コマツ 代表取締役会長
大橋 徹二

建設現場全体をICTでつなぐ「スマートコンストラクション」が広く知られるコマツ。シリコンバレーでは、最初のパートナーであるSkycatchと出会いからわずか5か月で協業を実現。その後も建設IoTプラットフォーム「LANDLOG」など、シリコンバレーでの人脈・技術をフルに活用し、躍進を続けている。なぜコマツは、グローバルな協業開発を次々と成功させられるのか。代表取締役会長の大橋徹二氏に聞いた。
(モデレーター:Stanford University APARC 櫛田健児氏)
前編はこちら

※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit 2019 Tokyo」のトークセッションの内容をもとに構成しました。

オープンさがスピードを加速させる

櫛田:ぜひ多くの企業の模範にしてほしいのが「将来ビジョン」です。Webサイトでも一部ご覧いただけますが、実に明確なビジョンをCGで表現されています。私もいくつもの企業におすすめしており、みなさん「うちも作ります!」となるのですが、後日映像を見せてもらうと、幸せそうな家族の映像の後に会社のスローガンでシメ、といったように具体性がないものがほとんどです。具体的な将来ビジョンはどう描いているのでしょうか?

大橋:リードカスタマーへのヒアリング内容と、これまでの知識・見解などを投影しながら、カタチにしています。そして、定期的に映像を見返し、将来像と現状とをリマインドし洗練させる。そうすることで、今までのプロセスが正しかったか、今後の進むべき方向性などが見えてきます。

櫛田:忌憚なく議論できる風通しの良さも大事なのでは?そうでないと、「この部署の言い分も聞こう」「上もこう言っているし」と、忖度ばかりで具体性がなくなりそうです。

大橋:確かに雰囲気は大切ですね。コマツの場合、CTOがオープンマインドであることが奏功しています。

櫛田:では、CTO室にふさわしい人材とは?

大橋:必ずしも、機械設計や電気設計に長けた人が適しているとは思いません。小さな枠にはまらない人、好奇心やチャレンジ精神が旺盛なのも大事です。

櫛田:なるほど。では、大橋会長から見たシリコンバレーの印象を教えてください。

大橋:私はもともとスタンフォード大学院を出ており、シリコンバレーとの付き合いもあったのですが、いざビジネスで身を置くと、とにかくスピード感が圧倒的でしたね。大事なのは、どれだけトップがコミットできるか。報告書にサインだけをしているようなレベルでは、何も生まれません。

大橋 徹二(おおはし てつじ)
コマツ
代表取締役会長
1954年生まれ。東京都出身。東大工学部卒。1977年コマツへ入社。1982年から2年間、米スタンフォード大大学院に留学。その後、英国コマツ駐在を経て、粟津工場管理部長、真岡工場長、コマツアメリカ社長、生産本部長などを歴任。2009年に取締役、2013年代表取締役社長兼CEO就任。スマートコンストラクションの市場導入や米国ジョイ・グローバル社の買収などを実施。「イノベーションによる成長戦略」、「既存事業の成長戦略」、「土台強化のための構造改革」の3つの経営戦略に注力するとともに、コマツの強みであるIoTなどを活用し成長を加速させた。2019年4月より代表取締役会長就任。 また、同年5月より一般社団法人日本経済団体連合会 副会長就任。
櫛田 健児 (くしだ けんじ)
1978年生まれ、東京育ち。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley - New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。http://www.stanford-svnj.org/
櫛田:インターナショナル・アドバイザリー・ボードを組織した経緯は何でしたか?

大橋:もともとCTOの構想のひとつにあったようです。アドバイザーのみなさまには将来ビジョンについてユニークな意見をいただくことも多く、非常に意義深いと感じています。

櫛田:「自分たちの考えをどこまで共有してもらうか」は大事です。共有しないと、シリコンバレーでは仲間にはなれませんから。コマツの将来ビジョンは、その意味で非常にいいツールとなっています。「こんな面白い会社あるよ」と話題になりますし、業界知識がなくても「これは面白いですね」「本当にプラットフォームやるんですか?」と人が集まってきます。

 また、コマツのプラットフォーム「LANDLOG」も実に素晴らしい。単にネットをつないだだけのサービスをそう称していることも多いのですが、真のプラットフォームとは「不特定多数の第三者が、そのプラットフォーム、リソースを自らの価値発見のために使えるもの」でなくてはならない。ですから、利用者が増えるほど、プラットフォーム自体の価値も上がります。日本企業で真のオープンプラットフォームを作ったのは、私が知る限りコマツだけです。

大橋:実は、当初我々が作ったものは、今おっしゃられた悪例そのものでした。それをインターナショナル・アドバイザリー・ボードで発表したところ、櫛田先生から「それはただの自社製品を売るツールであり、プラットフォームとはいえない」とお叱りを受けまして(笑)。そこでプラットフォームの考え方やオープン性について練り直したものがLANDLOGなのです。

櫛田:LANDLOGではNVIDIAとも協業しています。

大橋:データ送信の安定性と膨大なデータの処理能力向上のために、エッジボックス(エッジコンピューティング)が必要でした。最初から明確な構想や機能があったわけでなく、いろいろ話し合ううちに具体化していった感じでしたね。「将来的にはGPUが必要だろう」と、どんどん話は進みました。社内だけでは、とうていこんな仕組みは作れなかったでしょう。われわれとNVIDIAの思惑や動きが、うまく一致したからこそだと思っています。

櫛田:コマツから見れば、技術革新が大きく進んだ。NVIDIAから見れば、大量のデータが集まり、その解析方法についてのノウハウも得られた。まさにWin-Winです。でも、もしコマツが「データを取られたら・・」と不必要な守りに入っていたら、実現しなかったはずです。今後はオープンイノベーションなしでは、企業の技術開発は進まないでしょう。こうした仲間づくりや協業において、多くの日本企業が苦労している理由は何だと思いますか?

大橋:他社の事情はよく分かりませんが、当社は社風がオープンであるのと、商品が単一であったために進めやすかったのかもしれません。事業部門が複数ある企業では、1部門だけ前向きでも、会社全体を動かすまでのエネルギーにはなりにくいですから。

危機感を持つべき。待っているだけではディスラプションされる

櫛田:複数事業を展開する企業は、既存の部分を大事にする一方で、新たな価値の作り方についても模索していかなくてはなりませんね。では、経営者層の方々に対してメッセージはありますか?

大橋:「危機感を大事に」でしょうか。「待っているだけではディスラプションされる」という現在のビジネス環境を、どれだけ認識できているかが肝心です。複数の経営軸がある企業はまだいいでしょうが、我々は建設・鉱山機械1本しかない。そこが壊れてしまったら会社がなくなってしまうわけですから、真剣度が違います。

櫛田:最後に、シリコンバレーの活用や新たな価値の作り方など、大橋会長ならではの視座で教えてください。

大橋:シリコンバレーには、非常にクリエイティブで、イノベーティブで、新しいことへの意欲に溢れた人たちが集まっています。さらに、イーロン・マスクしかり、彼らのモチベーションはお金儲けではなく「社会問題の解決」です。日本企業が彼らとともに「社会的課題をどう解決していくか」という視点で議論を深めていければ、もっと近い距離感でコラボレーションできるのではないでしょうか。さらに、短期間で協業の成功事例を作れれば、その後も長く付き合えると思います。

櫛田:成功事例は大事ですね。シリコンバレーでは何かしらの成功事例があれば「面白い会社だ」という評判がすぐに広まります。コマツにおけるSkycatchにしても、どこかと組まなければ世界展開はできなかったわけです。日本企業は社会実装という「リアル」を実現できる可能性を多く持っており、シリコンバレーのスタートアップはいかに「リアル」な相手と組めるかがカギ。ただし、スピード感は不可欠です。彼らは常に「急成長しないと潰されてしまう」という危機感をもっているため、「稟議書が回るのに3カ月」などと言っていると、さっさと見限られて別の企業と組まれてしまう。小さな成功体験でいいのです。スピード感をもって、実際に回していくことが大切なのです。



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