提供できます。
必要な情報を取得できれば、翌日には予測を立ち上げられます。ヨルダンやエストニア、ラトビアなど、進出を計画していなかった国でも対応してきました。その国の市場データを持っていなくても、個別設備の予測を始められるのです。
Image : Amperon HP
モデルの組み合わせと気象予報の組み合わせを重ねる
―AIによる予測の仕組みを、もう少し詳しく教えてください。
予測は難しく、どんなモデルも、あらゆる状況で最もよい結果を出せるわけではありません。そこで、アンペロンの画面やAPIで提供する予測は、4〜6の異なるモデルを組み合わせています。アンサンブル、つまり複数の予測を混ぜ合わせる方法です。
各モデルには異なる重みを与えます。ある状況に適したモデルには30%、あまり適していないモデルには5%といった配分です。この処理をAIが担います。人間が1時間ごとに作業していたら、疲れてしまいますから。
さらに、気象会社も複数使います。天気は絶えず変わり、予測が難しいからです。4〜6のモデルを一度動かして終わるのではなく、気象会社ごとに動かします。気象会社Aのデータならどうなるか、Bならどうなるかという予測を、それぞれつくるのです。
利用者は、特定の気象会社を信頼しているなら、その会社のデータに基づく予測を見ることができます。そのうえで、メタ学習器(メタラーナー)を使って、複数の気象予報に基づく結果をさらに組み合わせた、最終的な予測も見ることができます。
※編集部補足
メタ学習器は、個々のモデルの予測をどのように統合するかを学ぶ機械学習モデル。同社の公式解説では、少なくとも1年分の過去データを使い、季節、天候、休日などの条件によって各モデルがどう振る舞うかを学習するとしている。従来の重み付けを改善するだけでなく、最終的な需要予測を直接出力する点が特徴。
気象データを取得する場所は、どのように選んでいますか。
2018年の創業当時、競合の多くは「どの空港の近くに住んでいますか」と尋ねていました。しかし、私は空港の近くには住んでいません。そこで私たちは、商業ビルに基づく人口密度のデータを使い、地点ごとに気象を捉えることにしました。
東京のように人口が密集する場所なら、1キロメートル以内に気象データの取得地点があります。一方、農村部では、取得地点まで10キロメートルほど離れることもあります。人口が少なく、予測全体への影響も小さいからです。
ニューヨークのように電力消費が集中する場所では、気象を詳しく知る必要があります。山間部のすべての場所に人が住んでいるわけではありませんから、地域によって捉え方を変えているのです。
※編集部補足
これは、全国を同じ間隔で区切るのではなく、電力を使う人が多い場所を細かく捉える設計。公式資料では、人口密度に応じて1km、5km、10kmの間隔で気象データを取得し、北米・欧州の4万地点超を使うと説明している。独自の気象観測装置を各地点に設置しているという意味ではない。
1時間ごとの再学習と現場を知る人材が強み
―主な顧客はどのような企業ですか。
電力会社、トレーダー、小売電気事業者が主な顧客です。米国と欧州では約40社の電力会社に対し、需要や、保有する風力・太陽光設備の発電量の把握を支援しています。
トレーダーは、必ずしも発電設備や電力消費を持たず、取引で収益を得ようとする人たちです。小売電気事業者については、米国とカナダで事業を行っています。日本の小売電気事業者向けには、まだ展開していません。メーターのデータが大幅に改善していたことから、最初に取り組んだのが、この顧客層でした。
そのほか、データセンターなど、電力への支出が大きい商業・産業顧客にもサービスを提供しています。
最大の競合と、御社の強みを教えてください。
最大の競合は、顧客が自分たちで構築し、20年以上使い続けてきた社内の仕組みです。長年使ってきたスプレッドシートは、その代表です。AIの登場と電力網の変化によって、従来の仕組みでは対応しにくくなっています。
私たちは、創業初日からクラウド上でサービスを構築しました。2018年11月に最初のモデルを動かした、その次の1時間には再学習を行っています。それ以来、再学習を続けてきました。
人材面でも、元トレーダーや、かつて当社の顧客・競合の側にいた人など、業界の深い知識を持つ専門家を採用しています。優秀な技術人材を集めることは、創業時からの考え方です。GoogleやMeta、Amazonなどから採用した人もいれば、そうした企業に移った人もいます。
エンジニアにとっては、多くの顧客が抱える、似ているけれど異なる課題に取り組めることが魅力になります。風力予測を担当した後、価格予測に移ることもできる。そうした環境をつくりたいと考えています。
寒波の事前警告を調達と需要抑制に生かす
―予測が顧客に役立った事例を教えてください。
大きな出来事が、2021年2月の寒波「Winter Storm Uri」でした。私が住むテキサスでは大規模停電が起こり、私自身も3日間、電気のない生活を送りました。妻は当時、妊娠6カ月でした。
大規模停電が起きたのは2月15日ですが、当社の気象予報士とモデルは、2月3日の時点で事態を予見していました。ある顧客は65ドルで電力を買い、最終的に7,000ドル超で売却しました。12日前に見通しを伝えたことが、判断に役立ったのです。
直近の冬にも、広い地域で記録的、あるいはそれに近い寒さが見込まれるなか、数週間前から顧客に知らせることができました。重要なのは、何が起きるかを理解するだけでなく、備えられることです。
この冬の寒波では、当社の予測に基づき、特定の時間帯に電力使用を抑えた顧客もいました。系統側から対価を受け取る仕組みを活用し、9日間で200万ドルを節約できたと報告してくれました。予測データへの支払いは、顧客が節約したり、収益を得たりした金額に比べれば小さなものです。
データセンターの電力使用を見直す年間100時間
―データセンターの事業環境をどう見ていますか。
データセンター事業者は施設の運営に長けていますが、電気代は最大級の支出の一つです。収益性を高めるため、できるだけ抑える必要があります。また、市場で電力を確保できるようにしたいと考える事業者もいます。
そこで重要なのが、需給が特に厳しくなる年間100時間ほどの局面です。その時間帯に電力使用を抑える姿勢を示せれば、意味があります。私たちはデータセンターに対し、「この時間帯に需要を抑えられれば、収益性の改善につながる」と伝えられます。
施設への電力供給を保つだけでなく、近隣の人たちへの供給も支え、電気代の抑制にもつながることを期待しています。
―日本企業との連携は、どのように考えていますか。
東京ガスは、出資以来、とても良い投資家でありパートナーです。日本市場全体への本格参入を今すぐ計画しているわけではありませんが、風力や太陽光、大規模なLNG施設、データセンターなどの個別の予測には対応できます。
日本市場には関心があります。年初にはSamsungからも出資を受けました。複数のデータセンターを顧客に持ち、AIとデータセンターの領域に取り組んでいることを評価されたと考えています。企業を紹介していただければ、ぜひ検討したいです。
データの提供から判断と結果の検証まで
―成長の状況と、今後1〜2年の方針を教えてください。
顧客は約175社です。最初の4年間は276万ドルの調達で会社を運営し、ほぼ損益分岐点に到達しました。累計の調達額は3,900万ドルで、売上高はシリーズB以降、3倍以上に伸びています。
今後はグローバル展開を進めます。ロンドンに欧州拠点を設け、再生可能エネルギーが豊富なラテンアメリカの市場を見据えて、メキシコシティにも営業担当を採用しました。
既存顧客向けの製品も増やしたいと考えています。当社に何ができるかを知る顧客には、新しい製品も提案しやすいからです。主要顧客11社に集まってもらい、「どうすればもっと役に立てるか」を聞く機会も設けました。
―成長を支えるものと、今後の課題は何でしょうか。
適切な人材を採用してきたことです。優秀な人を集め、細かく監視するのではなく、自分で必要なことを進められる裁量を与える。それが、社員の成長にもつながります。
今後の課題も、人材です。惹きつけるだけでなく、定着させ、育てていく必要があります。CEOとして、多くの家族の生活を支えていることも実感します。それが大きな報酬であり、挑戦でもあります。
―5年後、10年後の姿をどう描いていますか。
データを利用者に使いやすい形式で届け、その結果の意味を理解するところまで支える、一貫したサービスを目指しています。最初の電力メーターから、市場でどう行動するかの判断、取引が最終的にどう精算されたかの検証までを支えたいのです。
将来的には、利用者数に応じたライセンス課金ではなく、成果に基づく課金へ進むと考えています。顧客の利益や節約に貢献した分に応じて、対価をいただく形です。
私自身、大学を出てトレーダーになってから、ずっと成果で評価されてきました。会社をうまく経営すれば評価され、そうでなければ職を失う。当社も、データの提供から実際の成果まで、一貫して支える会社でありたいと考えています。