キャナルベンチャーズ 代表取締役
保科 剛
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リクルートストラテジックパートナーズ Senior Vice President(Head of India and Business Success)
松田 仁史
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元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長
武鑓 行雄
[モデレーター]
早稲田大学ビジネススクール 教授
東出浩教
※本コンテンツは「Ishin Startup Summit TOKYO 2019」の内容を再構成したものです。
※【告知】2019年6月、「インド×日本のコラボレーション」をテーマにした招待制サミットをインドのバンガロールで開催します。ご興味ある方はサイトよりお問い合わせください。
シリコンバレーで経験を積んだインド人が母国で起業している
東出:みなさんのこれまでの経験をもとに、インドで将来こんなことが起こるというイメージを教えてください。
保科:私がシリコンバレーに行くようになったのは、1990年ぐらいです。その頃はまだシリコンバレーでのインドの方の比率は高くはありませんでした。それが2000年ぐらいを契機に比率は上がってきました。スタンフォードやUCバークレーを卒業した方が増えてきて、アマゾン、グーグルで働く方も増えました。
私がインドと深く関わるようになったのは2年前からですが、インドのスタートアップやエンジェル投資家の方と会うとみなさん、アメリカを経験されています。シリコンバレー近辺の大学を出て、グローバルIT企業でそれなりの地位で働いていました。シリコンバレーで勉強ができたので、今度はインドのためにひと働きしようと戻ってきて起業しています。海外とのネットワークも持った方が起業している、これがインドの凄さだと思います。日本のスタートアップでこれだけ学業、研究、実務の海外経験をしている人はいません。
東出:インドの方は「海外の経験を活かして母国に貢献したい」という愛国心のようなものがありますか?
保科:そういった文化的なものは感じます。それにインフォシス、ウィプロ、タタといったインドのグローバル企業がIT人材を育てており、国内での環境をつくっています。その企業のトップが引退されてエンジェル投資家やメンターになって、色々な面で応援しています。
海外で経験した人がシニアになって戻ってきて、国内で頑張ってきた人たちもそれなりのポジションに就いていることが、インドが面白い理由だと思います。東アジアでは財閥がお金を持ち、自分で企業をつくって育てた人がお金を持つカタチではありません。ですから、投資環境やイグジット環境も違うと思います。
インドのデジタル化は日本を飛び越える
松田:私も同じことを思っていました。インド工科大学をトップで卒業した学生たちは、米国をはじめ、海外に出ていく傾向があります。それはもったいないと思っていましたが、最近ではそういった方が海外から戻ってきて、インドで起業することで、スタートアップエコシステムが広がり、投資も拡大し、お金が回るといった良い循環ができつつあります。インド政府のデジタル化の政策により、あらゆるビジネスにおいてデジタル化が進み、おそらく日本を飛び越していくでしょう。日本はそれを学ぶことになるのではないかと思っています。
インド人の経営者はとても優秀な人が多いと思います。我々には、ビジネスをその企業と一緒に学ぶという考えがあるので、投資する際には企業をかなり細かいところまで見ます。その時の売上ではなく、どのくらいの情報の質とデータが集まるポジショニングに位置しているのか、競合優位性や今後の事業ステップについて深く議論します。その問いに対する回答の質や、スピード感も含めて可能性を感じます。
Image: Stories of Kabeera / Shutterstock
東出:インドのデジタル化が一気に進んで日本に来るとすると、どういった領域で起こるのか、どのくらいの時間で来るのか、松田さんはどう感じていますか?
松田:法律や商慣習にも影響しますが、すべての領域で起こる可能性が高いです。例えばUberやOlaがインドに入ってきて急速な成長を遂げているのもひとつですし、サブスクリプションモデルやシェアリングエコノミーなども急速に浸透しつつあります。もう少し言うと、インドで自動車の保有率は4%弱ですが、米国や日本と同様に需要が伸びていく場合、その需要が所有かシェアリングどちらを選択するかという論点です。
日本では所有が当たり前の概念としてありますが、インドはその概念がありません。ですから、サブスクリプションモデルが先に浸透するのは、日本ではなくインドだと思います。
インドはデジタル化が進んでいますが、メルカリのようなCtoCでの信用保証システムは進んでいないので、カーシェアリングで「この人に本当に貸していいのか」がわからない。フィンテックでも一緒ですが、これをどうつくり上げていくかが大事ですし、誰がつくるのかも注目です。
日本企業の課題は、すでにインドでは解決している
武鑓:金融関係で言うと、フィンテックは盛り上がっています。いまクレジットの問題を言われましたが、バンガロールには、ゴールドマンサックス、フィデリティ、VISAの拠点があり、彼らの研究開発はすでにインドで行われていて、グローバルな金融市場の問題を理解している人材がインドにいます。VISAが1,000人規模の拠点をつくったのですが、ブロックチェーンによってクレジットカードがなくなるかもしれないという危機感が彼らにはあります。
従来のように仕様書を先進国で決めて、コーディングをインドでするといった時代はもう終わりました。最先端の技術分野を取り込むため、やってみないとわからないことを、トライ&エラーを繰り返しながらインドでやり始めています。
日本の企業に聞くと日本の事情はわかるが、世界の事情はわからない。一方、インドで聞くと世界の事情がわかる。日本の企業が抱えている問題をインドで話すと、アメリカやヨーロッパでの同様の事例があってすでに問題を解いている。
あるインド企業では、AIのチームで3万1000人が働いていると聞きました。それだけの人材を新しい分野に振りわけて、一気に育てているということです。このことを、良く考えたほうがいいと思います。日本企業は要求仕様書ではなく、課題を持ってインドのIT企業とディスカッションするといいと思います。インド市場も世界のトレンドもわかります。そういった日本とインドの連携をやるべきではないかと思います。
東出:いつ頃なにが起こるかではなく、インドにはすでにかなりのものがあるということですね。
武鑓:シリコンバレーへ行っても教えてくれないかもしれないが、インドは喜んで教えてくれると思います。先日、日本の方から「ブロックチェーンの良いアイデアが浮かんだ」と相談を受けたので、インドのIT企業に聞いたら、ブロックチェーンのプロトタイプ制作サービスというものが、すでにあるということでした。インドには世界中からアイデアが集まってくるので、プロトタイプのサービスメニューがビジネスになっているのです。
次回:出遅れている日本。とにかくインドに行け
【特集】VC・大企業が語る、インド・東南アジアスタートアップの強さ
[東南アジアスタートアップエコシステム]
#1 シンガポールは、アジアのイノベーション創出拠点になる
[インドスタートアップエコシステム]
#2 インドと日本のVCが語る、日印コラボレーションの方法
[東南アジア・インドに投資している日本人VCたち]
#3 なぜ私たちはインド・東南アジアに投資するのか?
#4 天才が多いインド、タイムマシンビジネスが通じる東南アジア
#5 日本企業はインド、東南アジアとこう付き合える
[オープンイノベーションハブとしての東南アジア・インド]
#6 なぜグローバル企業はインドにイノベーション拠点を置くのか
#7 インドエリートの台頭。インドのデジタル化は日本を超える
#8 出遅れている日本。とにかくインドに行け