Flexiv(本社:米カリフォルニア州)は、力制御、コンピュータービジョン、AI技術を統合した産業用の適応型ロボットの開発・製造に注力する世界有数の汎用ロボットメーカーだ。同社のプロダクトは、組み込み型コンピュータービジョンを活用し、複雑で構造化されていない環境に適応できるだけでなく、さまざまな複雑なタスクを達成し、人間と安全に協力することができるため、企業は産業プロセスの自動化と効率化を実現することができる。共同創業者でChief Robotics ScientistのShuyun Chung氏に、創業の経緯、同社の製品の強みについて話を聞いた。

スタンフォード大学のロボット工学やAI研究者が創業チームの中核に

 Flexivのスタートは2016年。スタンフォード大学のロボット工学やAIの研究者4名が創業した。その1人であるShuyun Chung氏は、国立台湾大学を卒業後、スタンフォード大学でポスドクリサーチャーとして働いていた頃、共同創業者のメンバーと出会う。

「私たちの研究室は力制御(機械システムが操作する作業物体と環境との間の相互作用力を直接制御する方法)に焦点を当て、ロボットに組み立てや研磨をさせたり、私たちの力制御技術をヒューマノイドロボットに適用したりするための、様々なアルゴリズムを開発していました」

Shuyun Chung
Co-Founder & Chief Robotics Scientist
国立台湾大学、スタンフォード大学でポスドク研究者としてロボット工学に携わった後、2015年にO-Robotixを共同創業し、CTOに就任する。2016年にAuris HealthでRoboticist/Senior Software Engineerとして従事した後、2016年にFlexivを共同創業し、Chief Robotics Scientistに就任。

 当初、研究の大部分はシュミレーター上でのみの適用だったというが、Chung氏たちのアルゴリズムを適用できるような優れたハードウェア・プラットフォームが市場に無いという事実に直面した。

「既存のロボットは位置制御だけが注目されています。そのため、ロボットに非常に正確な軌道を与える必要があり、ロボットはその軌道に従うだけでよいのです。力制御は全く別の概念です。ロボットは環境と直接接触するわけですが、その力を制御することができます」

 力制御ロボットは、純粋な精密制御ロボットと比較すると、アルゴリズムやソフトウェアの作り方が非常に複雑だという。

「私たちは、ソフトウェアの部分を得意としています。ソフトウェアを開発すること自体は問題ではありません。そこで、課題になっていたのは、良いハードウェアを用意することでした。しかし、幸運なことに、共同創業者のうち2人がハードウェアに非常に長けていたのです」

 そこで、自分たちが作った複雑なアルゴリズムをサポートする、より信頼性の高いハードウェア・プラットフォームを開発した。これが、Flexivの創業のきっかけとなる。

 そこから、組み立てや研磨の作業を支援する、優れた力制御を持つロボットを開発しようと考えた創業者達は、環境にロボットを合わせるのではなく、ロボットを環境の変化に適応させるようにする、「適応型ロボット」の開発に取り組む。

 産業グレードの力制御、コンピュータビジョン、AI技術を統合した適応型ロボットの開発・製造に注力する同社。4人の共同創業者でのスタートから、現在は500名の従業員を抱えるまでに急成長しており、米国のサンタクララ、中国の上海、深圳、北京、仏山、シンガポール、台湾にオフィスや工場を持つ世界有数の汎用ロボットメーカーとなっている。

適応型ロボットRizonシリーズ、パラレルロボットMoonlightを開発

 Flexivのフラグシップ製品は、変化する環境に適応し、人間のように「手と目」の協調で複雑な作業を自動化する適応型ロボット「Rizon」シリーズだ。Flexivが独自に開発・生産しているRizonは、人の腕と同じ動きができる7軸の自由度を持ち、独自の力覚、トルクセンサーが搭載されている。

 産業グレードの力制御、コンピュータビジョン、AI技術を特徴とするRizonシリーズの最新版であるRizon 10は、10kgの可搬重量と1015mmの伸長が可能だ。高い適応性を持ち、精密なフィードバックセンサーにより安全性を実現する。

 Rizon 10は、2022年6月に世界最大級のプロダクトデザインコンペであるレッド・ドット・デザイン賞で最優秀賞を受賞している。約2万点の応募作品の中から、美しさ、機能性、革新性、優れたデザインで高評価を得た。審査員からは「人間の腕の形状に基づいたこのロボットの有機的なデザインは、高度に発達した機能や人工知能によって実現された広範囲な能力と調和している」と評価された。

Image: Flexiv

 また、2023年2月には力制御パラレルロボット「Moonlight」を発表した。Rizonシリーズのロボットと、業界で実績のあるパラレルロボットの設計を組み合わせた同製品は、ネジ締め、超精密荷重、研磨など特定の用途において、高精度の力制御と適応性を兼ね備えている。また、コスト効率の良いロボットソリューションを必要としている顧客を対象としている。

「Moonlightを作ったのは、派手なロボットやハイエンドのロボットを使う必要が無い業種に対応するためです。ロボットに磨くだけの動作を求めている業種では、7自由度のようなロボットは必要ありません。そのため、全体の構造、関節の設計は同水準を持ちつつ、自由度だけ低めに設定したロボットをそのようなお客様向けに開発しました。価格もRizonよりずっと手頃になっています」

 Flexivは、ハードウェア及びソフトウェアを自社開発している。特に、コア技術となる高価なトルクセンサーを設計、開発できることは、同社が価格優位性を持つ理由の一つだ。

「私たちは自社でセンサー、関節、腕全体を自社で設計、開発しています。そのため、センサー、ファームウェア、ソフトウェア、AIに至るまであらゆる細部をコントロールすることができ、すべてを自社開発できることから価格を下げることができるのです」

 さらに、ハードウェアとソフトウェアの統合性能を上げ、カスタマ―エクスペリエンスを高めることができるのも同社の強みだ。

最大の市場は中国、次いで米国 日本と欧州にも参入を計画

 Flexivが取り組む課題解決は「反復作業をなくすことです。そうすれば人間はもっと創造的な仕事に取り組む時間を持つことができます」とChung氏が語るように、Flexivは「人々の仕事と生活をより創造的で楽しいものにすること」をミッションに掲げる。

  Flexivは、自動車メーカー、3C産業、航空宇宙産業、家電機器産業を中心に、ロジスティックス、農業、医療、R&Dといった非産業分野にも製品を提供している。例えば、力を制御することができるという利点を持つ同社のロボットは、医療分野においてはマッサージの用途での導入が進んでいる。

 現在、Flexivの最大市場は中国だが、北米も同社の拡大計画における重要な市場に位置付けている。そして1~2年後には、欧州や日本への参入も目指している。

「日本市場に参入する準備をしています。しかし、正直なところ、日本市場はトップレベルの市場で競争が激しく、非常に優れた顧客サービスが必要とされています。当社のロボットを日本で販売するためには、販売チャンネルも必要です」

「特に、ディストリビューター、インテグレーター、日本の販売チャネルに詳しい企業とのパートナーシップが望ましいです」。 Chung氏は、日本企業とのパートナーシップの機会に対して、オープンだと強調した。

人々がより創造的な仕事に集中できるように 市場拡大と製品改良を進める

 Flexivは、過去4回のラウンドで累計1億9,650万ドルの資金を調達している。投資家には、生活関連O2Oサービス大手「美団(Meituan)」などが名を連ねる。

 資金の使途は、市場拡大と製品改良に充てる。市場拡大に関しては、パートナーとなるインテグレーターやディストリビューターと共に販売チャネルを構築する。一方で、製品改良のために顧客からの意見、ユースケースから多くのことを学び、その経験を元に、ニーズに応える形でロボットを改良していくことに資金を使うという。

 Flexivの短期及び長期的な計画について、Chung氏はこう答えた。

「短期的には、今年中に売上を倍増させることが、会社全体の主な目標です。長期的なビジョンは、全ての労働から反復作業、繰り返される作業を取り除くことで、人がもっと創造的な仕事に集中できるようにすることです」


 最後に、Chung氏はFlexivの創業前からの日本との繋がりを教えてくれた。「実は私が、学部生だったころ、本屋でロボット工学の本を見ていたとき、目に留まったロボットの写真がありました。それは、名古屋大学名誉教授でロボット研究者の福田敏男教授のロボットでした」

「福田教授のロボットを見て、ロボット工学に興味を持ち、大学院に行きロボット工学の研究室に入りました。そして、幸運なことに、指導教官が福田教授と仲が良かったんです」。福田教授が研究室を訪れるときはいつもChung氏が案内をしていたという。スタンフォード大学の研究室を紹介してくれたのも福田教授だという。

「もし、福田教授のような人がいなければ、私はロボット工学を学ぶこともなく、Flexivを創業していなかったかもしれません」

 ロボット研究を介した、Flexivと日本との繋がり。今後のFlexivの日本での展開やプロダクトの進化が期待される。



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