英語のことわざに「鎖の強さは、一番弱い輪によって決まる」とあるが、これをデータベースに当てはめると「アプリケーションの速度は、最も遅いトランザクションによって決まる」と言えるという。Aerospike(エアロスパイク、本社:米カリフォルニア州マウンテンビュー)は、データベース操作を構成する複数のサブ操作それぞれの遅れに「ミリ秒未満」でこだわることで、データのリアルタイム処理を実現する独自技術を開発した。Yahoo!時代に技術のコンセプトを思い付いたという、創業者でCTOのSrini Srinivasan氏に話を聞いた。

目次
まず、目を付けたのはアドテック業界
Aerospikeが求められる理由とは
Yahoo!時代に創業の種を見出す
日本市場進出は「大きなチャンス」

まず、目を付けたのはアドテック業界

―どのような課題の解決を目指して起業されたのでしょうか。

 会社の創業は15年前ですが、モバイル領域における高性能なインターネットアプリケーションの課題解決に取り組んでいました。当時の主な対象は、広告配信などのアドテック業界です。

 日本で多くの方に馴染みのあるYahoo!のような企業は、皆さんの携帯端末やPCなどに膨大な量の広告を届けています。こうした広告の配信において、リアルタイムの課金処理を50ミリ秒未満で実行するには、非常に大規模なデータ処理が必要です。ウェブサイトにアクセスする数千万、数億人といった人々に対してそれぞれ広告を表示し、高スループットと低レイテンシーを両立する必要があります。

 しかし、当時の既存のソリューションではこのような要件を満たすことは難しいことでした。このような問題を解決するため、Aerospikeのプロダクト開発に取り組みました。

―まず、アドテック業界にフォーカスした理由は何ですか。

 市場調査を行ったところ、この種のソフトウェアを必要とする市場が高性能データベースを扱う市場であり、それがアドテック業界でした。創業初年度には約20社の顧客がいましたが、全てアドテック業界の企業でしたね。

 ただ、当時から「このソリューションは、広告以外にも応用できる」という自信がありました。デジタル空間の拡大により、決済のリアルタイム化や企業内のデータ管理の効率化などのニーズがあることは目に見えていましたから。創業から約15年が経過し、実際にその通りになっていることを目撃することは喜ばしいですね。

Srini Srinivasan
Founder & CTO
インド工科大学(IIT)でコンピュータサイエンスの学士号を取得後、ウィスコンシン大学マディソン校で博士号を取得。IBMでシニアエンジニアを務めた後、2005年からはYahoo!のモバイル端末部門でシニアディレクターとして勤務。2009年10月にAerospikeを創業、2022年に同社CTOに就任。現職。

Aerospikeが求められる理由とは

―プロダクトの詳細を教えてください。

 Aerospikeは、競合サービスとは一線を画すNoSQLデータベース(クラウド上でホストされ、サービスとして提供される非リレーショナルデータベース)を開発しています。

 われわれの顧客には、PayPalやBarclaysのような決済サービスを手がける会社をはじめ、欧米で人気の家具ECサイトのWayfair、フィリピンの通信会社のGlobe Telecomなどの企業が存在します。こうした企業が当社のプロダクトを導入する主な理由は、決済時の不正検知とアプリケーションのリアルタイム処理のためです。基本的に、デジタル上の消費者は決済時に、「ラグ」が出ることを良しとしません。

 ただ、決済の際には、企業は不正操作が行われていないかチェックする必要があります。この作業時には大量のデータとデータ項目を調べ上げる必要があります。しかも、取引中の数百ミリ秒以内に、という条件付きです。

 このような作業を可能にするためには、リアルタイムに大量のデータを読み込ませられるアーキテクチャが必要で、そうしたソリューションを提供するのがAerospikeなのです。

―どのようなアーキテクチャを開発したのですか。

 当社は「Hybrid Memory Architecture」という特許取得済みのアーキテクチャを独自開発しています。これはSSDによりDRAMのようなパフォーマンスを実現するもので、リアルタイム(ミリ秒未満)にアクセスできるデータ量を拡大するシステムを指します。要は、1テラバイトのDRAMと20テラバイトのSSDを搭載した1台のコンピュータに、20テラバイトのリアルタイムデータを保存できるという意味です。Aerospike以外のシステムでは、1テラバイトのリアルタイムデータしか通常保存できません。これが大きな差別化要因です。

 つまり、Aerospikeを他のシステムと比較したとき、ストレージ管理において10倍効率的で、コスト面でも管理やクラウド使用料に関わるコストも安くなります。大規模なシステムを導入するよりも、Aerospikeを導入した方がスケールメリットを活かせるのです。

Yahoo!時代に創業の種を見出す

―Aerospikeを創業したきっかけは?

 私は2005年からYahoo!のモバイル端末向け部門で勤務し、当時、モバイルアプリ上で動作するアプリケーションを構築していました。

 私の学問的バックグランドは、リレーショナルデータベースで、米ウィスコンシン大学マディソン校で博士号を取得しています。Yahoo!時代に学んだのは、リレーショナルデータベース技術では、モバイルアプリを利用するユーザーが数千万人に達したときに、負荷に対応できなくなるということでした。

 これは、単にデータの読み取りだけでなく、データの書き込みも同様です。モバイル端末を使用しているときは常にデータが変更されていて、そのデータは即座にどこかのサーバーに書き込まなければなりません。

 そのため、Yahoo!で使用していたデータベースはうまく機能しなくなりはじめたのです。そんな時、当社の共同創業者のGeorge Kadifaと出会い、彼との雑談の中でHybrid Memory Architectureのアイデアを思いついたのです。リレーショナルデータベースよりも10倍速く動き、10分の1のコストで運用できるシステムを開発しました。

日本市場進出は「大きなチャンス」

―日本市場をどのように見ていますか。

 創業時から、われわれにとって日本市場進出は大きなチャンスだと考えています。これまで15回ほど日本を訪れていますし、すでに日本には約10社の顧客がいます。顧客企業の多くが金融機関ですが、金融業界以外にもAerospikeは応用可能です。

 例えば、トヨタのような企業を考えてみてください。彼らは工場にあらゆる種類のメンテナンス戦略を実践しています。その中には多くのアプリケーションが使用されているでしょうし、データベースの拡大が必要になることは間違い無いでしょう。

 日本で新たな企業とのパートナーシップを求めています。すでに北米やインド、イスラエルには多くのパートナーがいます。

―日本でのパートナーシップを考えた時、どのような業界と、どのような形態の提携を結びたいと考えていますか。

 基本的には、銀行・証券会社・決済会社と通信会社がメインになるでしょう。例えば、イタリアの中央銀行であるイタリア銀行は、欧州中銀(ECB)に対するソリューションを自前で構築していますが、その基本技術はAerospikeのものを使っています。金融機関においては、このような種類のパートナーシップも存在するのです。

 通信業界に関しては、通信機器大手のNokiaが10年以上前からAerospikeを導入しています。Aerospike導入に際しては、企業が現在保有しているソリューションとの統合が不可欠で、その知見は豊富に持っています。

 例えば、通信会社のソリューションにおいては、分散データ処理エンジンの「Kafka」や「Spark」のようなリレーショナルデータベースとの統合も可能です。日本では、SIerとのパートナーシップ締結も望ましいと考えています。



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