物流倉庫で荷物の積み下ろしなどを行う産業用ロボット向けの自動化ソリューションを提供するPlus One Robotics(本社:米国テキサス州)。ロボットの自動化には荷物のサイズや形状、位置を認識するための「目」が必要になるが、AIデータや3Dビジョンを分析する独自のソフトウェアを開発し、高精度の検出を可能にしている。安川電機の米国法人などでの経験を活かして創業したCEOのErik Nieves氏に、プロダクトの特徴やビジネス状況、長期ビジョンについて聞いた。

物流倉庫自動化の鍵となる「ビジョンシステム」

―長らく産業用ロボットに関わり、Plus One Roboticsを創業されたそうですが、創業までのストーリーを教えてください。

 私は安川電機の米国法人に24年間在籍していました。重要な業務の一つが、中南米での子会社設立です。1994年から1999年までメキシコでブランド構築と市場開拓を行い、米国に戻りました。その後は研究開発グループを引き継ぎ、ロボット部門の技術責任者を務めました。

 技術責任者としての私の役割は、マーケティングチームが見つけてきた新しいニーズについて、自社の技術が対応できるかどうかを判断することでした。航空、宇宙、エレクトロニクス、組み立て、医療用ロボット、臨床検査自動化など、さまざまな業界のニーズについて検討をしましたが、われわれにとって重要な市場は製造業の他に2つあるという結論に至りました。それは、電子機器の組み立てと、物流倉庫でした。

 電子機器の組み立てロボットは、米国ではあまり展開されておらず、マレーシアや日本などアジアで需要があるものです。一方、物流倉庫については世界中どの地域でも需要があるので、われわれが発展させていくべき市場だと考えました。だから、倉庫自動化のためのロボットソリューションを作ろうとしたのです。そして倉庫自動化を進める際、ロボットアームなどのハード面を用意するのは簡単で、本当の課題は「ビジョンシステム」だということに気付きました。

 決められた動作だけをするロボットに視覚情報は必要ありません。しかし、物流倉庫の現場ではさまざまな形や大きさの荷物があり、それらを識別してロボットが処理する必要があります。倉庫自動化を推進するために、3次元空間での物体識別のソフトウェアが必要となりました。しかし、安川電機はロボットメーカーとしては優秀ですが、ソフトウェア企業ではありません。ですから私は会社を去り、どんなロボットでも使える3D物体認識ソフトウェアを提供する企業として、2016年にPlus One Roboticsを立ち上げたのです。現在は約90人のメンバーがいて、北米と欧州を中心にプロダクトを提供しています。私たちのソフトウェアによって、世界各地のロボットが毎日合計100万回のピッキング作業をこなしています。

Erik Nieves
Co-Founder & CEO
北米向け産業用ロボットおよびロボット・オートメーション・ソリューションを展開する安川電機の米国法人で24年以上勤務するなかで、メキシコ子会社の立ち上げや技術ロードマップの責任者を務めた後、2016年にPlus One Roboticsを共同創業した。A3(Association for Advancement of Automation)の技術戦略委員も務め、ロボット工学に関する公共政策の講演や寄稿も行っている。

―顧客企業にどのような形でサービスを提供していますか。

 私たちはビジョンシステムを単体で提供することもできますが、それだけではなく、ロボットや安全システム、ベルトコンベアも含めた包括的なソリューションとして提供することもできます。例えば、システムインテグレーター (SI) 向けには、ソフトウェアのみを提供するといった具合です。

 FedExの事例で言えば、SI企業がロボットも含めた全体のシステムを構築しますが、私たちはそのSI企業にシステムのみを提供しています。

 一方で、発送・郵送サービスのグローバル企業Pitney Bowesに対しては、包括的なソリューションを提供しています。彼らは設備自体を購入はしておらず、設備は当社に帰属しており、Pitney Bowesは月額料金や複数年契約での利用料を支払うモデルです。

image: Plus One Robotics

AIと人の協働で業務の効率化を実現

―競合との違いについて教えてください。

 米国ではDexterityやCovariant、欧州ではFizyr、日本にはMujinという競合がいます。ただし、この市場はとても大きいため、1社が独占することはないでしょう。巨大すぎる市場なので独占するような能力を持つ企業はありません。地域ごとに複数の企業が活躍するでしょう。北米では当社は優位に立っており、欧州では当社とFizyrが競ってます。日本はまだ成長する余地がある市場なので、Mujinが1社で勝者になることはないと考えています。

 どの競合のシステムも、産業用ロボットを使います。AI技術は、3Dセンサーで物体を検知し、吸引グリッパーを使ってピッキングする作業に大きく関わってくるのですが、私たちのシステムは優れたAIを使っています。ただし、AIはたまに混乱する場合があります。どれをピッキングしていいか分からなくなるのです。私たちのシステムでは、AIが判断できないときに、人が遠隔で状況を確認して指示を出すことができます。これが、「Plus One」と名付けた理由です。

 AIと人が協働するのです。例えば、大阪の倉庫でロボットがピッキングしていて、判断に迷うことがあったとします。するとロボットはクラウド経由で管理者に通知します。管理者がテキサスにいても、大阪のシステムを確認してロボットに指示を出せるのです。私たちは24時間体制で、人による遠隔監視を行っています。

image: Plus One Robotics

物流・倉庫業界での世界的な人手不足の課題を解決していく

―御社の成長を示す数値はありますか。

 毎日100万回のピッキング作業をこなしていると言いましたが、1年前は70万回未満でした。それだけ私たちのシステムの導入数が増えたということです。もっと細かくロボット1台当たりのピッキング回数で見ても、少し前まで1分間に20回だったのが、今では1分間に25回、30回と処理回数が伸びています。私たちのシステムは日々、多くのロボットに導入されていますし、ピッキング数は伸び続けている状況です。2024年末までには、現状の倍の1日当たり200万回を達成すると見込んでいます。

―日本市場に展開する際、日本企業とどのようなパートナーシップが必要と考えていますか。

 まず前提として、私たちの戦略上、自ら特定の国や地域を選んで進出するのではなく、その地域の顧客から求められることを望んでいます。欧州ではその戦略で成功しました。そもそも顧客は多国籍企業ですので、彼らが求める地域にシステムを展開するというわけです。おそらく、私たちの顧客が日本で事業を展開する際に、米国で利用しているものと同じシステムを使いたいというでしょう。そうすれば、日本市場に参入することとなるでしょう。

 また私は安川電機時代から日本の商社とも関係を持っていました。彼らを通じて販路を開拓するか、ジョイントベンチャーを作るのもいいです。いきなり子会社を作るよりは、ある程度の市場を確立してから、直接投資を行えばいいと思っています。

―2023年には約5000万ドルを調達しましたね。今後の計画や長期ビジョンについて教えてください。

 最近ベンチャーキャピタルの出資は減少傾向でしたが、私たちの事業成長を見込まれて資金調達できました。プロダクト開発や販売、マーケティング活動に注力しています。

 私は安川電機に24年勤務しました。Plus One Roboticsも長期的に運営していきたいです。物流・倉庫の自動化は長期的な問題です。労働者を見つけるのが年々難しくなっていて、代わりにロボットが求められているのです。10年後の倉庫にはたくさんのロボットが働いているでしょう。そのとき、Plus One Roboticsがリーディングカンパニーになるというのが私のビジョンです。



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