Image: petovarga / Shutterstock
音声認識技術をベースに家庭内の電気機器のモニタリングサービスを開発し、電力・ユーティリティ企業を通じて一般家庭向けに展開するSense(本社:米マサチューセッツ州ケンブリッジ)。スマートメーターへの切り替えの波に乗り、利用者を拡大中という同社のインターナショナル・マネジング・ディレクターのMichael Jary氏に、事業概要や将来展望を聞いた。

音声認識技術を、電気製品や送電網のモニタリングに応用

――これまでのキャリアや、Senseにジョインされた背景をお聞かせください。

 私の専門は、エネルギー業界の戦略コンサルティングです。最初に勤務したブリティッシュ・ガスで戦略を担当し、英国でもう一つ大きなエネルギー供給企業SSEではコネクテッド・エネルギーやスマートホーム・ビジネスの構築を担当しました。エネルギー関連IoT・AIに関連したスタートアップのVervでマネージング・ディレクターを務め、さらにその後ドイツの大手エネルギー会社のデータ活用などにも取り組み、Senseに入社しました。

 当社CEOのMike Phillipsが率いる創業チームは、実は音声認識の世界からSenseをスタートしました。PhillipsはMITの研究科学者で、音声認識の開発に貢献した人物です。彼らは、音声の波形が電気的な波形に似ていることに気づき、それをエネルギー分野に応用したいと考えたのです。

Michael Jary
International Managing Director
ブリティッシュ・ガスで、戦略プロジェクト責任者などの職務を経験。電力・ガス事業を展開するSSEでは新規事業部門(スマートホーム、IoT)の立ち上げに関わる。その後IoTエネルギー技術に関連したVervやエネルギー業界向けのコンサルティング企業Energy Tech Consultingを経て2020年にSenseに入社。ヨーロッパ、中東、アジア太平洋地域でのビジネス構築と成長をリードしている。

 音声認識は単語を示す音に含まれる固有の特徴を探します。Senseでの電力のモニタリングも同じような技術を使います。たとえば、電気製品の電源が切れたり、エアコンの電源が入ったりしたときの電気波に含まれる固有の特徴を捉え、電力消費量を判断できます。

 また、家庭内の電気製品や送電網の故障の発見もできます。このモニタリングソフトウェアはスマートメーターに組み込んで動作できるので、さまざまな提案が可能です。スマートメーターへの移行を加速する上でも重要な役割を担っています。

――音声認識の波形分析技術を応用して電力や機器の故障を判断するとはユニークですね。製品・サービスの仕組みについて詳しく教えてください。

 基本的には、スマートメーター上で当社のソフトウェアを動作させます。自社製のスマートメーターを提供しているわけでなく、ソフトウェアを提供するだけです。したがって、私たちのテクノロジーは非常にスケーラブルで、何百万という家庭に一気に展開することができます。なぜなら、スマートメーターは今後どんどん導入されていくことが決まっているからです。

 エネルギー転換の実現には、できるだけ多くの家庭にインパクトを与える必要があると考えています。スマートメーターに組み込んだソフトウェアが電気信号をモニタリングして、家庭内の電力や機器、送電網に何が起きているかを学習していきます。消費者はスマートフォンアプリで自宅のどんな家電製品が電力を使っているかをリアルタイムに把握し、過去の利用状況も確認し省エネに役立てることができます。機器のスイッチの消し忘れや高齢の家族などの見守りなど、安全で安心な家庭のためにも利用できます。

消費者には無料 電力会社にはサブスクリプションと成果報酬モデルで提供

――消費者だけでなく、電力会社にもメリットはありますか。

 はい。このようなモニタリングの取り組みは、電力会社などのユーティリティ企業にもメリットがあります。エネルギー供給会社や送電網の運営会社の都合に合わせて、エネルギー消費の調整がしやすくなるのです。電気自動車や電化された熱源、分散型・集中型の自然エネルギーによる供給によって電力供給が変動しているため、送電網管理のコストが高騰しています。そこで、電力会社に代わって、電力網のバランスを取るために必要な消費量を調整するのです。

 送電網をより適切に管理してコストを抑え、停電や急激な消費が発生しないようにできます。さらに、草木が送電線にぶつかっていないか、変圧器が腐食していないかなど、送電網の不具合や故障箇所を特定することもできます。

 エネルギー供給会社がより効率的にエネルギーを購入できるような支援も可能です。天候と需要、家電製品が互いにどのように作用しているかを理解することで、電力購入の効率化を図り、より正確に購入できるようにし、供給マージンも改善します。電力会社の利益率向上に貢献できれば、消費者の負担を下げられる可能性もあります。

image:Sense

――ビジネスモデルはどのようになっていますか。また、同じような取り組みをしている競合はいますか。

 できるだけ多くの消費者にこの恩恵を受けてもらいたいので、このサービスは消費者に無償で提供しています。私たちの収入源は、電力会社へのサブスクリプションサービスとパフォーマンスベースの成果報酬型サービスで成り立っています。消費者が電力使用を気にかけ、送電網のバランス調整に協力するように促します。

 平均的な消費者は約9%のエネルギーを節約し、より熱心な消費者ならさらに節約しています。エネルギー供給会社は、より高いマージンで顧客を獲得し競争力を高めることができます。私はエネルギー業界の戦略コンサルティングを行なってきましたが、これからのエネルギー供給会社は、サービスの差別化で競争をしていく必要があると考えています。

 私たちは直接の競合他社はいません。家庭内電力のモニタリングなどを行う企業もありますが、クラウドで解析するため、1分値やミリ秒単位といった低解像度の波形データを活用しなければなりません。そのため、家電製品の特定とリアルタイムでのオン・オフを検出できず、グリッド側の異常も検知できません。低解像度のデータを使う企業は電気代の20%は暖房、30%はキッチンなど、機器単位での把握ができません。

 一方、私たちのサービスなら、食器洗い機が5%、床暖房が7%消費したなど、機器単位でわかるのでより柔軟に反応できます。処理はスマートメーター上で行うためリアルタイムです。

image:Sense

メーターメーカーと連携しながら市場を拡大し、CO2削減とエネルギー転換に貢献

――スマートメーターの普及に従って、事業も拡大していくのでしょうか。

 世界最大のメーターメーカーであるLandis+Gyrと提携しており、北米で約350万台のスマートメーターで稼働しています。すでにニューヨークとマサチューセッツではスマートメーター上で私たちのサービスが稼働しています。そして今後、アメリカの新しいスマートメーターの半分近くが、今後私たちのソフトウェアを搭載して展開されることになるでしょう。

 日本では、2025年度から次世代スマートメーターが導入されると聞いています。そこで、日本の家庭向けにも、電力会社やメーターメーカーと協力して、私たちのサービスを提供する絶好の機会だと考えています。まだ日本に拠点はありませんが、近い将来進出します。日本の規制当局や政策立案者は、非常に前向きで、いくつかの条件を満たせば参入できると思っています。日本の電力会社など、ユーティリティ企業の方々とお話をし、どのような支援ができるか議論したいとも考えています。

――多くの国の人々が光熱費の高騰に悩まされていますし、私たちはエネルギーコストやエネルギー消費を削減したいと考えています。このような取り組みには御社のサービスが欠かせないと思います。長期的なビジョンについてお聞かせください。

 私たちのモチベーションは、世界のCO2排出量の削減と、それに密接に関連するエネルギー転換の加速です。私たちのサービスを多くの家庭に普及させれば、世界のCO2排出量を2~4%削減できると考えています。また、家庭からのCO2の排出を抑えるだけでなく、自然エネルギーの導入を加速し、熱や輸送の電化、分散型発電やその他の分散型エネルギー資源の普及を促進することが必要です。北米、ヨーロッパ、中東、日本を含むアジア太平洋地域にも同じように利益をもたらすことができるでしょう。



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