[スピーカー]
キャナルベンチャーズ 代表取締役
保科 剛
×
リクルートストラテジックパートナーズ Senior Vice President(Head of India and Business Success)
松田 仁史
×
元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長
武鑓 行雄

[モデレーター]
早稲田大学ビジネススクール 教授
東出浩教
錚々たるグローバル企業がイノベーション拠点を置くインド。日本企業はインドをどう見て、どう関わるべきか。キャナルベンチャーズ(日本ユニシス)の保科氏、リクルートストラテジックパートナーズの松田氏、元ソニーの武鑓氏に聞いた。
※本コンテンツは「Ishin Startup Summit TOKYO 2019」の内容を再構成したものです。

※【告知】2019年6月、「インド×日本のコラボレーション」をテーマにした招待制サミットをインドのバンガロールで開催します。ご興味ある方はサイトよりお問い合わせください。

保科 剛
キャナルベンチャーズ
代表取締役
1981年 日本ユニシス株式会社入社。数理計画人工知能分野の研究、アプリケーション開発を担当。その後、オブジェクト指向開発環境『TIPPLER』トランザクショナルORB『SYSTEMν』、システム開発技法『LUCINA』、ASP事業『asaban.com』を企画開発。2002年、ビジネスアグリゲーション事業部長。2003年、アドバンストテクノロジ本部長。2004年にCTO。2017年キャナルベンチャーズ株式会社の代表取締役に就任。経済産業省 産業構造審議会 2020未来開拓部会 委員、情報通信研究機構 ICTメンタープラットフォーム メンター、情報処理推進機構 未踏アドバンスト事業審査委員会 委員を務める。
松田 仁史
リクルートストラテジックパートナーズ
Senior Vice President(Head of India and Business Success)
2006年 株式会社リクルート入社。メディア広告営業、経営企画、新規事業開発、中国、東南アジアのリサーチ、大手航空会社との国内JV設立および同企業の代表取締役を経て、2016年より現職。インドへの投資責任者と投資先の日本展開の支援を担う。
武鑓 行雄
元ソニー・インディア・ソフトウェア
センター社長
ソニー株式会社で、VAIO、コンシューマーエレクトロニック機器などのソフトウェア開発、設計、マネジメントに従事。途中、マサチューセッツ工科大学(MIT)に1年間の企業留学。2008年10月、インド・バンガロールのソニー・インディア・ソフトウエアセンターに責任者として着任。約7年にわたる駐在後、2015年末に帰国し、ソニーを退社。帰国後も、インドIT業界団体であるNASSCOMの日本委員会の委員長として、インドIT業界と日本企業の連携を推進する活動を継続している。著書に、「激動するインドIT業界 バンガロールにいれば世界の動きがよく見える」(カドカワ・ミニッツブック)、「インド・シフト」(PHP研究所)がある。
東出 浩教
早稲田大学ビジネススクール
教授
慶應義塾大学経済学部卒業。鹿島建設株式会社に入社し、建設JVのマネジメント・欧州での不動産投資の実務に従事。その後ロンドン大学インペリアルカレッジ修士課程修了(MBA)。2000年に、同カレッジよりEntrepreneurshipを専攻した日本人初のPh.D.を授与される。起業、創造プロセス、ビジネス倫理と哲学等が現在の主たる研究対象。ベンチャー学会副会長、各種公的委員会、東京商工会議所産業人材育成委員会ダイバーシティ推進専門委員会座長を務めるなど、学内外で幅広く活動している。

デジタルトランスフォーメーションを考えるキャナルベンチャーズ

東出:インド、東南アジアのスタートアップの可能性、日本企業の関わり方について教えていただければと思います。まず自己紹介からお願いします。

保科:キャナルベンチャーズの保科です。私たちは日本ユニシスのCVCで2017年5月に設立しました。50億円のファンドを立ち上げてLP出資、いわゆるファンドへの投資と、直接スタートアップへの投資の2つの方法を行っています。

 これまで海外を含めてファンドで10社弱、スタートアップで20社弱に投資しています。フィナンシャルリターンはなくては困りますが、私たちが大切にしているのは、日本のデジタルトランスフォーメーションを考えること、さらに世界のデジタルトランスフォーメーションを考えることです。

 デジタルフォーメーションというのは、産業がこれまでのカタチのままではいられないということです。金融、小売、タクシー、宿泊業界ではすでに起きていることで、プレーヤーが入れ替わっていきます。日本の大企業も危機感を覚えているところだと思います。

 我々日本ユニシスは60年、日本でITをやってきて、大企業との関係も深いのですが、お客さまにデジタルトランスフォーメーションをどう伝えるか、エコシステムをどうしていくかということで投資活動を行っています。日本マーケットだけではなく、海外も含めて考えているので、投資先としての海外と、市場としての海外が常に頭の中にあります。

 デジタルトランスフォーメーションはまだ5年、10年はかかるので、中長期的な考え方でやっています。投資したスタートアップにも「日本に来い」ということではなく、我々のお客さまは海外にもありますので、そこへも繋ぐという捉え方をしています。

Image: SNEHIT / Shutterstock

インドでビジネスの潮流を学ぶリクルートストラテジックパートナーズ

松田:リクルートストラテジックパートナーズの松田です。我々はリクルート、100%出資のCVCです。設立は2006年で、過去150社の投資実績があります。私は2006年にリクルートに入社し、グローバル事業には2011年に中国、インドのマーケット調査に関わっていました。その後、大手航空会社との国内JVの立ち上げを行い、2017年から現職です。

 リクルート本体はライフイベントと日常のイベントにおいて、お客さまと企業をマッチングするビジネスモデルを展開しています。2010年からグローバル展開を開始、現在、売上の約半分は海外です。有名な事例だと、Indeedを2012年に買収し、今はリクルートグループの主軸企業の一つに成長しました。過去の買収事例としては、HRテクノロジーが中心です。

 リクルートには他にも投資部門がありますが、我々のミッションは次の新しいビジネス領域になりうる会社を見つけていくことです。

 現時点での投資領域は「AI」「Robotics/IoT」「Blockchain/Smart contract」「Fintech」です。AIがスタンダート化しつつあるなかで、Automated Actionsというフレームを構築し、投資を検討しています。今後、より多くのプロダクトにAIが導入され、業務プロセスの高度化・自動化が進むなかでその基本構造として、データ収集、準備、モデル化、分析改善のプロセスがデータを中心にして繰り返されるというフレームワークを作り、該当投資案件をこのフレームワークに当てはめながら、優位性判断を行って投資実行をしています。また、新たな技術基盤になりうるブロックチェーンや、成長性の高いフィンテックにも投資しています。

 インド企業への投資は11社(2019年3月18日時点)です。私は、R&D視点からテクノロジーサイドと、ビジネスの潮流に対する調査に分けて考えていますが、インドは後者が強いです。インドは急速な成長のなか、まだビジネスの構造が構築されておらず、新しいビジネスモデルが成長しやすい市場だと思います。新しいビジネスモデルは、米国から入ってくるケースが多いですが、それがどのくらいのスピードで成長するのか、成否の分岐は何か、潮流を見極めるのが目的だと思っています。

 インドにおいてオンラインで様々なサービスを受けているのは、まだトップの1億人で、その下には約5億人のミドル層がいます。デジタル化が進む中で、この層をどのように取り込むかが一つのテーマと考えています。

インドはグローバル企業が集まるイノベーションの拠点

武鑓:武鑓です。私はVCではなく、元々ソニーに勤めていて、製品開発やマネジメントの仕事をしていました。以前はシリコンバレーに毎月、頻繁に通っており、シリコンバレーの凄さは理解しています。

 2008年から2015年まではインドのシリコンバレーであるバンガロールに着任して、ソニーのソフトウェアセンターの責任者をやっていました。そこでは社内向けのIT開発と製品のソフトウェア開発をやっており、2008年には社員が600名ぐらいだったのですが、駐在中に3倍程度に規模拡大しました。ソニーとしては日本以外では最大の開発拠点でしたが、ソニーを含めて日本企業は圧倒的に出遅れていました。すでに世界のグローバル企業が、巨大な開発拠点をインドに持っていたのです。

 日本ではインドのIT業界がまったく理解されておらず、インドを市場としては見ていますが、イノベーションの拠点として見ていません。この10年でIT技術革新がものすごい勢いで進んでおり、そのなかで日本企業はシリコンバレーに行くのですが、シリコンバレーの有名企業のほとんどはインドに来て拠点をつくり拡大しています。

 インドのIT産業は2008年と比べて2.5倍に拡大しています。この10年で、スマートフォンが出て、クラウドソリューションがメジャーなプラットフォームになり、ブロックチェーン、IoT、AIが登場しました。そのなかでインドのIT産業は伸びており、インドでは日本と異なり当初から海外を相手にしたグローバルビジネスでした。

 インドは、2000年代初頭は下請け的な仕事でしたが、この10年でハイエンドな技術開発、製品開発ができるようになってきています。インド全体での雇用人員は400万人で日本の4倍です。取引先は圧倒的にアメリカで62%。そのあとイギリス、ヨーロッパです。日本とは1%以下、数百億円の規模でしかなく、残念ながら日本とインドの連携はほとんどありません。

 インドに開発拠点を置くグローバル企業は1000社程度あり、その1/3はバンガロールにあります。GAFA、マイクロソフト、インテル、ボッシュ、シーメンス、SAP、GE、シスコなどが拠点を設けています。ですから情報は集まりノウハウは蓄積されていきます。そこで若い人が育っていき、そのなかで起業家精神のある人がスタートアップを始めています。

 2010年にはインドに480社しかなかったスタートアップは、2016年には10倍になりました。2020年には1万社になると言われており、すでに世界第2位のスタートアップ大国になっています。ユニコーン企業は20社以上誕生しており、今後ユニコーンになる企業が数十社控えています。日本のユニコーンは1社ですのでケタ違いです。

 インドの強みは多様性があるということ。インドは日本のように徐々に改善しても変わらないので、テクノロジーで一気に変えるしかない。そこに若い人材がチャレンジしてイノベーションが起こる状況にあります。インド人はイノベーションが起きやすいメンタリティ、考え方を持っていて、日本人がもっと学ぶべきことはたくさんあると思います。

次回: インドエリートの台頭。インドのデジタル化は日本を超える

【特集】VC・大企業が語る、インド・東南アジアスタートアップの強さ

[東南アジアスタートアップエコシステム]
#1 シンガポールは、アジアのイノベーション創出拠点になる

[インドスタートアップエコシステム]
#2 インドと日本のVCが語る、日印コラボレーションの方法

[東南アジア・インドに投資している日本人VCたち]
#3 なぜ私たちはインド・東南アジアに投資するのか?
#4 天才が多いインド、タイムマシンビジネスが通じる東南アジア
#5 日本企業はインド、東南アジアとこう付き合える

[オープンイノベーションハブとしての東南アジア・インド]
#6 なぜグローバル企業はインドにイノベーション拠点を置くのか
#7 インドエリートの台頭。インドのデジタル化は日本を超える
#8 出遅れている日本。とにかくインドに行け



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