顧客満足度を追求し、改善サイクルを回し続ける
―プロダクトマネジメント部門を率いるOdedさんの役割とは何ですか。
簡単に言うと、カスタマーとエンジニアリングの橋渡しが私の役割です。
カスタマーから直接、または営業チームやセールスエンジニア、サポートチームからカスタマーの要望やニーズが届きます。そうした情報を蓄積し優先順位をつけて要件定義を行い、エンジニアに展開し開発を進め、市場に投入する。製品管理のサイクルを回すことがプロダクトマネジメント部門の役割です。
従来のソフトウェア製品はユーザーが自分でデバイスに展開し運用したため、販売後に開発者とユーザーが密に接点を持つことはありませんでした。しかし、Zoomのようにサービス提供型のソフトウェアでは、ユーザーがどのようにシステムを使ったかなど、フィードバックが直接届きます。これは、システムを改善し続けることができるという意味では非常によいことですが、同時に厳しいプロセスでもあります。
―終わりなく常に改善すべきことがある、ということですね。
そうですね。Zoomでは、カスタマーへのヒアリングを定期的に行い、カスタマーからの要望や、既存機能へのフィードバックを得ています。そして、それをもとに製品・サービスを改善し、カスタマーに提供する。このイノベーションサイクルを続けるからこそ、Zoomの製品・サービスはよりよいものになっていくのです。
当社は顧客満足度をとても重視している会社です。カスタマーが満足する製品・サービスを提供しなければ、成功できないと考えています。そして、カスタマーが満足する製品を提供することは、従業員も仕事に対して満足を感じることになる。これも大切で「サイクル」の一部だと考えています。
Zoomには元WebEx関係者が多く在籍しています。WebExではカスタマーを満足させることができませんでした。私たちはZoomで同じことを繰り返すつもりはありません。
カスタマーの問題の根本的な原因を見つける
―カスタマーからのフィードバックは様々だと思います。どのフィードバックを取り入れるかはどのように決めるのでしょうか。
それは、プロダクトマネジメントの責任者である私のコアな役割ですね。方法としては、まずはカスタマーの問題を理解し根本的な原因を見つけることです。そして、問題を一般化するようにしています。
同じ問題でもカスタマーによってフィードバック時の表現が違う場合があります。例えば、カスタマーAにとってはセキュリティの問題、カスタマーBにはプライバシーの問題だとフィードバックを受けても、根本的な原因は同じということがあります。また、全く違う問題でも原因は一つで、一つのソリューションで複数の問題が解決する場合もあります。そのため、まずは問題を理解すること、根本的な原因を見つけ出し、ソリューションを考えること。そして、解決策を一般化することで、複数の問題に対応しています。
最初に「カスタマーとエンジニアリングの橋渡し」が私の役割だとお伝えしましたが、技術を熟知し、カスタマーのニーズを理解することで、この「橋渡し」という役割を担っています。
カスタマーの「Happiness」を絶対視するエンジニアチーム
―ユーザーがZoomを選ぶ理由はなんだと思いますか。競合他社とどのように違うのでしょうか。
Zoomは4つの面において競合他社と差別化していると考えています。
1つは、当社には非常に優秀かつ経験豊富で、カスタマーの「Happiness」を絶対視するエンジニアチームがいることです。彼らは次世代ビデオ会議システムをゼロから作り上げました。
次は、当社の技術力です。当社のエンジニアの技術は世界で最高レベルです。そんな彼らがビデオ会議システムに全力を注いでいます。また、当社は何年もかけて独自のアーキテクチャとデータセンターのネットワークを構築しました。これにより、安定した信頼性が高いサービスを提供しています。
3つ目は、当社の全ての製品・サービスは「一式」になっているという点です。小規模から大規模のビデオ会議、ウェビナー、電話、テキストチャットなど全てを一つのクライアント上で使えます。さらに、管理システムも一つとなっており、システムの管理においても利便性が高いです。
4つ目は、製品の拡張性です。Zoomは、例えばカレンダーやSlackなど、相当数のアプリと連携できるようにしています。カスタマーが普段使っているアプリとZoomを連携して使えますので、ワークフローに馴染みます。
デザインは徹底的にシンプルに
―ZoomのUI/UXはとてもシンプルですね。デザイン戦略について教えてください。
シンプルであることはとても重要なことです。操作性においてもシンプルで簡単だということは重要です。例えば、Zoomにはウェビナーで使う際に必要になるような高度な機能があり、こうした機能を使うには事前トレーニングが必要になります。しかし、一般的な使い方をするユーザーには不要な機能ですので、表示しないようにしています。ユーザーの必要に合わせて表示する機能を変え、シンプルなUIを基本としています。
また、日本で問題になるということは、その他の国でも問題になり得るということなので、国ごとにUI/UXを変えるという発想はありません。変えているのは、使用言語と、ヨーロッパのGDPR(EU一般データ保護規則)のように、法律への準拠が必要な箇所のみです。
会議室からワークスペース全体へ
―今後Zoomではどんな機能が追加されるのでしょうか。日本人としては、翻訳機能を実装する予定があるのか気になります。
現状の機能では、会議の内容をトランスクリプトとして記録する(メモを残す)事が可能で、この機能は英語対応のみです。リアルタイムでトランスクリプトする機能を本年中にリリースする予定もありますが、翻訳機能に関してはまだ検討段階です。
翻訳機能は実装可能です。ただ、精度がまだ十分ではなく実装できる段階にはありません。現在開発を進めているのは、国連スタイルの同時通訳機能です。自動通訳ではなくて通訳者が通訳を担います。そして、言語毎にチャンネルを分けることで、国連の国際会議レベルの多言語同時通訳をZoomで行うイメージです。
―プロダクトマネジメントの観点で、今後の展望を教えてください。
既存製品を使ったビデオコミュニケーションをよりスムーズに行えるようにすることが短期および中期的な目標です。そのためには、接続性と安定性をより確実にしたいと考えています。
次は、会議を開く際に発生するタスクを自動化することです。例えば、会議開催時の手間を省略する機能、会議後の議事録を自動配信する機能や、次の打合せの予定を自動的に設定する機能など、会議に関係するタスクを全てシームレスに自動的に行えるようにすることです。
長期的な展望としては、会議室だけでなく、オフィス全体にビジュアルコミュニケーションを浸透させ、ワークスペースをより効率的な場とする、デジタル・トランスフォーメーションを目指します。
【特集】最強ビデオ会議ツールZoom
#00 競合ひしめくビデオ会議ツールでZoomが成功できたわけ
#01 【CEO独占インタビュー】なぜZoomは世界中で好まれるビデオ会議になったか?
#02 なぜZoomは使いやすいか。磨き込まれた機能、デザインの秘密
#03 世界で使われるための、たった一つの"共通戦略”
#04 CMOが語る、Zoomのマーケティング戦略
#05 Zoomをいち早く発掘し、日本市場で独占契約できた理由