[スピーカー]
Rebright Partners シニアアナリスト
石崎 弘典
×
UTEC 取締役 パートナー
坂本 教晃
×
KLab Venture Partners 代表取締役社長 パートナー
長野 泰和

[モデレーター]
WERU INVESTMENT President & CEO
瀧口 匡
東南アジア、インドと日本企業はどのように関われるのか。第1回第2回 に引き続き、日本人投資家たちが語った。
※本コンテンツは「Ishin Startup Summit TOKYO 2019」の内容を再構成したものです。

※【告知】2019年6月、「インド×日本のコラボレーション」をテーマにした招待制サミットをインドのバンガロールで開催します。ご興味ある方はサイトよりお問い合わせください。

石崎 弘典
Rebright Partners
シニアアナリスト
東京大学卒業後、東京大学先端科学技術研究センターを経て、インドへ渡航。現地の大手会計系コンサルティングファームにて、インド全土を統括したジャパンデスクマネージャーとして、日系大手企業へのインド向け直接投資アドバイザリー業務に従事。現在、Rebright Partnersのシニアアナリストとして、インドのスタートアップへ投資活動に従事し、さらに日本企業とインド・スタートアップ連携をつくっている。
坂本 教晃
UTEC
取締役 パートナー
東京大学経済学部卒業後、経済産業省入省。2008年に経済産業省を退官し、流通事業会社の副社長を経て、コロンビア大学経営学修士(MBA)。McKinsey & Companyのエンゲージメントマネージャーを経て、2014年8月にUTEC(株式会社東京大学エッジキャピタル)参画。
長野 泰和
KLab Venture Partners
代表取締役社長 パートナー
KLab株式会社入社後、BtoBソリューション営業を経て、社長室にて新規事業開発のグループリーダーに就任。その後、2011年12月に設立したKLab Ventures株式会社の立ち上げに携わり、取締役に就任。2012年4月、同社の代表取締役社長に就任。17社のベンチャーへの投資を実行する。2015年10月に株式会社KLab Venture Partnersを設立、同社代表取締役社長に就任。
瀧口 匡
WERU INVESTMENT
President & CEO
1986年に野村證券株式会社入社。1997年に独立し、国内外でヘッジ・ファンド、PEファンド、ベンチャー・ファンドの設立と運営を手掛ける。2005年から、早稲田大学が出資する大学発ベンチャーや技術ベンチャーを支援するウエルインベストメント株式会社の代表取締役社長に就任し、最先端技術や優れたビジネスモデルの事業化に取組みイノベーションの誘発に向き合ってきた。また、2011年より早稲田大学ビジネススクールで教鞭をとり、現在、早稲田大学客員教授としてグローバルな視点からアントレプレヌール教育に携わっている。早稲田大学博士課程修了 学術博士(国際経営専攻)。

東南アジアには投資の伸びしろが十分

長野:インドはレッドオーシャンである一方、東南アジアは投資もベンチャー企業もまだまだ少ないと思っています。我々の投資先にカンボジアでアグリテックサービスをやっている会社があります。その調査で、カンボジアのシェムリアップという町へ行きました。シェムリアップの田舎の畑で農家の方々が、スマートフォンを使ってその会社のアプリサービスで農作業をしていました。バンコクやジャカルタならわかるのですが、“この地の果て”のようなところでスマホが活用されているのは衝撃的でした。

 東南アジアでは、スマートフォンユーザーが増えてサービスを望んでいるのに、そのサービスが育っていないギャップがあります。また、中華系の大企業はインドに比べて、東南アジアの会社を買いやすいのではないかと考えています。

インドのスタートアップの変遷と社会イノベーション

瀧口:石崎さん、アナリストの目線でいかがでしょうか?

石崎:インドは、タイムマシン経営からスタートアップが始まったと思います。私がインドに住んでいた2012年から2015年の3年間であきらかに私の暮らしは変わりました。eコマースができ、Uber、Olaができました。インドでは流しのタクシーがないので、以前はタクシーを事前に頼んでも、朝にドライバーが寝坊して来ないことがよくあって大変でしたが、どんどん環境が変わってきました。

 ソフトバンクはかなりインドに投資しましたが、PaytmやSnapdealなど、ほとんどがタイムマシンビジネスでした。ただ現在、インドではタイムマシンビジネスはもう終わったと思います。

 ではその裏でなにが起きたかというと、インドの裏はシリコンバレーです。AI革命も同時期に起きており、シスコシステムズが買収したAppDynamicsはファウンダーがインド人で開発拠点はインドにあります。世の中のクラウド処理はインドのバンガロールか、シリコンバレーのインド人がやっていて自由に行き来しています。

 あとはリープフロッグという概念です。私が仕事をしていて、いちばんインドが面白いと思った理由です。たとえば、日本はポケベルができて、携帯電話が出て、どんどん小型化していってスマートフォンが現れました。段階的に進化しましたが、東南アジアやインドはそうではありません。いきなりスマホができて、いまでは路上生活者もスマホを持っています。このように、いきなり最先端のビジネスへ跳べるわけです。

 また、インドにもっとも進んだ遠隔診断医療の企業がありますが、そのような企業は日本では絶対に現れません。日本はインフラが整っているので、追加投資でインフラをちょっと変えるだけで、企業は短期利益を得られますから。長期的なメリットのために、大きな予算を割く経済的理由がないのです。

 さらに、インフラが整っているがゆえに既得権益が存在します。Uber、Airbnbが発達しないのも同じ理由です。インドでは圧倒的に患者が多くて医師が足りていないので、医師が仕事を取られるといった危機感もありません。なにより、日本は規制が厳しいため思い切ったことができない。一方、インドでは薬もネットで簡単に買えるのです。

 こうしたことを見てもわかりますが、インドでは新しい社会イノベーション、社会インフラが誕生しています。ですから、こういったリープフロッグビジネスがどんどん出てくるのです。こうした波は将来、日本に入ってきます。リバースイノベーションというのではなく、インド発のものが日本へ入ってくるのです。

M&Aを狙うイグジットとスピード感の違い

瀧口:逆に東南アジア、インドへの投資の難しさや、実際ビジネスをされていての課題などの面からお話しいただけますか?

坂本:日本では多くの企業がマザーズに上場しますが、インドの上場マーケットの流動性は低いし、時価総額もそれほどつきません。なので、基本的にM&Aになります。インドのなかだけでやっているとバリエーションがないので、グローバルが前提です。

 その点においては、アメリカの企業にどう見えるかというのが大事になります。早い段階からアメリカの企業と繋がって、M&Aを狙いにいくという戦略をつくらなくてはいけません。そもそもM&Aは相手ありきの話なので、どこまでいってもうまくいくかはよくわかりませんし、その不安感や難しさはありますね。

 もうひとつは文化の違いとスピード感。インドのベンチャー企業が日本の大企業とNDAを結ぶだけで、4ヵ月かかりました。インド人はその場で決めますし、インドのスタートアップの社長はさらにスピード感を重視する人たちです。詳細の話をするまでに1年もかかっていると、待ちきれません。

 また、日本人は背景を考えながら話をしますが、インド人はしっかりコミュニケーションを取ります。そのあたりはビジネスの障害になることがあると感じています。

長野:いまの話の通り、イグジットしづらいというのが最大のデメリットです。ただ、その課題がありつつも魅力的なので、先ほど申し上げたようなカタチで投資していこうと思っています。

 アメリカ人が日本に来た際、「日本はハイコンテクストで面倒くさい」とよく言いますが、東南アジアも相当、人間関係のなかでビジネスが成立していると思います。「○○財閥の誰々さんに言えば取引ができる」というのがよくあって、一見さんでビジネスはしにくいというのは感じます。現地での人脈、人間関係がビジネスの成否をわけるというのが難しいと思う面です。

石崎:坂本さんが言われた2点は私も考えていたことで、スピード感がまったく違うと。遅いなら遅いで仕方ないので、「こういったプロセスで決めるのでこれぐらい時間がかかる」とインド側に言うだけで全然違うのですが、そういったことを言う日本企業は少ない。

 私は元々会計士ですが、いまのところ日本からインド企業に直接投資をするとキャピタルゲインに原則、二重課税が掛かります。さらに、モーリシャスやケイマンから投資するスキームも、実質インドでビジネスをやっている企業の株を動かすということで課税される可能性があります。このあたりは意外とVCやファンドの方はチェックしていないので、検討されたほうがいいと思います。

課題はあるが日本企業とは親和性あり

瀧口:それでは最後に、第一線で活躍されているお三方から経験を踏まえてみなさんにメッセージをお願いします。

長野:VCはスタートアップと大企業を結ぶ潤滑油の役割として重要だと思っています。アメリカや中国と比べて日本のVCが弱い理由は、成功しているVCが少ないということです。成功とはアベレージで何倍というものを出すことが重要で、最近はそれができるファンドが日本にも徐々には出てきました。そのうちのひとつが、我々だと思っています。今後みなさんとお話しをしながら、潤滑油の役割を担っていきたいと思います。

坂本:まずは、インドに行くところから始まると思います。VC業界は中国の成長を取り込めませんでした。うまくいったのは、ソフトバンクだけでしょう。それと同じことを繰り返したくはないですし、大企業と連携を進めながら投資することでバリューアップできるのではないかと思っています。VCだけでできることは非常に少ないので、そちらに目を向けてもらうだけでありがたいと思っています。

石崎:インドはもちろん東南アジアも、日本とはベストカップルだと思います。デバイスが強い日本と、ITやソフトウェアが強いインド。高齢化社会の日本と、まだまだ若いインド。お金が余っている日本と、資金供給が足りていない東南アジア、インド。そこに、まだまだマッチングのチャンスはあります。シリコンバレーやイスラエルは、日本のほうをそれほど向いてはいません。その点、インドはまだまだ日本企業に向いていて親和性はたくさんあるので、ぜひそういったポジティブな面を見ながら、現地への投資や事業開拓をご一緒できればと思っています。

瀧口:この4名のファンドは、アーリー、シードに投資するということで時間を凄く大事にしています。坂本さんが言われたスピード感、石崎さんの言われたリープフロッグ、タイムマシン。すべて時間の概念です。インドに限らず海外での投資で大切にすべきは、時間の概念とどう取り組んでいくかということだと感じました。どうもありがとうございました。

【特集】VC・大企業が語る、インド・東南アジアスタートアップの強さ

[東南アジアスタートアップエコシステム]
#1 シンガポールは、アジアのイノベーション創出拠点になる

[インドスタートアップエコシステム]
#2 インドと日本のVCが語る、日印コラボレーションの方法

[東南アジア・インドに投資している日本人VCたち]
#3 なぜ私たちはインド・東南アジアに投資するのか?
#4 天才が多いインド、タイムマシンビジネスが通じる東南アジア
#5 日本企業はインド、東南アジアとこう付き合える

[オープンイノベーションハブとしての東南アジア・インド]
#6 なぜグローバル企業はインドにイノベーション拠点を置くのか
#7 インドエリートの台頭。インドのデジタル化は日本を超える
#8 出遅れている日本。とにかくインドに行け



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