目次
・クラウドの便利さに隠れた課題を解決
・顧客企業が取引先も巻き込む好循環
・グローバル展開を加速、日本市場でもパートナー開拓へ
・提供するのは「Network Infrastructure-as-a-Service」
クラウドの便利さに隠れた課題を解決
―創業の背景について教えてください。
Alkiraを立ち上げた理由は、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)などのクラウドプロバイダーが非常に強力なコンピューティング、ストレージ、アプリケーションサービスを提供する一方で、それらにネットワークを構築する際に多くの課題があったためです。クラウドプロバイダーのインフラ内にネットワークを構築しようとすると、仮想ルーターのデプロイやネイティブサービスの組み合わせなど、手作業が必要となり、特にグローバル展開時には複雑性、可視性、ルーティングコントロール、そしてセグメンテーションの問題に直面します。
さらに、複数のクラウドを利用する場合、各クラウド間で共通のポリシーを適用することは難しくなります。そこで私たちは、クラウド間で共通のインフラを提供する中間層、つまり抽象化層であるクラウドエクスチェンジポイントを構築することで、この課題を解決する可能性を見出しました。私たちは独自のルーターとインフラをクラウドプロバイダー環境に組み込み、マルチクラウドの課題を解決しています。これは、ハイパークラウド環境上に構築された私たちのグローバルクラウドであり、単一クラウドおよびマルチクラウドの問題だけでなく、オンプレミス環境へのシームレスな接続も可能にしています。
―これまでのキャリアを教えてください。
1991年にCiscoに入社し、その後、JuniperやNortel、さらには多くのスタートアップ企業でネットワーク関連の業務に携わってきました。2012年には、SD-WAN(Software Defined-Wide Area Network)事業を展開するViptelaを設立し、同社は2017年にCiscoに買収されました。その後、2018年にAlkiraを立ち上げました。Alkiraは、Sequoia Capital、Kleiner Perkins、Koch Disruptive Technologies、GVなどからこれまでに総額1億7,600万ドルを調達しており、さまざまな業種の顧客にサービスを提供しつつ、その基盤を拡大し続けています。
―Alkiraのソリューションについてさらに詳しく教えてください。
従来は数カ月から数年かかっていた設定と準備が、数日から数週間でグローバルに展開できるようになりました。例えば、クラウド間で接続とルーティングを行いたい場合、約10分でグローバルインフラの設定が可能で、1時間以内にサービス全体を設定・配備できます。クラウドプロバイダーが展開している地域であれば、私たちのネットワークを世界中に拡張することができます。
現在、3つの主要なクラウドプロバイダーを通じて150以上のロケーションをカバーしており、東京やシンガポール、中国、インド、米国など、どこでも展開可能です。なお、通信事業者の観点からすると、従来のMPLS(専用回線のプライベート接続)を提供する必要がなくなり、回線のプロビジョニングや長期契約も不要で、私たちのサービスをオンデマンドで利用できます。
このように、当社のサービスは単一クラウドやマルチクラウドにおける課題の解決だけでなく、プライベートクラウドとのシームレスな接続や、従来の企業間ネットワークの相互接続も可能にしています。たとえば、取引所や銀行、金融機関などの多様なパートナーが複雑なサービスを通じて接続する場合でも、ネットワークの分割やファイアウォール機能により、各領域間でリソースを選択的に共有しつつ、シームレスな拡張を実現します。
オンプレミスやクラウドからの接続もできますので、ファイアウォールやセキュリティ管理サービスなどをクラウドへ移行できます。当社の顧客は、接続、ファイアウォール、DDI(DNS、DHCP、IPアドレス管理)といったサービスをすべてクラウドに移行し、クラウドおよび非クラウド環境向けの共通インフラを構築しています。
当社のサービスは、クラウド間でのデータ交換が可能な仮想的な接続環境を備えているとお考えください。顧客は希望の地域を指定するだけで、ネットワークを自動的に相互接続できます。また、企業の合併・買収時のネットワーク分割やセキュリティ管理、インターネット向けアプリケーションの簡単なクラウド配置もサポートします。これにより、従来の複雑なネットワーク構築が簡素化され、スムーズな接続が実現します。専用ルーターを設置する必要もありません。
―サービスを利用する場合のパフォーマンスはいかがでしょうか。レイテンシー(遅延)などの影響はありますか。
光の速度そのものは変えられませんが、ネットワーク最適化によってレイテンシーが改善されます。理由として、当社のサービスを利用することで多くのノードを削減できるからです。通常、顧客が自分たちでインフラを構築すると、各クラウドにファイアウォールやルーターを配置しなければならず、その分ノードが増え、結果として遅延が生じやすくなります。しかし、当社のソリューションではファイアウォールの展開を最適化しており、例えば、ある顧客は80あったファイアウォールを8未満にまで削減することができました。全体的に見れば、顧客が求めるパフォーマンスと遅延の基準を満たしており、非常に満足いただいています。
顧客企業が取引先も巻き込む好循環
―ビジネスモデルや、導入事例について教えていただけますか。
当社の料金モデルは従量制を採用しており、クラウドエクスチェンジポイントの帯域幅や容量の使用量に応じて課金されます。500Mbps、5Gbps、10Gbpsといった選択肢があり、あるお客様は20Gbpsを利用しています。さらに大きな容量にも対応可能で、クラウド環境で横方向にスケールする柔軟性も備えています。基本的には使用量に応じて課金され、接続数や帯域幅、クラウドエクスチェンジポイントの利用状況に基づき料金が発生します。また、私たちの環境でデプロイし管理するサービスにも費用がかかります。自動化された環境であり、例えばファイアウォールをデプロイする際にはその分が追加で課金されます。このように非常に柔軟な料金モデルといえます。
多くのお客様は、利用量が増えるとともに割引を希望されるため、その場合には1年や3年といった契約期間を通して割引を提供しています。また、エンタープライズライセンス契約(ELA)を好むお客様もおり、この契約形態では一定の利用レベルまでは自由にサービスや機能を使うことができ、超過すると追加料金が発生する仕組みです。こうした予測可能な価格モデルを提供することで、お客様にとって安心してご利用いただけるよう努めています。さらに、購入者の立場によっても適したモデルが異なります。ネットワーク担当者の場合は、従量制や固定契約のほうが利用しやすいと感じる一方で、クラウド担当者の場合はクラウドアカウントやワークロードに合わせて消費型のモデルを選ばれる傾向があります。私たちは、こうしたお客様のニーズに合わせ、柔軟な対応ができる点が特徴です。
導入事例ですが、私たちの顧客の多くがFortune 500に名を連ねるような大企業です。その中の顧客の1社として、金融サービス企業S&P Globalについて紹介しましょう。同社は約2年前からAlkiraの導入を開始し、最初は異なるクラウド間を接続するマルチクラウドのユースケースから利用を始めました。その後、Alkiraの展開を急速に拡大し、現在では利用するすべてのクラウド接続がAlkiraを通じて行われています。さらに、同社のネットワークにアクセスし、リソースを利用するパートナーや顧客に対しても、Alkiraを用いて接続を提供しています。私たちはこれをExtranet-as-a-Service(エクストラネット・アズ・ア・サービス)と呼んでいます。多くの企業が、パートナーを自社ネットワークに接続するために、このサービスを利用しています。
―非常にユニークな技術だと思います。同様のアプローチをとる競合はいますか?
私たちと同じアプローチで問題を解決する競合はいませんが、異なるタイプの競合は存在します。例えば、クラウド環境において単一クラウドにのみ展開する場合、そのクラウドプロバイダーが競合となります。しかし、複数クラウドに展開するケースでは、ほとんどのクラウドプロバイダーも顧客もそれを望んでおり、私たちはパートナーとしての立ち位置になります。
当社のようにネットワーク全体をエンドツーエンドで包括的に提供する企業は他にありませんが、特定のポイントでは競合も存在します。しかし、多くの企業はネットワーク全体をサービスとして提供することに注力しておらず、他社が同じソリューションを実現するには、複数のポイントソリューションを組み合わせる必要があり、これが当社の大きな差別化要因となっています。
image : Alkira HP
グローバル展開を加速、日本市場でもパートナー開拓へ
―ビジネスの成長についてお聞きしたいです。また、2024年5月にはシリーズCラウンドで1億ドルを調達しました。この資金はどのように使いますか。
当社は過去数年、年率100%の成長を続けています。具体的な数字は公表していませんが、非常に大きな成長を遂げているのは確かです。今回の調達資金は、さまざまな用途に活用する予定です。当社はエンタープライズプロバイダーとして、24時間365日体制でサービスを提供しています。そのため、エンジニアリング、DevOps、テスト部門などの機能を拡大するとともに、テクニカルマーケティングやプロダクトマネジメントの強化も進めております。また、営業チームや営業・マーケティング部門、財務といった内部機能の拡充も図っております。技術面にとどまらず、組織全体の強化を図るため、現在、チームの構築に資金を投入している状況です。
―日本企業との協業やパートナーシップについてはどんなお考えをお持ちですか。
現在、当社の最大の拠点は米国で、その次にヨーロッパが続きます。今は中東やアジア・太平洋地域、日本も含めて活動を拡大しているところです。成長に伴い、日本市場でもパートナーの数を増やす予定で、現在も優れたパートナーがいるものの、他市場と同様に日本でのパートナーシップをさらに拡大したいと考えています。
パートナーには、ネットワークの知識を持ち、業界の革新を推進する先見性のある企業が理想的です。当社は、これまでにない革新的なソフトウェア機能で問題を解決し、業界を変革する存在でありたいと考えています。たとえば、Teslaが自動車業界を大きく変えたように、私たちもネットワーク業界で同様の役割を果たしたいと考えています。
提供するのは「Network Infrastructure-as-a-Service」
―最後に、今後の展望についてお聞かせください。
当社は業界初のエンドツーエンドのNetwork-as-a-Service(ネットワーク・アズ・ア・サービス)を提供しています。これは、顧客がオンデマンドで自身のネットワークを構築し、管理できるNetwork Infrastructure-as-a-Service(ネットワークインフラ・アズ・ア・サービス)とも言えます。アウトソーシングとは異なり、顧客がポリシー、ルーティング、可視性を自在にコントロールでき、デプロイするリージョンも自由に選択できる利便性に優れたサービスです。
私たちは、成長機会を見据えてサービスの拡大も続けています。もともと1つのクラウドからスタートしましたが、現在では複数のクラウドにシームレスに接続でき、Palo Alto NetworksやCiscoのファイアウォール、InfobloxのDDIサービスなど、多様な機能もサポートしています。さらに、ZTNA(Zero Trust Network Access)もプラットフォームに加えました。他社のZTNAがセキュリティに特化する一方で、当社はネットワーク企業として、セキュリティとネットワークパフォーマンスを一体化した単一のプラットフォームを提供します。エンタープライズレベルの低遅延接続が求められる現代のアプリケーションに対応し、ゼロトラストのセキュリティと高いパフォーマンスを両立することを目指しているのです。