[スピーカー]
Inventus Capital Partners Managing Director
Rutvik Doshi
×
AET Fund インド投資責任者
河村 悠生
×
[モデレーター]
UTEC Venture Partner
Kiran Mysore
グローバル大企業がイノベーション拠点を置き、多くのスタートアップが急成長を遂げているインド。インドの現地VCであるInventus Capital Partners(以下Inventus)と、日本のCVCであるAET Fund(以下AET)、それぞれの視点からインドのスタートアップエコシステムについて聞いた。
※本コンテンツは「Ishin Startup Summit TOKYO 2019」の内容を再構成したものです。

※【告知】2019年6月、「インド×日本のコラボレーション」をテーマにした招待制サミットをインドのバンガロールで開催します。ご興味ある方はサイトよりお問い合わせください。

Rutvik Doshi(ルトビック ドゥッシュ)
Google Indiaの初期メンバーとして、Voice Search、Google Mobile App、Google News等といったプロダクトを担当。インドのEコマース大手で経営に携わった後、2007年からInventusに参画。投資実績としてはUnbxd、eDreams、Aasaanjobs、 Healthifyme、Truebil、Sensaraなどがある。

Inventus Capital Partners (India)
https://www.inventusindia.com/
河村 悠生
ニューヨーク出身。慶應義塾大学理工学部・理工学研究科修了。モニター・グループ(東京、シンガポール事務所)、ブーズ・アンド・カンパニー(東京)に勤めた。2015年よりNetflixの日本事業立ち上げにコンテンツ分析担当者として参画。その後、2018年よりAET Fundにてスタートアップ投資に従事。AET Fundインド投資責任者。

AET Fund
https://aet.fund/
Kiran Mysore(キラン マイソール)
2016年に東京大学TMIの修士課程を卒業。専門はディープラーニング。2018年よりUTECにベンチャーパートナーとして参画。前職はデロイトトーマツベンチャーサポートにおいて、インドオペレーションヘッド。アジア全域において50以上のDeep Techスタートアップに対して、日本企業とのコラボレーション等をサポートしてきた。自身でベンチャー企業Kriyaを共同創業した経験も有する。

UTEC (株式会社東京大学エッジキャピタル)
https://www.ut-ec.co.jp/

インドのデジタル化は飛躍的に進んだ

Mysore:インドのスタートアップは昨年だけで150億ドルの資金調達に成功し、ユニコーン企業数は21社と成長を見せています。インドでは今何が起きているのか、過去2年間でインドはどのように「エキサイティング」になったのか、教えてください。

Dosh:現在のインドは成長曲線の頂点にあり、過去10年間で見られた成長よりはるかに速く、そして大規模で進んでいます。

 マクロレベルでの変化として最初に言えるのは、スマートフォンの保有率が増加し、人口の多くがデジタル化したことです。2008年頃のインドにおけるインターネットユーザー数は約3000万人程度でした。2011年には約7500万に増え、2019年には約5億人になるとも言われています。そしてもう一つの変化は、データ通信コストが大幅に下がったことです。インドにおける通信料金は1GB約8セントでかなり安くなっています。

 これらの変化により、企業はサービスをより速く広めることが可能になりました。例えば「Flipkart(インドEC最大手)」は年間取引数100万件を達成するまでに7年かかりましたが、「Swiggy(インドのフードデリバリプラットフォーム大手)」は創業から3年で達成しました。

 さらに、インドでは過去約15年かけて非常に優れたエンジニアを育成し、現時点で、インドのエンジニア人口は世界最大規模だと言えるでしょう。才能あるエンジニアの存在と、私たちのようなベンチャーキャピタルが資金や市場参入機会を提供していること。インド経済の過去にないスピード成長には、こうした要因があります。

Mysore:AETはエンターテインメント事業を軸にするアカツキの100%出資ファンドですね。AETは昨年インド投資を10件行ったということですが、インドのどういったところに魅力を感じたのでしょう。

河村:特にコンテンツ、メディア、エンターテインメント分野で大きな可能性を感じ、昨年夏にインド市場に参入しました。

 Doshさんが話していた通り、2015年以降のインドでは3つの変化がありました。1つ目は「Jio(インド通信大手)」が提供する低価格4Gサービス、2つ目は40ドル程度で購入できる中国製スマートフォン。そして、3つ目が、モバイルペイメントの普及です。2016年頃にこれら3つのインフラが整いました。

 また、他の市場でも見られる傾向として、一人あたりGDPが2000ドルを超えると人々はコンテンツ、メディアそしてエンターテイメントにお金を費やすようになります。現時点でインドの一人あたりGDPは2000ドルだと思いますので、変曲点を迎えていると言えます。これも当社がインド市場に参入した理由です。

「ITアウトソーシング」から「ITイノベーション」へシフト

Mysore:例えば、Softbankの「PayPay」にはPaytm(インドの電子決済及び電子商取引企業)の技術が採用されています。InventusとUTECが共同で設立したインドのAI医療系スタートアップ「Tricog」は、東南アジア、インドそしてアフリカで日本のメーカーと共同開発を進めているところです。イノベーションを起こす技術がインドでも育っていると思いますか。

Dosh:過去25年を振り返ると、90年代に最初の波がありました。米国やヨーロッパ市場向けのITサービスを支えるために多くのインド人エンジニアが雇用され教育を受けました。彼らはアウトソーシングとしてサービスを提供した、第一世代のエンジニアです。

 そして、第二世代はここ7〜8年で台頭してきたエンジニアです。彼らは第一世代をロールモデルにしながら、サービスとして技術を提供するのではなく、自分たちのソフトウェア製品を作りました。

 例えば、先に名前が出た医療系スタートアップのTricogは、心電図診断データをクラウドに収集しそのデータをAI解析することで、心臓病の診断を効率化し迅速に適切な治療を行うことを目指しています。従来は、心臓病関連の患者が適切な治療を受けるまで時間がかかっていました。この問題を解決するサービスで、これは世界共通の問題です。既に東南アジアと日本でPoCが始まり、次の市場でローンチするまでにそんなに時間はかからないでしょう。他にも世界市場に躍り出る可能性があるインド発スタートアップが何社かあります。これらは全てインドにいる“才能”によるものです。

Mysore:中国が低コスト製造業から発展したように、インドも低コストITアウトソーシングからITイノベーションへとバリューチェンジしているということですね。そして、インド系アメリカ人やインド系ヨーロッパ人もGoogleのCEOを目指すのではなく、インドに戻り起業を目指すようになりました。

インドと日本がコラボレーションできる理由

Mysore:インドのスタートアップやVCが日本企業とのコラボレーションに関心を持っている理由はなんでしょう。ご自身の経験をもとに教えてください。

Dosh:日本企業とは素晴らしい関係を築くことができていますし、日本のパートナーとのコラボレーションも共同投資も順調に進んでいます。

 例えば「Tricog」以外にも、企業向けAIアシストによる各種業務支援サービスの開発・提供を目指すインドのスタートアップ「Forty Two Labs Private」にもUTECと共同で投資しています。他には、日本でExitしたインド系スタートアップもあります。データ分析とパフォーマンス・マーケティングに強みを持つSokratiというスタートアップが電通に買収されました。

 日本企業とのコラボレーションは全面的に起きており、インド企業も日本を市場として注目し始めています。

 私から見た日本とインドの関係は始まったばかりで、関係を深めパートナーシップをより強固にする余地があると思っています。インド企業にとっては新しい分野でも、日本にはその分野に精通した企業があり、こうした日本企業とコラボレーションすることがインド企業の助けになると考えています。

 さらに、世界市場を目指しているインド企業から見て、日本はアクセス可能で理解しやすい市場です。今は、日本とインドの両者にとって発展に向けたエキサイティングな時期だと感じています。

Mysore:日本企業は東南アジアでも実績があり、東南アジア市場への入口として日本企業とのコラボレーションを希望するインドのスタートアップもいますね。

河村:日本の投資家としていうと、インドは中国と違いとても参入しやすいです。当社のインド投資はまだ1年経っていませんが、その間にインド政府と地方自治体の両方から多くの支援を受けました。例えば、インド政府は東京・バンガロール(インド版シリコンバレーと呼ばれるインド南部・カルナータカ州の州都)間の直行便の計画をしており、2020年に開通予定です。インドでの投資に障壁や制約を感じることはありません。また、インドの共同出資会社は皆とても友好的です。こうしたことから、当社が付加価値を持たせることができるインドのスタートアップへの投資は実に合理的なのです。

インドには協業を好む文化がある

Mysore:日本のCVCは決断に時間をかけることがあります。しかし、AETは1年足らずに10社への投資を実現しました。

河村:そうですね。アーリーステージのスタートアップに投資しているので、何が起きるかは誰にもわかりません。120%確信がなくても投資し、市場とビジネスの成長を見守る。市場を本当に理解するためには進みながら学ぶしかありません。これが当社のアプローチです。

Mysore:インドのVCと協業する場合、とてもよいアプローチですね。

Dosh:インドのエコシステムでは、協業を好む企業が多いですね。これはインドの文化とも言え、協業は相互的に有益だという考えに基づいています。そのため、日本を含め他国からの投資にもオープンですし、企業間のパートナーシップやコラボレーションにも前向きです。これまでも日本企業との協業は素晴らしい経験でしたし、今後さらにコラボレーションできることを楽しみにしています。

Mysore:最初は、日本文化とインドの文化は違うように見えます。しかし、信頼に基づいた社会という共通点があり、両者間で一度信頼関係を確立すると物事は非常にスムーズに進みます。では最後に、インドのスタートアップと協業したい日本企業に対してアドバイスをお願いします。

河村:インド市場への参入やスタートアップへの投資に本当に興味があるなら、日系ファンド、Inventusのようなインドファンドそして、その他の国のファンドでもいいので、自分が投資を検討しているスタートアップにすでに投資を行っているファンドと共同投資することをおすすめします。

Dosh:共同投資は最も簡単なやり方だと私も思いますが、共同投資はしたくない、または株式への直接投資もしたくない場合は、地元のインドファンドに投資することも検討してください。

 多くの場合、投資先を見つけ投資することがゴールのようになっていますが、投資はVCの仕事のほんの一部分に過ぎません。VCの仕事の大部分は投資した企業と一緒に時間を過ごし戦略を考えることや、彼らの成長を助けることです。それは5年から7年かかる長旅です。そして、Exitも非常に重要で、Exit前はそれまでの2倍以上の努力が必要ですし、スタートアップと密接に連携します。投資と投資後からExitまで、その両方を重要視しスタートアップと連携することが大切です。

【特集】VC・大企業が語る、インド・東南アジアスタートアップの強さ

[東南アジアスタートアップエコシステム]
#1 シンガポールは、アジアのイノベーション創出拠点になる

[インドスタートアップエコシステム]
#2 インドと日本のVCが語る、日印コラボレーションの方法

[東南アジア・インドに投資している日本人VCたち]
#3 なぜ私たちはインド・東南アジアに投資するのか?
#4 天才が多いインド、タイムマシンビジネスが通じる東南アジア
#5 日本企業はインド、東南アジアとこう付き合える

[オープンイノベーションハブとしての東南アジア・インド]
#6 なぜグローバル企業はインドにイノベーション拠点を置くのか
#7 インドエリートの台頭。インドのデジタル化は日本を超える
#8 出遅れている日本。とにかくインドに行け



RELATED ARTICLES
【米国の最新テクノロジー動向】スタートアップ年間概況レポート
【米国の最新テクノロジー動向】スタートアップ年間概況レポート
【米国の最新テクノロジー動向】スタートアップ年間概況レポートの詳細を見る
半導体市場動向 世界のスタートアップ資金調達額トップ15をリストアップ!
半導体市場動向 世界のスタートアップ資金調達額トップ15をリストアップ!
半導体市場動向 世界のスタートアップ資金調達額トップ15をリストアップ!の詳細を見る
【2024年最新レポート】中国イノベーションの最新動向と日中オープンイノベーション取り組み事例が分かる
【2024年最新レポート】中国イノベーションの最新動向と日中オープンイノベーション取り組み事例が分かる
【2024年最新レポート】中国イノベーションの最新動向と日中オープンイノベーション取り組み事例が分かるの詳細を見る
AIの真価は「未知の予測」にある 米国のサイバーセキュリティ専門家の視点に学ぶ
AIの真価は「未知の予測」にある 米国のサイバーセキュリティ専門家の視点に学ぶ
AIの真価は「未知の予測」にある 米国のサイバーセキュリティ専門家の視点に学ぶの詳細を見る
【寄稿】中国巨大テック企業の最新動向、華為の自動車事業から百度のAIアシスタントまで
【寄稿】中国巨大テック企業の最新動向、華為の自動車事業から百度のAIアシスタントまで
【寄稿】中国巨大テック企業の最新動向、華為の自動車事業から百度のAIアシスタントまでの詳細を見る
2023年にNVIDIAが出資した 世界のスタートアップ資金調達額トップ15
2023年にNVIDIAが出資した 世界のスタートアップ資金調達額トップ15
2023年にNVIDIAが出資した 世界のスタートアップ資金調達額トップ15の詳細を見る

NEWS LETTER

世界のイノベーション、イベント、
お役立ち情報をお届け
「グローバルオープンイノベーションインサイト」
もプレゼント



Copyright © 2024 Ishin Co., Ltd. All Rights Reserved.