企業の成長と価値提案につなげたい 2人のエキスパートが創業
Le Roux氏は、PayPal傘下の決済サービス会社であるBraintree社で同僚だったPaul Anthony氏と共に2020年、Primerを共同創業した。
Braintree時代、Le Roux氏は主に製品におけるマーケット戦略などを担当し、Anthony氏はソリューション担当としてマーチャントとそのエンジニアリングチームに対して、競争の激しい業界全体でますます複雑化する決済フローの設計を支えてきた。
その過程で、2人はエンドユーザーにシームレスな体験を提供するために決済に関わる様々なサービスを追加するには、マーチャント側にかなりの時間と労力がかかるという問題に気付いたという。Le Roux氏とAnthony氏は、それぞれの持つ商業的な専門知識と技術的な専門知識を掛け合わせることで、革新的な新しいコマース体験を可能にする決済とコマースの統一プラットフォームを構築し、顧客企業の成長と価値提案につなげようと、Primerを創業した。
全ての決裁関連情報を一元管理 扱いやすさもポイント
Primerは、Eコマースを展開する企業があらゆる決済手段を簡単に導入できる決済インフラを構築した。決済スタックを統合し、さらにウェブ上のAPIやツールを追加して、エンドツーエンドのスムーズな決済フローを構築することを可能としているのが特徴だ。
Primerが提供するプラットフォームは、①決済、②ユニバーサルチェックアウト(ウェブとモバイルで利用できるカスタマイズ可能なチェックアウト)、③コネクション(決済手段、不正防止、BIツール、コミュニケーションプラットフォーム等を含むサードパーティーの統合)、④ワークフロー(支払い方法と注文データに基づいて条件を作成し、ライフサイクルを通じた支払いの経路を構築するツール)の4つの主要コンポーネントで構成される。
AlipayやApple Pay、Klarna、Google Payなど、様々な決済手段をローコードで、使い慣れたUI上でクリック1つでウェブサイトに追加できるプラットフォームは、不正防止やチャージバック対策ツール、データ分析ツール、会計ツール、ロイヤリティプラットフォームなどの非決済サービスの統合も同じワークフローでサポートする。
全ての決済関連情報をダッシュボードで一元管理できるため、ITに詳しくないユーザーでも扱いやすいのがポイントだ。
「Primerで提供しているのは、コマースにおける決済の自動化です。企業が望むマーケットカバレッジの最適化、顧客生涯価値(LTV)の向上、シームレスなチェックアウト体験の提供などが実現できるよう、Primerは基盤となるインフラを提供し、企業が選択肢を広げ、柔軟性を持たせることを可能にします」とLe Roux氏は語る。
Primer導入でマーケットリーチを3倍にしたユースケース
パンデミックに伴い越境ECが加速する中、EC業者はローカル決済手段もシームレスに導入する必要性に迫られている。Primerは中堅・大企業をを主にターゲットにしているが、Primerを使ってビジネスを始めたい、成長方法を最適化したいというスモールビジネスの顧客も増加しているという。
「パンデミック中は、多くの中小企業がデジタル化の必要性を感じ、オンラインへの移行を進めました。Primerの利点は会社の規模に関係なく、誰もがやりたいことを当社のプラットフォーム上で実現できるという点です」
顧客企業のユースケースとして、マウスピース矯正などスマイルコスメティックブランドを展開するZenyum(本社:シンガポール)は、Primerの導入によって日本を含む新市場でのローカライゼーションを実現し、わずか1年でマーケットリーチを3倍に拡大したという。ビジネスの拡大に伴い、新たな決済手段を導入してきた同社は、断片化した決済手段の管理が課題となっており、アジアでの市場拡大を加速させるために、決済スタックを統合できるPrimerの利用を開始した。
Zenyumは、Primerを介して、アジアにおけるBNPL(後払い決済)ソリューションのAtomeを決済スタックに加えたことにより、より多くのユーザーにリーチすることが可能となった。また、PrimerはデジタルウォレットやBNPL、銀行振込などの代替決済手段を提供するほか、不正防止、ロイヤルティプログラム、ニッチな決済プロバイダなど、あらゆるサードパーティの決済とコマースサービスをローコードで統合できる優れた機能をZenyumに提供している。
Image:Primer
エコシステムのイネーブラーとして、日本のマーチャントを支援したい
Primerは2021年10月、Iconiq Growthが主導し、Accel、Balderton Capital、Seedcampなどが参加したシリーズBラウンドで、5,000万ドルを資金調達した。2020年の会社設立以降の累計資金調達額は7,340万ドルに上る。
調達した資金は、海外展開の拡大と製品開発に充てられ、今後も幅広い決済エコシステムの構築を計画しているという。
「Primerは、決済のライフサイクルやコマーススタック全体を通じて、ユーザーに対してより多くの価値を提供することを常に考えています。顧客がエンドユーザーに素晴らしいサービスを提供できるよう支援し続けると共に、新しい革新的な製品を開発し続けることも重要だと考えています」と説明するLe Roux氏。決済スタックをより可視化するための新たな製品を近く発表する予定だとし、自動化エンジンの拡張にも取り組んでいくという。
さらに、引き続きAPAC(アジア太平洋地域)、EMEA(ヨーロッパと中東、アフリカ)、米国という主要地域に集中してサービスの展開を加速させている。決済サービスプロバイダーとだけではなく、決済のライフサイクルを通じて使用されるその他のプロバイダーとの連携も積極的に行う。
Image:Primer
Primerは、エコシステムのイネーブラー(Enabler)として、創業初日から世界を視野に入れた展開を考えていた。特に日本市場にも注目しているという。これまで現金への依存度が高かった日本経済もパンデミックを機にキャッシュレス決済の導入が進み、日本政府としてもデジタル決済促進の取り組みを強化している背景から、市場拡大のチャンスも大きいとみている。
「当社は常により多くのプレイヤーとのパートナーシップ・エコシステムを発展させたいと考えています。現地のパートナーと協力し、より多くの事業を拡大することを強く望んでいます。海外に進出したい、あるいはチェックアウトの時点でより多くの支払い方法を提示したいという日本のマーチャントに、Primerの力を届けたいと考えています。日本におけるパートナーシップのエコシステムをサポートして、彼らのサービスをより良く早く普及させることを私たちは望んでいます」と語るLe Roux氏。日本市場への展開は「エキサイティングなことだ」と強調した。
最後に、Le Roux氏はPrimerの強みをこう語った。
「Primerは、われわれ創業者がこの業界で培ってきた知識を基盤としています。決済とコマースのインフラを定義することで、ユニークでシームレスなチェックアウト体験を可能にし、決済スタック全体で比類のない可観測性を実現します。私たちのカスタマーサクセスチームの素晴らしいサポートが、そのすべてを支えています。これが私たちの強みです」