現在、高齢化率が世界でもっとも高い水準にある日本は、どの国も経験したことのない超高齢化社会を迎えようとしている。その高齢化社会が抱える課題をテクノロジーのチカラで解決しようと挑戦しているのが、SOMPOホールディングス傘下でシリコンバレーに本拠を構えるSOMPO Digital Labだ。シリコンバレーのラボから、どんな「日本の未来」を描こうとしているのか。CEOの池端大輔氏にインタビューした。

池端 大輔
SOMPO Digital Lab
CEO
1996年、損保ジャパンに入社し、栃木支店で営業を経験。2002年から東京本社で中央省庁を中心に担当した。2009年、ブラジル・サンパウロに赴任し、買収した現地法人の経営に従事。2014年から東京本社でSOMPO Digital Lab立ち上げの準備に携わる。2016年、シリコンバレーへ赴任し、2018年4月にSOMPO Digital Lab,Inc.を設立。

トレンドの先端技術を世界中から集める

―SOMPOがエイジング領域に注目しているのはなぜでしょう。

 人口減少を背景に損保市場が縮小していくなか、SOMPOホールディングスはこれまで、お客様の「安心、安全、健康」に応えるべく生命保険や介護、リフォーム、セキュリティーなど、事業の幅を損保以外にも広げてきました。そのなかでも介護事業には特に力を入れており、認知症対策、介護士不足の緩和など、さまざまな課題に対して新しい切り口の解決策を模索してきました。

 介護にかかわる問題でもっとも大きなもののひとつに、介護士の慢性的な不足が挙げられます。われわれは、デジタルをはじめとした先端テクノロジーを活用することで、介護士の労働環境改善、さらには人手不足という大きな問題の解決につなげることができると考えていました。

 そこで、SOMPOホールディングスは2014年、経営企画部内に新たな部署を設け、先端テクノロジーに関するトレンドの収集や調査、スタートアップとの連携を模索する事業を開始しました。しかし、活動拠点が東京だけでは世界中の情報を掴むのに限界があるため、世界から多くのテクノロジーとスタートアップが集まってくるシリコンバレーに当社を立ち上げたのです。

 当社は、世界中から集まってくるさまざまな情報をアイデアとして、新しいソリューション開発に向けたPoC(実証実験)を行い、東京、イスラエルのラボとも協業しながらSOMPOホールディングスや海外のグループ会社と共有しているのです。 

スタートアップと二人三脚で課題解決に取り組む

―スタートアップとは具体的にどのような取り組みを行っているのでしょう。

 たとえば、あるスタートアップとは、高齢者の入浴時における溺死事故を防ぐ開発を進めています。入浴者のバイタルデータを取得して異常値を検知すると、警報音を鳴らして職員に知らせ、さらにバスタブの水を自動的に排出できるという仕組みです。

 別のスタートアップとは、介護施設内において車椅子を自動運転できるようにするシステムの開発なども進行中です。

 このほか、認知症患者や高齢者がベッドから落ちる事故を減らすために、居室に取り付けたカメラの映像から転落した原因を分析するといった、ソリューションの開発に向けた研究事業も行っています。

―高齢者向けビジネスでは、どのような領域が有望だと考えますか。

 コミュニティやコミュニケーションなど、人とのつながりにかかわる領域は伸びしろが大きいと考えています。音声通話ツールや文字の読みやすいSNSを開発するなど、デジタルを活かしやすい領域だからです。他者とのつながりを維持することは、高齢者の外出を促し、健康増進にもつながります。高齢者の外出を促進するという観点では、公共交通機関のあり方を考えるなど、モビリティ領域でのアプローチも有望ですね。

 われわれは、高齢化社会の問題に対してテクノロジーのチカラで解決を図る当社のようなビジネスを「エイジングテック」と呼び、介護施設内における業務効率化や家事代行、見守り、スマートハウス、コミュニケーション、モビリティなど、幅広い視点で、業容拡大の可能性を探っているのです。

「エイジングテック」の市場を広げたい

―「エイジングテック」を手掛けるスタートアップは多いのでしょうか。

 シリコンバレーでエイジングテックと呼べる企業は少なく、100社にも届かない程度です。シリコンバレーがあるアメリカにおいてはそもそも、高齢化社会に対する問題意識が日本と比べて高くないと感じています。アメリカは移民政策を背景に安価な労働力が豊富なため、介護士不足はあまり問題視されていません。公益性が高い高齢者向けビジネスに「儲かりにくい」というイメージが強いことも、エイジングテックを手掛けるスタートアップが少ない要因のひとつでしょう。

 こうした状況は、デジタル分野で出遅れているわれわれ日本企業が勝負するうえで大きなチャンスだと思っています。

―今後の展望を聞かせてください。

 デジタルを活用した高齢者向けビジネスが今後、成長していくという可能性を、エイジングテックという言葉とともに認知させていきたいですね。参入しようとしているスタートアップが少ないからといって、マーケットがないわけでなく、スタートアップと技術やアイデアを出し合い、協力していくことで、マーケットは大きくできるのです。

 高齢化は、日本だけでなく、世界中がこれから直面することとなる大きな社会課題です。その大きな課題に立ち向かっていくために、「一緒にエイジングテックを盛り上げていこう」というメッセージを世界中に発信していきたいですね。

エイジングテック特集 目次

#1 超高齢化社会のイノベーション「エイジングテック」

#2 【SOMPO】テクノロジーで高齢化社会の課題解決に挑む

#3 僻地医療からシリコンバレーへ。日本の「本当の問題」を話そう

#4 世界中のイノベーションを持ち寄る、グローバルネットワーク「Aging2.0」

#5 【日本企業】なぜ大企業はエイジングテックに取り組むのか?

#6 スタンフォード教授が語る「睡眠テクノロジーの真実」

#7 法的書類からSNSまで。終活をサポートするCake

#8 自動運転車が食料品を配達してくれるAutoX

#9 ガソリンスタンドが家にやってくるBooster Fuels

#10 【スタートアップマップ】注目のエイジングテック一挙紹介



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