ブランド買取専門店「なんぼや」を始め、ブランド品や貴金属、骨董・美術品などの買取および販売を行うバリュエンスホールディングス(東京都港区)。リユース事業では、仕入れとなる買取は個人から、販売はオークションなどにて事業者にという形式のCtoBtoBというビジネスモデルで業績を伸ばし、2018年3月には東京証券取引所マザーズ市場への新規上場を果たす。プロのサッカー選手を引退後に家族で事業を展開し、顧客に真摯に向き合いながら成長している代表取締役社長の嵜本晋輔氏に業況や将来展望を聞いた。

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サッカーからの「前向きな撤退」で切り拓いたビジネスの道

――創業前のバックグラウンドをお聞かせください。

 2001年、高校卒業と同時にスカウトでJリーグのガンバ大阪に入団し、3年間プロサッカー選手をしていました。3年目に戦力外通告を受けて退団、その後、JFLのサッカーチームに入団して、午前は倉庫業務で荷物仕分けなどを行い、午後からサッカーをするという生活を1年過ごしました。

 夢だったサッカー選手という立場を手放したくないという思いもあったのですが、自身を客観視した際に今後の活躍、成長できる可能性が自身の中で描けなかったので、「前向きな撤退」として22歳の時にサッカー生活にピリオドを打ちました。

 そこから父親が大阪で経営していた電化製品のリサイクルショップに入社しました。当時扱っていた電化製品や家具は、価格の差益が取りづらい商材だったので、成長を考え、将来に繋がる商材として、現在メインで扱っているブランド品を扱うようになりました。

 その後、2007年にブランド品の買取専門店「なんぼや」を展開する会社を兄2人とともに設立し、自分自身も鑑定士として買取をしていました。ブランド品買取専門店の事業に加えて、洋菓子事業もスタートさせたのですが、その事業も成長したため、兄2人は洋菓子事業に進み、私はリユース事業を任されることになりました。そして2011年12月に、バリュエンスホールディングスの前身となる株式会社SOUを設立しました。

嵜本晋輔
バリュエンスホールディングス
代表取締役社長
1982年、大阪府出身。関西大学第一高校在籍時にスカウトの目に留まり、2001年にJリーグのガンバ大阪に入団するが、2003年に戦力外通告を受け退団。その後JFLの佐川急便で1年プレーした後、22歳でサッカー界から引退。2011年12月にブランド品のリユースなど、サステナブルな事業を行う株式会社SOU(現バリュエンスホールディングス株式会社)を設立。 設立から7年で東証マザーズ市場に上場。元サッカー選手として初めての上場企業社長となる。

現在はガンバ大阪のオフィシャルパートナーのほか、「キャプテン翼」の著者・高橋陽一氏がオーナーを務める関東1部リーグのサッカークラブ南葛SCを運営する株式会社南葛SCの取締役も務める。2022年6月、日本発のプロダンスリーグDリーグ参入を発表し、Valuence INFINITIES(バリュエンス インフィニティーズ)を結成。

仕入れから販売までを迅速に行うため、店舗は買取り専門に

――現在のサービスや事業ついてお聞かせください。

 主にブランド品、骨董・美術品などの実物資産を扱っていまして、デジタルマーケティングをメインに集客を図り、そしてリアル店舗を中心に買い取りをしています。SEOやリスティングの形で、検索していただいたお客様に対して、我々のホームページが上位に表示されるようになっております。そこからホームページを見ていただき、「なんぼや」に依頼してみようかなと思っていただいたお客様が商品を持って来店されます。店舗で当社の鑑定士(バリューデザイナー)が商品を査定し、提示金額にご納得いただけたら買取が成立、お客様に金額をお支払いしております。

 買い取りさせていただいた商品を販売する販路は大きくBtoBとBtoCという二つに分かれます。BtoBの一つ目の販路は、金やプラチナなどの貴金属で、デザイン的に流通しづらいデザインのものを素材として販売しています。

 二つ目の売り方が私達のメインの販路になっているBtoBオンラインオークションです。一般消費者から買取した商品を、同業他社に対して自分たちのオークションを通して短期間で卸すという販売方法です。全体総売り上げの約60%がBtoBのオークション事業で、約30%が金やプラチナ製品を販売する卸事業になっていて、約90%超がBtoBの売り上げです。残りの約10%がBtoC販路の売り上げで、BtoCでは「ALLU(アリュー)」という屋号で、一般消費者向けに店舗とECサイトで販売しています。

 一般消費者から商品を買い取り、企業に売る、CtoBtoBというビジネスモデルが特徴で、創業時から磨いてきたモデルです。我々のような規模感でこのモデルをやっているプレーヤーはいません。買取の店舗には、月間3万人以上が来店され、その方々から月間40億円以上の買取金額があります。買い取った商品は商品管理倉庫に届き、メンテナンスなどを行って、BtoB、BtoCに販売しています。BtoBオークションのパートナーの会社は日本国内外含めて1700社以上です。

 なお、オークションは完全オンラインでおこなっていますので、日本だけではなくて海外のパートナーが400〜500社います。

Image: バリュエンスホールディングス HP

デジタルマーケティングも活用しながら、集客・買取・販売のサイクルを高速化

――今の形態に注力するきっかけや、ここまでで苦労したことについて、印象に残っているエピソードがありましたらお聞かせください。

 私達が後発でありながら短期間で急成長できた要因は、既存の固定概念にとらわれない、新しいリユースの形を作ったところだと思っています。「集客力」「買取力」「販売力」の三つの力を高速で回転してきたことが当社の今の成長になっていると思います。

 まず集客力に関して、当時の集客は、アナログなリアルマーケティングが主体でしたが、私達はインターネットの台頭、誰もがスマートフォンを1台持つ時代を想像して、この業界で初めてデジタルマーケティングに特化し、お客様をリアル店舗に送客するという、デジタルtoリアルの仕組みを作ったことが非常に大きかったと思っています。

 買取力においては、当時、買取と販売を一つの店舗でするお店が多かった中で、私達は「買取専門店」という形で展開し、買取にリソースを集中するという戦略をとりました。この方法は販管費が抑えられるというメリットがあります。買取と販売を同店舗で担当すると路面店でやる必要がありますが、買取専門店ならば、お客様が目的意識を持って来店されるので、ビルの空中階に店を構えることができ、家賃が抑えられます。

 さらに買取力の部分で一番重視してきたことは、価格ではなく「人間力」「接客力」で勝負することです。この業界は買い取る側が「主」でお客さまが「従」であるという感じで、お客様と私達の主従が逆転しているようでした。そのため、顧客の視点でのビジネス設計をしている会社はあまりありませんでした。価格はもちろん一つの重要な要素ではあるものの、その他の人間力や信頼関係の構築や質問に対する適切な回答などあらゆる要素が顧客の納得感や満足感に繋がるので、価格が全てではありません。

 私達はそこを見極めて価格以外の重要なポイントも磨き上げてきました。だから人間力とか接客力の部分を人一倍気にして経営してきたところが非常に多くのリピーター様に支えられている証拠だと思っています。

 そして、販売力に関してはCtoBtoCではなくてCtoBtoBというモデルを採用しています。このモデルを採用した理由は、この業界はリユース品を扱っているため、需給のバランスにかなり左右されます。もちろんBtoCでうまく売れる方が利益率は上がりますが、商品の鮮度が落ちていくことを同時に考えないといけません。鮮度が落ちていくことは需要がなくなることに直結しているので、鮮度が落ちると価格も落ちます。いかに短期間のうちに売るかが、粗利率を上げるための重要な要素になります。

 当時、企業自体に資金的な体力がなかったという部分もありますが、いつ売れるかわからないBtoCより、自分たちが見込んでいる金額で即座に売れる、利益が確定するBtoBという形を取りました。そこで得た収益を、この商売で一番重要な買い取りの店舗展開や集客のマーケティング費用などに投資していました。このように、集客・買取・販売力を今もなおブラッシュアップし続けていることが私達の競争優位だと思っています。

顧客に真摯に向き合い、築く信頼 サステナビリティの時代で担う役割

――お客様に対しての接客のスタイルが大きく変わったきっかけはなんですか。

 私自身も鑑定士として買い取りをしていたときに、当初は高い金額を提示した会社が勝つと思っていましたが、顧客が物を手放すときに重要視していることは価格だけだはないことに顧客から気づかされました。価格提示する前のプロセスを一番重要視していて、極端な話、価格はどうでもいいという顧客もいらっしゃいました。

 顧客の満足できる価格は提示しますが、意思決定の要素を分析したところ、顧客の重要な意思決定のポイントは買取価格ではなくその他のポイントであることがわかったので、そこを他社とは違う形で徹底的に磨きました。もちろん価格設定も、今もなお磨き続けている部分ではありますが、それだけではなかなか勝ちづらいような競争環境にあります。

――競合など、周囲の環境はどのような状態ですか。

 年々、競争環境は激しくなってきています。私達をかなりベンチマークして、模倣してきています。ですが、一気に追い付かれることはないでしょうし、むしろ突き放している感覚です。私たちはそこからまた違うものに生まれ変わろうとしています。

 現在は海外展開も積極的に行っており、20店舗以上の買取店を展開しています。全世界へまんべんなく店舗展開している形ですので、同じ規模感で追随してくることは難しいだろうと思っています。とはいえ、ビジネスモデルの賞味期限も年々短くなっているような時代ではあるので、その点も視野に入れながら、現時点での競争優位を取りに行き、かつカルチャー、世界観を一緒に醸成しながら、顧客に選んでもらえる存在になろうとしています。

――近年の事業の成長にコロナ禍はどのような影響を与えましたか。

 2020年の春からは8割ぐらいの店舗を閉めざるを得なかったので、相当厳しい3カ月でした。しかし、そこからビジネスモデルを考え直して、リアル店舗だけでなく、オンラインで買い取りが完結できる方法を展開しました。オークションも元々リアルで一つの会場に集まってやる方法が主流でしたが、コロナ禍から完全オンラインに切り替えました。

 実際、コロナとは関係なくオークションはオンラインに切り替える予定だったので、それが少し早まったことと、DX化が進んだことによって、業界の健全性や競争率も上がったので、私達にとってはデジタルに移行できたことは利点です。

Image: バリュエンスホールディングス HP

――リユースに対する市場の変化はここ数年で何か感じられることはありますか。

 売ることを前提に物を買う人たちが増えている印象があります。また中古業界においても、資産性の高いもの、リセールバリューがあるものを買われる方が多い時代になってきているので、非常に追い風が吹いていると思っています。

 また、SDGsやサステナビリティという文脈の中で、大量生産・大量消費・大量廃棄に加担しているファッションブランドが世界に悪影響を与えているという事実もあります。ユーザー自身もこれまでの自分の「正しさ」を見直すきっかけができて、新品だけでなく中古品を持つということが選択肢として増えてきています。世界の環境問題への意識の高まりから、リユースを手に取る機会を実際に増やしている方々も増えてきています。

 そういった意味では私達が活躍すればするほど、循環をつくればつくるほど、地球が綺麗になって、みんなが住みやすく生きやすい世界になっていくので、不必要な人から必要な人に物を繋ぐことによって循環を生み出し、いかに売上利益追求ではなく、地球環境や社会課題解決型の企業になれるか、という点は非常に重要なテーマであると思っています。

――これから1、2年のスパンでの事業目標を差し支えない範囲でお聞かせください。

 2020年の売上は379億円、2021年は525億円でした。2025年には1000億円を目指しています。達成のためには既存事業の成長と、既存事業の中で出会う顧客に対しての新規事業が鍵を握ると思っています。これまで私達はブランド品と骨董・美術品というカテゴリーを中心に成長してきましたが、直近の取り組みとして、買い取りさせていただいたお客様に対して、不動産の仲介や売買、車の売買などを提案するなど、潜在顧客の顕在化をテーマに新たな事業の柱を作ろうとしています。

 今後1000億以上の売上という成長を考えるためには、時間をお金で買うという考え方も必要になるので、自分の事業の成長のためのポートフォリオをしっかりと作っていくために、M&Aも前向きに考えていきたいです。

精神的な豊かさを追求するべく、サッカーチーム、アスリート支援も行う

――サッカーのご経験から、スポーツチームなどのコミュニティにも貢献されているとのことですが、そちらの方で何かございますか。

 サッカー漫画『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一先生が代表をされている「南葛SC」というクラブに、「ぜひ経営に関わらせてほしい、かつ株式を持たせてほしい」と直談判をしに行きまして、現在3分の1の株式を取得させていただいて、私自身も南葛SCの取締役として、チームがJ1の舞台で活躍することを目指して高橋先生と共にチーム作りをしています。

 元々サッカー選手だったので、選手の社会的地位の向上やサッカーに対しての恩返しなど、さまざまな点でサッカー界に貢献していきたいです。また、大きなテーマとして考えているものに「精神的な豊かさ」があります。今、幸せの定義が変わりつつあると思っています。例えば、学歴が高く良い企業に就職ができることが幸せであるとか、ブランド品を身につけることや高級マンションに住むことが幸せだというように、何者かが作った「幸せの定義」に踊らされて、自分を見失っている人は多いのではないかと思っています。

 私たちは、精神的な豊かさや心の豊かさが「真の豊かさ」なのではないかと思っています。これがまさに私達が「南葛SC」に関わっている最大の理由でもあって、スポーツや音楽など自分の好きなものに手を伸ばしてかつ自分の好きなコミュニティに属している人々は、誰かの顔色をうかがうことなく精神的な豊かさや心の豊さに幸せを感じていると思っています。

 そして、応援購入やクラウドファンディングなどもそういう文脈で伸びてきていると思いますが、自分ではなく好きなコミュニティを応援したり楽しむことが精神的な豊かさや心の豊かさにつながっていることに気づき始めている人が多いのではないかと思っています。

 売上だけでなく、事業活動を通じて顧客に対していかに精神的な豊かさを提供できるか、あるいは社会課題を共に解決できるかという点を重視する企業の価値が上がり、今後伸びると思います。だからこそ、スポーツに関わることで、コミュニティの形成や当社のカルチャーを発信することができると思います。

 外から見ると、本業と全く違うことをしていると思われがちですが、実はかなりつながっていて、意図的に関わっています。今後もそういうスポーツやクリエイター、アーティストとの関わりを大切にし、自己表現が自由にできている人たちをしっかりとサポートしていくような会社にしていきたいと思っています。

――長期的なビジョンをお聞かせください。

 私達が目指す世界は、不必要な人から必要な人に物をつなぐことで、循環の輪を大きくしていく世界です。私達が単に右から左に物を流すだけではなくて、心を通わせ、想いもしっかりとつなぐ形で循環経済を作ることができれば、マーケットでの存在価値はかなり上がっていくはずですし、お客様も「物を手放すならバリュエンスにしよう」と思っていただけるはずです。このような、「心の循環経済」に取り組む日本発グローバルな企業として、存在感を証明していけるようにしていきたいです。

――他の企業とのビジネスコラボレーションの可能性についてもお教えください。

 現在、ラグジュアリーブランドを販売している三越伊勢丹グループ様とリユースのビジネスを協業しています。彼らはこれまで物売りだけに焦点を当てていましたが、今は売った物を回収するという事業を始めています。彼らは今、「アイムグリーン(i’m green)」というリユースサービスを提供しているのですが、そのサービスの販売側のオペレーションを全てバリュエンスが担当しています。

 自分達の「なんぼや」という屋号だけで買い取りを広げていくのではなく、心の循環を広げていくことをメインでやっていますので、私達の強みを提供してOEMという形で、循環を共に作っていけるパートナーがいれば、ぜひやらせていただきたいと思っています。

――パートナーになるかもしれない企業の皆様にメッセージをお願いします。

 多くの方は、短期的な利益を求め、凝り固まった思考で、確実なものを手にしようとしすぎではないかと感じています。確かに確実なものにフォーカスするという行為は得たい成果を手に入れやすく、評価が出やすいですが、一方で可能性を失うことにもつながります。

 三越伊勢丹グループ様にとっても確実に成果が出る事業はこれまでやってきたことを踏襲する事業だと思います。しかし、5年後10年後の未来を考えたときに、今の時点で可能性にフォーカスしなければならないという考えのもと、大規模に販売してきたプレーヤーが物を回収するという新しい形態に取り組まれています。これは、柔軟性のない考え方で将来を見据えず、確実性のあることだけに取り組んでいる人たちにはできない変革です。ですから、自分が下した意思決定が、確実に向いているのか、可能性に向いているのかを客観的に見る能力はとても重要だと思います。

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