「星のエネルギーを自分たちの手で作り、10年で実現させる。これより面白いことは、他にない」。哲学の道を歩んでいた背景を持ちながら、核融合の世界に飛び込んだHelical Fusion(ヘリカルフュージョン、本社:東京都中央区)のCEOを務める田口昂哉氏は、自らの情熱をそう語る。

世界で核融合スタートアップが乱立するなか、同社の戦略は極めて実効的だ。多くの企業が「研究」のフェーズに留まる一方で、田口氏は「研究を早く卒業し、今ある技術で24時間動く発電所を作る」という商用化への最短距離を見据えている。

強みは、日本が30年以上積み上げた「ヘリカル方式」の圧倒的な技術基盤だ。世界の主流である「トカマク方式」の装置を、ゼロから巨額を投じて自作する海外勢に対し、日本国内の公的な研究実績をレバレッジに、現実的な資金規模で実用化を狙う「日本発」ならではの勝ち筋を描く。

エネルギーが無限に供給され、人間が「食べるために働く」必要がなくなったとき、人類は何を求め、どう生きるのか――。核融合を「人類最後のエネルギー革命」と定義する田口氏の野心的なロードマップを紐解く。


目次
核融合、日陰の時代から国家戦略へ
「非主流」のヘリカル方式を選んだ確かな理由
ヘリカル方式でトップクラスの日本の研究基盤
核融合バリューチェーンの国内完結も夢じゃない
「エネルギーに踊らされない時代」を日本から

核融合、日陰の時代から国家戦略へ

―創業から5年、組織はどう変化しましたか?

 創業時は研究者2名と、ビジネス側は私一人の計3名でした。当時は経理から法務まで、研究以外のあらゆる実務を一人でこなしていましたが、現在は社員40人超、パートナーを含めれば100人を超える体制へと拡大しています。

 資金面でも大きな進展がありました。設立当初は文字通りゼロからのスタートでしたが、現在は民間から約40億円、国からの補助金20億円を合わせ、総額60億円もの資金を預かっています。核融合炉が完成するまで収益を生まないというポリシーを掲げながら、これほどの信頼を寄せていただける責任の重さを、日々痛感しています。

―社会や投資家の「核融合」に対する認識の変化をどう感じていますか?

 この5年で状況はドラスティックに変わりました。創業当時は、「核融合」という言葉が一般紙に載ること自体が考えられない時代でした。「自分たちが動かなければ、この技術は日の目を見ずに終わってしまう」という強い危機感があったのを覚えています。

 転機となったのは、2023年に政府により策定された「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」です。当時、経済安全保障担当大臣だった高市早苗首相の主導で核融合は国家戦略となり、当初2050年ごろとされていた核融合の発電実証を、2030年代に前倒しする目標が掲げられました。

 これにより核融合は国家戦略へと引き上げられ、メディア露出も急増しました。投資家の間では、もはや核融合は投資対象として「目新しいもの」ではなく、現実的な選択肢へと昇華されています。

 一方で、一般社会の認知度はまだ1割にも満たないのが現実でしょう。だからこそ、単なる技術解説ではなく、社会にいかなるインパクトを与えるのかという「理解と共感」を得るための発信を、今後も真摯に続けていく必要があります。

―なぜ、これほど多くの投資家がヘリカル・フュージョンのビジョンに共鳴するのでしょうか。

 技術的基盤はもちろんですが、私たちが描く「未来の姿」に共感いただいているのだと感じます。私たちは、単に特定の分野でビジネスを成功させたいわけではありません。目指しているのは、人類にとって「最後のエネルギー革命」を日本から起こすことです。

 過去30〜40年、日本経済は低迷を続けてきましたが、ものづくりの底力は依然として世界トップクラスです。核融合は、日本が再び世界一へ飛躍するための「最も戦いやすい土俵」だと確信しています。

 現在の低いエネルギー自給率を覆し、かつての自動車産業に匹敵する巨大な新産業を創出する。この壮大なロマンと、それを実現しうる日本の技術的背景が合致したとき、投資家の方々も「自分たちもその未来を一緒に作りたい」と手を挙げてくださるのだと思います。

田口 昂哉
共同創業者 & 代表取締役CEO
みずほ銀行での法人営業、国際協力銀行(JBIC)での発電プラント輸出ファイナンス(北アフリカ、ロシア担当)、PwCアドバイザリー、第一生命での新規事業・M&Aなどを経験。金融系スタートアップCOOなどを経て、2021年10月にHelical Fusionを共同創業。一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)副会長。

「非主流」のヘリカル方式を選んだ確かな理由

―核融合発電における、ヘリカル方式の決定的な優位性はどこにあるのでしょうか。

 現在、世界では「ヘリカル方式」「トカマク方式」「レーザー方式」の3つが主要な技術として競っていますが、新たな技術的ブレークスルーを待たず、今ある知見を統合して「商用発電所」を実現できるのはヘリカル方式だけだと確信しています。

 その理由は、私たちが商用炉として掲げる「3つの絶対基準」にあります。

  • 正味発電(Net Energy):発電した電力が、核融合反応の維持に消費する電力を上回り、社会に十分な余剰電力を供給できること。
  • 定常運転:研究レベルの短時間の反応ではなく、年間を通じて24時間365日、安定して稼働し続けられること。
  • 保守性:巨大なシステムにおいて、摩耗や損傷が生じた部品を安全かつ確実に交換できる設計であること。
 この基準を満たせるのは、現状ではヘリカル方式だけです。

―「今ある技術で」という点が重要なのですね。

 その通りです。大前提として、私たちは「研究を早く卒業しなければならない」と考えています。アカデミアとしての探究に終わりはありませんが、商用化を目指すなら、どこかで研究を止め、現時点の技術をフィックス(確定)して作り上げる決断が必要です。

「30年後の新技術なら実現できる」という話は、あくまで研究の延長線上に過ぎません。今この瞬間に、商用発電所としての条件(正味発電・定常運転・保守性)を原理的にすべて満たしうるのはヘリカル方式であり、だからこそ実用化において最も「やりやすい」方式なのです。

Image : Helical Fusion ヘリカルプラズマとコイル

ヘリカル方式でトップクラスの日本の研究基盤

―日本発のスタートアップとして、海外勢に対する強みとハードルをどう捉えていますか。

 最大の強みは、日本がヘリカル方式の研究基盤と技術力で世界トップを走っている点です。よく「アメリカの核融合ベンチャーは数千億円規模の資金を調達しているが、日本は桁が違う」と比較されますが、実はその絶対額だけを見ても意味はありません。

 重要なのは、開発ロードマップの「どこに立っているか」という視点です。

  • 海外勢(主にトカマク方式):大型装置の開発実績がない企業が多く、まずは装置を作るために数千億円の資金を投じなければ、次の開発段階に進めません
  • ヘリカル・フュージョン:核融合科学研究所(NIFS)などによる大型装置の運用実績と、そこから得られた膨大な知見をベースにスタートしています。
 つまり、私たちはすでにロードマップの進んだ地点から走り出しているのです。自分たちでゼロから数千億円の装置を作る必要がなく、あと300億〜400億円程度の資金があれば、実証したいステップへ到達できる状態にあります。スタート地点が違うため、調達額の差だけで「日本は戦えない」ということにはならないのです

―資金の供給源という面では、日本特有の課題もあるのでしょうか。

 リスクマネーの供給の仕組みが、米中とは異なります。民間マネーが潤沢なアメリカや、政府が1兆円規模を投じる中国に対し、日本で数百億円単位のリスクマネーを民間だけで即座に賄うのは容易ではありません。

 そのため、私たちは業界団体などを通じて国家レベルのコミットメントを働きかけ続けてきました。その成果として、今年度(令和7年度)の補正予算ではフュージョンエネルギー関連で1,000億円超が計上されました。これにより、ようやく次の段階への入り口が開かれたと感じています。

 私たちは「研究は早く卒業しなければならない」と考えています。アカデミアの探究に果てはありませんが、商用化を目指すならば、どこかで現時点の技術を固定し、形にする勇気が必要です。

Image : Helical Fusion 最終実証装置用コイル製作マシン

核融合バリューチェーンの国内完結も夢じゃない

―すでに多くの企業や機関と提携されていますが、今後の戦略を教えてください。

 核融合エネルギーのバリューチェーンは極めて広大です。素材開発から部品加工、建設、送電、そして電力を利用するエンドユーザーに至るまで、関わりのない業界はないと言っても過言ではありません。

 私たちの提携における基本スタンスは、事業的なシナジーが見込めるパートナーと組むことです。事業会社は純粋な金融投資家とは異なり、自社の事業にどう資するかという視点が不可欠です。リソースが限られているスタートアップである私たちにとっても、事業面での協力体制をテコにした資本提携こそが、最も実効性の高い支援の形となっています。

―具体的にはどのような分野での提携が進んでいるのでしょうか。

 現時点ではまだ「製品」として売るものがないため、販路拡大を目的とした提携は限定的です。現在は「作り上げる」フェーズが肝となるため、製造や開発分野での連携が中心となっています。

 ただし、私たちは最終的にバリューチェーンのすべてを日本国内で完結させることを理想としています。核融合は国家安全保障に直結する技術だからこそ、国内の提携先を積極的に増やしていきたいと考えています。

 その布石として、2025年末には愛知県の「アオキスーパー」と、将来的な核融合エネルギーの売買に関する契約を締結しました。これはバリューチェーンの出口である「ユーザー層」との連携が、すでに始まっていることを示す象徴的な事例です。

Image : Helical Fusion Helix Programパートナリングプロジェクトのイメージ

「エネルギーに踊らされない時代」を日本から

―直近のマイルストーンと、それを実現するための課題を教えてください。

 私たちの最大の目標は、2030年代に「Helix KANATA(ヘリックス・カナタ)」を稼働させ、実用的な発電を達成することです。その重要なステップとして、2030年前後には、最終実証装置となる「Helix HARUKA(ヘリックス・ハルカ)」による統合実証を予定しています。

 この「Helix HARUKA」の完成には300億〜400億円規模の資金が必要ですが、技術面でも着実な進展がありました。2026年2月には、最重要部品である「高温超伝導コイル」を製作するための大型機械が、産業機械メーカーのスギノマシン(富山県)の協力を得て完成したことを発表しました。

 複雑なヘリカル型のコイルを、高精度かつ効率的に製作できるこの装置の完成は、実用化に向けた大きなブレイクスルーと言えます。2025年度の補正予算による後押しもあり、民間からの資金調達と技術連携をさらに加速させていく構えです。

―実用化の先、核融合が社会に浸透した後のビジョンを聞かせてください。

「Helix KANATA」が成功すれば、本格的な商用化フェーズに移行し、日本発の技術を世界へ展開していきます。グローバルで数百兆円規模のマーケットを創出し、核融合を日本を代表する新産業に育て上げることが私たちの使命です。

 ただし、核融合が既存の電源を即座に代替するわけではありません。現在の電力需要は爆発的に伸びており、あらゆる電源をフル稼働させなければならないのが現実だからです。しかし、将来的に必要な電力がエネルギー問題を引き起こさずに満たせるようになったとき、人類の在り方は根本から変わるはずです。

 これまでの人類の歴史は、ある意味で「エネルギーの確保」に踊らされてきた歴史でもありました。その制約から解放されたとき、人間は初めて「どう生きるのがいいのか」という問いに対し、自らの意志で生活様式を選び、座して考えられるようになる。そんな、エネルギーに左右されない新しい人類のフェーズを、この日本から始めていきたいと考えています。



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