Trigo Vision(本社:イスラエル・テルアビブ)は、カメラとAIを組み合わせた店舗内の高度な可視化技術を提供する企業である。この技術は、消費者の買い物体験の質向上と店舗運営の最適化を目指し、商品や来店者の動きをリアルタイムで正確に追跡することが特徴である。プライバシー保護などが厳しい欧州でも規制をクリアし、ドイツやフランス、英国、オランダなどの複数店舗で採用実績がある。創業者であるCEOのMichael Gabay氏に、設立の経緯、現在の事業状況、そして未来に向けた展望について聞いた。

カメラとセンサー、AIを使って自律的な店舗運営を支援

―まず、創業までの職業的背景や、創業の経緯をお知らせください。

 私は12年ほどイスラエル国防軍に在籍し、諜報活動のための技術を開発するチームを率いていました。先端技術を使い、様々な分野の開発を行っていました。その中で私が関わった技術が小売分野に使えるのではないかと考え、兄弟(CTOのDaniel Gabay氏)と一緒に創業しました。当初はスーパーマーケットのレジに並ぶ人の列を見て、決済を楽にできるサービスができないものかと考えていました。そこでいろいろなアイデアの中から、店の天井にカメラを設置して、店内で起こる全ての出来事を追跡して役立てることを思いつきました。

 私たちの技術は、複数のカメラやセンサーとAIを使って、店内空間のあらゆる瞬間を正確にとらえることができます。最初の製品「EasyOut」は、買い物客が店に入り、好きなものを選んで店を出ると自動的に決済が終了するというものです。別の製品「EasyStock」は店舗内の商品の存在、量、場所といった在庫情報を正確に把握できます。棚の動きをリアルタイムで知ることの重要性は、この業界では計り知れません。さらに、私たちの製品は在庫をチェックするだけではなく、データ分析やマーケティング戦略の提供も視野に入れています。

Michael Gabay
Co-Founder & CEO
2005〜2016年にイスラエル国防軍に在籍し、先端技術開発チームを指揮する。2013〜2017年には、Tel Aviv Universityで経営・経済学を専攻。その間コンピュータビジョンについて研究したのち、2017年に兄弟のDaniel Gabay氏(現CTO)と共にTrigo Visionを創業。

ポイントはリアルタイムな管理、厳格な欧州のプライバシー規制にも対応

―アーキテクチャや店内での体験について詳しく教えてください。

 天井に設置したカメラは、一般的なWi-Fiを介して店舗内に設置したサーバーに接続されます。サーバーも大きなものでなく、小さなラックで十分です。また、棚に取り付けた商品の重さを量るセンサーからも、Wi-Fi接続でサーバーに情報を送ります。これらのカメラやセンサーで計測したデータを元に店内の様子を正確に捉えます。カメラもセンサーも高価なものではありません。サーバーも含めて基本的な機器で、大型のスーパーマーケットでも数日で設置できます。

 買い物客はスマートフォンで認証して入店します。カメラではその人の骨格なども含めて特徴をとらえて、その人を特定し、店内での動きを追跡します。その人が商品をかばんなどに入れると、購入リストがリアルタイムで更新され、スマートフォンアプリや無人レジのスクリーンですぐに確認できます。レジではクレジットカードや現金などさまざまな決済方法に対応しています。レジを使わずにアプリで決済を済ませることもできます。

 私たちの技術はどのような店舗の規模や業態にも適用可能です。リアルタイムでの情報把握は店舗にとって非常に価値があるだけでなく、買い物客の利便性向上にも非常に重要です。実際、一部の店舗ではこの技術の導入により、来客者数が5倍に増加しました。“リアルタイム化”は、まさにゲームチェンジャーなのです。

 また、人手不足の解消やコスト削減は世界中の小売業者の最大の問題の一つです。こうした問題を解決するために、例えば、ポーランドでは完全な無人店舗も提供しています。日本のコンビニのような店舗ですが店内には店員がおらず、スタッフはただ商品を補充しに来るだけです。

image: Trigo Vision

―欧州ではすでに多くの導入事例があるそうですね。顧客をカメラで撮影することについて、プライバシーなどの問題にはどう対処していますか。

 私たちは、世界の上位10社に入るような食品小売企業のうち5社と提携しています。欧州の規制をクリアしており、プライバシー保護に関して非常に厳格な国であるドイツではALDIやREWEに採用されていますし、フランスや英国、オランダなどでも採用実績があります。

 プライバシー保護に関しては、カメラで人の骨格や動きの特徴をとらえますが、顔のデータはぼかします。撮影したビデオを見ても誰であるかを特定できないようになっています。また、店舗と決済プロバイダーとで扱う情報を完全に分けています。たとえば、店舗側は入店した人をカメラでとらえることができますが、その人の決済アカウントなどの個人情報を知ることできません。一方で、決済プロバイダーは店内の様子をとらえたビデオを見ることはできません。完全にプライバシーを保てる仕組みになっています。

image: Trigo Vision

店舗のバックエンドだけでなく、店舗全体の管理を支援する企業へ

―御社自体はどのように成長されていますか。また、日本市場に向けた展開は考えていらっしゃいますか?

 2022年10月に1億ドルを調達し、これまで2億ドル以上の資金を調達しています。SBIグループも投資家に名を連ねています。現在私たちの技術を採用している店舗は15店あり、2023年末までに25店、今後数年で数千店規模に拡大していく予定です。欧州を中心に事業を拡大していきますが、アジアの投資家とも関係を構築し、将来的には提供地域を広めていく方針です。

 日本の小売業のリアルタイム化は非常に有益だと思います。時期がくれば、システムインテグレーターのようなテクノロジー・パートナーと一緒に日本市場にも進出していきたいと考えています。日本の小売業者の方と話をして分かったことは、正確さや堅牢性に関して非常に高いレベルの要求を持っていることです。そのため、自律型店舗に挑んだ企業でこの市場で成功しているところはまだ見られません。しかし、私たちにはそれに応える能力があります。すでに世界中のトップクラスの小売企業に提供しており、正確で安定して動作していることを示しています。

―長期ビジョンについて教えてください。

 私たちのビジョンは、買い物客に素晴らしい経験を提供することと、小売業者がより効率的になるための機能を提供することです。リアルタイムで在庫予測や従業員の管理をできる真のソリューションを提供できるツールはまだ存在しません。Trigo Visionは、店舗のバックエンドではなく、店舗そのものをよりスマートに管理できるようにすることを目指しているのです。



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