世界的に押し寄せるデジタルトランスフォーメンション(DX)の波。多くの企業でデータやAIを活用する動きが活発になる一方、DX人材の不足や社内システムの乱立、組織を横断する基盤の未整備などの課題もある。こうした課題の解決手法を提供しているのがDataiku(本社:米ニューヨーク州)のAIと機械学習の企業向けオールインワンプラットフォームだ。「Everyday AI」を掲げ、データサイエンティストの知見やノウハウを形式知化し、技術的なバックグラウンドを持たない人でも、ローコード・ノーコードで簡単にデータを分析できるのが特徴だ。誰でもデータにアクセスし、分析できるよう「データの民主化を助けたい」という共同創業者でCEOのFlorian Douetteau氏に話を聞いた。

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DXを阻む「社内の壁」と「データサイエンティスト不足」を解消したい

 Douetteau氏は20歳の頃から、フランスの有力な検索エンジンのスタートアップだったExaleadなどでデータ活用や機械学習、AIの開発に携わった。その間、プロジェクトの立ち上げを数多く経験し、ある共通の壁にぶつかったという。

「どうしたらデータイニシアチブを実現できるか、Eコマースやゲーム、広告などさまざまな業界の企業と考えてきました。しかし理想はあっても、社内同士の利害が対立して、なかなかうまくいきませんでした」

 そういったケースでは、特にビジネス部門とエンジニア部門がぶつかることが多かったという。Douetteau氏はDXを達成するためには、両者がうまくコラボレートできるプラットフォームが必須だと考えたのだ。

 そこでDataikuのプラットフォームは大きく分けて2つのレイヤーで構成した。1つはデータインフラの層、そして2つ目はアプリケーションの層だ。

Florian Douetteau
Dataiku
Co-Founder & CEO
フランス・パリにあるPSL大学の高等教育機関École normale supérieureで、数学と論理学を学ぶ。20歳の頃から、検索エンジンを提供するソフトウェア会社Exaleadで働き、R&Dチームを率いながらデータや機械学習、AIの分野に携わる。ソーシャルゲーム会社のCTO、フリーランスのリードデータサイエンティストなども務め、2013年にパリでDataikuを共同創業し、現在は米ニューヨークに本社を構える。

「これまでは、『データはデータサイエンティストが分析するもの』という考え方でした。ですが、これではさまざまなユースケースに応えられません。デジタル変革のバックボーンとなるデータを、低コストで、効率的に一元管理できる保存用レイヤーを用意しました。そしてデータ活用するために大事なアプリケーションレイヤーもひとつのプラットフォーム上に用意することにしたのです」

 Dataikuのプラットフォームは、これまでエンジニア部門とビジネス部門でバラバラに分かれていた機能を一つの基盤のうえに統合した。こうして「データをどこから集めてきたのか」といった疑問や、ユースケースのたびにデータを集め直すストレス、データのサイロ化が生むさまざまなDXの問題から、人々を解放しようとしているのだ。

誰もが「使ってみたい」と思わせる、優しいビジュアルと操作性

 Dataikuは40種類以上のデータソースに標準で接続でき、データを可視化しながらGUI(Graphical User Interface)を使って操作できるようにした。データの前処理・モデル構築・運用・可視化という一連のプロセスは、誰から見ても分かるようにワークフローの形で表現している。

 実際にDataikuの画面を見ると、直感的に分かるGUIに特徴があることに気付く。しかもローコード・ノーコードにも対応しているから「私もやってみたい」と思わせる「優しさ」がある。

 こうした優しさの背景には、「DXを加速させるのは、可視化からはじまる」というDouetteau氏の信念があるからだ。

 通常は大量のデータを活用し、可視化する場合、機械学習やAIといった高度なデータ処理技術と、分析する専門家が必要だ。だが、データサイエンティストの数は限られている。

「DXの加速には、より多くの人がデータを活用する必要があります。その人たちが自分でDXを実現できるようにするのが私たちのミッションです。 そのため、技術・知識のない人や、例えばPythonを知らない人でも、ビジュアルツールとして使いやすければ、DXを実現することができると考えたわけです」

 いまDataikuの導入企業数は500社を超え、Unilever、NXP、Standard Chartered Bank、GE Aviationなど、小売業からエネルギー、金融、製造業まで業種を問わず評価されている。

 実際の現場でDXに成功した事例として、米国GEの航空宇宙子会社、GE Aviationの例を紹介してくれた。同社ではDataikuのセルフサービス型分析システムを1800人以上が利用し、2017年以降、2,000超のデータプロダクトを開発。200件以上の自動化プロジェクトを実現したという。

「彼らはセンサーデータを航空機のエンジンの効率化や、サプライチェーンの最適化、顧客により良いサービスを提供するために活用しました。これらを担ったのは、データサイエンティストではなく、物流担当者や航空機のエンジニア、財務計画や分析の担当者たちです。私たちのプラットフォームを使って、何千ものユースケースを提供し、その結果、組織にとって大きな利益をもたらしています」

 日本でもDataikuの導入が金融や製造業から広がり始めている。2019年より順次、国内のパートナーとして、インテック、電通デジタル、エアー、野村総合研究所、NTTデータ先端技術といった企業などと連携している。直販によるビジネスにも力を入れている。

 Dataikuは2021年8月、シリーズEでTiger Global ManagementやSnowflake Venturesなどから4億ドル(約510億円)を資金調達した。従業員は、2021年の約500人から倍の約1000人に増え、日本チームを強化するなど大きな成長を遂げている。DXは今がチャンスだというDouetteau氏は、中長期のミッションを「すべての知識労働者がAIを使いやすくすること」だとして、今後、グローバル展開を中心に投資していく考えだ。

「DXは今まさに絶好のチャンスを迎えています。あらゆるものを効率化し、意思決定を変革するものとなるでしょう。10年、20年というスパンで見れば、AIはじきに当たり前となって、話題にも上らなくなるはずです」

社名は「俳句」から シンプルで楽しいDXの世界を目指す

 ところでDataikuの社名の由来は「Data(データ)」と「Haiku(俳句)」から来ている。人々がデータを、日本の俳句のようにシンプルで、楽しく活用してほしいと願って名付けたという。インタビューの最後に、Douetteau氏は起業について、若い世代に励ましのメッセージを語った。

「起業は一瞬で決まる短距離競争ではなく、10年、15年とかかる長距離マラソンです。だから完走するために、人生をかけてもいいと思える情熱と、自分の能力に見合ったことを組み合わせてください。私の場合、日本の俳句のようにシンプルな世界にしたいという想いと、自分が人生をかけてきたデータを組み合わせることが企業ビジョンの根幹となりました。熱いパッションと冷静な判断、明晰さを合わせながら、皆さんが成功することを願っています」

 Douetteau氏が目指すのは、データを一部の人が独占するのではなく、誰でも使えるように「民主化」すること。誰もが使いやすい「みんなのためのDX」を実現するプラットフォームを日々進化させている。

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