2013年に設立されたArevoは、炭素繊維などの複合素材を用いた3Dプリンティングテクノロジーを提供するスタートアップ。2018年に住友商事グループも出資し、共同で製造業におけるデジタルトランスフォーメーションを図る。今回はChairman & Co-FounderのHemant Bheda 氏にインタビューした。

Hemant Bheda
Arevo
Chairman & Co-Founder
ボンベイ大学、サンディエゴ州立大学でコンピュータ工学を学んだのち、複数の企業を設立。当時画期的だったDVD再生ソフト開発に携わるなど、業界に貢献。2013年5月にArevoを共同創立し、2018年2月からはチェアマンに就任。

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チタンの5倍の強度、軽さはその3分の1の複合素材

―まずは御社のビジネスについて教えてください。

 我々は、炭素繊維や熱可塑性ポリマーといった複合素材を用いた3Dプリンティング製品や技術を販売する企業です。当社で扱っている素材はチタンの5倍の強度を誇り、軽さはその3分の1にまで抑えています。そしてソフトウェアアルゴリズムが最適な3Dプリンティングを構築し、ロボットが作業を実行する、というのが当社テクノロジーのメカニズムになっています。

 つまり、我々の技術を活用することで製造業の自動化が進み、コスト削減につながるだけでなく、スケーラビリティも高くなるというわけです。エンジニアはもちろん、技術関係に詳しくないデザイナーの方でも簡単に扱えるソフトウェアツールになっています。

―御社で扱っている複合素材について、もう少し詳しく教えてください。

 主に炭素繊維、ガラス繊維などですね。いずれも熱可塑性の素材で、何度でも形を変えて再利用できるため、クリーンで、サスティナブルな素材だと言えます。当社の素材は環境に優しいうえに軽くて丈夫で、効率性も高いものです。今後消費者の中心となるミレニアル世代は、商品の背景やポテンシャルに関心があるため、彼らを取り込むためにもこういった考え方が必要になってくるのです。

Image: Arevo

3Dプリンターで作った史上初の炭素繊維製自転車

―御社の3Dプリンティング技術を用いて、実際にどんな製品を作ることができるのでしょうか?

 今、当社で大々的に扱っているのが自転車です。ホームページにも掲載されていますよ。あれは、3Dプリンターで作った史上初の炭素繊維製自転車です。自転車というのは多数の部品が必要で、製造プロセスも非常に過酷です。人の手による作業も多く、人体に有害な物質を使うこともあります。これでは持続可能な方法とは言えません。

 我々はそういったプロセスを根本から見直しました。今回の自転車制作に、人間は手を触れていません。作業はすべてロボットが担っています。通常、新作の自転車を一から作るのは設計段階を含め、18カ月かかると言われていますが、今回ソフトウェアツールを用いて設計から完成までに要した期間は18日です。当社チームにはコンピュータ科学や材料科学、ロボット工学のプロがそろっており、彼らの力を結集してソフトウェアの力を発揮することで、新たな技術を生み出すことができたのです。

 今後は自転車だけでなくテニスラケットやアーチェリー、楽器にサーフボードなど、あらゆるものを作っていけるようになると思います。それぞれの利用者向けにカスタマイズすることもできるでしょう。ランチを食べている間に、自分専用の自転車をプリントしてもらう、なんてこともできるようになると思いますよ。

Image: Arevo

真の3Dプリンターを目指して事業を立ち上げた

―これまでのビジネスキャリア、そしてArevo設立の経緯についてお聞かせください。

 大学を出て最初はマイクロプロセッサの設計の仕事をしていました。憧れのベル研究所などで働いた後、シリコンバレーに拠点を移し、本格的に起業家として活動を始めました。

 私はあらゆる業界で、起業家として長いキャリアを積んできました。最初の会社ではパソコンでDVD視聴できるソフトウェアを開発していました。そのソフトはマイクロソフトにライセンス供与し、Windowsのオペレーティングシステムの一部になりました。当時はDVDプレイヤーがなければ動画を見ることはできませんでしたから、画期的だったんです。日本や中国の企業とも一緒に仕事しましたよ。当時、中国の企業とうまくやって儲けを出せるような企業は他になかったんじゃないかと思います。

 それからも複数の会社を経営しましたが、いずれもソフトウェアとしてユニークな視点を持った仕事をしたと自負しています。その中でポリマー素材の製造にかかわることになり、それが製造業の第一歩になりました。

―なぜ3Dプリンターの世界に進んだのでしょうか?

 私たちは常に、あらゆることに対して「なぜ?」という視点を忘れずにいようと思っています。3Dプリンターが出回り始め、そのはたらきを見て感じたのは、「これは本当に3Dプリンターなんだろうか?」ということです。

 たしかに3Dプリンターと呼ばれていますが、結局は素材を積み重ねて立体物を作っているわけで、実は2.5次元プリンターなのではないか、と思いました。そこで我々は真の3Dプリンターを目指して独自のソフトウェアやアルゴリズムを作り上げ、ロボットによる3Dプリンティングを完成させたのです。

次世代の産業革命を目指す

―最後に、将来のビジョンをお聞かせください。

 製造業のデジタル化は今まさに始まったばかりで、真のリーダーが不在の状況です。だからこそ、我々がそのリーダーになろうと思っています。15年、20年スパンの話になると思いますが、十分実現可能だと思っています。実際に5年間で我々は自転車業界に衝撃をもたらすことができましたから。

 以前、ビル・ゲイツ氏に会った際、「君の会社のテクノロジーがアフリカで使えるようになるのは、いつになるかな?」と聞かれたんです。確かに、農業やエネルギー、輸送機関など、アフリカの農村地域にこの技術が導入されれば、利便性やコストは圧倒的に改善され、人間の生活が劇的に変わり、産業革命の再来と言えるようになるかもしれません。私の目指すところは、つまりそういうことなのです。

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