スタンフォードのAIラボからスピンオフ
――どのような経緯で起業をしたのですか。
2015年にスタンフォード大学の人工知能研究所のAIラボで私は博士課程の学生として、現在の共同創業者で教授のChrisとともに研究をはじめ、その後2019年に企業としてスピンオフしました。
私自身、現在はワシントン大学で教職にも就いていて、私とChrisは自分たちのことを機械学習システム研究者と呼んでいます。私たちの技術は研究を基軸にしていますが、産業界への適用についても関心を払ってきました。
機械学習の領域はここ5年で急速な変化を遂げています。初期の頃はアルゴリズムやモデルを手作業で作っていたのですが、機械学習でより多くのことをしようとしたときに、手作業を減らしていく必要がありました。ディープラーニングのAIモデルに学習をさせるためには膨大な数のラベルづけの作業が必要です。
8人月の作業を8時間で完了
――具体的にどう解決しようとしたのでしょうか。
たとえばAIがディープラーニングでレントゲンを読み取れるようになるまでには、数千ものラベル付けを医師が手作業で教える必要がありました。
そこで、私たちはこのラベル付け自体を自動化できないかと考え、実際にレントゲンの事例では8時間で、それまで8人月かけていた作業と同等のラベル付けをすることに成功しました。専門家の人間の介在が不要になるということではなく、彼らに1つ1つラベルをつけてもらう代わりに、どこを見るべきなのかやルールを教えてもらうことで、効率化をしています。
――他にも同じことを考える人はいそうですが、先行できた要因は。
1つはそもそもこの膨大なラベルづけの作業が必要になってきたこと自体が最近のことであること。もう1つは、たしかにラベルづけの効率化については数々の研究蓄積があるものの、システムに落として安価に利用できたことが大きかったと思います。
――研究として続け、オープンソースにするという考えはなかったのでしょうか。
実際、4年近くの間、研究者としてオープンにしてきて、1~2年は起業の誘いを断っていました。ただ、研究の領域としてはまだ解かなければならない問いが山ほどある一方で、私たちのシステムを使っている人たちがぶつかっている壁というのは、プロセスを最後まで遂行できるインフラがないということだったのです。
起業をしたことで、分析やフィードバックを含めたプロセス全体をサポートできるようになりました。私達が提供しているのは、end-to-endのディープラーニングアプリの開発プラットフォームです。
個人情報保護や専門的知識が必要な分野で活用
――どのような業種が顧客になりますか。
大手銀行、政府系機関、医療、通信など幅広い業種が対象になります。とりわけ、個人情報でラベル付けを外注することができないとか、ラベル付けをするのに専門的知識が必要とされるような領域でニーズが高いです。現在のプロジェクトの性質上、オンプレミスで活用されることが多くなっています。
――資金調達に成功しましたが、使い道や今後の展開は。
より素晴らしいチームを雇うのに使い、より良い商品を作っていきたいです。既に欧州などUS以外でも顧客企業はありますので、日本含めてよりグローバルに展開していけることを楽しみにしています。
スタンフォードでの研究者時代には日立や東芝などとのコラボレーションもありましたし、製薬・通信・金融業などを中心とした日本企業とのディスカッションができることも楽しみにしています。