6人の精鋭パートナーが4分野に特化して投資
――まずUSVPにの戦略と実績を教えてもらえますか。
USVPはシリコンバレーにおいて、最も歴史があるVCの1つで、2021年に設立40周年を迎えます。VCの歴史を描いた「Something Ventured」というドキュメンタリー映画をご存知でしょうか。この映画の中で、2016年に亡くなったUSVPの創業者ビル・ボウズがインタビューを受けています。
これまでに500社に対し約40億ドルの投資を行い、89社がIPOしています。当社は、シードまたはレイターステージではなく、シリーズAに限定して投資を行っています。投資先には、Ciscoの一部となった会社やSun Microsystemsなどから、企業価値が約150億ドルになったGuidewireなど、成功し大企業に育ったスタートアップが多いです。
――4分野に限定し、投資先を吟味しているのですね。
そうですね。企業を厳選し、本当に価値がある企業にのみ投資しています。VCは、特定の分野で経験を多く積み、市場を本当の意味で理解していなければ務まりません。私たちにとってVCとはアートです。パートナーが個人的に関与を深めなければうまくいかないアートなのです。
過去10年間に、多くのVCが、増員や自動化することで規模の拡大を試みてきました。この試みは、短期的にはうまくいくケースもあるかもしれませんが、長期的には難しいと私は見ています。
――アメリカのスタートアップだけでなく、イスラエルのスタートアップにも投資していますね。イスラエルスタートアップへの投資はBenkoskiさんが主導しているのですか?
私はイスラエルに住んだことがありヘブライ語も話せますので、他のアメリカのVPよりイスラエルスタートアップを理解できますし、支援できると思います。
しかし、USVPは私が加わるかなり前からイスラエルスタートアップに投資しています。例えば、セキュリティ製品を手掛けるCheck Point Softwareにも投資しており、イスラエルへの投資は非常に早い段階から行っています。
これはなぜかと言うと、当社は企業がアメリカで成功するための支援を提供しており、イスラエルスタートアップの多くは設立時からアメリカ市場にフォーカスするからです。ヨーロッパのスタートアップも非常に優れていますが、彼らはまずはヨーロッパ市場での展開を目指すので、当社の対象になりません。
私たちはイスラエル企業にアメリカで一緒に働いてもらいたいと考えていますし、アメリカ国内で彼らを支援しますので、戦略的にイスラエルにオフィスを設けていません。もちろん、我々が投資をする前段階でイスラエルのスタートアップにシード投資をするファンドとのコネクションは持っています。
短期間で市場は学べない。市場にインサイダーとして長く携わる
――投資するスタートアップをどう選んでいますか。
スタートアップが成功するためには目指している市場が適切で、チームに適任者が揃っており、適切な技術を持っていることが大事です。この3つの要素が全て揃っていると理想的です。
次に、この3つの要素のバランスが重要になります。3つ揃っていない場合は、非常に強い2つの要素があることが望ましいです。例えば、素晴らしいチームを構築していて、解決するべき面白い問題がある市場を狙っていれば、最初は技術が十分でなくても、優秀なエンジニアチームがいて将来性を示しているスタートアップは最終的にうまくいくので、当社はリスクを取り投資します。
また、素晴らしいチームで、素晴らし技術を持っているのに、狙っている市場が良くない場合は、別の市場で展開できると想像できますので、投資します。当社はシリーズAに投資しているので、既存顧客がいる場合が多く、私たちは、その企業がフォーカスしているのが本当に解決するべき問題なのか、顧客からのフィードバックも重視しています。
――あなたが誇りに思っている投資事例と、後悔している事例を教えてもらえますか?
皆さんに興味を持っていただけそうなのは、医療機器のサイバーセキュリティマネジメントサービスを提供しているMedigateですね。最近日本でも販売を始めました。
さらに、ヘルスケアへの攻撃が非常に増え始め、銀行などへの攻撃よりヘルスケア事業者が受ける攻撃の方が多くなりました。サイバーセキュリティは金融分野だけでなくヘルスケア分野でも「問題」を抱えていることがわかり、投資に至ったのです。
後悔している事例は、クリーンテックへの投資です。約10年前、私は浄水システムを開発していたイスラエルのスタートアップに投資しました。浄水市場に詳しくなかったので、投資を決めるまで1年間かけて市場を学びましたが、結局その会社は完全に失敗してしまいました。
この時、1年では市場を学べないことを痛感しました。自分自身がインサイダーとして長年関わらない限り、本当の意味で市場を理解することはできません。市場のアウトサイダーが投資するのは危険です。数年前に農業分野のスタートアップへの投資を検討したことがあります。理解できそうな市場だと思いましたが、本当の意味で理解できていないと判断し、農業分野には一切投資していません。
自分の時間の6割を投資先企業のために使う
――良いVCには何が必要だと思いますか?
VCは、2つのグループに分かれていると思います。事業経験のある人と、ファイナンス経験のある人です。どちらのグループにも成功している人がいます。事業経験がないと成功しないということはありません。事業経験がありながらVCとして成功していない事例もたくさん見てきました。
VCとして成功できる「魔法の公式」はありません。他の仕事よりも業務の幅が広く複雑な仕事ですし、非常に難しいビジネスだと認識することが重要です。企業のCEOは一つの会社に集中できますが、VCは違います。常に新しい企業を見て、新しい技術を把握しなければなりません。
そして、既存の投資先企業のために多くの時間を割く必要もあります。私は自分の時間の6割を投資先企業のために使っています。彼らと話をし、幹部の採用面接を手伝い、顧客の紹介や、ビジネス開発のチャンスを創出しますし、次の資金調達に向けてVCを紹介するなど、かなり多くの仕事があります。他にも、投資家の方々に満足していただき、継続的に投資していただけるようコミュニケーションを取る必要があります。こうした仕事に加え、USVPも1つの企業ですから会社経営もしなければなりません。
起業家として成功した人や、金融分野で成功した人で、自分は自頭も良いからVCになれると考える人が多いのですが、VCとして成功することの難しさを過小評価していると思います。統計的に見ると、ほとんどのVCが成功していません。
VCの仕事はスタートアップのお手伝いをすることです。これを理解し、忘れないでください。毎朝、私は目が覚めた時に「USVPの利益を上げよう」と考えるのではなく、「良い会社を創るためにどんな支援ができるか」と考えます。素晴らしい企業を作れたら、いずれ利益を生めます。いつになるかわからない、方法もわかりません。しばらく辛抱することが必要ですが、いずれうまくいくのです。
Image: USVP HP
――シリコンバレーではCVCも増えています。アドバイスはありますか。
CVCであっても、エコシステムの一部になることが大事です。そのためには、エコシステムのルールに従い、できる限り他のVCと同じように振る舞わなければなりません。USVPやその他のVC、そして起業家と同じように活動してください。
CVCは、会社の戦略的利益を優先していることは誰もが知っていますが、それを全面に出していては評判が悪くなります。そうすると、投資に誘われなくなります。私たちVCのやり方を理解して合わせることが重要だと思います。
CVCの場合、スタートアップからはその会社の既存事業の文脈で見られます。しかし、価値を生み出すイノベーションは、既存事業に関係するものばかりではありません。今は関係がない技術や企業が後に大きな影響を与える可能性ももちろんあります。
CVCが既存事業とは関係がない領域もみたい場合、CVCとして直接投資を行いつつ、既存事業と直接関係がなさそうなベンチャーファンドにLPとして参加するというハイブリッドなアプローチも良いと思います。自動車メーカーのCVCであれば、自動車業界のスタートアップへ直接投資する機会があるかもしれません。しかし、自動車業界以外の投資案件は直接誘われることはないでしょうから、LPとしてVCを通じて出資するとよいと思います。
世界一を目指すなら、アメリカでナンバーワンになれ
――日本のスタートアップが御社から投資を受けることは可能ですか?
そのスタートアップが、最初からアメリカ市場に集中するのであれば可能です。日本市場での展開を目指すのであれば、当社が支援することは難しいです。
――日本市場とアメリカ市場はかなり違いますので、日本市場で成功しても、アメリカ市場で成功するのは難しいでしょうか?
難しいと思います。テクノロジー分野で世界一になりたいのであれば、アメリカで一番になることです。日本で一番になるのも、ヨーロッパで一番になるのも、素晴らしいことですが、世界一ではありません。
特定の地域に特化して素晴らしい会社を作ることはできます。特に日本にはアメリカにはない、独特のニーズがあります。市場としても十分な規模があるので、そのニーズに応える会社を作り、日本国内で株式公開し、日本国内で売却することができます。アメリカで展開する必要はありません。しかし、世界で一番になりたいのであれば、アメリカで一番になる必要があります。
――御社のファンドに参加している日本の投資家はいますか?
今はいませんが、当社は、オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカと韓国など、多様な地域から投資家を受け入れていますので、日本の投資家も歓迎します。世界中の投資家をファンドに受け入れることで、私たちも世界で起きていることを知ることができます。