素晴らしいAI製品のデモが生まれても、それが本番環境で実用化されるケースは意外と少ない。なぜなら、いざ開発を始めると、AIの賢さを作る本来の仕事よりも、「サーバーの設定」や「エラーへの対応」といった裏方の作業にエンジニアの時間が奪われてしまうからだ。ある調査では、AI開発チームがこうした裏方作業になんと年間700〜800時間も費やしていることが分かっている。
この「もったいない時間」をなくすため、独自の技術で立ち上がったのがワシントンに拠点を置くスタートアップのUnion.ai(ユニオン・エーアイ)だ。これまでの開発ツールは「AIに何をさせるか(手順)」を管理するだけで、裏方のコンピューター環境は人間がつきっきりでお世話をする必要があった。しかし同社のシステムは、手順を管理するだけでなく、トラブルが起きても自動で修復してくれる。いわば「AIの手順管理」と「裏方のお世話」の両方をこなす二刀流のアプローチで、開発者を面倒な作業から解放したのだ。
同社が提供する「Union」は、スポティファイやジョンソン・エンド・ジョンソン、そして日本のウーブン・バイ・トヨタなど各業界のグローバル企業に続々と採用されている。なぜ名だたる企業がこぞって既存のソフトウエア開発ツールではなく、AI開発特化のUnionを選ぶのか。共同創業者でCEOのケタン・ウマレ(Ketan Umare)氏と、グロース部門責任者のザカリー・ジョンソン(Zachary Johnson)氏に話を聞いた。
目次
・AI開発を「昔のツール」でやりくり
・Unionと既存ツールの根本的な違い
・日本企業にも嬉しいオンプレミス対応
・日本市場への期待と5年後の姿
AI開発を「昔のツール」でやりくり
―Union.aiが解決を目指す課題を教えてください。
ウマレ氏:AI製品は素晴らしいデモができても、本番環境になかなか導入されないという課題があります。原因は、AI時代以前に作られたシステムを使っているからです。AIのワークフローは動的に変化するため、従来のシステムでは実験や開発のスピードが上がりません。
当社が提供するプラットフォーム「Union」はこの問題を「セルフヒーリング(自己修復)ワークフロー」で解決します。これはインフラによくある障害を自動的に修復する機能です。開発者がインフラの世話をするのではなく、ビジネスの課題解決に集中できるように設計されています。
―そうした課題になぜ気付いたのですか?
私は20年以上エンジニアをしており、高頻度取引(HFT)やロジスティクス分野で経験を積んできました。オラクルが提供する「オラクル・クラウド・インフラストラクチャー(OCI)」の開発チームの初期メンバーとして働いた後、ライドシェア大手のリフト(Lyft)で機械学習プラットフォームの構築と指揮を担当しました。
リフトでは、配車から顧客へのサービス提供まで、あらゆる場面でAIを活用していました。しかし、予測不可能な要素を含む「非決定論的」なAIを製品に組み込むのは非常に困難です。チームの多くが、複雑なAIの世界に昔ながらのソフトウエア開発の手法を当てはめようとして、インフラ管理に時間を奪われていました。そこで私や共同創業者のハイサム・アブルフトゥーフ(Haytham Abuelfutuh)が中心メンバーとなって開発したのが、オープンソースのプラットフォーム「Flyte」です。
その後、コミュニティの育成と、より高度なサポートを求める企業への支援を目的として、2020年にUnion.aiを立ち上げました。当時はChatGPTが世間に登場する前でしたが、まずはコミュニティにAI製品の開発方法を学んでもらうことが目標でした。
Unionと既存ツールの根本的な違い
―競合と比較したとき、Union.aiの優位性はどこにありますか。
インフラとオーケストレーション(複数のシステムやプロセスの連携・自動化)を融合させている点が根本的な違いです。
多くの企業はAI開発を始めるとき、ソフトウエア開発時代から使っていたツールをそのまま持ち込みます。データパイプライン向けのAirflow(エアフロー)や、マイクロサービス向けのTemporal(テンポラル)などがその例です。これらはオーケストレーションを後から取り付けた構造で、ツールを継ぎ合わせるようなアプローチになります。
こうした「継ぎ接ぎのアプローチ」が、インフラ障害を引き起こす要因につながります。既存のツールを使う場合、右の足首に故障を抱えたままマラソンを走るようなものです。もう片方の足首も大丈夫かどうか、誰も保証できません。だからこそ、Unionはインフラとオーケストレーションを最初から一体として設計したのです。
ジョンソン氏:私の大好きな大谷翔平選手に例えさせてください。ワークフローの制御などの「ロジックのオーケストレーション」と、インフラ管理・自動回復の「インフラのオーケストレーション」——この両方を高いレベルでこなすのは非常に難しいことなのです。
FlyteやUnionは、まさに「打って、投げる」二刀流の大谷選手のような存在。多くのオーケストレーターは打撃(ロジック)だけですが、当社はロジックとインフラの“二刀流”で自動化を実現しています。それが私たちの特別な強みです。
日本企業にも嬉しいオンプレミス対応
―オープンソースのFlyteと、そのエンタープライズ版に当たるUnionの関係を教えてください。
ウマレ氏:私たちはオープンソースを第一に考える企業です。Flyteはすでに4,000社を超える企業に使われ、8,000万回以上ダウンロードされています。最近リリースしたFlyte 2のソフトウエア開発キット(SDK)も、わずか3週間で50万回以上ダウンロードされました。アマゾンやNVIDIA、テスラなどトップ企業に利用されています。
しかし、規模が大きくなると、より高いパフォーマンスやセキュリティ、企業向けの保証が必要になります。そこで、Unionが役立ちます。Flyteと同じインターフェースを持ちながら、完全に差別化されたプラットフォームであり、ウーブン・バイ・トヨタやスポテイファイ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどのグローバル企業に導入されています。
―日本企業、特に製造業や金融機関ではオンプレミスやプライベートクラウドへの要望が強いですが、Union.aiは対応していますか。
ウマレ氏:はい、企業のサポートには特に注力しています。当社の技術はKubernetes(クバネティス)をベースにしているため、オンプレミスでもクラウドでも、Kubernetesが動く環境であれば対応可能です。
ジョンソン氏:まさに、セキュリティの高さも企業から選ばれる大きな理由です。Unionのオーケストレーション機能を利用しながらも、データやコードはお客様の安全なクラウドから一切外に出ません。
ウマレ氏:AIの世界では、コードを書くコストはゼロになりつつあります。本当の差別化要因は、データとコンテキストです。それが安全に顧客のクラウド内に保たれることを、当社は保証しています。
Image : Union.ai HP
日本市場への期待と5年後の姿
―NEAの主導で2026年2月に実施したシリーズAでは1,900万ドルを調達されました。この資金はどのような用途に充てますか。
ウマレ氏:市場への展開と、Flyte 2の開発に投資します。コミュニティが待ち望んでいるFlyteのバックエンド機能の開発を急いでいます。また、ワンクリックですぐに使えるようなセルフサービス型の製品を目指し、研究開発チームの採用も強化しています。
もう1つはGTM(Go to Markt)戦略を担うチームの拡充です。商用化へのシフトを進めるなかで、製品の認知が追いついていないと感じることがあります。「Union.aiの存在を知らなかった」という企業に出合うとき、CEOとして何とかしなければと痛感します。解決できる問題があるのに、知られていないのは機会損失です。自社サービスで即座に試せる環境も整備しており、ボタン1つで始められる体験の実現を目指しています。
―今後1〜2年で注力するテーマを教えてください。また、日本企業との協業についてはどのようにお考えですか。
ウマレ氏:現在、AIはバックグラウンドで自律的に問題を解決する「アンビエント・エージェント」へと進化しています。そうした複雑なAIエージェントを本番環境で動かしている企業の多くが、当社のプラットフォームを利用するようになることが目標です。
日本企業との協業については、海外企業が日本市場にうまく馴染むのは難しいとよく聞きますが、当社はウーブン・バイ・トヨタとの協業がきっかけで現地チームとの仕事の進め方も理解できました。もともとはFlyteのユーザーとして始まり、自動運転・ADAS(先進運転支援システム)部門全体へのスケールアップという課題を持って相談があったという経緯です。ウーブン・バイ・トヨタ以外にソニーなどの日本企業もFlyteを利用しており、フィジカルAIや自動運転、製造分野に関連する企業との連携を期待しています。
―最後に、長期的(5〜10年後)なビジョンを教えてください。
ジョンソン氏:AIシステムは複雑化し、より多くを求められる結果、それが信頼性の危機を生み出しています。こうした課題を解決するためにも、5年後には、Union.aiがAIシステムにとっての「コントロールプレーン(制御基盤)」となり、信頼性レイヤーの役割を果たすことを目指しています。
ウマレ氏:まず、5年間生き残ることへの謙虚さは忘れず持ち続けたいです。テクノロジーの世界は変化が本当に速いですから。
5年後には、インフラとオーケストレーションを統合したプラットフォームを使うことがAI開発の「当たり前」になっているでしょう。大規模言語モデルのトレーニングも、エージェントの構築も、オフィスに来てボタンを押せば1つのプラットフォームで完結できる——その世界はすぐそこまで近づいています。Union.aiと一緒にその旅を始めてほしいと思います。