2017年に設立されたPhiar Technologiesは、ARテクノロジーを用いたカーナビゲーションシステムを開発するスタートアップ。今回はFounder & CEOのChen-Ping Yu氏にインタビューした。

2022年9月、GoogleがPhiar Technologiesを買収(2023年1月追記)。

Chen-Ping Yu
Phiar Technologies
Founder & CEO
ストーニーブルック大学でコンピュータ科学博士号取得。ハーバード大学にて博士研究員をしたのち、2017年にPhiar Technologiesを設立しCEOに就任。

まるで道路に直接矢印を描いたような直観的なカーナビ

―まずはChen-Ping Yuさんの起業の経緯を教えてもらえますか。

 私の専門はコンピュータビジョンと機械学習です。ストーニーブルック大学で博士号を取得したあと、ハーバード大学でさらにその分野の研究を深めました。

 ハーバードに通うため、ニューヨークからボストンに移り住んだのですが、ボストンはとても道路が複雑で、私はGoogleマップを片手にかなり苦戦しました。マップのナビが「次の交差点を右」などと指示してくれても、実際目の前にはいくつも道があり、そのうちのどこに進めばいいのかさっぱりわからず、「道路に直接矢印を書いてくれればよいのに」と思いました。

 その時、思いついたのです。それを私がやってみたらどうだろう、と。これが、ARナビゲーション事業を始めるきっかけになりました。運転中でも瞬間的に判断を下すことのできる、直観的なナビ情報を提供するシステムを作ろう、と。

―それが実際、いま御社が手がけているサービスなのですね。

 そうです。当社ではARとナビゲーションを融合させたシステムを開発しています。色々考えて、まずは携帯電話のアプリを基盤にしました。iPhoneでアプリをダウンロードすれば誰でも当社のナビを使えるわけです。

 

―なぜ携帯電話をハードウェアとして選ばれたのでしょうか?

 現状、すでに多くのドライバーが携帯電話のナビアプリを使用しています。スマートフォン対応のシステムなら、すでにみんな持っているデバイスなので、ハードウェアを普及させるという問題は瞬時に解消できます。。携帯のカメラをフロントガラスに向けてセットし、目的地を登録すると、カメラの画面に映った道路にAIによるナビゲーション情報が投影される仕組みです。

―すごいですね。カメラ画面を通して見ていると、本当に道路に矢印が描かれたように見えます。このサービスはいつごろローンチする予定ですか?

 今年末を予定しています。今、アルファ版のテスト中で、7月頃にベータ版を出す予定なので、登録者を募集しているところです。

ゆくゆくは危険警告機能、走行分析データの提供も検討

―画期的なサービスだと思いますが、競合はいますか?また、他にはない御社ならではの強みがあれば教えてください。

 当社にとって競合は、ナビゲーションシステムのプロバイダになります。GoogleMapやApple Mapsなどもそうですね。あとは、ARを使ったナビゲーション製品を作るMapboxもそうですね。ただ、Mapboxの商品はデベロッパー向けのSDKなので、消費者向け製品を作っている我々とは少し毛色が異なります。

 ARナビゲーション開発は、とにかく難しいんです。だからこそ、今まで本格的な製品は市場に出てこなかった。でも、当社のテクノロジーなら、それを実現できます。その技術力が当社の強みです。私はAIを使ったコンピュータビジョンの専門家だからこそ、クラウドサービスを介さずにスマートフォンで直接機能するテクノロジーを作り出せたのです。

―今はアルファ版ということですが、料金体系ははどうなるなのでしょうか?

 アプリもARナビも無料です。ゆくゆくは危険警告機能を搭載し、追加オプションとして定額制にしようと思っています。各ユーザーの走行分析データを提供するというアイデアもあります。たとえば、月ベースでどこをどの程度走ったとか。安全運転の証明として保険会社に提出し、保険料を安くしてもらうシステムを作ることも考えています。

 

ドライビングデータの3Dマップ化や、ナビシステムのライセンス供与の可能性も

―今後はどのようにビジネスを広げていく予定なのでしょうか?

 そうですね、短期的な目標をあげるなら、これまでにないドライバー向けナビゲーションシステムを確立していきたいですね。ナビのユーザーは8割がドライバーで、巨大なマーケットになっています。ナビには「マップリーディング」、つまり「運転しながらいかに素早く地図を読解できるか」ということが課題ですので、そこをさらに解消していきたいですね。

 そして、これは中期的な目標になるのですが、ユーザーのカメラを通じて集めたデータを有効活用していきたいと考えています。アプリのユーザーが増えれば、広範な道路上の緊急車両情報や交通情報がリアルタイムで把握できるようになるので、その情報を輸送関連企業に販売したり、収集データをもとに3Dマップを作ることも検討しています。

 自動車メーカーにナビシステムをライセンス販売することも考えています。すでにいくつかの企業と、ARナビゲーションのライセンスの件で話をしています。車のフロントガラスにこのアプリを直接投影できないか、と。

将来的にはスマホや車を飛び越え、ARグラスの世界に参入

―今後、自動運転車も増えてくると思いますが、そちらにも力を入れていくのでしょうか?

 実は、自動運転車向けに新たなサービスということはあまり考えていないんです。正直なところ、我々はむしろ将来的にARグラスのソフト開発を手がけたいと考えています。いずれ、ARヘッドセットの時代がやってきます。今回ARナビを作るにあたり、スマホ向けのアプリケーションを開発したのは、スマホが「誰もが持つデバイス」だからです。これから5年、10年先にはスマートフォンに代わる新たなデバイスとして、ARヘッドセットが普及するでしょう。その時に、ARグラスに参入し、汎用的なARナビゲーションを提供できる企業でありたいですね。



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