BtoB向けIoTソリューション
―御社はIoT分野のスタートアップだそうですね。
IoTというと、BtoC向けビジネスを思い浮かべる方が多いと思いますが、私たちはBtoB向けのビジネスを展開しています。具体的には、事業用不動産の天井にセンサーネットワークを設置してデータを取得し、電力消費を削減したりビッグデータ分析をすることができます。
事業用不動産というのは、地球上で最も規模の大きい資産です。その広さは、世界中で約4000億スクエアフィートあり、非常にポテンシャルの大きな市場なのです。当社は今年1600万ドルを売り上げましたが、来年はその2、3倍に伸ばすつもりです。
―どうやって電力コストを削減するのですか。
まず天井のライトにセンサーを取り付けて、施設内のデータを収集して、クラウドへデータを送信します。集めるデータとしては、光、温度、エアコンの利用状況、人々の動きなどです。お店ならば商品の設置、売れ筋商品、行列の理由などのデータ。オフィスならば利用されているスペース、セキュリティにおいてどこに人がいるべきかなど、いつでもリアルタイムでデータを収集し続けます。
このデータ収集の豊富さは、今までにない新技術によって実現しています。そして集めたデータを解析し、自動で電気や空調をコントロールすることで、平均70%の電力コスト削減が見込めるのです。米国ではすでにAT&T、Googleなどが導入しています。
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初期費用ゼロのファイナンススキーム
―約70%とは大幅なコスト削減効果ですね。
その通りです。ただ、導入にあたって難点がひとつあります。それは施設内の天井に私たちのセンサーを取り付けなければいけないということです。それには莫大なコストがかかります。大規模な企業であれば、何十億円という設備投資額になるでしょう。初期投資が高額だと、顧客の導入のネックになります。
そこで、私たちは新たな画期的なファイナンススキームをつくりました。私たちは顧客にシステムの導入資金を提供し、3年から10年にわたって電力コスト削減額の一部を受け取るというスキームです。つまり顧客は初期投資の負担がなく、自社の持つ全てのビルに、私たちのサービスを導入できます。リスクなく電力コスト削減と、施設内に関するデータの恩恵を得ることができるというわけです。
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ビッグデータ活用で労働効率UP
―集めたデータは、電力削減以外でも活用できそうですね。
私たちの集めたデータは、別の新たな価値も生み出します。労働効率とセキュリティの向上です。ひとつ例を紹介しましょう。ある病院のCEOが、私たちのサービスに大変興味を持ってくれました。それは電力コスト削減だけが理由ではありません。彼が抱える3つの問題を解決できる可能性があるからです。
1つ目の問題は治療器具の配置。実は、看護師は治療器具を探すために、毎日1人1時間も使っていました。毎日1時間、つまり労働時間の12.5%ですよ。これは労働時間が無駄なだけでなく、看護師のモチベーションにもかかわります。これは私たちの器具の追跡機能で解決できます。
2つ目の問題は、治療行動の記録。患者の治療にあたっては政府の定めた条例と病院内のマニュアルを遵守しなければいけません。たとえば、この種類の病気の患者の場合、1日に2回は医師が様子を見に行くとか、看護師が薬の投与のために1日に5回行くなどです。しかし、これまでそういった行動を効率よく記録するツールがありませんでした。私たちのサービスにより、病院全体で完了した行動と次にすべき行動をチェックできるようにできます。
3つ目の問題は、見舞い客の案内。皆さん経験があると思いますが、だいたいの見舞い客は、病室の行き方がわかりません。そのため病院のスタッフは、見舞い客の案内に多くの時間を費やしているのです。また、病院内はセキュリティにも配慮しないといけません。病気の感染やプライバシー侵害などのリスクを避けるためにも、見舞い客を正しい場所に案内する必要があります。私たちのサービスならば、病院内のGPS機能により、見舞う患者がどこにいるかをすぐわかるようにできます。
―たしかに大幅な労働効率向上につながりそうです。
もうひとつ例を挙げましょう。McKessonは米国最大の医療・製薬サービス企業です。あまり一般に知られていませんが、米国の病院などに医薬品の販売をしています。2015年のFortune500の11位にもランクしている大企業です。
McKessonのCFOに私たちのセンサーの話をすると、彼は非常に興味を持ってくれました。私たちのサービスを使えば、施設の隅々までリアルタイムに、スペース・時間の利用率がどれくらいか、どこで誰が何を利用しているかがわかる。これは驚くべきことだと。というのも、彼らの持っている3500万スクエアフィートの世界中にある施設がどう管理されているかというと、専門のスタッフを雇って施設内を歩き回って、1日に3回のデータを取得しているんです。でもそんなことをする必要はありません。私たちのサービスを導入すれば、人を雇わなくても、自動で24時間、データを取得し続けられます。そのデータをもとに、施設の活用法や運用に関する意思決定ができるようになるのです。
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10年後に売上1000億ドル以上。人生最大のチャンス
―Joeさん、あなたは多くのハイテク企業でCEOを務め、成功に導いてきました。なぜEnlightedのCEOに就任したのですか?(編集部注:CEOのJoe Costello氏はFounderではなく、2014年にCEOに就任した)
私はもともとポテンシャルある企業の成長を助けたいと考えていました。ただ、私は外から投資するだけというより、企業の中に入って成長を支援したい性分。そんなとき、Enlightedに出会いました。技術もいい、アプローチもいい、でもオペレーションがうまくいかず事業成長が滞っていたのです。スタートアップというのは、時に企業成長に通じた人が必要なときがあります。私はIoTについて10年以上考えてきましたし、スタートアップの経営についても経験があります。最初、4ヶ月間だけピンチヒッターでCEOとして手伝ってほしいと言われ、それを承諾することにしました。
短期間のCEOとして動く中で感じたのは、これは今までの人生でもっとも大きなチャンスではないかということでした。私自身、今までオラクルのボードメンバーだったこともありますし、マクロメディアのボードメンバーだったときは、アドビシステムズに買収されるという大型案件にも立ち会いました。今回の仕事はBtoBで複雑ですが、非常に可能性があり、自分でやってみたいと心から思いました。そこでボードメンバーに「このままCEOをするよ、いいだろう?」と伝えたのです。その伝達をした直後、私がCEOに就任するということで、VCから追加の資金調達も決まりました。
―Enlightedに大きな可能性を感じているとのことですが、どれくらいの売上規模が期待できるのでしょうか?
先ほど事業用不動産は世界で4000億スクエアフィートあるとお話ししました。10年後に、そのうちの1000億スクエアフィートにセンサーが導入されるとして、おおよそ1000億ドルの売上が見込めます。さらに施設の資産追跡セキュリティのサービスも年間1000億ドルの売上が期待できます。しかもこちらのほうが利益率は高くなります。参考までにですが、ビルの清掃サービスは、1スクエアフィートあたり年間1~2ドルが相場です。私たちのサービスは、それと同等以上の価値があるだろうと思っています。
まだ信じられない売上規模に聞こえるかもしれませんが、そもそも事業用不動産というのは非常に規模が大きいものです。だから市場も非常に大きいのです。誰もこのビジネスを手がけてこなかった。そこにチャンスがあると確信しています。
日本、中国展開は必須
―グローバル展開、特にアジア市場についてはどう考えていますか?
成長スピードを速めていくためにもグローバル展開は必須です。米国国外には、米国の3倍の大きさの市場があります。ここでシェアを取れなければ成長はない。
アジアでのターゲットは、日本と中国です。日本市場で、すでに私たちは2つの導入事例があります。日本ではセンサーの取り付けについて、米国と基準が異なることが多く、認可をとるなどの障害があります。一方、ソフトのローカライゼーションは比較的簡単です。データは世界共通だからです。
日本展開においてパートナーは必須です。大規模な商業施設を持つデベロッパーなどと組むことができればいいですね。
―中国展開についてはどうでしょう。
中国は電気代が高く、1キロワットあたり20セントです。ものすごく削減効果が見込めます。参考までに米国の電気代は世界一安く、電気代は1キロワットあたり5セント。世界で2番目に安いのはフランスで、これは原子力発電のためです。1キロワットあたり7セントです。
また、中国はセンサー設置のための人件費も安い。米国では安くても1回の設置に60-70ドルかかりますが、中国はわずか5ドル。信じられないほど人件費が低い。センサー設置費用が非常に低く抑えられます。
さらに、米国では新たな事業用不動産の建設はそれほど見込めませんが、中国をはじめアジアは、世界有数の建設ラッシュエリアです。アジアには米国以上の可能性を感じており、ぜひこれから挑戦していきたいですね。