コマツのトップが語る、「シリコンバレーと向き合った5年間」

コマツのトップが語る、「シリコンバレーと向き合った5年間」

Silicon Valley / Event Report / Japanese Corporation
2019-09-27 11:30
コマツ 代表取締役会長
大橋 徹二

建設現場全体をICTでつなぐ「スマートコンストラクション」が広く知られるコマツ。シリコンバレーでは、最初のパートナーであるSkycatchと出会いからわずか5か月で協業を実現。その後も建設IoTプラットフォーム「LANDLOG」など、シリコンバレーでの人脈・技術をフルに活用し、躍進を続けている。なぜコマツは、グローバルな協業開発を次々と成功させられるのか。代表取締役会長の大橋徹二氏に聞いた。
(モデレーター:Stanford University APARC 櫛田健児氏)

※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit 2019 Tokyo」のトークセッションの内容をもとに構成しました。

協業までわずか5か月。圧倒的なスピード感

大橋:コマツの事業戦略は「ダントツ商品・ダントツサービス・ダントツソリューション」です。建設機械というハードだけでなくソリューションにも力を入れており、世の中の変化に合わせた素早い対応と価値提供を目指しています。

 2014年にはCTO室を創設し、商品開発体制を整えました。CTO室の大事なミッションのひとつが、「将来ビジョンの映像化」です。10年、20年、30年先の夢・将来像を映像にし、社員への浸透を図っています。また、業界の未来を見据えた取り組みを行う企業を「リードカスタマー」と位置付け、積極的に意見交換をしています。このことは、将来ビジョンをつくる際にも非常に役立っています。

 さらに、「インターナショナル・アドバイザリー・ボード(IAB)」を設置。最先端技術に詳しいシリコンバレーなど海外のアドバイザーを招聘し、当社のトップ層と一堂に会して今後の技術戦略について議論する場を設けています。

 CTO室の創設以降は、「ニーズとシーズを結び付ける」という試みを続けてきました。その成功例のひとつが「現場地形の見える化」です。実は建設現場では、きちんとした測量を行わないまま工事をスタートすることが常でした。ですが、このままでは工事を発注する側にとっても受注する側にとってもマイナスでしかない。「正確な測量で正確な施工計画を」を目的に、プロジェクトがスタートしました。ドローンで現場を撮影するまでは簡単ですが、写真には木、車、建物なども写っています。ベアグランド(むきだしの地形)を正確に測量するには、そうしたノイズをすべて取り除くところから始めなくてはなりません。

 それを可能とするパートナーであるSkycatchと出会ってからは、驚くべきスピードで事が進みました。CTOがシリコンバレーへ向かい、2014年10月に初会合、翌月には契約。2015年1月にビジネスモデルを発表し、翌月から「スマートコンストラクション(建設現場のプロセス全体をICTでつなぎ、生産性向上をめざす)」がスタート。この間わずか5か月です。

 技術はその後も進化を続けています。写真のノイズを取り除いて正確なデータを生成するまでに、当時は1日を要していましたが、現在はわずか20分ほど。今後は、リアルタイムで行えるようになるでしょう。

大橋 徹二(おおはし てつじ)
1954年生まれ。東京都出身。東大工学部卒。1977年コマツへ入社。1982年から2年間、米スタンフォード大大学院に留学。その後、英国コマツ駐在を経て、粟津工場管理部長、真岡工場長、コマツアメリカ社長、生産本部長などを歴任。2009年に取締役、2013年代表取締役社長兼CEO就任。スマートコンストラクションの市場導入や米国ジョイ・グローバル社の買収などを実施。「イノベーションによる成長戦略」、「既存事業の成長戦略」、「土台強化のための構造改革」の3つの経営戦略に注力するとともに、コマツの強みであるIoTなどを活用し成長を加速させた。2019年4月より代表取締役会長就任。 また、同年5月より一般社団法人日本経済団体連合会 副会長就任。
櫛田 健児 (くしだ けんじ)
1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley - New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。http://www.stanford-svnj.org/

将来像・リードカスタマー・イノベーションパートナーが不可欠

大橋:シリコンバレーには、一度「仲間」と認めた相手には、次々と人や企業を紹介するというオープンさと懐の深さがあります。「次はエッジコンピューティングが必要だ」となると、NVIDIAを紹介され、協業することに。その後もSwift Navigation、NTTドコモ、SAP、OPTiMなどとのコラボレーションにより、生産現場におけるあらゆるモノ(土・材料・機械など)をつなぐ建設IoTプラットフォーム「LANDLOG(ランドログ)」が完成しました。こちらは、どの企業でも使えるオープンなプラットフォームとして提供しています。

 イノベーションとは「新しい価値を創造すること」だと我々は考えます。イノベーション成功のカギは「各所と連携した素早い対応」にあり、そのためには「具体的な将来像」「リードカスタマー」「イノベーションパートナー」が不可欠です。

 私たちは将来ビジョンをリードカスタマーとともにつくり、イノベーションパートナーとの協業により開発を進めています。大事なのは、いいパートナーと出会えたらすぐにPoCをすること。損得は抜きにして、「すぐに」です。さらに、意思決定はステアリングコミッティで行い、いち早く社会実装する。パートナーとの関係はWin-Winが大前提です。「自分たちだけ儲けよう」という考えでは、誰も協力してくれません。

櫛田:大変勉強になりました。大橋会長のおっしゃる通り、コマツとSkycatchとの出会いから実装まではとにかく早かったですよね。だからこそ仲間として認められ、NVIDIAとのさらなる出会いにもつながったのです。シリコンバレーにおいては「まず仲間をつくること」が大事です。コマツの動きは、多くの日本企業がお手本にするべきでしょう。そもそもSkycatchとは、なぜあれほど早く事が進んだのですか?

大橋:「とりあえず、やってみるか」という調子でした。スマートコンストラクションをフルで進めようとすると、建設機械が売れなくなり、コマツは潰れてしまいます。しかし、現段階で我々がやらなかったとしても、将来は必ずほかの企業が手をつけるはず。「であれば、自分たちの手で」という思いで始めた事業であり、「失うものがなかった」というのが本音です。

櫛田:スマートコンストラクションにより、建設機械の生産やアフターサービスといった従来の事業軸とはまるで違う軸が生み出されたわけですね。「リードカスタマーとの意見交換を大事にしている」というお話でしたが、顧客だけでなく「顧客の顧客」といったところまでのペインポイントを理解するような議論が行われているのでしょうか? また、それはコマツの経営陣も交えて行われているのでしょうか?

大橋:リードカスタマーとは、経営陣を交えたお付き合いをしています。また、当社では「ブランドマネジメント」として、お客様企業から常に選ばれ続けるための活動を行っています。私たちのようなB2B事業は、我々の製品・サービスを使って顧客に利益が生まれてこそ成り立ちます。「コマツならば」という信頼感をもってもらうことが大事だと思っています。
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