従来のデータベースにはなかったクラウドのような柔軟性
――みなさんの経歴を教えてください。
Cook:私はPivotal Software(以降、Pivotal)の社長を務めていました。この会社は、VMwareからスピンアウトしたクラウドプラットフォームの企業で、日本でも多くの仕事をしました。その前はデータベース企業のGreen plumのCEOを務めていました。この会社はDellが買収したEMCに買収された会社です。その前はSun Microsystemsに19年勤務していました。
Ranganathan:私は共同創業者の一人です。主に研究開発に携わってきました。2016年にYugabyteを創業する前は、Nutanixにいて、分散ストレージに取り組んでいました。さらにその前はFacebookに6年ほど在籍しており、共同創業者のKannan Muthukkaruppan、Mikhail Bautinと出会いました。Facebook時代は、オープンソースの分散データベース管理システムである「Apache Cassandra」を構築しました。そして、1日に数十ペタバイトもあるデータと何十億ものリクエストがあるこれらのデータベースの運用も担当していました。
松尾:私はPivotalやAWSで勤務した経験を活かせると思い、Yugabyteの日本法人設立にあわせてジョインしました。日本市場でのカントリーマネージャーを担当しています。
市村:私も同様に、以前Pivotalで勤務しており、松尾よりも少し前にYugabyteに入社しました。日本市場での技術的な役割を担当しています。
シンプルに、安全で継続的なスケールアウト環境
――Yugabyteのプロダクトである分散型SQLデータベースは、どのような背景から登場したのでしょうか。
Ranganathan:私はFacebookに2007年に入社したのですが、当時はとても面白い時代でした。そのころのFacebookは、プライマリデータセンターとフォールバック用の2つのデータセンターがあり、アプリケーションの構築も、現在のようなマイクロサービスと呼べるようなものではなく、分散型SQLデータベースもありませんでした。単純に追加できる汎用的なデータベース層がなかったのです。つまり、スケールアウト時は手作業で複製していて、障害が発生したときも高度なオペレーションが必要でした。
クラウドネイティブ・アプリケーションの開発は、小さな問題を解決するためのソリューションや新機能を作り始め、どんどん機能を追加していき、突然多くのユーザーに採用されていくというアプローチをとります。最初は小さく始めてユーザーが増えたら拡張できるようにしたいですし、うまくいかなかったら縮小したいものです。データベースなどの環境も柔軟に変更できるようにするべきですね。でも、当時は難しかったのです。
もう一つの問題は、クラウドの運用です。クラウドでは複数のゾーン、異なるマシンタイプが存在し、新しいマシンタイプが登場すると古いマシンタイプを廃棄しなければなりません。データセンター移設の影響を受けたり、ユーザーに近いデータセンターで運用するために複製を作ったりするなどのニーズに応えなければならないのですが、当時のデータベースは対応できなかったのです。
その後クラウドの利用が進みデータセンターは複数のゾーンや地域に分かれていくのですが、手作業での構築は非常にコストがかかります。PostgreSQLは多くのユーザーが利用するデータベースではあるものの、クラウドネイティブ・アプリケーション開発には向いていません。私たちの存在意義は、この分野でデータベースをシンプルにするために、クラウドネイティブの手法でPostgreSQL互換のデータベースを実行できるようにすることです。
Cook:私がPivotalにいた2018年ごろ、Yugabyteを紹介してもらいました。Pivotalでは、アプリケーション層に重点を置き、クラウドネイティブ・アーキテクチャでマイクロサービスに移行するのを支援し、安全で継続的なスケールアウト環境を必要としていたのです。PivotalがVMwareに買収されてからは、クラウドをまたいでどこでも実行できるハイブリッドなアプリケーション環境が当たり前になっています。プライベートクラウドでもパブリッククラウドでも実行でき、耐障害性があるインフラが求められています。Yugabyteなら、既存の伝統的なデータベースでは実現できなかったことを提供できます。
Facebookで同僚だったYugabyte共同創業者の3人(中央がCTOのKarthik Ranganathan氏)
Image: Yugabyte
PostgreSQLと互換性を持ちながら、クラウドネイティブに対応
――Yugabyteのソリューションやプロダクトの特徴について教えてください。
Ranganathan:コアなプロダクトは分散型データベース「YugabyteDB」であり、それを利用するためのいくつかの方法があります。アプリケーション開発をシンプルにするために、開発者がすぐに作業にとりかかれるようにしています。開発者が取り扱いに慣れているPostgreSQLと互換性があり、クラウドネイティブ開発に欠かせない3つの追加機能を提供しています。一つは継続的な可用性で、たとえノードに障害が起きたときや、ソフトウェアのアップグレードをしてもダウンタイムなくデータベースを稼働できます。
2つ目はスケーラビリティで、ノードを追加してクラスタを拡張するだけで、ダウンタイムもデータの移動も必要ありません。3つ目はデータの地理的な分散です。データを複製したい場合、同期、非同期、地理的にデータを分割したい場合など、すべてを自動的に行うことができます。
YugabyteDB自体はオープンソースですので、PostgreSQLのように完全に無料で利用できます。料金が発生するサブスクリプションベースのサービスには、顧客がリソースを管理するクラウドベースのDBaaS(DataBase as a Service)の「Yugabyte Platform」と、当社が完全に管理するフルマネージドのDBaaS「Yugabyte Cloud」があります。
――Yugabyteは開発者に支持されていると聞きます。ユーザー数の伸び、競合と比較した優位性などを教えていただけますか。
Ranganathan:2020年初めまでに構築されたクラスター数は6万4000件でしたが、2022年の初めには170万件まで増えています。コミュニティとしては、Slackのユーザー数が昨年は2200名だったのが現在は4600名を超えるほど急成長しています。
Cook:お客さまについては、Fortune 500クラスの大企業は20社程度、中堅企業の顧客ベースもあり、劇的に成長しています。
Ranganathan:競合は、AWSの「Amazon Aurora」や、Googleの「Cloud Spanner」で、スタートアップにも数社います。Amazon Auroraは、Yugabyteのようなスケールアップや、地理的に離れた場所へのデータのレプリケーションもうまくいきません。また、我々はPostgreSQLの強力な機能を多くサポートしています。これらはアプリケーションにとって非常に重要です。また、競合ではありませんが、お客様の多くは、OracleのデータベースやMicrosoft SQL Serverから移行されています。
クラウドサービスは、プロバイダーが一部のゾーンで障害を起こしてもサービスが停止しにくくなっています。しかし、PostgreSQLや既存のデータベースでは同じように停止しないことは非常に難しいのです。また、クリスマス商戦など、年末年始に増加するトランザクションにも耐えなければなりません。さらに、GDPRのような国や地域別の規制にも対応しなければなりません。Yugabyteはこれらの課題に対応が可能なのです。
銀行業務のコアバンキングアプリケーションや小売店のアプリケーション、ショッピングカートなどのユースケースに加え、IoTやエッジコンピューティングなど、大規模データに対応している事例もあります。
Image: Yugabyte
調達資金でエンジニアリングと営業拡大、日本市場も重視
――2021年10月にシリーズCラウンドで1億8800万ドル(約215億円)を調達しています。どのように活用しますか?
Cook:重点的に取り組む分野は2つあります。1つはエンジニアリングで優秀な人材の確保を進めます。2つ目は、市場への進出、つまり営業の拡大です。日本も重点領域の1つで、クラウドネイティブな分散型SQLデータベースの日本におけるマーケットリーダーになるために投資しています。
松尾:日本支社では現在、ビジネスの基盤を確立するために、パートナー候補らと話を進めています。われわれは3分野のパートナーが必要だと感じています。1つは代理店、2つめはシステム・インテグレーター、3つ目はDellやVMware、RedHatのようなテクノロジーパートナーです。
日本のほとんどの企業は、アプリケーションのモダン化においてデータベースの問題に直面していて、DX推進の障壁になっています。私は前職ではデータベースビジネスに従事し、エンタープライズからデータベースへの移行ビジネスに取り組もうとしていました。その経験が日本のビジネスの成功に貢献すると信じています。
Cook:日本でも信頼できる重要なパートナーを得たいと思っています。そのために信頼と信用、技術を証明することが重要だと考えています。30年前に構築されたデータベースは現在も使われていますが、クラウド・ネイティブやマイクロサービスの要件を満たすことができないため、移行しなければならないのです。Yugabyteこそがその期待に応えるテクノロジーであると考えています。
市村:松尾が言うように、パートナーとのエコシステムに注力する必要がありますが、私たちのもう一つの課題は、開発者との良好な関係です。データ基盤を中心とした開発者やエンジニアとのエコシステムも構築する必要があると思っています。これから多くの方々に私たちの製品に触れていただき、フィードバックを得たいのです。
私たちは、Pivotalでアプリケーションのモダン化の非常に良い成功例を作ることができました。しかしながら、アプリケーション領域でできるようになったクラウド対応を、データベース領域でも行うには非常に苦労があります。前職でも膨大なデータを扱っていて苦労していたのですが、この課題の対処としてBillやPivotal時代の同僚から良い情報を得ることができました。だからこそ私はこの会社に入ったのです。
Cook:もう一つのポイントとして、AmazonやGoogle、Microsoftのようなクラウドプロバイダーとのパートナーシップもあります。彼らも顧客にさまざまな機能を提供したいため、当社のような企業と提携しています。また、VMwareとも強い関係を構築しており、彼らもデータ戦略の一部にYugabyteを採用しています。DellもYugabyteに投資をしており、エッジプラットフォームのプロバイダーとしての役割を担っています。これらのパートナーシップによって、お客さまに対してより広範囲な問題解決のエコシステムを構築していることが示せるため、安心感を抱いていただけると思っています。
――将来のために準備している新しい技術があれば教えてください。
Ranganathan:今後も、ユーザーが求めている多くの先進的なPostgreSQL機能のサポートをしていきます。監視サービスの追加や、従来データベースからの移行を容易にするサービスも準備しています。
Cook:ドキュメントをより良くすることにも注力しています。詳細や重要な機能をすべて知る必要はありませんが、どうすれば簡単に使い始めることができるのか、どうしたら容易に移行できるのかなどの情報を伝えることは重要です。ドキュメント整理の一環として日本語への翻訳にも注力していきます。
――最後に長期ビジョンを教えてください。
Cook:クラウドネイティブの世界での分散型SQLデータベースとして第一に選ばれる存在になりたいです。それを実現すれば非常に大きな企業になれると思っています。
Ranganathan:「Yuga」というのは、何百万年もの非常に長い期間を指す言葉です。永遠に生き続けるデータを提供するという考えを社名に込めているのです。