人口の増加が続き住宅需要が高まるインドネシアにおいて、特にミレニアル世代やZ世代など初めて住宅を購入する若いユーザーにフォーカスした不動産取引のためのオンラインサービスを提供するPinhome。コンサルタントとして経験を積んだ後、ライドシェアや物流を手掛けるインドネシアのデカコーンGojekの経営チームを経て、2020年にPinhomeを共同創業したCEOのDayu Dara Permata氏に起業の経緯や、コロナ以降、変化しているインドネシアの不動産市場と、それに対する同社の取り組みについて聞いた。

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Gojekの経営チームで活躍 自身の不動産購入の体験から起業を決意

――創業までの経歴と、起業した経緯をお教えください。

 インドネシアの大学(Bandung Institute of Technology)で産業工学を専攻し、卒業後は通信会社で2年働き、その後はジャカルタのMcKinsey & Companyでコンサルタントとしてのキャリアを積みました。2015年には、Gojekの経営チームに参画し、シニアバイスプレジデント、ライフスタイル&コマース製品グループの責任者として、輸送、ロジスティクス、食品/小売配達、専門家/在宅サービス、支払いなど、事業の成長と多角化に貢献しました。

 当初は、私は起業家になることを目指していたわけではありませんでした。実はPinhomeの事業は、私と共同創業者のペインポイントから始まったのです。私はお金を貯めて、2010年に最初の不動産を購入しました。それから10年間、毎年コンスタントに物件を購入してきました。そうやって複数の不動産を購入する際に、物件探しや契約に非常に苦労しました。

 例えば、物件の説明が不完全かつ不正確で、購入できないのに購入可能と表示している不動産エージェントや、プロ意識に欠ける不動産会社がたくさんあります。不動産取引はオフラインで行わなければならず、所有者との交渉や銀行のローン申し込みといったやりとりは、WhatsAppなどのチャットアプリを通じて行っていました。給与明細など個人的な機密情報をビジネス用のアカウントではなく、個人のチャットで行っていたのです。私は10年間経験したこの不動産業界の課題を克服するために創業しました。

Dayu Dara Permata
Pinhome
Co-Founder & CEO
インドネシアの大学(Bandung Institute of Technology)で産業工学を専攻し、卒業後は通信会社を経てジャカルタのMcKinsey & Companyに入社し、コンサルタントとなる。その後ライドシェアや物流を手掛けるスタートアップGO-JEK Indonesiaにシニアバイスプレジデントとして参画し、事業成長に貢献。2020年にPinhomeを共同創業した。

パンデミックと在宅ワークで広がった若者の不動産ニーズに着目

――現在提供しているサービスやプロダクトについてお教えください。

 当社は、フルスタックの不動産取引プラットフォームを提供しています。不動産のeコマースだと考えてください。初めて家を買う人をターゲットにしています。東南アジア最大の市場であるインドネシア(人口約2億7000万人)で、不動産取引の円滑化に取り組んでいます。インドネシア人全員、ひいては東南アジア全域において住宅を持つ機会を開放することで、初めての住宅を購入する人の需要を拡大することを目的としています。

 主に取り組んでいるのは、物件の売買の促進です。インドネシアでは、初めて住宅を購入する人が非常に増えています。初めての経験ですので、住宅を所有するために必要な手続きやステップを知りません。20代の若い人であえれば、頭金を支払えないケースもあります。そこで私たちがサポートします。

 パンデミックによって、在宅勤務などで多くの人が自宅で過ごすようになったことも、需要を後押ししています。多くのミレニアル世代やZ世代の若いプロフェッショナルが、自宅はとても重要な資産であることに気づいたのです。よい住宅に住むことは、生活の質だけでなく、仕事の質も決定付けるからです。

――ビジネスの状況はいかがでしょうか

 私たちのサービスは、インドネシアの80以上の都市・地域で利用できます。Webサイトは、月間800万ページビュー、月間のユニークビジター数は550万人です。6カ月前(取材は2022年6月)にモバイルアプリケーションもリリースしており、20万件のインストールがありました。住宅の供給側のデータとしては、現在70万件の物件があり、25000の不動産業者やサービスプロバイダーがプラットフォームに参加しています。50の金融機関と提携し、住宅ローンの提供もしています。

 先ほどお伝えしたように、パンデミックによって生じた、都心部周辺の衛星都市で新しい物件を探す初めての住宅購入者の伸びが大きな原動力となっています。衛星都市の物件は、都市部の物件よりも手頃な価格です。快適さに対してあまり高額になることもありません。これらの物件は、在宅ワークを意識した使い勝手の良い空間、デザインを提供するなど、さまざまな工夫があります。

 現在、当社の直接の競合他社はいません。間接的な競合としては伝統的な不動産仲介業者がありますが、先ほどお伝えした通り、従来の不動産業者は対面かショートメッセージでのやりとりが中心となります。一方、私たちの顧客接点はフルデジタルです。

Image: Pinhome HP

 もう一つの間接的な競合は、オンラインで不動産業者や不動産所有者が自分の物件を掲載するサービスがあります。ですが、これらは物件エージェントとの接点を作るだけで、取引のための交渉やローンのサービスも提供していません。

東南アジア全域にビジネスを拡大し、不動産業界のスタンダートに

――2022年2月にシリーズBラウンドで5000万ドル(約69億円)の資金調達をしています。これからのマイルストーンをお教えください。

 調達した資金によって3つのことに力を注ぎます。

 1つは地理的なカバー率の拡大です。私たちは既に80都市・地域に進出していますが、まだ未開拓の地域がたくさんあります。一方で、現在カバーしている地域にもサービスをより深く浸透させたいと考えています。

 2つ目は、サービスの多様化です。仲介サービス、住宅ローンサービス、ホームサービスなどいろいろな事業の構想があります。私たちは現在販売面に強みがありますが、それだけでなく、低所得者層向けの不動産融資などにも取り組んでいきたいと思っています。

 3つ目は、当然ながら、より良い、よりシームレスな体験をお客様に提供できるよう、さらに機能性を向上させたプラットフォームを構築していくことです。

――日本の企業とのコラボレーションの可能性はありますか。

 当社は非常に強力なイノベーションと、成熟した不動産のある国のパートナーを積極的に探しています。私たちはインドネシアで活動する日本企業とも既に、かなりの数のパートナーシップを結んできました。インドネシアの不動産投資を検討している日本の企業とも連携しています。不動産に強い関心を持つ日本の大企業やベンチャーキャピタルがたくさんインドネシアに来ています。

 パートナーシップの可能性については、今後も非常にオープンです。戦略的、投資的パートナーシップやジョイントベンチャー(JV)、共同事業体の模索もとても楽しみにしています。

――Pinhomeの長期ビジョンとして、例えば2030年にどのようなことを成し遂げたいか教えてください。

 私たちは、インドネシアと東南アジアの人々のより良い生活と、より良い金融包摂を実現するために、住宅を持つ機会をより幅広く開放していきたいと思います。今後も不動産の取引データと融資をデジタル化できる技術プラットフォームを構築していきます。そうですね、2030年には、インドネシアだけでなく、東南アジア全域で、不動産と不動産金融の分野で絶対的な存在になることを目指します。

 利益を上げ、社会に大きなインパクトを与える上場企業になるという夢の実現もとても楽しみにしています。また、私たちが構築するテクノロジープラットフォームが、不動産業界のスタンダートになるよう取り組んでいきます。当社が存在感を示すことで、東南アジア全体が私たちのように大きく成長する可能性があるでしょう。

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