中間業者の排除、レガシーシステムの刷新、そして圧倒的なスピード―。かつて金融業界を揺るがした戦略が、今、エネルギー業界に持ち込まれている。英国発のFuse Energy(フューズ・エナジー)は、発電から小売までを自社で完結させる「垂直統合」により、既存プレイヤーを凌駕する低価格と効率性を実現した。創業3年目にユニコーン評価を得ると、その約半年後には評価額が50億ドルへと跳ね上がる急成長ぶりだ。

この破壊的イノベーションを牽引するのが、共同創業者のアラン・チャン(Alan Chang)氏だ。彼は、英国が誇るフィンテックの巨人レボリュートの「ナンバー2」として、同社を世界的な成功へと導いた実績を持つ。金融業界の課題解決で大きな役割を果たした彼が次に選んだ戦場が、テクノロジーの導入が遅れているエネルギー業界。同社の戦略について聞いた。


目次
・電力業界で起こす、"レボリュート流”改革
・電力業界には優秀なエンジニアが欠けていた
・勝つために追及したシンプルな3つの条件
・創業3年目でユニコーン、売上高は前年比4倍

電力業界で起こす、"レボリュート流”改革

 私たちがフューズ・エナジーを立ち上げた時、レボリュートは50以上の市場に進出し、すでに収益性も確保した順調な成長フェーズにありました。バンキングセクターにおける主要な課題は解決されたと判断し、私たちは「より大きな社会課題」を探し始めたのです。

 そこで行き着いたのがエネルギーでした。エネルギーはあらゆる経済の基盤であり、その健全性を示す指標です。本来、経済が成長すれば一人当たりのエネルギー消費量も増えるべきですが、イギリス、欧州、米国を含む西側諸国では、過去25年間減少を続けています。一方、同時期の中国や韓国は何倍にも成長している。この停滞した現状を変えるため、既存のプレイヤーが動かないのであれば、自分たちがやるしかないと決意しました。

Alan Chang
Founder & CEO
インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)で物理学を専攻。2015年にデジタル銀行のRevolutに入社。3年でオペレーション部門のVP、6年でChief Revenue Officerに昇進後、同僚のCharles Orr氏と共にFuse Energyを立ち上げる。

電力業界には優秀なエンジニアが欠けていた

―フューズの強みは電力事業の「垂直統合(Vertical Integration)」にあることが知られています。これこそが成功の秘訣なのでしょうか。

 秘密というわけではありませんが、私たちの手法は「完全な統合」と「最高の人材」の掛け合わせにあります。伝統的なエネルギー業界は、これまでトップクラスのエンジニアを引き寄せることができていませんでした。

 新卒学生に「働きたい企業トップ50」を聞けば、銀行やコンサル、ビッグテックは挙がっても、電力会社が入ることは稀です。私たちは、大手商社やヘッジファンド、高成長テック企業から、従来エネルギー分野に関心を持たなかったような極めて優秀なエンジニアを採用しています。

 この「人材の質」を武器に、発電資産の所有から、独自のソフトウェアプラットフォームによる需給管理、そして最終的な小売(ソケット)まで、全プロセスを自社でコントロールしています。これにより、中間マージンを排除し、他社には真似できない低コスト構造とスピード感を実現できるのです。

Image : Fuse Energy

勝つために追及したシンプルな3つの条件

―創業からわずか3年で、25万世帯以上の契約を獲得し、年間売上高(ARR)は5億ドルを突破しています。この驚異的な成長の背景には何があるのでしょうか。

 公益事業(ユーティリティ)において、ユーザーが求めるものはシンプルです。「低価格」「優れた製品(アプリ・体験)」「優れたカスタマーサポート」の3点です。

価格:垂直統合によるコスト削減をユーザーに還元し、平均的な家庭で年間最大200ポンドの節約を実現しています。

製品:私たちは本質的に「デザインとエンジニアリングの会社」です。たまたまエネルギーを扱っているに過ぎません。直感的で透明性の高いアプリ体験において、市場で最高の製品を提供している自負があります。

サポート:24時間365日体制で、かつ1分以内に対応するサポートを提供しているのは、エネルギー業界では私たちだけです。

 これら3項目すべてでナンバーワンであること――「一番でなければ、十分でない」というのが私の哲学です。この3点が揃えば、消費者が他社ではなく私たちを選ぶのは当然の選択となります。

Image : Fuse Energy Fuse Energy アプリケーション

創業3年目でユニコーン、売上高は前年比4倍

―今後のグローバル展開、特に日本市場への関心について教えてください。

 日本は非常に魅力的な市場です。ご存知の通り、エネルギー市場は自由化されています。そのため、当社にとって日本は次に進出する市場の上位に位置しています。現時点では具体的な市場参入計画はありませんが、日本の現地企業との提携には非常に前向きです。

 今年の私たちの重点市場はヨーロッパとアメリカですので、日本での事業拡大の着手を考えるのは2027年初頭になるでしょう。

―今後のマイルストーンや、直面している課題はありますか?

 売上高は昨年比で約4倍の成長を目指しています。今年はマイクロソフトおよびVCのバッテリー・ベンチャーズ(Battery Ventures)と共同で、初のハードウェア製品となる家庭用蓄電池を発売します。

 最大の課題は、やりたいことが山ほどあるのに、それに応えるエンジニアの採用が追いつかないことです。私たちには、野望を追求するための十分すぎる資金があります。資本の制約はありません。問題は、この複雑なシステムを構築できる優秀な「脳」がもっと必要だということです。

Image : Fuse Energy

―レボリュート、そしてフューズ。その次に描く未来像は?

 フューズはまだ完成度の1%にも達していません。まずはこのエネルギー・システムを根底から作り直すことに全力を注ぎます。ただ、個人的にはAIやロボット工学にも強い関心を持っています。私の目標は常に、世の中に「真に役に立つもの」を作ること。エネルギーはその大きな始まりに過ぎません。



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