Image: Visual Generation / Shutterstock
昨今パンデミックがきっかけで職を変えた人も多いだろう。職探しを行う上で給与額は無視できないが、管理職から新卒採用まで業界や職種ごとに様々なデータが存在し、透明性が感じられないケースも多いだろう。今回取り上げるPaveは、人事管理システム、中でも報酬システムをより公平に、透明にするテクノロジープラットフォームである。Founder兼CEOのMatt Schulman氏に話を聞いた。

公平な給与を世界中の労働者に

――まずPaveの提供するサービスと起業のきっかけを教えてください。

 Paveは、企業内の報酬システムをより可視化し、従業員や新規雇用される人にとって分かりやすく、業界比較が可能な人事管理システムを提供しています。

 私はもともとパーソナルファイナンスに大変関心があり、学生の頃からいつも周りから年金制度や、投資信託などについて聞かれていました。卒業後はカリフォルニアに引っ越して、Facebookでエンジニアをしていたのですが、2019年に退職しています。

Matt Schulman
Pave
Founder & CEO
ペンシルバニア大学在学中にFacebook社でインターン。2016年に卒業後、そのまま同社に入社し、2年近くアプリ開発に携わる。2019年10月にPaveを起業。

 退職後は、なんとなくパーソナルファイナンスのツールを試していたのですが、あるツールを使っていたユーザーが、株式報酬機能について不満があるのを聞きました。みなさんどのように自分の株式が利益を得ているのか、透明性がなく把握していなかったのです。それを知った私は、カリフォルニアにHQを置く200あまりのテック企業のVPやCFOに意見を聞くため連絡をとりました。60人あまりから返答を得られ、それがきっかけで、このアイデアが進み始めたのです。

 誰がどの程度給与を得るのかという企業内の報酬システムは壊れています。パーソナルファイナンスをよりよくしたいという基盤のインスピレーションはそこから生まれ、起業のミッションとなりました。

厚生年金、株式報酬、手当などをワンプラットフォームで管理

――競合と比べてどんな点で優れていますか。また現在のクライアントを教えてください。

 私たちには、1300社が参加するオンライン上のデータシステムがあります。他には負けないデータのアドバンテージがあると言えるでしょう。市場には、給与比較など、個別の問題に対処するツールはあっても、オールインワンのプラットフォームはありません。リアルタイムで市場のトレンドを表示してくれるツールは私たちのみです。

 現在のクライアントは、株式報酬を提供する米国のテクノロジー企業が主です。シードレベルの小さな企業から、Shopifyなどの大企業まで、様々なクライアントがいます。ただ、報酬システムというのは、業界を問わず人を雇えば発生する重要なビジネスの側面です。今後も、幅広く全ての市場の企業で導入されることを目標にしています。

パンデミック直前に起業。孤独な戦いを乗り越える

――起業から現在までの道のりはどうでしたか。

 私はとにかく今働いている人が大好きです。毎日彼らからなにかしら学んでいますし、一緒に働くのがとても楽しいです。また、初期のクライアントとも大変良好な関係を構築することができ、その一部は今では友人になりました。

 パンデミックの時は、かなりストレスフルな時期でしたし、先が見えず不安が募りました。カリフォルニアはロックダウン下で、周りで人が職を失う中、私はビジネスを興しアプリを開発しようとしていたので、非常に孤独でした。

 今は、経済も復活しつつあり、パンデミックの発生により、労働経済そのものや人々がどのように職探しをするのか変革が起きているように感じます。報酬というのはその中核を担うものです。私はただ、ビジネスがうまくいったことに安堵しています。

Paveのプラットフォーム画面。従業員が自身の報酬を管理できる。

――システム開発での課題等はありましたか。

 私はエンジニアなので、エンジニアリング面での課題はチャレンジは楽しんで取り組みました。一番の課題は、市場に存在する多様な人事管理システムのインテグレーションです。例えば、Gusto社は一緒に提携していて、非常にやりやすかった企業の1つですが、彼らは優れたAPIと優れた営業チームを持っています。オンラインにあるので、最終的にはインテグレーションはできなくないのですが、難易度の違いに苦戦しました。

グローバルな人事給与プラットフォームを目指す

――御社はこれまでに約6300万ドルを調達しています。調達した資金の使い道を教えてください。

 現在の目標は、データ取得、そしてなるべく多くの企業にデータシステムに参加してもらうことです。また、より多くの人材を雇用しなくてはいけません。ベストな製品を作るために、ベストな人材を探しています。

――将来的に達成したいことは何でしょうか。

 会社の将来の目標に関しては、3つの大きな段階があり、現在は1段階目にいると言えます。1つ目は、米国のテック企業に焦点を置くことです。私たちのデータシステムにある情報の関連性や重要性を対象企業に合うよう管理する必要があります。

 2つ目は、国際展開です。米国から広がり、現在オフラインで管理されているものをオンラインで管理できるよう改革していきたいです。

 そして最後に、私たちのビジョンは、労働人口の職歴や給与の受け取り履歴などをオンラインに持ち込むことです。一番近いものはLinkedInですが、履歴書を集めたプラットフォームなので、私たちはより包括的なものを作りたいです。

――日本進出については予定していますか。

 私は日本にも訪れたことがあり、大好きな国の1つです。日系企業から、従業員の給与額データについて問い合わせをもらったこともあるのですが、現在日本企業についてはまだサポートしていません。しかし、日本を含むアジアにも必ず進出する予定です。するかしないかの問題ではなく、「いつ」するのかというのが問題です。

――最後にメッセージがあればお願いします。

 労働経済の全体図を見ても、パンデミックもあり報酬システムは劇的に変化を遂げています。私たちのミッションは、公平な給与額の支払いを達成し、ステークホルダーにとって透明性を向上させることです。私たちはとにかく、そのミッションが実現されつつあるのを肌で感じています。



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