「牛乳」「肉」も開発する時代 細胞由来で栄養価は維持
――TurtleTreeと、開発している製品について教えてください。
私たちはシンガポールと米国にオフィスを置く、代替プロテインを開発するバイオテック企業です。地球、動物、人間の健康にとって、よりよい栄養となるような製品を開発しています。
現在は主に2つに力を入れて取り組んでいます。1つ目は代替乳です。牛乳に含まれるプロテインや複合糖質などといった免疫や腸内環境に関係するものに注目しています。
2つ目は、細胞由来の肉製品です。遺伝子組み換えではない、豚肉、牛肉、ラム肉を実際の動物由来の肉同様になるよう開発します。栄養価を維持しながら環境への負荷を軽減し、汚染物質にさらされていない肉です。このように、私たちは、人のための栄養となるようなものの代替版を開発しているということです。
――事業立ち上げのきっかけを教えてください。
会社自体は、3年前に創業しました。もともと趣味でチーズ作りをしていたのがきっかけです。米バーモント州でチーズ作りを教わっていたときに、この技術をアジアでも再現したいと思いました。しかし、シンガポールには乳牛も牧場もありません。そこで新鮮な牛乳を求めてインドネシアやタイに出向きましたが、そこで多くの契約農家が生産量を増やすためにホルモン剤や、抗生物質を使用している状況を目の当たりにしました。
これらの手法を用いると、牛乳の品質は落ち、凝固しなくなります。そこで私は、これは生産量を増やそうとしている農家が悪いのではなく、あくまでやり方が悪いということに気づき、何か別の手段がないか探し始めました。食料の消費量は増える一方で、植物性の代替食品も素晴らしいですが、栄養価は本物の牛乳や肉には及びません。私のキャリアはSalesforceや、Googleといったテック系企業が多く、これまでの経験を生かして始めたのがTurtleTreeです。
乳製品市場は7000億ドル規模、世界人口は今後も増加
――どのような点が課題だと感じましたか。
最も大きな課題は、他の代替プロテイン企業と同様で、どのようにして量産するかということです。研究室で製品を開発するのは難しくありません。これまでもラボでは代替肉は作られてきました。しかし、世界人口に供給できるほどに量産するとなると、話は別です。代替乳や代替肉となると、開発にかかるエネルギーのコストが重要になります。
私たちは(開発設備や製造施設などの)電力コストが低い場所で、提携している製造業者と協働して、この問題を解決しようとしています。中でも、中東地域は再生可能エネルギーが多く供給されており、それに伴い電力コストも50-60%程度に抑えられ、理想の場所です。
また、初期に直面した課題の1つは、投資家から求められたハードルがあまりにも高かったことでした。私も共同創業者も、科学者ではありません。投資家に説明に行った際、「君たちは科学者としての経験もないのに一体どうやってバイオテックを経営するつもりなんだ」と言われたものです。
中には、「ノーベル賞受賞者が君たちのチームにいるなら投資する」とまで要求してきた投資家もいたほどです。結果的には我々が科学者ではないことを生かし、一般の人にも分かるような説明を考えつくことができたのでむしろ良かったのかもしれません。今では、科学者も経営陣も両方いるチームにしっかり成長しましたが、振り返ると当初は大変でした。
Image: adtapon duangnim / Shutterstock
――代替乳が必要とされる背景についてもう少し教えてください
乳製品産業は約7000億ドル規模、牛肉市場は約3000億ドル規模の市場です。しかもこの市場は世界の食糧源となっており、世界人口は2050年までにさらに増える見込みです。一方で、世界のメタン排出量は畜産業に由来するものも多いです。
世界をみると、飼育する牛の頭数の増減よりも牛乳の生産量の伸びが大きい地域もあります。遺伝子組み換え飼料や抗生物質投与などによって生産量を押し上げようとする動きがあると思われます。これらは動物にとっても、人の健康にとっても、環境面でも良くありません。代わりとなるものが必要とされています。
日本の飲食店、バイオテックと提携に関心
――2021年10月にはシリーズAでVERSO Capitalをリード投資家に3000万ドル(約34億円)を調達しました。資金の使い道と、今後の目標を教えてください。
大部分は自社のR&D施設を建設する費用、そして人材の確保に充てていきます。また、製造用の資金も別で調達する予定です。短期の目標としては、より規模の大きい製造施設を確保することです。
5-7年の長期スパンでは、TurtleTreeを誰もが知るような自社ブランドに育て上げることです。私たちの製品は、環境、地球、動物にとってやさしく、ロゴを見れば一目でTurtleTreeだと分かるようにしたいですね。
――日本市場進出の可能性はありますか。
日本には何度も行ったことがあります。日本は素晴らしいフードテクノロジーにあふれていて、食べ物のトレンドにも非常に敏感です。ぜひ、関心がマッチするような企業と話をしたいです。レストランなどの飲食店、出資に興味のある投資家、エンジニアリング関係でもぜひご連絡をいただければと思います。
また、代替食品を開発するバイオテックとも協働できるのではないかと考えています。規模は関係ないので、小さなスタートアップともお話できればと思います。