ヤンマー 社長室 コネクティッドビジネス室 シニアスペシャリスト
小山 博幸

ディーゼルエンジンの開発・製造をコアに事業を展開するヤンマーは、2018年社長室コネクティッドビジネス室を立ち上げた。現在では、10名で5つの新規プロジェクトを推進している。創業107年を迎えるヤンマーの新規事業の展開、スタンフォード大学d.schoolと連携して生み出したものについて小山氏に語ってもらった。
(モデレーター:スタンフォード大学アジア太平洋研究所 櫛田健児氏)
前編はこちら

※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit 2019 Tokyo」のトークセッションの内容をもとに構成しました。

楽しんでやることも大事

櫛田:大企業にはなかなか根付かないデザインシンキングの手法ですが、そもそもデザインシンキングをやっている人たちに足りないのは、実用化に持って行くためのパートナーだと考えています。デザインシンキングを本当に事業ベースに持ち込もうと思った時、経験があるとは限らないですよね。たとえばカキの養殖の例でもありましたが、そもそも社会における困りごと、テーマの設定はどのようなところから考えつくのですか?

小山:最初は広い範囲でテーマの設定をしています。学生さんにこのエリアの中で自由に遊んでいただきます。もちろん、テーマから逸脱しそうな時は是正することもありますが、基本的には自由な考え方でテーマを捉えてもらう。そうすることで、本当の有効活用が見えてくると思うんですね。ただ、我々は事業ですので活用する目的がいったいいくら利益を出すのかという部分にフォーカスをして、事業ベースに持って行く、というのが必要になります。

櫛田:途中経過もとても大切ですよね。放っておくと使いものにならなくなってしまうと。

小山:そうですね。またあらゆる工程において、私たちは「楽しんでやらないと面白くない」と思っています。もっと言えば社員のマインドセットを変えたい、と思っているんですね。当社の社員は、テクノロジー大好きだからテクノロジーを使って仕事をしている、ということに終始してしまう傾向があるんです。野球で例えるなら一塁ベースに正座している状態です。けれどそうではなくて、アウトになってもいいからリードしろと。デザインシンキングはそういう機会を与えるきっかけになると思います。

小山 博幸
ヤンマー
社長室 コネクティッドビジネス室 シニアスペシャリスト
1981年 山梨大学工学部電気工学科(学士)卒業後、パナソニックで海外市場での技術商品開発から事業化への取り組み、海外アカデミアとの連携によるオープンイノベーションを推進。企業アライアンスによるCELinux Forumの創設、マーケティンググループチェア。2015年からヤンマーにてオープンイノベーション、新規事業創出を担当。現在、デザイン思考を活用した産学連携プログラムを元に新規事業(ビーチリゾートでの新たなワクワク体験を提供する遊具)を創造し、事業化を目前に控える。新規事業の創出を通して企業カルチャー、社員のマインドセットの改革を目指している。
櫛田 健児 (くしだ けんじ)
スタンフォード大学アジア太平洋研究所
1978年生まれ、東京育ち。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley - New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。http://www.stanford-svnj.org/
 そんなこともあってこの新規事業部は、とにかく会社の中ではむちゃくちゃ変な人の集まりだと。「動物園」と言われることもあるんです。しかし私は「野生保護区です」と答えています。自由に走らせてもらっている代わりにちゃんと成果出しますから、と。

 実際に私たちがやっている取り組みがテレビなどの外部の媒体に紹介されて「誰がやっているの?」と社内の人間から聞かれることもあります。とても楽しそうにやっているよねと。リゾートホテルに泊まるお客様がターゲットですので、僕たちも出張でリゾートホテルに泊まって、「こんな風にやっているよ」と社内でシェアすると「ぼくにも手伝わせてください」と手を挙げてくることもあるんです。こういう動きが、実感として伝わって来ています。

櫛田:それは素晴らしいことですね。やはりワクワクするものがないと、マンネリ化してしまうと思うんです。以前、ヤマハ発動機のYamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valleyが研究機関のSRIと組んで、バイクに乗る自動運転する人型ロボットを作ったんですね。この開発による効果として、「うちの会社でこんなことができるんだ!」って、社内がすごく元気になったそうなんです。そういう意味でも、こういうワクワクする取り組みは本当に重要だと感じましたね。

新たなアイデアと人材をもたらしてくれる

櫛田:想定外でよかったところは何かありましたか。

小山:今回大学生たちが一緒に開発を手伝ってくれたんですが、プロトタイプからプロダクト開発まで携わってくれたことですね。特にプロトタイプを一緒にやった学生さんたちは事業の本当に最初から関わっていたので、開発もスムーズに進みました。効率が良かったですね。優秀な学生さんと一緒にやれたことも大きかったです。

櫛田:ちなみに、開発に携わって、卒業した学生たちとのつながりは残っているんですか?

小山:卒業生とのつながりもありますね。そもそもこのプログラムをスタートした時に何に注力したかというと人間関係の構築なんです。まずは学生さんと企業の壁を取り払うように心がけました。たとえば学生さんのお誕生日にはプレゼントをしたりとか、就職相談に乗ったりとか。そうすると、自然と卒業してからも協力してくれるんですよね。ファンになってくれるんです。

櫛田:ファンになってくれる、シリコンバレーで新しい仲間をつくるというのは重要な取り組みですよね。最後に、デザインシンキングの活用を考える方に、メッセージをもらえますか。

小山:デザインシンキングは、ものすごく使えるツールだと思います。実際のプログラムでは、スタンフォードと別の大学とで、それぞれ3~4人を2グループ作って、8人程度のチームで活動するんです。企業側の理想的な取り組みスタイルは、自社の若手で3~4人のチームを組み、大学で開催するのと同じタイミングで同じようなことをやらせることです。そして、時々大学に乱入して「ぼくらもこんなこと考えているんだよ」と提案をチラ見せしていく。参加する学生は優秀なエンジニアで、当然、全部英語でのやり取りです。そういった刺激を受けることで「自分たちが会社を変えていく」と意識を変えるきっかけになると考えています。

 ちなみに、デザインシンキングのプログラムを受けるには1500~2000万円かかるのですが、決裁をもらうためには次の3つを伝えるのがポイントです。1つ目は人材教育できます。2つ目は6ヶ月間、学生たちからリアルで多角的な生の情報がもらえます。3つ目はあわよくば商品化・事業化できるチャンスが見つかります。会社を変えていきたいという目的のもと3つのポイントを伝えれば、まず一回目の決裁はおりると思います。

 さらにはこの取り組みを「続けること」、これも重要です。属人的な部分もあるので、外から得た情報や知識を、継続することで会社に広げていくのは重要なことだと思います。



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