Waybridgeは、天然資源などの原材料サプライチェーン管理をサポートする企業。契約から材料の注文、現在地のトラッキング、材料の受け取りや在庫管理まで、これまで分断されていたサプライチェーンの端から端までを見渡すことができるプラットフォームを提供している。20年以上も原材料のトレーダーとして業界に関わってきた同社の共同創業者のScott Evans氏に、業界が抱える課題と創業の経緯、事業の優位性、そしてビジョンについて聞いた。

サプライチェーンの専門家とデジタルマーケットの専門家らが創業

 2021年3月、スエズ運河が封鎖状態となったニュースは記憶に新しい。こうした事故に加え、新型コロナウイルスによる働き方の変化は、長らくデジタル化が進まなかったグローバルなサプライチェーン業界の変革を加速している。Waybridgeが提供するサプライチェーン合理化のプラットフォームでは、柔軟な生産計画やビジネスの迅速化、コスト削減などをサポートしている。

 共同創業者のScott Evans氏は、Goldman Sachsでは取引デスクを担当し、原材料の流通・サプライチェーン企業のConcord Resourcesにおいて非鉄金属のトレーダーを務めるなど、およそ20年にわたって現物商品市場に関わってきたが、業界に対する危機感を抱いていた。

Scott Evans
Waybridge
Co-founder
1995年にハーバード大学にてRegional Studiesで修士号を取得。2010年〜2013年の間、Goldman Sachsに所属し金属現物取引デスクを立ち上げる。原材料の流通・サプライチェーン企業のConcord Resources Limitedでは、銅やアルミ、亜鉛、鉛など、主に非鉄金属市場のトレーダーを務めてきた。2019年、デジタル広告企業AppNexusをAT&Tに16億ドルで売却した起業家のBrian O'Kelleyや、コモディティ(石油とガス、金属、環境)の運用やロジスティクスの経験を持つAndrea Aranguren 氏らとともにWaybridgeを創業。

「今から3年ほど前、私は率直に言って、トレーディングに少し飽きていました。私たちが取引を追跡するために使っていたシステムは、古い技術を使っており、不正確で、自分たちの在庫がどこにあるかを把握するのに苦労していました。この巨大な業界が新しい技術を採用するのになぜこんなにも時間がかかっているのかと、疑問に思っていたのです」(Evans氏)

 そしてEvans氏は、共同創業者のBrian O'Kelley氏と出会う。O'Kelley氏はニューヨークでは著名なテック起業家で、デジタル広告取引マーケット企業のAppNexusを創業し、AT&Tに売却後、新たなビジネスを検討しているところだった。そして共に業界研究を行い、それぞれの持ち味を生かした事業を展開できるとし、2019年にWaybridgeを創業する(創業当初の社名はCmdty)。

分断された各種情報を1つのダッシュボードにまとめ、合理化

 Waybridgeのプラットフォームは現在、非鉄金属をグローバルに扱う北米企業に対して提供されている。Evans氏は創業してすぐに、これら顧客の課題を認識した。購入した材料に対する可視性が非常に限られていたのだ。たとえば、注文した原材料がいつ出荷されるのかわからないし、それが船の上なのか、倉庫の中なのか、トラックで運ばれているのか、とらえることができないでいた。このため、供給の一貫性がなく、その後の工程となる製造業務の管理に悪影響を及ぼしていた。

 Evans氏は「私たちは、原材料の計画を管理できるプラットフォームを立ち上げました。契約の予約から材料のスケジューリング、契約に関するあらゆる申告、そして場合によっては倉庫や計画での材料の受け取りまで、お客様のサプライチェーンを一貫して管理できる、業界初のプラットフォームです。原材料を供給する側のサプライヤーはプラットフォームを通じてクライアントとの連携ができます」と述べた。

Image: Waybridge

 Waybridgeでは契約や手続きのための事務処理だけでなく、各種物流トラッキングプロバイダーと接続し、材料がどこにあるかを追跡できるようにした。従来はいくつものプロバイダーのWebサイトにアクセスし、担当者ごとに異なるスプレッドシートで管理するなど煩雑な業務を強いられていたが、これをダッシュボード1つにまとめた。データをERPシステムと連携して、経営判断にも活用できる。なお、ビジネスモデルは一般的なSaaSモデルだ。

サプライチェーン界の救世主となるべく、エコシステムを拡大

 Evans氏からは具体的なユーザー数や売上は提示されなかったが、Waybridgeは急成長しているという。新型コロナウイルスによるパンデミックで、サプライチェーン企業の活動が大きく変化したことも、Waybridgeに追い風となっている。もともと統合が進んでいなかったシステムに加え、人々までも分断されてしまったからだ。Evans氏は「あのウイルスは、この業界を近代化する時が来たことを多くの人に認識させたと思います。私たちのプラットフォームが、サプライチェーンの困難な状況を乗り越えるために貢献できると考えています」と述べた。

 Waybridgeの成長性が評価され、2021年5月にはCraft Ventures、Rucker Park Capitalから3000万ドル(シリーズB)調達。調達した資金は、プラットフォーム拡張のためにプロダクト・エンジニアリングとデザインに使われるほか、市場参入戦略への投資も行う。現在Waybridgeは、ニューヨークとロンドンを拠点にしているが、サプライチェーンは世界規模であるため、世界中に業務を展開するつもりだ。

「日本のお客様とも話し合っています。原材料の取引は、アジアが50%を占めていると言っても過言ではありませんから、私たちも存在感を示さなければなりません。日本の商社は、製造会社や鉱山、製錬所などを所有しています、日本のパートナーとともにこのプラットフォームを日本の企業全体に展開し、効率性、回復力、そして最終的には持続可能性の向上に貢献できることを楽しみにしています」(Evans氏)

 Waybridgeでは、天然資源関連の企業だけでなく、銀行や倉庫などともさまざまな協議を続けており、プラットフォームの機能をよりよくする機能のニーズを集めている。たとえば、銀行がプラットフォームを使って輸送会社への融資の判断をするかもしれないし、貿易会社が入荷資材の管理を改善し、売買の状況をより明確化するために活用する可能性もある。提供地域を拡大するだけでなく、生産者や取引業者向けにも利用を促し、エコシステムを拡大していきたいとしている。

 Evans氏は、Waybridgeによって天然資源の管理を変えることが、大きな世界にインパクトを与えられるとし、次のようにコメントした。

「5年前、人々はサステナビリティについて話していただけでした。しかし今では行動を起こしています。例えば、A地点からB地点に材料を移動させる際に、どれだけの炭素が使われているかという指標やデータを得ることができるからです。私たちは、私たちのプラットフォームが、世界の天然資源の管理方法を変え、世界をより効率的にしてくれることを期待しています」



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