image: mentalmind / Shutterstock
2024年のライドシェア業界は、世界的な市場拡大と技術革新が交錯する転換期を迎えている。市場規模は前年比17%増の1,177億ドルに達し、2032年までに4,360億ドル規模に成長すると予測される。日本では2024年4月の法改正によりタクシー会社主体の「日本版ライドシェア」が部分解禁され、地域限定での運行が開始された。この動きは都市部の交通渋滞緩和や地方の交通空白解消に向けた実験的取り組みとして注目を集めている。

世界各国ではライドシェアが生活の一部として定着している(image: Diego Thomazini / Shutterstock)

ライドシェアとは:
スマホアプリを介して、乗客とドライバーをマッチングさせるサービス。タクシーのように路上で「流し」の車両を捕まえることは一般的に認められていない。業界の草分け的存在であるUberが2009年に創設され、その後、世界各地で同様のサービスが広がった。当初、企業側はあくまでプラットフォーマーであることを主張し、雇用関係はないとして、ドライバーの品質確保や最低賃金などに関与しない立場を示していたが、近年は各地で法整備が進み、ライセンスの取得が義務付けられるケースなどが増えてきた。

<目次>
グローバル市場の競争構造と主要プレイヤーの戦略転換
派生ビジネスの生態系とイノベーション潮流
TECHBLITZが選ぶ、ライドシェア関連のスタートアップ5選

グローバル市場の競争構造と主要プレイヤーの戦略転換

Uberの多角化戦略と地域別展開
 Uberは日本市場で2024年9月、タイムズモビリティと提携したカーシェアプログラムを開始し、車両非所有層のドライバー採用を促進。ロンドン市場ではBoltとの競争が激化し、2022年時点で76%のシェアを維持するものの、Boltが23%まで追い上げを続けている。インド市場ではバイクタクシー分野でOlaと激しいシェア争いを展開する中、2024年第4四半期に純利益3倍増を達成した。

Lyftの収益性向上への取り組み
 Lyftは2024年第4四半期、過去最高のライド数を記録し、初めてGAAPベースでの利益を計上。さらに、フリーキャッシュフローも初めてプラスになった。Women+ Connect機能による女性向けサービス拡充やLyft Media広告事業の成長が収益構造改善に寄与している。自動運転分野ではMay MobilityやMarubeniとの提携を加速させ、2025年までに100市場での高級車サービス展開を計画している。

アジア市場のダイナミズム
 DiDiは日本で12地域にサービスを拡大し、相互評価機能や緊急通報機能を追加した安全強化版アプリを導入。Grabは東南アジアでフードデリバリーとモビリティの相乗効果を活かし、2024年通期で3.13億ドルのAdjusted EBITDAを達成した。Olaはインド市場で電動バイクタクシーフリートを拡充し、政府規制を逆手に取った低価格戦略でシェアを奪還中である。

法規制環境の国際比較と日本的展開の特殊性

日本の規制緩和プロセス
 2024年4月の部分解禁後、運行時間と地域が限定された「自家用車活用事業」が開始。ただし河野規制改革相が主張する全面解禁については、斉藤国交相が「タクシー業界への影響懸念」を理由に慎重姿勢を示し、法整備の議論は期限なき継続審議となった。現行制度下では、長野県野沢温泉村の観光需要対応や大分県別府市の交通空白解消など、地域特性に応じた実証実験が進行中である。

国際的な法整備動向
 英国では2024年、二酸化炭素排出量削減を目的に相乗りサービスへの税制優遇を拡大。カリフォルニア州ではFireflyの広告車両に関する新規ガイドラインが制定され、デジタルサイネージの表示面積規制が緩和された。シンガポールではGrabがEV導入補助金制度を活用し、2025年までにフリートの30%電動化を目標としている。

派生ビジネスの生態系とイノベーション潮流

車両広告プラットフォームの進化
 FireflyはUber車両に設置するスマートディスプレイを開発し、運転手の月間平均収入を300ドル増加させることに成功。広告主側ではHotelTonightが観光地周辺でのターゲティング精度向上によりコンバージョン率18%改善を報告している。日本ではシステムオリジンが小規模事業者向け遠隔点呼アプリを提供し、運行管理コストを40%削減した。

保険商品の細分化とオンデマンド化
 東京海上日動はnewmoと提携し、1時間単位での保険料算定システムを業界初導入。従来の日単位保険に比べドライバーの稼働パターンに即した設計で、人身傷害補償とロードアシスト機能を標準装備した。INSHURは米国市場でAIを活用した動的保険料設定モデルを展開し、事故率予測精度を89%まで向上させている。

飲食店誘客連動モデルの拡張
 Freebirdのポイント還元システムは、提携店舗での消費額に応じた乗車料金割引を実現。サンフランシスコ地区の実証実験では参加飲食店の売上平均23%増を記録し、ユーザー継続利用率70%を達成した。日本ではWaysLinkが女性専用ライドシェアサービスを試験導入し、深夜時間帯の利用件数が従来比3倍に拡大している。

子ども向けモビリティサービス
 Zumはカリフォルニア州でGPS追跡機能付き専用車両を導入し、学校送迎サービスを拡充。保護者向けリアルタイム通知システムにより、利用世帯の92%が「不安感軽減」を評価している。Pathaoはバングラデシュで三輪車タクシーをEV化し、走行コストを40%削減すると共に、学童専用ルート設定機能を追加した。

サブスクリプション型保険プラットフォーム
 INSHURはドライバーの稼働データに基づく月額定額制保険を開発し、従来製品比30%の料金削減を実現。ニューヨーク市での導入実験では、加入ドライバーの事故対応時間が平均2.3時間短縮され、保険金請求処理効率が45%向上した。

地方創生連動型モデル
 長野県駒ヶ根市では高齢者向け電話予約システムを導入したライドシェアを展開し、公共交通利用率が17%から43%に上昇。大分県別府市では観光客向けに温泉施設連動の割引クーポン配信を開始し、リピート利用率28%増を達成している。

車両の上部に設置したスクリーンにブランド広告が表示される(Firefly公式サイト)

TECHBLITZ編集部が選ぶ、ライドシェア関連のスタートアップ5選

 TECHBLITZ編集部が選ぶ、ライドシェア関連のスタートアップ5社はこちら!

1. Freebird

Freebird
乗客を飲食店に呼び込むアプリ
設立年 2015年
所在地 米国カリフォルニア州 ベニス
 Freebirdのアプリは、UberやLyftのアプリと連携しており、Freebirdアプリを通してライドシェアを頼むとポイントが貯まる。また提携店へ行けば、その店からキャッシュバックされる仕組みだ。Freebirdアプリは「リンクカードシステム」と呼ぶ技術により、客のアカウントにキャッシュバックする。
image: Freebird

2. Firefly

Firefly
車両の上部にデジタル広告スクリーン
設立年 2017年
所在地 米国カリフォルニア州 サンフランシスコ
 Fireflyは、ライドシェア用の車両の上に広告を表示する、デジタルスクリーンを提供。ドライバーに新たな収益源を提供することが同社のミッションの一つ。ドライバーは同社が提供するスクリーンを車の屋根に設置して走行するだけで、月平均300ドルの広告収入を得る事ができる。
image: Firefly

3. INSHUR

INSHUR
ライドシェアドライバー向けデジタル自動車保険
設立年 2019年
所在地 米国ニューヨーク州
 INSHURは、UberやLyftなどの配車サービスやTLCドライバー向けにオンラインの自動車保険を提供するアプリを扱う。一般車とは異なる自動車保険を必要とするTLC車両やUber、Lyftのドライバー向けに最適な保険プランや手続き方法をチャットボットを通じてわかりやすくガイドしてくれるため、ドライバーは安心して保険を選ぶことが出来る。
image: INSHUR

4. Zum

Zum
多忙な親のための子供専用ライドシェア
設立年 2015年
所在地 米国カリフォルニア州 レッドウッドシティ
 Zumは、安全重視の子供専用ライドシェアサービスを提供。親が予めアプリに日時 / 行先 / 子供の数を入力し予約すると独自のアルゴリズムを使いニーズに応じた各子供の移動需要とドライバーや車両をマッチング。運転適性や犯罪歴も含めた厳密な審査プロセスに合格したドライバーのみ採用し、乗車にあたってはワンタイムパスワードの交換でセキュリティ認証を行う。
image: Zum

5. Pathao

Pathao
バングラデシュのスーパーアプリに成長
設立年 2015年
所在地 バングラデシュ・ダッカ
 Pathaoは、デリバリーと配車を核にしたモビリティサービスプラットフォーム (スーパーアプリ) 。設立して数年でインドネシアの同業Gojekから出資を受けた。同社のサービスは、①自動車、バイク、自転車を活用したライドシェア配車サービス、②eコマース向け配送サービス、③フードデリバリーサービスの3本柱で構成されている。
image: Pathao



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