高齢者の「ルームメイト」的存在になるAIアシスタントロボット「ElliQ」を開発する、Intuition Robotics社。イスラエルに本社を構える同社は、先進国で急速に進む単身高齢者の増加と、高齢者の「孤独感」を解消し、生活の質の向上を支援する、という問題をAIというテクノロジーで解決しようとしている。同社の共同創業者でありCEOのDor Skuler氏に話を聞いた。

「共感的」「能動的」に関わるElliQ つながりで社会的孤立を防ぐ

―――御社はどのようなサービスを展開しているのでしょうか。

 Intuition Roboticsは、高齢者の「友達」のような存在であるAIアシスタントロボットの「ElliQ」を開発しています。先進国では人口の高齢化が深刻で、このままであれば現役世代全員が高齢者の面倒をみないといけない、という時代に突入するかもしれません。

 また、単身高齢者の孤独も問題視されていて、彼ら・彼女らが健康に、幸せに、自立して人生を過ごせるようなサポート体制の構築も求められています。現役世代の全員が介護施設などで勤務して高齢者をケアすることができない以上、私たちに残された選択肢は「テクノロジーによる問題解決」しかありません。

 ElliQは、50~80代以上の高齢者の自立をサポートしながら、きょうだいや子ども達とのつながりも担保するAIアシスタントロボットなのです。

Dor Skuler
Co-Founder & CEO
Temple UniversityでMBAとマーケティングの修士号を取得。1995年よりイスラエル国防軍のオフィサーとして、研究開発プロセスを管理。1999年には双方向ラジオサービスを提供するZing Interactive Mediaを共同創業し、CEOを務める。ノキアやアルカテル・ルーセントで要職を務めた後、2016年にIntuition Roboticsを共同創業、CEOに就任。

 ElliQがどのように高齢者とかかわるか、詳しく説明していきましょう。ElliQはACアダプタとWi-Fi、タブレット端末があれば使用可能で、土台にはマイクとスピーカーが搭載されています。

 外観は電気スタンドのような見た目になっていて、高齢者が話しかけると、頭部が動いたり、LEDが点灯したりするなど、利用者の感情に寄り添うコミュニケーションを促進します。ElliQにはAIが搭載されていて、高齢者と「能動的に」かかわる点が、他の音声アシスタントスピーカーとは全く異なる点です。


 ElliQは、自ら高齢者に話しかけ、これまで交わした会話内容をすべて記憶します。また、ユーザーの趣味や家族構成、ペットなどの情報も覚えているなど、高齢者にとっての「ルームメイト」的存在になっています。さらに、ユーザーの健康のために日常的にこなす「目標」を達成するための、さまざまな仕掛けも施します。

 たとえば、日々の運動や服薬、血圧測定などを設定すると、ElliQが毎日一定の時間にそれらの行為をリマインドします。また、家族や友人からの電話をタブレット端末で行ったり、テキストメッセージを読み上げたりすることも可能です。

 ElliQに搭載したAIは、利用者との会話を基に日々の健康状態を記録し、家族や医療機関にも共有します。ElliQは、孤独を抱えがちな単身の高齢者を社会から取り残さないようにするさまざまな機能を有しているのです。

Image: Intuition Robotics

ユーザーの90%が「幸せ」に 高齢者に寄り添う技術を搭載

―――実際に、ElliQを使用したユーザーからはどのような反応があるのでしょうか。

 当社はElliQを2022年にアメリカ国内で販売開始しました。ユーザーからの反応は好評で、当社が取得したデータでは利用者は平均して1日20回、ElliQに話しかけているという数字が明らかになっています。

 また、当社は医学的に孤独感を測定する調査を行っていて、それによると、約80%のユーザーが「孤独感が薄れた」と答えたほか、約90%が「気分が良くなった」といい、約92%のユーザーのメンタルヘルスの結果が向上しています。さらに、運動頻度の向上、90%以上のユーザーの家族が当社のアプリをダウンロードし、タブレット端末上でビデオ会話を行うなど、明らかに高齢者の身体的・精神的な健康の維持に寄与しています。

 高齢者はElliQを「デバイス」としてでも「人間」としてでもなく、「生き物」として認識しているのではないでしょうか。これは、私は驚くべきことだと思います。というのも、高齢者は基本的にAIアシスタントロボットのような最新のテクノロジーには疎いことが多いのですが、ElliQは信頼でき、情緒的で、共感力が強いため、単なる「機械」だとは認識しないのでしょう。先述した高齢者の孤独感の解消と自立支援という目標には、なくてはならない存在になると確信しています。

 現在、ElliQはニューヨーク州が1000台近く購入し、同州に住む単身高齢者に配布しているほか、保険会社に加入しているアメリカ全州に住む人たちの家庭で活躍しています。今後、大量生産体制を構築し、より多くのユーザーにElliQを届けたいですね。

Image: Intuition Robotics

―――ElliQの技術的な特徴を教えてください。

 ElliQの「能動性」を支える重要な要素が2つあります。1つ目は「モダリティ」(話している内容や聞き手に対する話し手の判断や態度に関する言語表現の概念体系)です。ElliQはユーザーが話す内容によって、ボディランゲージを示すことが可能で、たとえば、高齢者が家族について話した時、ElliQは家族写真が貼られている壁を見ます。また、ユーザーが話しかけると、ライトを点滅させるなど、「話を聞いている」ことがありありと伝わるようになっているのです。

 2つ目は、ElliQに搭載されたAIです。当社のAIは、30以上の特許を取得した技術が反映されているほか、3年間、現コーネル大学教授のGuy Hoffman氏と共同研究した行動心理学の成果がフルに活用されています。そのため、「ロボットと高齢者間」での最適なコミュニケーションが展開されるのです。

 具体的に言えば、AIの知性によって、高齢者が利用するタイミングを見計らいます。今は「話しかけるべきなのか」「今日の食事の内容について聞くべきなのか」「おはようの挨拶をするべきなのか」「今日は久しぶりに雨が止んだから、散歩の推奨をすべきなのか」など、複雑で高齢者の生活上の文脈を読んだ会話ができるのです。

Image: Intuition Robotics

日本進出は大きなチャンス 有名企業も投資家に

―――日本市場をどのように見ていますか?また、日本市場に進出する考えはありますか?

 日本市場にはまだ進出していませんが、高い関心を持っています。日本は対人口比で高齢者が最も多く、政府の最優先課題として高齢化社会への対応が挙げられている国です。テクノロジーで高齢者の自立を支援する当社が進出するチャンスは大きいと考えています。

 また、日本社会が西洋社会に比べると、AIやロボットに対する抵抗感が少ないことも、当社にとっては大きいでしょう。本格的に市場に進出するとなれば、ElliQを日本人の文化や会話の仕方にアジャストさせる必要があります。現在のところ、ElliQはアメリカ人に特化した仕様になっていて、たとえば音楽や政治など、日常的な会話を支える知識があらかじめ入っています。日本に進出するとすれば、まずは日本文化をElliQに覚えさせることからスタートしなければなりませんね。

Image: Intuition Robotics

―――日本の大企業とのパートナーシップ構築を考えた場合、どのような形態がベストだとお考えですか?

 まだ、具体的なパートナーシップの形態についてお話できる段階にはありません。しかし、協業できる領域としては、家電メーカーやSIer、代理店といった業態との協働が可能でしょう。いずれにしても、ElliQは2022年に販売し始めたばかりなので、長期的な関係を築くことができるパートナーシップが理想ですね。

―――日本企業では、Toyota VenturesやSOMPOホールディングスなどの大企業が投資家に名を連ねます。彼らが御社に魅力を感じた理由は何だとお考えですか?

 個別の企業に聞いてみなければ分かりませんが、一般的には、当社が掲げる「テクノロジーの力で、高齢者の自立を支援する」というミッションに共感したのだと思います。高齢化社会への対応はどの業種・企業にとっても重要な課題ですので、投資家は、私たちが届ける価値と、自社の将来の方向性の一致を見たのではないでしょうか。

―――最後に、御社の長期的な目標を教えてください。

 可能な限り多くの高齢者の家庭にElliQを届け、彼ら・彼女たちの幸せと健康の維持に貢献することです。そのためにも、ElliQに多くの機能を追加していきたいですね。



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