Echodyne(本社:米国ワシントン州カークランド)は、自然界に存在しない物性を持つ人工物質「メタマテリアル」の技術を使い、高精度かつ低価格な小型レーダーを開発している。レーダー用途の可能性を広げ、米政府の関係機関からも信頼を得ている。メタマテリアル技術に注目し、会社を共同設立したCEOのEben Frankenberg氏に、独自技術の開発の経緯や日本市場への関心などについて聞いた。

目次
メタマテリアル技術は「素晴らしい挑戦になる」
レーダーの用途の可能性は「無限大」
防衛基盤が強固な日本市場への参入に関心

メタマテリアル技術は「素晴らしい挑戦になる」

―これまでの経歴とEchodyneを設立した経緯について教えてください。

 最初の会社はOnyx Software という顧客関係管理(CRM)分野のソフトウェア会社で、10年程在籍し、さまざまな職務に携わりました。その後、知的財産や特許に関する取引を主たる事業とするIntellectual Ventures(以下IV)にEVP兼COO(最高執行責任者)として就任しました。IVは約5年間で社員が50人から550人に増え、運用資産も数億ドルから50億ドル近くになり、大きな成長期を迎えていたのです。そこではゼロからアイデアを発明し、それを特許にしたり、様々な会社の設立、スピンアウトおよびインキュベーションを手掛けてきました。

 当時、IVの注力分野の1つにメタマテリアルの開発と商業化がありました。さまざまな興味深い技術に取り組んできましたが、このメタマテリアルという技術は特に素晴らしかった。「エンタープライズ・ソフトウェアやSaaS、超先進的なハードウェアのような挑戦的なことをやるよりも、これをやりたい。きっと素晴らしい挑戦になるだろう」と思ったのです。そして、2014年にIVからスピンアウトし、同僚だったメタマテリアル技術者のTom Driscoll(現CTO)と共にEchodyneを設立しました。

 IVのCEOのNathan Myhrvold氏は、MicrosoftでCTO(最高技術責任者)を務めた経歴を持ち、Microsoft時代は長い間、Bill Gates氏の下で働いていましたし、彼らはとても良い友人です。私たちがEchodyneの立ち上げについて話をしていた時、Billは投資に興味を示してくれたのです。そして2014年12月にBillとMadrona Venture Groupが主導したシリーズAで大成功を収め、現在に至ります。

Eben Frankenberg
Co-Founder & CEO
米国スタンフォード大学にて地球物理学修士号を取得後、Onyx Softwareに入社。2005年にIntellectual VenturesでEVP兼COOに就任し、さまざまな会社の設立、スピンアウト、インキュベーションを手掛けた。2014年、Intellectual Venturesからのスピンアウト企業として、同僚だったTom Driscoll氏(現CTO)と共にEchodyneを設立し、CEOに就任。

―御社の特許取得済みの「MESA」(Metamaterials Electronically Scanned Array)技術の特徴について教えて下さい。

 高精度のレーダーとして多くの人が「ゴールド・スタンダード」と考えているのは、ミサイル防衛システム、防空システム、艦艇の保護などに使われる戦闘機の前面に搭載されている電子走査型アレイレーダーやフェーズドアレイレーダーと呼ばれるものです。そのレーダーの課題は非常に高価だということで、アーキテクチャーの性質上、非常に高価になってしまうのです。レーダーは、莫大なお金を払って高精度なものを手に入れるか、それなりのお金を払ってそこそこのものを手に入れるかの2つの選択しかありませんでした。

 そこでIVでは、メタマテリアルを利用する方法を考え出しました。画期的なTx/Rxセル密度と強力なソフトウェアを組み合わせることで、独自のレーダーを構築するための新しいアーキテクチャを考案して、高精度なレーダーを低価格で製造することが可能となったのです。

レーダーの用途の可能性は「無限大」

―御社のレーダーはさまざまなところで活躍しています。現在どのような市場で需要がありますか?

 主に防衛、安全保障、重要インフラ保護、無人航空機システムなどの各市場において、世界中の顧客にサービスを提供しています。

 近年は、ロシアによるウクライナ侵攻、中東での紛争、テロの増加などを背景に、世界では防衛力強化が注目され、ドローンは軍や国家安全保障にとっても大きな関心事です。ドローンは安全に飛行するためのものと、ドローンを探知するものがありますが、ドローンに関するレーダーについて言えば、ほとんどのレーダーはドローンの脅威を想定して設計されていません。

 私たちの開発した「MESA」というレーダーは、サイズや重量を抑え、消費電力やコストが従来より極めて低いのが特徴で、広いエリアをカバーし、有人機がどこにいるか、またドローンがどこを飛んでいるかを把握し、衝突がないことを確認することができるのです。

 ドローンが安全保障上の脅威となることを懸念している世界中の国々にレーダーを提供しています。その範囲は、防衛用途から国家法執行用途、スタジアムや公共施設の保護、重要インフラにまで及びます。

―レーダーの用途は無限にありますね。

 その通りです。さまざまなチャンスがありますが、一度にできることは限られています。私たちはつい最近、雪崩の検知をする企業にレーダーを提供したところです。レーダーを雪原に向け、雪崩の予兆を検知したら即座に高速道路を閉鎖します。また、レーダーによる津波を検知するプロジェクトにも取り組んでいます。

image: Echodyne

防衛基盤が強固な日本市場への参入に関心

―世界中のさまざまな国で既に製品を展開されています。日本市場への進出は視野に入れていますか?その場合、どのような形での提携を考えていますか。

 レーダーはITAR(International Traffic in Arms Regulationsの略。米国製の武器関連品目・技術の取引を規制する米国の行政規則の1つ)の規制下ではないので、米国と親密な同盟国には、輸出ライセンスなしで輸出することができます。また、米商務省の許可を得て、より広範囲に輸出することも可能です。ですから、主に防衛と安全保障のために、世界各国でレーダーを販売しています。国によって、パートナーも当然異なりますから、私たちのレーダーを導入してくれるさまざまなインテグレーターと協力しています。

 日本には大きな防衛基盤があり、安全保障に対する要求も高いです。また、ドローン市場も成長しています。そういう点から、日本市場に注目し、非常に強い関心を抱いています。防衛関連企業や警備会社、あるいはドローン関連会社、空域管理会社などとの提携はもちろん、システムインテグレーターとの対話も前向きに検討したいです。現在、潜在的なパートナーと話し合いの段階ではありますが、レーダーに興味を持つ他の企業との対話の機会があれば、いつでも歓迎します。

image: Echodyne

―冒頭でお話されたように、2014年12月にシリーズAにて1,500万ドルの資金調達に成功しました。これまで過去4回のラウンドで合計1億9,900万ドルの資金を調達されています。投資家を惹きつけたのはなぜだとお考えですか?

 私たちは、高精度のレーダーを商業的な価格帯で作ることができれば、自律性の未来全体がその恩恵を受け、多くの市場機会を得ることができるという信念を持っていました。だから私たちは会社を立ち上げ、素晴らしい投資家たちを惹きつけたのです。

 自律システムと自律性に関する将来の市場は巨大です。自律システムを安全なものにしたり、あるいはセキュリティシステムを構築したりするために、人々が使用するセンサーが何であるかに世の中は注目しています。そして今、私たちが市場に投入している技術により、高精度でリーズナブルな小型レーダーが登場し、システムの安全性が高まり、さまざまなことに活用できるようになったのです。

 調達資金の使途ですが、ほとんどの従業員がエンジニアリング関連であることもあり、主に開発などのエンジニアリング領域に使っています。グローバル展開に向けて、営業チームに力を入れ始めたのはここ1年半ほどです。昨年、欧州での販売が大幅に増加しました。今後はアジア、日本、東南アジアなどへの進出を視野に入れています。

―最後に今後の目標および長期的なビジョンを教えて下さい。

 私たちの長期的なビジョンは、現在のビジョンとほぼ同じです。 レーダーは今、世界中で多くの用途に使われています。そして、今後もさらに用途は広がっていくでしょう。私たちの望みは、これからさらに増える用途に同じ技術で対応していくことです。そのためには、さまざまな可能性から賢く用途を選び、「やる」と決めたことに集中することです。  

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