大量の応募書類に苦労 スクリーニングテストサービスを着想
――職歴やTestGorilla創業に至った経緯を教えてください。
私は常に起業家精神を持ち、今までのキャリアの中でいろいろなことに情熱を注いできました。TestGorillaの創業前から、妻と一緒に手作りの絨毯をオンラインで販売する社会的企業(Social enterprise)を運営しています。
絨毯は、主に発展途上国の女性たちによって作られるもので、途上国の社会課題を解決する意義のある事業です。生産は私の住むオランダからは離れた地域で行われ、私たちのチームは世界中から参加して働いています。コロナ禍で多くの企業がリモートワークをしていますが、私たちは10年前からリモートワークをしていたのです。
この社会的企業は小さな会社ですが、求人には非常に多くの応募があり、時には2000人を超える応募がありました。世界各地から履歴書が集まってきて、どのように評価したらいいか本当に苦労したのです。応募者のスキルや認知能力、性格、会社の価値観とのマッチングなどを確認できるツールを探しましたが、見つかりません。
その時、私は、履歴書の代わりになるデータを提供するサービス会社を立ち上げようと思ったのです。「この事業は、本当に人を助けることができるかもしれない」と思いました。
――なるほど。そんな経緯があったのですね。現在のTestGorillaの事業内容と、収益モデルを教えてください。
TestGorillaの中にアセスメントのテストを作成し、オンラインで候補者のスクリーニングを行います。財務、マーケティング、販売、テクノロジー、あらゆる職種に対応したテストを用意しています。アセスメントでは候補者は10分程度で回答をする、最大5つのテストで評価を行います。候補者の全体像を把握するために、さまざまな種類のテストを組み合わせることができます。
例えば、マーケティング・マネージャーを募集したいなら、マーケティングの基礎知識や、Google広告やアナリティクスに関するテスト、リーダーシップ、マネジメント能力、応募企業のカルチャーに適合するかなどが必要かもしれませんね。募集する企業独自の設問も用意できます。テスト以外にも、なぜこの会社で働きたいか、ビデオで回答した上で履歴書をアップロードする機能もあります。
採用担当者がTestGorillaにログインすると、すべての候補者の評価が一覧表示されます。企業側は評価スコアの高い人からアプローチしていけばいいのです。最初に履歴書や職務経歴書を見ると、「無意識のバイアス」が働きますが、評価スコアであれば、誰でも公平なチャンスを与えられるので、求職者にとっても良いサービスです。
収益モデルは、サブスクリプションで年会費があり、募集職種や評価の数、雇用の数を組み合わせた料金設定があります。
導入企業は6000社 バイアス減らし、企業と求職者双方にメリット
――テストを作るには、その職種の専門知識が必要だと思いますが、どのように作成していますか?また、導入企業の成功事例を紹介いただけますか。
TestGorillaには、現在約250のテストがあります。テスト開発チームのコミュニティがあり、常に成長しています。テスト開発チームには、テストに関する理論を理解し、評価テストを作るのが得意なメンバーが、各職種や専門分野のエキスパートと一緒に問題を作っています。専門家とはPythonのコーディングの専門家、セールスやマーケティングの専門家など、それぞれの職業に関連したものですね。
テスト自体の良し悪しも自分達でたくさんの研究・統計分析をして評価しています。その結果は、顧客の信頼に表れています。
例えば、ある大手コンサルティング会社では、1年間通しての応募者に対してTestGorillaでのアセスメントを実施し、統計的な分析を行いました。そして「TestGorillaの評価ランクを信じるなら、面接の30%を省略できる」という結論を出しました。面接をした人たちのうち、評価ランクの下位の3割は採用されなかったのです。
TestGorillaの顧客は6000社以上に上ります。これらの企業はより良い人材、多様な労働力を獲得することができています。先ほどもお話しましたが、企業だけでなく、求職者にとってもメリットの多いサービスです。当社のテストによって、一般的な履歴書や職務経歴書で生じるバイアスを減らすことができるのです。
例えば、非常に優秀だけれど、名前の通った学校を卒業していない、キャリアにおいて失敗したことがある、知り合いのネットワークがない、といった理由で仕事を得るチャンスのなかった人が、素晴らしい仕事に巡り合え、人生の花が開いた……というストーリーは毎日のように聞いています。
完璧な学歴、キャリア、ネットワークを持つ人は非常に少ないです。そのような人を見つけるよりも、テストによって優秀な人を見つけるほうが効率的なのです。TestGorillaによって、求職者に対して公平なチャンスをつくることができるのです。
Image: TestGorilla
1年で6倍成長 完全リモート組織でグローバル展開へ
――6000社の顧客がいるとはすごいですね。事業の成長率に加え、2022年6月に調達した7000万ドルの資金の使途をお聞かせください。
2021年5月ごろには1000社でした。1年余りで6倍に成長しています。毎時間のように新しい顧客が増えています。理由はあまり分かりませんが、おそらくTestGorillaのように新しく効果的なアプローチに取り組んでいるサービスがほかにないからです。
確かにアセスメントのサービスはいろいろあります。しかし、質の低いものも多いのです。TestGorillaは質が高く、難しいトレーニングも必要なく、すぐに使えます。顧客もそれを認識しているのです。
2022年6月にシリーズAラウンドの資金調達をしました。これからも最高のプロダクトを作ることを大事にしていきます。大企業向けの人事システムとの統合や、完全匿名での応募、プライバシー対応などの技術開発に加え、すべての業種・国や地域でテストを作るには大きな投資が必要です。
例えば、現在は英語、フランス語、スペイン語、オランダ語、ドイツ語の5言語を提供していますが、2022年の年末にかけて10言語に増やすかもしれません。その中には日本語もあります。新しい言語の国に展開するのは大きな投資です。
従業員は85名ほどですが、チームはグローバルで完全リモートワークですので、世界中から応募があり、おそらく、30カ国ぐらいにメンバーがいます。
Image: TestGorilla
――御社自体が世界中の人材を採用しているんですね。ところで、日本に拠点を作ったり、パートナーを募集したりする計画はありますか?
TestGorilla自身がTestGorillaの良い成功事例のひとつですね。私たちの事業は、フルリモートで展開していますので、東京に支社を作ることは当面考えていません。
事業モデルもパートナーシップに基づいたものではありません。しかし、人材紹介会社やヘッドハンター、求人サイトが私たちのサービスを見つけ、彼らの事業プロセスに使用されることを予想しています。もし彼らがTestGorillaを利用すれば、彼らが提供する価値も向上するでしょう。
――最後に、長期的なビジョンと、読者へのメッセージをお願いします。
世界は今、古い採用方法から大きくシフトしていると考えています。履歴書・職務経歴書はもちろん、ソーシャルメディアなどでも知り合いのネットワークベースの採用もありますが、そのようなスタイルから、スキルに基づく採用にシフトしていくと思います。
私たちは、採用におけるスキルへの大きなシフトをリードしていきたいと思っています。完璧な履歴書を持つのは上位5%程度です。残り95%の人たちには公平なチャンスが与えられていません。スキルへのシフトで状況が改善されると思います。
私がよく話す例え話ですが、1950年代は車に乗る時にシートベルトをつけていませんでしたね。子供の前でも平気でタバコを吸っていました。今の常識ではとてもクレイジーですよね。採用も同じです。
将来私たちの子供たちも「え、昔は職務経歴書を見て採用していたの?」と言うようになるでしょう。履歴書やソーシャルメディアに基づいた採用は過去のものです。読者の皆様へ、TestGorillaを試して、この新しく公平な仕組みでより良い採用、雇用が生まれることを実感してほしいです。