AIBOや画像認識の技術を活かし、ドローンビジネスに参入
――エアロセンスを創業するまでのキャリアについてお聞かせください。
私はソニーに入社して、エンターテインメントロボットの商品化に携わりました。初代AIBOを担当して、その後QRIOという二足歩行ロボットの研究開発を進めていたのですが、ソニーがエンターテインメントロボットの開発をやめてしまいました。その後はソフトウェアのエンジニアとしてAIの技術をソニーの製品に応用していくという研究開発活動をしました。当時はスマイルシャッター(笑顔を認識して撮影する機能)や、顔にオートフォーカスするという技術が流行り始めていました。
そこから、既存の製品に載せる機能だけでなく、新しい産業・新しい商品カテゴリーを作るような仕事をしなければならないという議論があり、もう一度ロボティクスに挑戦したいという思いで、「空飛ぶロボット」のプロジェクトを提案しました。
しかし、ソニーはロボット事業から撤退しているので、ビジネスとしてやることが難しい状況でした。そのときに自動運転の技術を提供しているベンチャー企業であるZMPを紹介していただきました。そして、ZMPのビジネスノウハウとロボティクス技術を組み合わせた事業を展開するべく、エアロセンスを設立しました。当初はCTOでしたが、2019年に社長に就任しました。
ソニーからは要素技術的なもの、センサーやカメラの提供をいただいています。ZMPからはフットワーク軽く顧客と一緒に開発をして、それを製品として取り組むという、ベンチャー的な仕事のやり方を学ばせていただいています。
転機になった「エアロボマーカー」 南三陸の復興現場の測量に
――エアロセンスが提供するプロダクトの概要やビジネスモデルについてお教えください。
最初はドローンのハードウェアの製造販売ビジネスを狙っていたのですが、機体だけでは使ってもらえないという課題がありました。そこで、お客様と一緒に利用シーンを開拓していきました。ドローンから得たデータを解析し、お客様が欲しいものを提供するという観点で検討し、クラウドのサービスや周辺機器開発を含めた事業に変化していったのです。
ドローンもアプリケーションに合わせて特化して作りますし、それを解析するソフトウェアサービスも併せて提供するのが我々の特徴です。ビジネスモデルは、ハードウェア販売に加えて解析などのサービスをサブスクリプションで提供しています。
まずは受託開発のような形で始めて、それをソリューション化していきました。研究開発のための補助金や助成金も使いながら初期の開発コストを手配して、実際にお客様の現場で使ってみて、製品化していきました。
最初に大きな成果となったのが、高精度測位機能つき対空標識の「エアロボマーカー」です。これにはGPSが埋め込まれています。ドローンを使って測量すると、撮影した画像自体には位置情報は入ってないので、画像に写っている対空標識の位置を測って位置決めができるというものです。
従来の測量では、マーカーを地面に置いて、その場所を測量士が計測するというやり方でかなり面倒な作業でした。計測器の埋め込まれている一体型の機器を使うことで、置いてスイッチを入れて、あとはドローンから空撮すればよくなりました。
これを使って、南三陸町の復興の工事現場、100ヘクタールぐらいある非常に大きな宅地造成現場でしたが、それを全部ドローンによって測量しました。そして、マーカーの位置を解析するソフトウェアもクラウドで提供するということで、オリジナルのソリューションができたのです。このような形で受託開発をしたものをベースに、商品ラインアップを増やしています。
Image: エアロセンス
――マーカーとドローンによる測量と従来の測量では、生産性にどの程度の差がありますか。
ドローンを使わず測量士さんが2人1組で、距離を1件ずつ測るというものが従来の測量です。工事現場では30m毎に移動しながら測るので、100ヘクタールとなると、何週間かはかかると思います。一方、ドローンを使うと3〜4日程度に短縮しました。
最近はドローンの性能も上がっていますので、マーカーを現地に置く作業を3分の1から4分の1程度に省力化できています。10ヘクタールぐらいの現場は、午前中に測って午後には結果が出るようになっています。このように、写真測量が大きく発展したことで、工事現場などで使われるようになりつつあります。
経済安全保障の観点から「国産ドローン」への乗り換え需要も
――エアロセンスが提供するドローンの機体は複数ありますね。用途に特化した機体なのでしょうか。
事業分野は、測量向けに加え、翼のある機体を使った広域のソリューション、それから、長時間の撮影に耐えられる有線給電ドローンと大きく3種あります。測量はマーカーやクラウド、ドローン本体を組み合わせたソリューションになっています。広域のソリューションに関してはドローン自体が結構ユニークです。
国内ではVTOL(垂直離着陸)機型で、固定翼で水平飛行できるドローンはエアロセンスだけが販売をしています。
これは航続距離が50kmありますので、測量の範囲も山を丸ごと、河川に沿って数十km撮影できます。測量だけでなく、農業の補助、陸奥湾などでおこなっている漁場の監視など別のソリューションとしても展開可能です。
有線給電ドローンの「エアロボオンエア」は、元々放送局などの一日中イベントを中継する長時間の撮影に使われていました。通常ドローンで使われる映像は録画したものを編集して使いますが、エアロボオンエアは電源ケーブルがつながっているので、イベント中ずっと飛べます。
しかも光ファイバーのケーブルもありますので、4Kの映像を遅延なしで送れます。中継やリアルタイム性に優れているので放送局向けとなりますが、それでは市場規模を拡大できないので、たとえば土木建築現場の監視や遠隔での業務アシストへの展開を考えています。
Image: エアロセンス
――ドローンというと中国メーカーのプロダクトがかなり普及しているイメージがあります。御社が参入している分野において競合の状況はいかがでしょうか。あるいは、競合と比べた際の優位性についてお聞かせください。
中国のDJI社のドローンが国内でも世界的にもかなりのシェアを占めています。しかし、我々の製品のようにVTOL型や給電できるものを出していません。私たちは、お客様の用途に合わせたより高機能で付加価値のある製品開発を進めてきています。
近年は、経済安全保障の観点から、国の工事や重要なインフラに関しては、国産のドローンを導入しようという機運が高まっています。我々のエアロマーカーやクラウドをDJI社のドローンで使われているお客様もいますが、測量分野に関しては我々のドローンに乗り換えるケースも増えています。こういった点で機械の需要は今後生まれていくと思います。
南極の観測から災害対策など、幅広い分野での社会貢献に
――今後1年くらいの短期間での目標はありますか。
2022年に、エアロボPPKという測量向けのドローンを出しました。実はある意味、エアロボPPKはエアロボマーカーを否定するような製品で、衛星からの信号を受信できるため、対空標識を置かなくても精度が高い計測ができます。
これまでの測量向けのドローンは測量会社が使うイメージでした。今後はユーザー層の拡大として、施工会社さん、ゼネコンさんやサブコンさんだけでなく、実際に工事を実施する会社で、工事の進捗確認のためにより高頻度でドローンを飛ばすことができるようになります。
これまでは施工会社は測量会社に依頼をして、始まりや終わり、中間点での測量だけを依頼していましたが、これからは日々測量する動きが増えていくでしょう。
なぜなら、土木工事では日々処理した土量を管理する必要があります。今日の作業が、土の体積でどれくらいだったかをデータで把握できることは、大きな価値となります。我々のソリューションでは、現場をすべて3Dデータ化しているので、作業した部分の体積がわかります。これまでより、使い勝手がよくなりますので、毎日や週に何回という頻度で使うのに適しています。
毎日の計測を測量会社に依頼するのは大変ですし、現場の方が工事の終わりにパパッと30分ぐらいでチェックできると状況が良くなります。測量会社だけでなく、ゼネコンや建機メーカーと提携したいと考えています。
もちろん、これまでの職人気質の現場に対して、新しいワークフローを定着させる必要があるとも考えています。工事現場の方はパソコンにデータを打ち込むような作業はされませんので、使いやすさを追求したアプリケーションの作り込みが必要だと感じており、そこを強みにしていこうと考えています。
Image: エアロセンス
――工事や建築以外の用途について教えてください。
さまざまな事例があります。例えば、国土地理院が当社のソリューションを使って南極での測量をしたこともあります。陸奥湾では、赤外線カメラを積んで、夜間に明かりを消して操業している密漁船を発見する実験もしています。定期的にドローンで見回っているとなると、密漁に対してかなりの抑止力が働くでしょう。
国の仕事ですと、砂防ダムの点検の事例もあります。実は砂防ダムは山奥にありますので、人がアプローチしにくく、なおかつ長い距離を飛ばなければいけません。エアロボウイングですと5km先まで行って帰ってくるのに10分とかかりませんので、現場に行かないでできる作業を省力化できます。電力会社とは、山中の送電線や鉄塔の点検も検証しています。
広域の点検はまだ市場が開拓されていない分野です。特に広ければ広いほど、遠ければ遠いほど、費用対効果も高まります。広域にドローンを飛ばすには、通信も広域で届く必要があり、LTE網を使ったドローンのコントロールもできるようになりました。宇和島では、大地震が起きた場合に交通が寸断されて、沿岸部の確認ができないという問題に対して、LTE通信に対応したエアロボウイングを使って沿岸部をまわって災害時の調査状況把握を行う実証もしました。
――中長期的なビジョンについてお教えください。
多くの企業・組織が、データ活用の価値を理解し始めています。しかし、自社でデータを集めるのは難しい業界もあります。特に物理的に近づくのが困難な場所のデータなどは、私たちがドローンやロボットによって収集し、各種デジタルシステムにつなぐ部分を担っていきたいです。
我々はロボティクスの技術を使い、データを取ってデジタルで連携するという技術を持っていますので、さまざまな企業・団体の方々がやりたいことそれぞれに、我々の技術開発の力で対応できます。ドローンとデータを活用した新たな取り組みを、皆さんとご一緒させていただきたいと思っています。